表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
14/142

2 仲間達

「それで、お前は一体ゼムに何をしたんだ」

私が正座で問い詰められているのは、彼らの住処。

いや、正座なのは何となくの気分だけど。

年長少年ハンスには変な顔をされた…


二階までが薄汚れた石積みの住居で、三階に木の掘立て小屋。

さらにその上の屋上に、彼らの住処はあった。

ボロい…

もはやダンボールハウスと言っていいくらいの粗末な木の囲い。そんな雨露が凌げるかも怪しい感じの住処だ。恐らく子どもだけで作ったのだろう。


よくこれまで生き延びられたな…


「…何をしたも何も。さっきから説明してる通り、菌やヌメヌメや垢などを除去できるギフトを使って、あなた達の体を綺麗にしました。それだけです。それなのに、そこの子がなんか変な事言い出すから…」


今はスヤスヤと眠るゼムを指して言うと、ハンス兄がメンチを切ってくる。


「ああん?うちのゼムが悪いって言いたいのか?」


「い、いえ。そんなことは。」


スラム育ちの迫力に思わず謝ってしまうが、解せぬ。

あ、そうだ。


「彼の…ゼムくんの、症状はどんなだったんですか?それが分かれば何か分かるかも!」


嘘だ。ハンスの気をそらすためのその場しのぎ。


「…ひどい咳に、熱が出て、食欲が無くなって、だるそうにして、そのうち痰に血が混じるようになって、これは不味いとどこか診てくれるところを探しに行くところだったんだ。どうせ門前払いだったろうが。」


悔しそうに唇を噛む少年に私は何もしてあげられないし、何も言えない。でも症状に思い当った所はあった。


「………それって、もしかして結核じゃない?そうじゃなくとも何かの感染症か病気である事は間違いないわね。

 …少なくともただの風邪じゃないと思う。」


「…そう、だよな。」


重々しく、受け止めるハンス少年。

仲間思いのところは、ちょっと気に入ったかも知れない。


「あなた達もギフト受けてて良かったわね。これから感染することは無いわ。それに、多分発症も。きっと菌を根こそぎ消し去ってるからね。

 ……!それで、ゼムくんは菌が消えてくって言ってたのか…

 なんか納得。」


「おいおい!俺は納得いってないんだけど!

 ………つまり、それって、あんたはゼムの、俺達の命の恩人…て事だよな?」


ハンスは戸惑うように、こちらの様子を窺うようにして確認してくる。


「え〜っと、そうなるのかな?そんな大層なもんでもないけどね。」


ま、でも恩を売っといて損はないかな。実際のとこはどうだか知らないけどね。


「…ありがとう!感謝する!すまない、疑って…」


そう言って私の手を握り、手の甲に頭をつけて土下座の様な形になる。


だから、あんまり触らないで欲しいんだけどな…

まあ、綺麗にしたばっかだし大丈夫か。


「はぁ…いいからいいから。起き上がって。

 でさ、お礼に一晩ここに泊めてくんない?今日寝るとこ無くてね。…お願い。」


ここは、彼の感謝を利用させて貰おう。ちょっぴり罪悪感があるな。


…ええい!気にしない、気にしない!

一々気にしてたらここでは生きていけないわ!


ここで頑張るって決めたもの!


「もちろん!それくらいでいいなら、いつまでもいてくれよ!ここは、居場所の無い孤児たちの為の場所なんだ。昔の先輩から代々年長者が管理を任されて受け継いできた!俺達の自慢なんだ!」


あ、それは申し訳ない。散々ボロいだの何だの言ってたわ。心の中で。


「そうなの。じゃあお世話になろうかな。皆の清潔係と、あと、お水係ができるから!」


「お水係?お前!水が出せるのか!?」


「え、うん。ギフトだから。綺麗なお水遠慮無く使っていいよ。」


「うっしゃあっ!これで水場争いにもう参加しなくて済むぞっ!おいハンナ皆呼んでこい!」


「…うん。お兄ちゃん。」


そう応えて静かに駆けて行くハンナと呼ばれた、ギフトで綺麗にしたうちの最後の一人の女の子。

ここ、まだ人いるんだね。


「というか、さっきのハンナって子。あんたのホントの妹?」


名前も似ているしあの子はハンスの事、ゼムみたいに名前+兄で呼んでないし、気になって聞いてみた。


「…まあ、そうだな。ここの奴らは皆兄弟だからホントとかそういうのは無いけど、血の繋がりで言うなら、あいつは俺の実の妹だよ。」


おっと、気に触ったみたいだね。

血は繋がって無くとも、かなり彼らの繋がりや情は深いと見た。


「あ、ごめん。言い方が悪かったね。そっか、やっぱ血繋がってたか。あ、ただちょっと気になっただけだから気にしないで。」


それが何だ?と怪訝そうな顔で見るので、手を振って否定しておく。この世界で兄弟見るのって初めてだったから気になっただけなのに、変な誤解されても困るしね。


「で、お前名前なんだっけ。バタバタしてて忘れちまった。」


頭をポリポリかきながら、少し気まずそうに切り出すハンスくん。年上の男の子なのにかわいい。


「私の名前はクオルフよ。家名は今日無くしたからいいわね?」


「あぁ。これからよろしく、クオルフ。」


そう言って手を差し出して来たので、手を上げて握り返す。


「あなたの事は、ハンスって呼ばせて貰ってもいい?それともハンス兄?」


「あ~、なんか初対面の元お貴族様にそう呼ばれるのはむず痒いな。俺の事はハンスで良いよ。他の奴らも紹介するから名前で呼んでやってくれ。」


「分かった!ありがとうハンス。」


「おぅ!…あ、ハンナが帰ってきたぞ。ジン、ナサラ、タユタ! 

 お帰り!突然呼び出してすまん!」


「ハンス兄、新入りってそこの?」

「ねえねえ、ピッカピカになってどうしたの?」

「ホントだー!家もハンス兄達も綺麗になってる〜!」


ジン、ナサラ、タユタと呼ばれた三人が家の中に入ってくると一気に騒がしくなる。少し面食らいながら、ちょいちょいっとハンスの袖を引っ張って上目遣いで言う。


「ねえ、ハンス。この子達も感染ってるかもしれないし、まだ完全には良くなってないゼムくんと汚れた体で接触させるのは良くないわ。ギフトを使ってもいい?」


そう。さすがに人の家でいきなり除菌・除去ギフトを使うほど常識が無いわけではないのだ。この家の管理担当のハンスにお伺いを立てる。こうすれば余計なトラブルは減らせるのだ!えっへん。 


「…そうだな。見せた方が説明するより早いだろうしな。よし、お前たち、しばらくそこでじっとしてろ。新入りがギフトを使ってくれるとよ。ゼムと、俺達はそれに助けられたんだ。」


「よく分からないけどおもしろそうだな!」

「ゼム兄が〜?ゼム兄治ったの?」

「見せて見せて〜!」


「いいから。とりあえず大人しくしてろ。」


ジン、ナサラ、タユタがそれぞれの反応を見せ、ハンスの言うとおり少しだけ緊張した面持ちでじっとする。


「じゃあ行くね〜。除菌・除去ギフト!」


パアッと光りが降り注ぎ、先ほどと同じように時間をかけて綺麗にしていく。


三人はお互いの体を見合って驚きで固まってしまっている。


最後の光りが降り注ぎ終わると、キラキラとした光の破片を残して宙に溶けていく。こうやってゆっくりと落ち着いて見ると、実に幻想的な光景だ。


「…すごい!すごいよ!頭も体も痒くなくなった!」

「ほんと〜!すごいね。ジン兄!」

「キラキラ、きれい〜!」


ジンは、七歳。ナサラは、五歳。タユタは、三歳くらいか。

無邪気に嬉しそうにはしゃいでいる。


そこへハンスが大きな釘を刺した。

主に増長した私の心へ。


「皆良かったな。ただ、街を歩くときは気をつけろよ。綺麗になった服や、俺達が金を持ってると思った連中に狙われるかもしれないからな。」


「…あ。そういう事もあるんだ。ごめんなさい、知らなくて。余計な事しちゃったかしら。でも服も綺麗にしないとゼムくんにも良くないし…不衛生だと病気にかかるし…でも、それで狙われてたら世話ないし…うーん、、、、」


思わぬ弱点に、考え込む私を励ますようにポンポンと背中を優しく叩いてくれるハンス。久しぶりの子ども扱いに少しホッとしてハンスに笑顔を向けた。ハンスは照れたようにはにかんだ。


「まあ、いいじゃねえか。どうせ俺達が外に出ることなんて早々ないし、行きしなにちょっと汚して目立たないようにして帰ってきたらクオルフに綺麗にして貰えば。…な!元気出せよクオルフ。」


「うぅ…!そうする。皆面倒でごめんだけど付き合ってね。お願いします。」



「おう、お前クオルフってのか、よろしくな!」

「…よろしくクオルフ。」

「くおふ、よろしく!」


「わたしからもよろしくね。クオルフ。」


涙目で頭を下げる私に、三人とハンナまで加わり、初めましての挨拶をする。 


久しぶりにたくさんの人に名前で呼ばれて、また嬉しくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ