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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
新章 夏休み明け(仮)
137/142

2 エインさんの苦悩

長いです。




「エインさん〜!またやらかしちゃいました!カトレアを巻き込んでごめんなさい!」


「またか?今度は何をやった?」


 診療所にてさっそくエインさんに報告したらとりあえず呆れられた。妹の心配は良いのか?エインさん。それなら手短に何があったか説明するよ。


「なるほどな……天使の噂か。そりゃ魔術師がピリピリするのも当然だな。神の奇跡と呼ばれるような事象を魔法や魔術で起こせてしまう魔術師は、常に教会と折り合いが悪い。

 そんな魔術師に天使を真似た魔法を使ったかもしれない奴がいるって情報が届けば、怪しまれないように魔法学校を使ってでも確かめようとするさ。大方そいつらは本物の魔法学校の教師じゃないな」


「うげぇっ!そんな事情があったの?やばいじゃん、絶対目つけられちゃったじゃん!バレてるかな?え、バレてる?」


「落ち着け。大丈夫だ。バレてたらとっくに捕まって魔塔に連行されてる」


「うっわ!良かったけど、魔塔って?もう響きが恐ろしいんだけど」


「王宮にある魔術師塔の事だ。魔術師共の巣窟だな。あいつらは常に優秀な魔術師となれる人材を探してるから、禁忌魔法を自力で使うような奴はすぐに魔塔に入れられるらしい。俺が学園にいた間にも一人それで消えていったな」


 ちょっと脅しをかけるようなエインさんの口ぶりに鳥肌が立つ。特殊魔法をバンバン使いまくるクォーターエルフなんていい鴨じゃん!


「ていうか魔術師と魔法使いの違いってなんなの?学園では魔法の使い方しか習ってないけど」


「魔法はイメージと自分の魔力で使うだろ?魔術はそうじゃないらしい。魔法の成績が良いと卒業時に魔法学校から誘いがあって、その時に教えてもらえるんだとよ。だがまあ、魔法学校は全寮制だし外出も自由に出来ない上に、一つしかない働き口の魔塔に入ったら最後、基本的に二度と出られないって噂だ。魔法学校に入るのだけはやめとけ」


「やめとく!こわっ!もしかしなくても、国で囲って有事には戦争に駆り出そうとかそういう奴だよね?絶対やだよ」


 エインさんに即座に頷き返して、恐怖に震える。本格的な魔法を学ぶのもちょっと面白そうかなとか思ってたけど!危ないところだったね。


「そうしろ。今は時期も悪いしな」


「時期?」


「来年エルフとの式典があるだろ?そもそもエルフは魔法も魔術も得意な種族らしくてな。それでその技術を提供させるためにはエルフを奴隷から解放して友好的にした方が良いという判断だったそうだぞ。お前にもエルフの血が流れてるんだ。大人しくしてないと巻き込まれるぞ」


 なんかまたもや新情報!なんじゃそりゃ。人道的観点とかじゃなくて人間側の違う利益のために奴隷制やめたの?もうなんか歴史の闇って感じだねー!


「なんでエインさんそんなに詳しいの?」


「医者は治癒魔法だけでなく、治癒魔術を使う事もあるからな。エルフ関連は、実家がエルフを奴隷にしてた地元の大商会の一家の診察もしてたからな。父からエルフを手放す羽目になった商会主の愚痴として聞いた」


「うわー!そうだよね。実際にエルフを奴隷にしてた側からしてみれば、急に自分の物を取り上げられた感じだもんね。不満も出るか」


「一応国から補償もあったらしいがな。奴らは自分が一度手に入れた物は永遠に自分の物だと思ってるぞ。お前のじいさんもお前やお前の父さんの事、いまだに奴隷だと思っててもおかしくないな」


「うん。奴隷の子は奴隷だもんね。私もそんな気がするよ。じゃなきゃ普通孫娘を杖で殴り飛ばしたりしないもん。お父様を火葬しちゃう前の話だよ?後ならまだ分かるけど」


「確かに燃やした後なら一発食らっても仕方ないが、前ならそうだろうな。とにかくじいさんにも魔術師にも気をつけろ」


 エインさんのありがたい忠告に大きく頷いて、あれ?っと思って聞いてみる。


「カトレアを巻き込んだ事は怒らなくて良いの?お兄ちゃん」


「それは良い。女同士で遊んでただけだろうが。見られたのは迂闊だったが、カトレアが気にしてないなら怒る事じゃないだろ。心の狭い兄貴は嫌われるからな」


「ふひひっ。やっぱり妹は可愛い?カトレアもお兄ちゃんの事好きだもんね」


「一番下の妹だからな。仕方ないだろ?カトレア以外の妹もちゃんと可愛がってるぞ。他の妹にはなかなか会えないから、その分カトレアの世話を焼きたくはなるけどな」


「カトレアかわいいもんね。性格も天使みたいだし。あれ、でも弟はいなかったっけ?」


 エインさん結構兄弟多くて、カトレア以外はみんな嫁いだり婿に行ったり養子に行ったりしてるって聞いたから弟もいるはずだけどな?


「弟なんて生意気なだけだろ?俺より先に結婚して子供までいるんだぞ。兄貴も早く作ればいいなんて簡単に言いやがって」


「まだ結婚して一年とかだもんね。そんなすぐに出来ないよ。子供って望んでる人の所にはなかなか来なくて、望まない人の所にはやたらすぐに来たりするからね」


「そうじゃねえ……」


「え?あ、もしかして子どもは持たないっていう方針?だったらごめんなさい!そこら辺配慮が足りなかったね」


 これまでも子どもが出来なくて悩んでるとかだったらアレだから、気になっても自分からは聞かないって決めてたけど。そもそも最初から欲しくない夫婦だっているんだよ。迂闊だったなあ。エインさんが俯いて呻いてるくらいだから、姉の旦那で上司でお世話になってる人をすごく傷付けてしまったみたいだ。どうしよう……


「ちがう……謝るな。そうじゃなくて、だな」


「うん。そうじゃなくて?」


「まだ一度も手を出せて無いんだよ!」


「……え?まじで?結婚して一年だよね?」


 エインさんが重々しく唸るように言った言葉を、ニ度聞きして確かめてしまった。どんだけピュアなの?そりゃ出来るわけないわ。ハンナ姉も結婚してもあんまり雰囲気変わらないな〜って思ってたけどそういう事だったの?えー。


「俺はだな……ハンナが十五になるまで待とうと思ってるんだよ。妊娠するにも出産するにもまだ早い。身体が成長してからじゃないと負担が大きいからな」


「エインさん……男の鑑だね。そう思ってもなかなか出来る事じゃない、立派だと思うよ。けど、なんか色々大丈夫?」


「十歳のガキに心配されるとはな……大丈夫だと思うか?弟にそんな事言えないし、俺はハンナと一緒に寝てるんだぞ?」


「それはその……ご愁傷さまです。たまには娼館とか行っても、ハンナ姉怒らないと思うけどな〜」


 確かに十歳の女の子に相談する話じゃないと思うけど、私が諸々大人の事情を知ってるのはエインさんも分かってるし。ハンナ姉もスラムで生きてきたんだからある程度の理解はあると思うけどな。そもそも最初は商人の妾になろうとしてたくらいだし。


「怒らないどころか嫌な顔一つせずに送り出してくれるだろうけどな……それはそれで」


「え、何?ヤキモチとか妬いてほしいの?えー」


「それも無いとは言えない……でもやっばりハンナを傷付けるかもしれないと思うとな」


「まあ、理解はしてくれるだろうし、ハンナ姉を思って手を出さないのは嬉しくもあるだろうけど。女心って複雑だからなー。それでもやっぱり代わりに他の女の人ってなると、内心は面白くないかも」


「難しいだろ!それを弟は何も知らないから簡単に言いやがるんだ。まったく」


「まあ、がんばって。それかいっそ避妊して手出しちゃえば?私が言うのもなんだけど、一応結婚してるんだしさ。私今女の子達に除去魔法を普及させる活動してるんだよ?」


 それが一番かもね。ハンナ姉も傷付かないし、エインさんも我慢しなくていいし。まあ除去魔法も絶対じゃないからちょっと不安だけど、もし今出来ても生まれる頃にはハンナ姉は十四歳だろうから大丈夫じゃない?日本でもそのくらいの年で妊娠するドラマ無かったっけ?


「そうだなー。けどまあ、せめてあと一年くらいは待つか。万が一があっても生む時には十五になってるなら、なんとかなるなだろ」


「うん、そう思うよ。あ、ちゃんとハンナ姉とも話し合いなよ?そこら辺曖昧にしてると良くないからね。いやー、年の差結婚は大変だな〜」


「分かってる。そういうお前はどうなんだ?婚約者ができたんだろ?」


「ちょっと待って。もうエインさんにも伝わってるの?スラムの情報網侮れないな!まあ正確には婚約者候補が決まっただけだけどね。上は16歳から下は13歳まで。全員年上だけどそんなに離れてはないから大丈夫だよ」


「もうって言ってもそれなりに経ってるだろ?ここはギャング直営店だから情報も早いし、お前の夏休み明けくらいには噂が聞こえてきたぞ。ちょっと誤って伝わって来てるみたいだがな」


「噂なんてそんなもんだけど、そういやここギャングのお膝元だったね。うっかりしてると忘れちゃうよ。とはいえ私は十八歳まではフリーだから何も心配する必要無しっ!楽で良いよね」


「良いのかそれで?好きな奴と結婚すると大変だが幸せだぞ?」


「いきなり惚気けないでよ!もー。良いの!好きな人いないし!どうせ年上しかそういう風に見れないからね。五人の中から選べるんだから逆ハーみたいなもんだよね」


 乙女ゲームみたいに友好イベントを重ねて最終的にお互い惹かれ合って結婚する〜とかではまあ無いけどね。メイン攻略対象が決まってるっていう点では似てるか。ほぼ選択肢ドンの甥っ子のファンしか無いからね。別に嫌じゃないから良いんだよ!


「逆ハー?まあお前が良いならハンナも納得するだろ。噂を聞いてからうるさくてな。大事な妹だから自分が守るんだって意気込んでるぞ。次のギャング集会にでも乗り込みそうな勢いだ」


「ハンナ姉!ちょっとそういう事は早く言ってよ!いや、ちゃんとお姉ちゃんに説明しなかった私も私だな。とりあえずなんとか納得してもらいに言ってくるよ」


「おう、いってこーい」


 やさぐれたエインさんにテキトーに送り出されて、受付を担当してくれてるハンナ姉の所へ駆け寄る。ハンナ姉の玉砕覚悟の悲壮な決意をなんとかしないと。本当にギャングに特攻決めかねない。うちのお姉ちゃんは妹思いだからね。





ハンナ姉は未成年だけど、異世界の女の子なのでノーカンです!

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