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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
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39 セオさん




朝食の後始めた西の縄張りの掃除を終え、夕方から今度は東のセオさんの所に招かれた。セオさんはまさかの境界線まで長自ら迎えに来てくれてとっても驚いた。主に周りが。


 西は南や東よりも道が比較的綺麗な感じがする。歩いていると猫達が集まってきてセオさんについてくる子も何匹かいた。栄養不足でもなく汚くもないその姿は、多分そこらの孤児や浮浪児よりも恵まれているだろう。


 客室には猫のぬいぐるみが大小いくつも飾られていて、気に入ったものは遠慮なく持って帰れば良いって言ってくれた。やった!私の猫コレクションが増える。入学祝いの時にもらったぬいぐるみは寮の枕元に置いてある。せっかくだからドンのアジトの部屋にも少し飾っておきたい。


 アジトには噂通りいろんな柄の猫がたくさんいた。人懐っこいのもいればそうでないのもいればだけど、撫でさせてくれる子もいてすごく満喫している。夜ご飯の時はちょっと大変で、猫が入らないように食堂の扉を素早く開け閉めしなければいけなかった。給仕の人や構成員達は慣れっこの様子で、入って来ようとする猫達を軽く押しとどめていた。


「でも本当にすごいよね。こんなにたくさんの猫達が自由に行き交ってるなんて。世話とか大変でしょ?」


「まあそれなりに……だがうちは昔から猫好きな頭首が多かったから古株は皆慣れている。ここまで多く世話をしているのは俺くらいだけどな」


「そうだろうね。反感買ったり猫を狙われたりはしないの?」


「なくはないが、みんなもういなくなった」


 いつも寡黙なセオさんが猫の事になるとよく喋る。と思ってうっかり疑問に思った事を聞いてみたら、まあギャングらしい回答が。粛清ですかね。そりゃ甘い顔してたら大事な大事なにゃんこが危険にさらされるもんね。


「じゃあ安心だね。今何匹くらいいるの?」


「今は153匹だ。減ったり増えたりもするが大きくは変わらない。今年の春は17匹生まれたが、他に6匹が歳やケンカで死んで、2匹は他の奴に拾われて、5匹は行方不明だ。死ぬ前に姿を消すやつもいれば、旅に出るやつもいる」


「すごい!よくそんなに細かく把握してるね……でも17匹って意外と少ないんだね。100匹以上もいればもっと生まれそうなもんだけど」


 猫ってめちゃくちゃ繁殖力の強い生き物で、近親交配とかもするし、子猫を生んでから次の子猫を生むまでの期間も短いとかで前世では問題になっていた気がする。それに、セオさんは苦笑いして首を振った。


「オス猫は見つけ次第去勢している。俺の前の世代が増やしすぎたからな。縄張り争いに負けてここを出る猫も多かったから今は少しずつ減らしているところだ。メス猫は体への負担も大きいし、完全にはいなくならないように手術はしていない。時々よそのオス猫との子猫をここで産んで、その子猫がまたよそで子どもを作るから病気にもなりにくい」


「血が近いと遺伝性疾患が出やすいからね。セオさんってただの猫好きじゃなかったんだね。すごく責任感のある動物愛護の人って感じ!」


「遺伝性疾患?動物愛護?よく分からんが、動物を飼うのはかわいがるだけじゃダメだからな」


 セオさんの株爆上がりなんだけど!失礼だけどセオさんもギャングの人だから、いくら猫好きっていっても餌やりして愛でるだけだと思ってた。ほんとに【東愛護団体】とか【セオ愛護団体】とかって設立しちゃえば良いんじゃない?言わないけどさあ。


「じゃあ手術してるって事は獣医さんがいるってこと?私まだ見た事ないんだけど」


「基本的には王宮や上級貴族なんかの富豪が希少動物のために置いてるくらいだからな。うちにはそういう所から引き抜いて、先々代から勤めてる者がいる。今は子猫の世話をしているから、後で見に行くか?」


「ぜひ!行きたいです!子猫見てみたい」


 ちっちゃくてふわふわの柔らかい子猫の魅力には抗いがたいものがある。もちろん落ち着いた大人の猫のふてぶてしさもまた可愛いんだけど。


 食事を終えて子猫部屋と呼ばれているらしい部屋に向かう。石鹸で手を洗って入室するという、この世界の(さらにスラムの)衛生基準では割と厳重な体制だった。


 中では2,3ヶ月の子猫たちが手作りっぽいキャットタワーで遊んだりベッドやクッションで寝たりしていた。猫カフェか!猫カフェなのか?


 獣医さんに話を聞くと、人の医師に比べて仕事自体が少ないからほぼ完全に世襲制なのだそうだ。学校とかもなく、各家庭で独自に技術や知識を継承する。最近は人の医療学校に行って学ぶ人もいるらしい。猫から人に伝染る病気や、人から猫に伝染る病気なんかも教えてもらっちゃった。


「セオさん、今日はありがとう!猫がかわいすぎてすごく癒やされたよ。もし良かったら明日ドンやヘッドさんのとこみたいに街を綺麗にさせて!お掃除ならちょっとは役に立てるでしょ?」


「良いのか?ギフトなら魔力も使わないしそれほど疲れないだろうが、無理はするなよ」


「もちろん!私のギフトは便利なので任せといてくださいね!」


 セオさんが私の体の心配をしてくれて、翌朝の掃除についてきてくれることになった。すごい。長の効果が強い。とてもスムーズに掃除が進んでいく。もともと道はそれほど汚れていなかったのもあって思っていたよりも早く片付いた。


「セオさんのところの道って結構綺麗だよね。何かお触れでも出してるの?」


「いや、猫が糞尿をして迷惑をかけるからな。見習いの仕事として週に二、三回道の掃除させている。それに猫が汚れるのも嫌だからな」


「そっかぁ……なんかすごく良い感じに回ってるよね。猫がいない東の街なんて考えられないかも」


 まさかの餌やりとかTNRとかで問題になりがちな事を既に解決済みとは。まじで来世は地球に転生して動物愛護団体で活動したらいいと思うよ、うん。


 無言でちょっと考え込んでたセオさんが、少し迷いながらまさかの提案をしてきた。


「クオルフ……俺の娘、いや妹?妻は無いな。とにかく、俺の家族にならないか?本当にドンの養子の嫁になるのか?」


「うん、妻は無いね。娘……も、年齢的に微妙かな。妹にならなりたいけど、ドンには返しきれないくらいの恩があるからな〜」


「それなら、嫁ぐ前に俺の妹になるのは問題ないな?」


「そうだね。そうなのかな?あれ、今さらだけどドンのところに嫁ぐのってパワーバランスとか大丈夫なの?仲裁の公平性が保たれるかな。随分先だからなんとかなるかな……」


 髭じい以外の三人の誰かが亡くなるまでが仲裁の契約期間だった。養子を取ってもドンが亡くなるまではドンが頭だし、ギャングの事に関わらなければ……って感じだけど。


 実際結婚したら政略的な意味に取られかねないよね。セオさんの妹になるならなおさら。南と東が仲良くなったら、やっぱり西と東の人達はおもしろくないでしょ。頭首本人の気持ちは置いておいてだけど、


「そうだな……仕方ないか。猫好きのかわいい妹が欲しかった」


「私もセオさんの事時々お兄ちゃんみたい、って思うよ。だから、これからも時々遊びに来ても良い?」


「歓迎しよう。また来てくれ」


 こうしてセオさんは私のお兄ちゃんになった。兄妹というよりは従兄妹の方が近いような関係だけど、猫好きとさらに仲良くなれてとても嬉しい。




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