38 ヘッドさん
ドンのところで四日間の滞在を終え、今日から他のギャングの皆さんの所に日替わりで泊まる事になる。初日はヘッドさんの西のギャングのアジト。まず診療所に向かって、西の境界線の前で待つ。しばらくしてお迎えがやってきて、西の中堅クラスの人に護衛されながら初めて他のギャングの縄張りへと足を踏み入れた。
景色はそれほど変わらない……南は数日前に綺麗になったばかりだからそこは全然違うけど。人はほとんどが見た事無い人ばかりだ。時々診療所に来る患者さんや水のお得意様も見かけるけど、さすがにこの状況で声をかけてきたりはしない。本来は縄張りを越えるのはご法度で、殺されても文句が言えないほどなんだから当然だ。
ちょっと緊張しつつ到着した西のアジトの雰囲気は南と似てるけどやっぱり少し違って落ち着かない。それだけドンのアジトに慣れたって事だろうな。応接室に通されると中には既にヘッドが待っていた。
「おう!よく来たな!まあ食え!お前の好きそうな菓子を用意させたぞ」
「ありがとうございます!いただきまーす!」
わ!おいしい。本当にたくさんのお菓子があって、どれも私の好きなものばかりだ。ヘッドって口は悪いけど結構優しいんだよな。
「それで?母親には会えたのか?」
「はい!お母様とも弟や妹とともたくさん話して、血の繋がらない弟ともまあまあ仲良くなれたよ!無事に引き取りも断れたし、また来てもいいって言ってもらえたから冬休みに行く予定なんだ」
「そうか、良かったな!で、ドンの養女になるってのはホントか?」
もう知ってるんだ。南の縄張りでもまだ知らない人の方が多いと思うんだけど、諜報員でも紛れてるのかな?まあ言うなって言われてないし、大丈夫かな?
「……耳が早いね。でも正確には養子になるのは私じゃなくて、ギャングの構成員の誰かだよ。その誰かの嫁を私にするのが先に決まったの。変だよね?」
「なんだそれ、まああいつならやりそうだけどよぉ。水っ娘はいいのかそれで?嫌ならそう言えよ。俺もだし、セオもじいさんも全力で止めるだろ」
「私はそんなに結婚にこだわりは無いからなぁ。候補の子たちとも話したけど、全員嫌な子では無かったし。別に良いかなって。心配してくれてありがとう」
それなら良い。ってちょっと雑に頭を撫でてくれるヘッドはやっばり優しい人だ。一旦話を切り上げて、客室に通される。客室はシンプルだけど清潔に整えられてて歓迎されているのが分かる。嬉しいな。心がほわほわするよ。
夜ご飯も美味しくて、色々私の話を聞いてくれて、一緒に考えてくれたり。愛されてるなって言うのが分かって嬉しくて。だからヘッドにもこちらから出来る事をさせてもらおうと思った。
「ねえヘッド。良かったら西の縄張りも南みたいに綺麗にしない?時間が無いから全部は手が回らないだろうけど、せっかくだから道と建物の外観だけでも」
「ああ!あれか。確かに南は綺麗になったよな。それならやってもらうか。水っ娘の好意をむげにするのもわりぃしな!」
「うん!一宿一飯の恩義だよ!寝泊まりした分くらいは働かせて!私も潔癖症だから一石二鳥だよね」
こうやって私の気持ちを思ってすぐに受け入れてくれるところもヘッドの良い所っていうか。優しいところだよな〜。さっそく明日がんばらせてもらいますよ!