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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
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37 夏期講習



 それからの三日間、昼になると候補の少年が一人やってきては話しながらご飯を食べて〜というのを繰り返した。南の縄張りの掃除自体は一日半で終わり、その後はスラム学校で臨時の夏期講習を開いた。私が夏休みの間学校を開けて無かったからその代わり。


「今日はまず保健の授業をします。健康に生きるために夏場気を付ける事が何か分かる人!」


「はい!」


「わかるぞ!」


「オレも!」


「じゃあ順番に聞かせて」


「水を確保することです」


「日陰になる場所にいること!」


「夜は風通しのいいところで寝ること!」


 うん、教育の成果が出てるね。元々生活の知恵として知っている子は知っているみたいな事だけど大事な事だからね。


「全員正解。熱中症にならないように水と一緒に塩も舐めてね。汗と一緒に出ちゃうから、塩は高いけど夏は我慢しないで。それから、夏は毒のある虫や蛇も多いからできれば少し高い所で寝て。噛まれたらすぐに診療所に来る事。良い?」


「「「はーい!」」」


 いい返事を貰った所で違う授業に移ろう。似た内容ばかりだとすぐに飽きてしまう。勉強に不慣れな、年齢もバラバラな子供が集まっている事を考慮して授業計画を立てるのは大変だけど楽しい。


「次は理科だよー。雨は雲から降ってくるよね?だったら雲はどこから来るか分かる?……ちょっと話し合ってみて」


 今度は誰も手を上げず、首をひねって考えているようだったので少し自分達で考えてもらおう。直接生活の役に立つ事では無いし、学園でも理科は教えてないくらいだからみんなが分からなくても当然だ。


「雲は風に流されて来るから、高い山の上とかでできるんじゃないか?」


「俺達城壁の外のことは知らないからな〜」


「じゃあ地理の授業に切り替えるよ。この王都は王様の住む王城を中心に、貴族街と平民街。それにスラム街があるよね。街は高い城壁に囲まれていて、外には平野が広がっているの。外の小さな村や町は木の柵があるだけで、王都のように通行許可証がいらない所がほとんどで。さらに王都から離れた所には山や谷や大きな川に湖や池もあるよ」


「谷とか湖って何だ?」


「平野って?」


 そこからか……と思いつつ彼らは王都から、なんならスラムから一歩も出ずに生まれ育っているのだから仕方がない。王都にはどれも無いものだ。


「平野はとても広い空き地の事ね。大体は草が生い茂る草原になってるよ。谷は山と山の間にある細長くて低い土地の事かな。よいしょ……こんな感じ、ここが山でここが谷ね。で、山と同じくらい大きいのが湖ね。小さかったら池とか沢とかって言われていて、沼は底なし沼とか少し危ない所が多いよ」


 地面の土を盛って山と谷を作り、穴を掘ってそこに水を入れて見せると、おー!と歓声が上がる。


「なるほどな。ずっとこういう場所が続いてるのか?」


「違うよ!他の街とかもあるからそこも城壁で囲まれてるんだぜ!」


「うんうん。王都以外にも貴族の領地があって、そこには城壁に囲まれた大きな街がいくつかあるね。ちなみにこの国の外には何があると思う?」


「……確かこの国は三つの国に囲まれてたわね?」


「あっ!こら!ずるいぞ。上級生なんだから譲ってくれよ」


「そうだよ!せっかく考えてたのに」


 一期生で何年も前から学んでいる女の子達は最近はもっぱら私の助手や、なんなら先生の役割をしている。そんな彼女達が他の子よりも色々な事が分かるのは当然で、下級生達は少し対抗心を燃やしているらしい。


「まあまあ。それじゃあ彼女達にも教えてない事を聞いてみよっか」


「……なんだこれ?」


「さあ、私達も見たことないわ」


 この国と周辺国の地図を地面に書いてみた。あくまで私が受験勉強と歴史の授業で習ってる範囲だけど。この大陸の全ての国と地域をざっくりと。


「これはこの大陸の地図よ。この国はここ。この三カ国がこの国の隣国になるの。上のこの国とは大河で、右下の国とは山で、左下の国とは平原で国境が区切られてるんだ。下の二カ国は海に面していて、雲はそこから来るんだよ〜」


「へ〜、じゃあ雲はそこで自然にできるの?」


「海の水が蒸発して空で冷やされると雲になるんだって。それが風で流されてきてこの国に雨を降らせるんだよ」


「蒸発ってなに?」


「蒸発はね〜暑い日に水をしばらく置いておくと減ってる事ってない?水は温められると空気に入って見えなくなっちゃうんだよ」


「あれって誰かが勝手に飲んでるんじゃなかったのか!?」


 驚いてちょっと気まずそうなのは、誰かを疑って怒ったりしたからかな?仲間っぽい子供が隣でうんうんと大きく頷いている。少年が悪かったと謝っているのを横目で見て、そろそろ違う授業に切り替える事にする。


「次は外国語の授業でーす。その前に少し休憩します!喉乾いた人は今からかき氷作るので取りに来てね」


「かき氷?冷たそうな名前だな」


「暑いから冷たいものほしい!」


 おっと、わいわいと騒がしくなってきた。授業よりも熱心に見てくるのはまあしょうがないか。


「まず、きれいな水を用意して氷を作ります。今回は魔法で作りました。皿を用意してその上に乗せた氷を魔法で細かく切り刻みます。お好みで上から果汁をかけて出来上がり。さすがに人数分用意できないから今回はただの氷でごめんね」


「すげー!ふわふわだな」


「味が無くても十分おいしいわ」


「つめたーっ!」


「一気に食べると頭がキーンってなるから気をつけてね。食器が少ないから順番に食べて〜。お腹冷やすから一人一杯までね」


 ギャングの方達にもうちょっと出資してもらえないだろうか?人数が増えて、私が作る土魔法の食器じゃ限界がきてるし、砂糖や塩なんかの高価な物もご褒美と熱中症や栄養不足解消のために出したいと思うから。そもそもパン給食を出してもらってる時点で凄い事だとは分かってるんだけどね〜




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