34 一難去ってまた一難
「ドン〜お昼ご飯出来たよ!」
「おー!今行く」
書斎で仕事をするドンに扉の前から元気に声を掛ける。バタバタと片付けをする音がして、ドンはすぐに嬉しそうに部屋から出て来た。
「どんな珍しいもんを食わせてくれるのか楽しみだ」
「それは見てのお楽しみ。そんなに目新しくなくてもちゃんと食べてね。せっかく娘が料理長とがんばって作ったんだから!」
ふひひ。と得意げに笑ってみせる。婚約者(未定)のお父様に嫁の料理の腕前を認めて貰わないと。いまだにどういうこった!って感じではあるけどね。
食堂でそれぞれ席に着くとちょうど料理長が冷めないように時間を合わせて作ってくれた料理が給仕によって運ばれて来た。軽いランチだし、作法をあまり気にしないギャングだしで、順番に出されるのではなく全ての料理が一気に食卓に並べられた。
「おお!これはケチャップか?パスタにかけるなんておもしろいな。さっそく頂こう」
「いただきます」
うん。やっぱり美味しい。ていうかさっきの試作の時より美味しくなってない?さすが料理長だね。この短期間に味の微調整したな!
「うまいな!甘酸っぱいケチャップがこんなにパスタにあうとはな。さすが俺の娘!こんな娘の婿になれる男は幸せ者だな」
「いや、だから順番が逆だってば……もういいや」
ドンの認識を矯正するのは諦めた。ちょっと面映い気けど実害も無いし。
さて、お腹もいっぱいになった所で寮に置いてきた荷物を取りに行くか。てくてく寮に戻ってギフトで小さくして鞄に入れる。良かった、カトレアはまだ帰ってきていないようだ。
寮はほとんどが帰省していて静かで、いつもと雰囲気が違うように感じる。外に出ると良いお天気で少し日差しが眩しい。明るさに目が慣れるまで目を眇めて待っていると、ザッという音と共に光が遮られた。あれ?と首を傾げて見てみると、何と目の前にはいとこのマーヌッケが立っていた。
「お前!俺のいとこなんだってな!お前みたいなのと血が繋がってるなんて恥ずかしいから俺の前から消えろ!」
「えっ……なんで知ってるの?」
「領地に帰った時にお祖父様に聞いた!生きてるなんて驚いてたぞ」
うっわ!マーヌッケだけじゃなくお祖父様にもバレちゃったか。こりゃあまた面倒な事になるぞ。気をつけないと今度こそ闇討ちされて始末されるかも。
「そっか。じゃあお祖父様に伝えておいて。私はお祖父様やダドレフ家に関わるつもりは無いですから、どうかお目溢し願いますって」
「なんで俺様が!とにかくさっさと退学しろ!お前みたいな奴隷の子が高貴な者が通うこの学園にいるなんて許さない!」
「うーん。退学はできないけどこちらからは関わらないようにするから。いくら上級貴族でもそういう差別的な事言うのやめた方が良いよ」
「下賤の者が生意気なことを言うな!平民どころか賤民でしかないのに俺様の言う事が聞けないっていうのか!」
「聞けないよ。私はあなたの領地の領民じゃないし、王都では平民は王の物だからどの貴族も民に対して命令したりはできない事になってるもん」
ちょっと腹立って、そんな事も知らないの?って暗に言ってやった。マーヌッケはそれには気付かずにただ自分に従わない事に怒っている。
「ふざけるな!俺様をコケにしたらお祖父様が黙ってないぞ!どんな手を使ってでも消してやるからな!」
「そうですか。それじゃあさようなら」
こんなの相手するだけ無駄だわ。典型的な三下みたいなセリフ言っちゃうんだもん。後で笑いものにしても良いかな?
さっさとドンのアジトの部屋に帰って荷物を置いて一休みする。話が通じない人の相手をすると疲れる。荷解きは後でしよう。