33 お手伝い
何を作るか悩んだ末、結局甘い物はやめた。甘い物はドンが好きだからこそ珍しい物ももう食べ尽くしてる筈だし、前世の私にはお菓子作りの経験があまり無い。というわけで特別な材料がいらないアレを作ろうと思う。
その前にまずはアジトの掃除だ。まずは外から。建物の壁を綺麗にして、玄関ホール、応接室、その他色々な部屋。二階、三階、四階と上がってアジト内の掃除が終わる……かに思えたけど、案内の為についてきていた執事さんに促されて階段を降り、一階の片隅に密かにあった地下への隠し扉を見て絶句した。
「そういえば、ここ。ギャングのアジトだったね……」
「こちら地下三階までありまして、お察しの通りとてもお嬢様をご案内できるような場所ではありませんので、こちらの清掃は私におまかせ下さい」
「うん。お任せしたいのは山々だけど一応私が頼まれた事だし、できる範囲でやるよ。中まで入らなくてもチラッと見ればイメージできると思うし」
「では開けますが、鼻を塞いで息を止めておいたほうがよろしいかと」
執事さんがそう言ってくれたんだから素直に言う事を聞けば良いのに、好奇心で一瞬だけつまんでいた鼻を放してみたらその瞬間に感じる凄まじい臭い。腐臭、血の臭い、薬品臭とギャングの本来あるべき姿がここに詰まっているのだとすぐに分かった。
上の階はあくまで居住区あるいは表の顔なんだろう。開け放たれた扉から覗き見ただけでも無機質で暴力的な空間が広がっていた。
「十分イメージはできたからもう閉めても大丈夫だよ。じゃあ綺麗にするね〜」
ギフト含め魔法はイメージが大事なので、しっかりさっきの光景を思い出して少々気持ち悪くなりながらギフトをかける。隠し扉の隙間から膨大な量のキラキラが溢れてそれはもうなかなか止まらなかった。
さて、掃除が終わったのでそろそろ料理に取り掛かろう。台所に顔を出すと料理長に歓迎された。前にケチャップの作り方を教えたら感動して、それから会うといつもこうだ。
「クオルフさん!来てくれたんですね。まずは改良したケチャップの味を見てください」
「うん、最高だよ。もう改良の必要無いと思うけどなぁ」
「いいえ、まだまだです。このソースはもっと美味しくなれる!ところでクオルフさん、いえ、お嬢さま。話は聞きました。今日は新しい料理を教えてくれると」
ケチャップの魅力について力説する料理長まで私をお嬢様扱いし始めたし!こっ恥ずかしいなもう。
「新しいって言ってもケチャップを使った物だからそんなに目新しいくはないと思うよ。材料もここにある物だけで揃うし」
「ケチャップ料理のレパートリーが増えるのは素晴らしい事です!さっそく作りましょう」
「じゃあまずは材料から。スパゲティ、ケチャップ、ウインナー、ピーマン、玉ねぎ。あと粉チーズはあったら」
「はい、全て揃っています」
「ウインナーは斜めに、ピーマンは薄く輪切りに、玉ねぎは薄切りで。あ、私もやるよ。ドンに頼まれたからね」
「ではこちらを使ってください」
料理長の横にあるまな板と包丁を借りて食材を切り始める。料理、久しぶりだな。学園の寮に入ってからしてないもんな。手際とかはそりゃあ料理長には敵わないけど料理って楽しいよね。
「じゃあこれを炒めます。その間にスパゲティを茹でておいて、火が通ったらスパゲティと合わせてケチャップを掛けて混ぜる。お皿に盛り付けてお好みで粉チーズをかけて食べると美味しいよ!」
「なるほど。材料や調理法はシンプルですが、食欲をそそられます。では味見を……美味しい!ケチャップの甘みと酸味がスパゲティに絡み合って、ウインナーからは程よい肉の脂と旨みが、ピーマンと玉ねぎからは辛みが出て味わい深い。粉チーズをかけてみましょうか……これは!コクが増して香りも楽しめますね。これ一皿でバランス良く栄養が取れるでしょう。付け合せにサラダとスープも作って旦那様にお出ししましょう」
料理長のグルメリポート凄いな。そこまで賞賛されると落ち着かないんだけど。私も味見してみる。確かにこれ、美味しい。やっぱ料理長の作ったケチャップも料理長の料理の腕もすごいや。この場で完食したくなる。
ナポリタンに合うスープってなるとちょっとあっさりめが良いよね?ベースは塩味とかで。やっぱコンソメスープとかかな?となんとなく呟いてみたら大変な事になった。
前世の市販コンソメと違ってブイヨンから作らないといけないらしく野菜やお肉ハーブなどを四時間ほど煮込む。それからさらにコンソメ作りなんだそうで、顔を引きつらせて絶句していたらどこぞの料理番組よろしく完成した物がこちらです。と、ブイヨンが出てきた。
ブイヨンは様々な料理に使えるらしく作り置きがあったので助かった。感心している間に後は手際よく料理長がコンソメに仕上げてくれて、私が切ったレタスときゅうりとトマトのサラダを盛り付けて完成だ。
ドンは娘の作った料理、喜んでくれるかな?