31 ドンの家族
翌朝早くに予定通り帰るため、朝食を取ってから手荷物を持って馬車へと向かう。早朝の出発なので見送りはいらないと伝えてある。貴族は昼近くになってから起きるものだから、妊娠中のお母様にも幼い弟妹にも負担をかけたくない。そう思って馬車へと乗り込もうとした時、後ろから視線を感じた。
「……なんだ、良いって言ったのに。わざわざありがとう」
「たまたま目が覚めたから散歩に出ただけだ。勘違いするなよ!」
「ほんとに素直じゃないんだから……お母様とスペンサーとセシリアと赤ちゃんの事、任せたよ」
「ああ、分かってる」
私のお願いにぶっきらぼうでも応えてくれたシミオンに手を振って馬車に乗り込む。馬車の中にはお母様がくれた服やアクセサリーが溢れかえっている。
これでもアクセサリー類は今馬車に入るだけ、服はサイズを私に合わせる調整が間に合った物だけだ。残りは後日送ってくれるらしい。明らかに寮のクローゼットには収まらないので、ドンのアジトの物置でも借りれないか帰ったら相談しようと思っている。
帰りも行きと同じ宿屋に泊まり、寮まで送り届けて貰った。大量の荷物を、小さくするギフトでなんとか寮の部屋へと運び込み、里帰りでいないカトレアのスペースを一旦借りて置いておく。
普段使い出来そうなものをいくつか選んでクローゼットや机の引き出しにしまって、残りはドンの許可が取れたらすぐに運び出す事にする。一応カトレアが早めに帰ってきた時に驚かないように書き置きをして、お泊りセットを持ってドンのアジトへ向かう。これからドンへのお礼をしにいかなきゃならない。
アジトへ行くと執事さんに今日泊まる部屋にさっそく案内された。広くて綺麗な部屋だけど、色合いが可愛らしい柔らかい色で統一されてるのはなんで?まさか私のために用意したわけじゃないよね?それにしてはどの家具や小物も少し時代を感じるし。
「この部屋は昔、旦那様の姉君が使われていたそうです。旦那様には今後もクオルフ様にお使い頂くようにと言われています」
「良いの?じゃあここに荷物とか置かせてもらうよ」
「はい、ご自由にお使いください」
あの大量の荷物の置き場所があっさりと決まって良かったけど、お姉さんの部屋なんて使っちゃって良いんだろうか?ドンのお姉さんなら年齢的にとっくに嫁いで子どもも一人立ちしてるくらいだろうけど、里帰りとか来ないんだろうか。まあドンが良いって言うなら貰っとくけど。
荷解きをして落ち着き無く部屋の中を歩き回っていると、執事さんが夕食ができたと呼びに来てくれた。食堂に行くとドンが先に座っていて、美味しそうな料理が用意されていた。
……なぜか七人分。
「えっ、ドン。他にもお客様がいるの?」
「ああ。とりあえず顔合わせだけしておこうと思ってな。中に通せ」
ドンの指示で通されたのは12、3歳から15,6歳くらいまでの男の子達だった。そしてその中に見覚えがありまくる者が一人。
「ハンス兄、どうしたの?」
ハンス兄はドンの前で勝手に口を開けないのか、困ったような顔をする。他の少年達は皆、興味深そうに私の事を見ている。これ、どういう状況?
「お前達に集まってもらったのは他でもない。俺の後継者候補を決めるためだ。そしてここにいるクオルフがお前達の内の誰かの嫁になる」
「……は?」
いきなりドンは何を言い出したんだ?確かにドンが私の嫁ぎ先を決めるだろうとは思ってたけどいきなり?しかもこないだ養子を迎えようかって言ってたの本気だったの?
「クオルフ、こいつらは幹部連中の息子や見習いの中でも有望な奴らだ。こいつらに今から教育を施して跡を継がせようと思ってる。そいつに嬢ちゃんが嫁げば嬢ちゃんは俺の娘だ。後継者も面白い娘も得られて一石二鳥だろ?もちろんある程度嬢ちゃんの希望は聞くぞ」
「うん、ちょっと待って。ギャングの長の嫁が私に務まると思ってるの?」
「ギャングの嫁なんて仕事は無いぞ。ギャングの事には基本的に関わらないし、跡継ぎさえ産めば良い。それも別に養子で構わんし。嬢ちゃんは診療所で医者でもしててくれ」
なんだそりゃ。私の嫁ぎ先の希望条件にぴったりじゃん。それも相手も選ばせてくれるみたいだし。その候補にハンス兄がいるのは謎だけど。さすがに血が繋がってないとはいえ兄弟で結婚する気はないぞ。
「結婚って私が大人になってからで良いんだよね?できれば学校卒業してからが良いんだけど」
「もちろんだ。こいつらも所帯を持つにはまだ若すぎるからな」
「じゃあ良いよ。分かった」
「それなら全員紹介するぞ。左から、十六歳幹部の息子で俺の甥。十五歳見習い。十四歳幹部の息子。十四歳見習い。十三歳幹部の息子だ」
いや、名前とかは教えてくれないの?まあ聞いても一気に五人分、ハンス兄を抜いても四人分覚えられないかもだけど。全員茶髪で目の色も茶色で、不細工でもイケメンでもないからな。
「えーっと、みんなよろしくね?というか彼らにも選ぶ権利があるんじゃない?私みたいな変なので良いのかな」
「おもしろくて退屈しない嫁だぞ。しかも将来美人になるのが確定してる。まあ胸は残念だが、それくらいは我慢できるよな?」
「聞くな!あと残念って言うな!自分でも分かってるんだから」
みんなそんな事聞かれても困るじゃん。それに胸小さいから嫌なんて言われたら凹むぞ。しばらく立ち直れそうにない。
「まあ落ち着け。とりあえず飯でも食べながら仲良くなれよ」
「そうしようか。お腹すいたし」
さてはて、これからどうなる事やら。