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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
125/142

30 ピクニック

長いです。昨日も投稿してるので先に前の話を読んでからこの話を読んでください。ちなみに前回投稿時間間違えました(苦笑)





翌日、昼前からお母様と私と世話をする侍女で、護衛兼御者の運転する馬車に乗って近くの丘までやって来た。本当に近くて街から馬車で二十分程度の距離だった。これなら妊婦とはいえ早々心配はいらないだろう。


「お母様、良いお天気で良かったね。景色がとても綺麗」


「本当ね。きっとあなたが良い子だからよ」


「そうかな?お母様の日頃の行いが良いからじゃない?」


「まあ、そうかしら。それなら嬉しいわね」


 もうめっちゃ楽しい。来た早々で、なんてことない会話なのにそれが嬉しい。ふわふわとした心地よさに包まれて無邪気に笑う。やっぱり私がここまで素直に甘えられるのはお母様だけかもしれない。ドンやハンス兄は頼れる存在だけど、やっぱりどこか遠慮してしまうもん。


「お母様、少しだけ走ってきても良い?」


「ええ、行ってらっしゃい。あまり遠くには行かないでね」


「うん!お母様はここで待っててね」


 体を動かす事でこの喜びを表現しないと、どんどん溢れてきて止まらないと思ったから。野花の咲く広い草原を軽く一周する。戻って来たらお母様のいる丘の上には折り畳み式のテーブルと椅子が用意されていた。私がお母様の前に座ると侍女がお茶を用意してくれた。


「ただいま!待たせてごめんね」


「良いのよ。あなたが子どもらしく遊んでいる所が見られて嬉しいわ。私にはあなたが二歳の頃までの記憶しかないから。あなたの成長をこの目で見られなかった分、これからそばで見守りたいと思っているのよ」


「そう、だよね。お母様とは離れてた時間の方が長いのか……」


「ええ……それなのに私の事を忘れないでいてくれてありがとう。普通、二歳の時の記憶なんてほとんど残らないものでしょう?私の事なんて何も覚えていなくても仕方ないと思っていたわ」


 やっと再開できた娘が自分の事を忘れていて、他人を見るような目で見てきたとしたらお母様は酷く嘆き悲しむだろう。

 私が転生者で本当に良かった。私が普通の子だったら、何もかも忘れていたと思う。もしかしたら四歳のときに亡くなったお父様の事だって、鮮明には思い出せなかったかもしれない。


「お母様、私はお母様の事何があっても忘れないよ。大好きだもん。だからね、離れていてもちゃんと母娘だから。ほら、どうせ学園には行く事になってたし、卒業したら多分嫁いでただろうから。だから一緒には暮らせなくても、会いに来るから。えっと、つまり……私の事は心配しないで、今の家庭を大事にして」


 言えた。すごくグダグダになったけどとりあえず言えた。このままじゃ私の方から先に絆されて、この家に残る事になりそうだったから。


 お母様や弟妹達とは一緒に暮らしたい。だけどやっぱり私に貴族は性に合わない。それにどうせお母様にも言ったように学園にいるから夏休みや冬休みにしか一緒にいられない。


 貴族令嬢は大抵、学園を卒業する十五歳の頃にはもう婚約者が決まっていて、卒業してすぐに嫁いでいく。さすがにもう少し自由な時間が欲しい。


 スラムなら医療学校を卒業する十八歳までは結婚させられる事もないだろうし、その間にギャングの皆さんが納得する相手を探せば良い。


 私を愛してくれているお母様には悪いけど、お母様の娘失格かもしれないけど、貴族令嬢として正しい人生は歩めない。


「クオルフ……愛しているわ。離れていた分これからは片時も離れたくない。でも、あなたが言いたいことも分かるの。あなたはずっと貴族としてではない他の人生を歩んで来たのだもの。今さら貴族として生きて欲しいと言っても難しいわよね」


「うん……ごめんね。夏休みとか遊びに来るから、っていうか来ても良いのかな?」


「もちろんよ。サイラスはあなたの事を気に入ったみたいだし、シミオンと仲良くしていれば期待も込めて歓迎してくれるでしょう」


 お母様もちゃんとその辺の政略的な意味合いとか理解してるんだ。優しいだけじゃなくて、したたかに生きてくれれば私もお母様を心配しなくて済む。シミオンと私をくっつけられる可能性がある限りは、野心家の子爵ならお母様の言う通り歓迎してくれるだろう。


「じゃあ夏休みと、行けそうなら冬休みも遊びに来るね。ああ!今年の冬休みにはもうお腹の子は生まれてるよね?顔を見に来たいなぁ。お休みもらえるかな?」


「貰えると良いわね。赤ちゃんを見るのは初めてになるでしょう?スペンサーもセシリアももう赤ちゃんではないから」


「うん!楽しみだな〜。無事に元気な赤ちゃんが生まれると良いね。お母様も絶対に私を残していったりしないでね。二度とそんな思いしたくないもん」


 お父様が亡くなった時私は絶望した。狂いかけた。お母様まで亡くしたら今度は本当に狂ってしまう。出産は命がけだから不安だ。


「大丈夫よ、もう四人目だもの。みんな安産で生まれてきてくれてるわ」


「そうなの?なら大丈夫かな?でも心配だなぁ。そうだ!お腹撫でてみても良い?」


「ええ、優しく撫でてあげてね」


 お母様のそばに行って屈んでそっと大きなお腹に触れる。そしてユリアの時にやったようにギフトで赤ちゃんの気配を探る。逆子にもなっていないようだし、今の所元気そうだ。動いてる。


「今、蹴ったね」


「分かる?よく動くのよね。スペンサーの時もそうだったから男の子かしら」


 うん。男の子だね。こりゃあ大人になってから大変だぞ。三男だから領地を出て自分で生活してかなきゃならない。でもまあ今はそんな事気にしても仕方無いか。


「私の時はどうだったの?」


「あなたの時はほとんど動かなかったのよね。セシリアでももう少し蹴ったりしていたわ。その時は初めての子だからそんな物かと思っていたんだけれどね。それでも病弱な子に育つんじゃないかと思って心配していたのよ」


 あ~。クオルフってもともと体が弱くて生まれてこられない子どもだったからな。そこに私の精神を入れて肉体を弄ったから生まれて来られただけで。


 お父様との間に出来たもう一人の子も生まれてこられなかったし、もしかしたらお母様とお父様は子宝に恵まれない運命だったのかもね。


「私、とっても元気だよ。ほとんど風邪もひかないし、走り回る事だってできるんだから」


「ええ、本当に良かったわ」


 お母様と二人でニコニコと笑い合う。やっぱりお母様は笑顔が似合うな。ダドレフ家ではお父様やお祖父様のせいで悲しい顔をしている事が多かったから。


 椅子に座り直してお茶を飲みながらまったりする。


「ねえ、お腹の子の名前は考えてあるの?」


「ええ。サイラスといくつか考えているわ。でもサイラスったら私が考えた名前はほとんどダメだって言うのよ」


「ああ、うん。お母様言っちゃなんだけどあんまりネーミングセンス無いもんね。私なんかクォーターエルフでクオルフだし」


「あら、良い名前でしょう?エルフの血を忌避するあの人が、自分自身をちゃんと受け入れられるように、あの人の娘であるあなたにそう名付けたのよ」


「えっ!?そんなしっかりした理由があったの?お父様そんな事一言も言ってなかったよ」


「あの人は受け入れてくれなかったもの。自分を置いて行ってしまった母親と、ハーフエルフだからと差別されていた経験からあの人は自分に流れるエルフの血を苦々しく思っていたのよ」


「お父様のお母様って、生きてるの?どこに行っちゃったの?」


 また新しい事実が判明した。何も情報が無いから勝手に死んだものと思っていたよ。


「あなたのお祖母様は知ってると思うけれどエルフでね、大体25年くらい前までこの国にいるエルフは奴隷だったのよ。あの人も奴隷の子として生まれて、学園に入る何年か前までは奴隷として扱われていたと聞いているわ。あの人が五歳の頃に正式にエルフの奴隷制廃止が決まって、エルフは里に帰される事になったの。希望する者は残る事も出来たみたいだけど、ほとんどのエルフが里に帰ったわ」


「そんなの歴史の授業で習わなかったよ?でも、それでお父様はお祖母様に置いていかれたんだね」


「国にとって不都合な歴史は王立学園では教えてくれないわ。それでその時エルフと人間との混血の子は、ほとんどが置いていかれる事になったわ。エルフにとって望まない子どもだったのだからそれは責められないと思うの。特に貴族の子はエルフが望んだとしても利用価値が高いからと父親が手放さない事が多かったそうよ。だからあの人が本当に捨てられたのか、それとも泣く泣く手放したのかは分からないのよ」


「そうだったんだ……それでお父様はあんなにハーフエルフである事を嫌っていたんだね」


 歴史なんて権力者によっていくらでも捻じ曲げられるものだしね。髭じいはともかく、ドン達も二十五年前はまだ子どもだったろうし知らないかもしれないな。


「ええ、来年エルフの里との国交正常化二十五周年記念式典が開かれるから、あの人が生きていれば会って真実を知る事も出来たかもしれないわね」


「それまでは式典とか、会う機会は無かったの?」


「エルフは長寿だから、式典を開くような区切りの年は二十五年おきになるのよ。それだってまだきっと、奴隷だったエルフ達の心の傷は癒えていないわ」


「そうだよね。だったらお祖母様の事、気になるけど探さない方が良いよね。私はエルフより人間の血の方が濃いし、関係も少し遠いし」


「そう……ね。その方が良いかもしれないわ。お互いに傷付く事になるかもしれないもの。知らない方が幸せな事だってきっとあるわ」


「うん、そうする」


「ほら、もう。こんな話ばかりでなく、もっと明るくて楽しい話をしましょう。それに、そろそろお腹が空いたでしょう?」


「ほんとだ!お腹すいてる。気付かなかったや」


「昼食にしましょう。お弁当を持ってきているわ。用意してちょうだい」


 お母様の言葉で侍女が馬車の中からバスケットを持ってきてくれる。中にはサンドイッチやハムなど手で摘みやすい物がたくさん彩り豊かに詰められていた。


「美味しそうだね」


「本当ね。さあ、手を拭いて頂きましょう」


 そう言うとお母様は私の手を取って、侍女に手渡されたおしぼりで綺麗に拭いてくれる。


「もう、小さい子どもじゃないんだから」


「あら、ごめんなさい。私ったらついうっかりスペンサーやセシリアにするようにしてしまったわ」


 私は頬を膨らませてるけど本気じゃない。こういうのも含めて母娘って感じで嬉しい。昔もこうやって世話を焼いて貰ったなぁ。





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