29 セシリア
明日も投稿します
シミオンにたっぷり仕返しされて勉強会が終わり、マクミラン子爵やお母様にセシリアを含めみんなでお昼ご飯を食べている。その最中にお母様が私に聞いてきた。
「クオルフ、明日はどうするか決めているの?何も無いならみんなでどこかにお出かけしましょう」
「お出かけですか?行きたいです」
家族で出かけるのなんて初めてだ。子爵の前だから抑えてるけどとても嬉しい。明日がここでの滞在の実質最終日だから、何か思い出に残る事が出来たらなんて少しだけ思ってたんだ。
「お出かけ!楽しみだね!」
「わたしも!はじめてのお出かけだもん」
スペンサーもセシリアも嬉しそうだ。それにしてもそうかー。セシリアは私がスラムに捨てられた時と同じ四歳なんだよね。私の家族との思い出が途切れたのがその年だから、セシリアを見ているとこれからもこうやってしみじみ感じる事があるかもしれない。
もしお父様とお母様が両方揃って私と一緒に暮らしていたらこんなだったのかな?なんて、重ねて見てしまったら辛いだろうな。ありもしない『もしも』なんて考えるだけ無駄だって分かってるのにね。
「僕は行かないぞ。せっかく会えたんだから家族水入らずで過ごせばいいじゃないか」
「シミオン!何言ってるの、あなたも家族じゃない。遠慮しないで」
「お母様、シミオンは拗ねてるんじゃなくて気を使ってくれてるんだと思います。シミオンは母親と離れ離れになる気持ちは一番理解できるだろうから」
「別にそんなんじゃない!僕は忙しいんだ」
お母様が、シミオンが素直じゃないせいでヤキモチ焼いてると誤解してちょっと怒ってたから、誤解を解いて取りなしてあげたのにシミオンったら意地張っちゃって〜。可愛いなーそういうとこ
「そう。気を使ってくれたの。ありがとう、シミオン。それなら今回はクオルフと二人きりで行こうかしら。スペンサーとセシリアもそれで良い?あなた達とはとはいつでも会えるから、お姉様に譲ってあげてくれないかしら」
「はい!分かりました。姉上、次来た時は僕達も連れてってください!」
「わたしも我慢する!だからまた遊んでね」
「うん……二人ともありがとう。シミオンも」
私が最後に付け加えるようにシミオンにもお礼を言うと、シミオンはふん、と鼻を鳴らして顔を背けた。ほんと素直じゃない。そして可愛い。
「だが大丈夫か?心配だから、あまり遠くに行かずに早めに帰って来なさい」
「分かっているわ。近くの丘でピクニックでもしようと思っているの。適度な運動は体に良いってお医者様も仰っていたでしょう?」
「そうだな、楽しんできなさい。」
ちゃんとお母様の事を心配してくれてるみたいだし、お母様の意思も尊重してくれるんだね。なんかとても親密そう。この二人の仲に関しては不安は無さそうだね。またお母様が離縁とかされたら私ももう黙っていられないと思う。一発殴るくらいはさせて貰おう。
お昼からは朝一緒に勉強できなかったセシリアと遊ぶ事にした。
「お姉さま、何して遊ぶの?」
「そうだねー。お絵かきでもしよっか!」
「はい!お姉さま」
セシリアはパピルス紙にペンで一生懸命に何か描き始める。さすがにまだ四歳だから綺麗な絵とかでは無いけどなんとなく人かな?
ちなみに文字を書く練習も含めて安価なパピルス紙と黒インクのペンなので少し地味に見える。本格的に絵画を習うのはスペンサーくらいの年頃かららしい。
私も果物や動物などの絵を描いている。
「できました!お姉さまどうですか?」
「どれどれ〜?うん、かわいいと思うよ。モデルは誰かな?」
「お姉さまです!分かりませんか?」
「ううん。ちゃんと分かるよ。かわいくかいてくれてありがとう」
危ない。私だったのか。分からん!髪が短いとことかはそうなのか?とりあえず誤魔化せてそうで良かった。
「お姉さまは上手ですね。これはなんですか?」
「これはね、猫だよ。こっちは犬」
「かわいい!わたしもかいてみます」
上機嫌なセシリアの弾むような動きで、邪魔にならないように結んであった三つ編みが解けかかっている。私はそっとセシリアの後ろに回って結び直してあげる。セシリアはそれに気付くと振り返って嬉しそうに笑ってくれた。
「お姉さま、ありがとう」
「どういたしまして」
ああ!もう!可愛すぎる。離れたくないなぁ。