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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
121/142

26 家族





 汚れても良いように制服に着替えてから、侍女の案内を受けて二人のいる所に案内して貰った。それぞれの部屋はあるけど、日中は大抵この子ども部屋で遊んでいるらしい。


「スペンサー様、セシリア様。クオルフ様がいらっしゃいました」


「通して!」


 うんうん、貴族してるね〜。入室時にいちいち侍女がお伺い立てて部屋の主の許可を得てから入るって奴。家族だと省かれる事が多いんだけどまだ正式にこの家の一員になったわけじゃないし、会ったばかりだからな。


「お姉さま!早く遊びましょう」


「何して遊びますか?姉上!」


「そうだね〜。普段何して遊んでるの?」


「わたしはおままごととか、かくれんぼが好き!」


「ぼくは工作とか木登りとか!」


「んー。じゃあかくれ鬼でもしよっか。やった事ある?」


 二人ともやった事ないみたいだから軽くルールを教えて、庭園で最初は私が鬼になって遊び始めた。


「……58、59、60っ!さーてどこに隠れたかな」


 六歳と四歳だからね。そんなに探すの難しくないとは思うけど、私には地の利が無いからな。しらみつぶしに探すか。


 しばらくあちこち走り回ってセシリアの姿を見つけた。バレないようにそっと近付く……ジャリッ、ジャリッ?


「ざんねんでした、お姉さま。そこには音が鳴る石が敷いてあるのよ」


 玉砂利かーい!ちょっと、これ捕まえられるかな。驚いている間に逃げられたんだけど。生け垣で軽く迷路みたいになってるからな。


「待てーい!」


 走って追いかけてたらスペンサーがいた。そのまま背中目掛けてスライディングしたら、スペンサーまで背中に目がついているかのように振り返ってひらりと避けた。なんでだ!


「噴水に写ってるんだ!」


 そんなアホな!いくら地の利があるからってこの年でそんな頭回るってうちの弟妹賢すぎない?(姉バカ)


 結局さんざん走り回って追いかけたけど捕まえられなくて、侍女がお昼ご飯だと呼びに来て一旦終わりになった。ものすごく悔しい。魔法無しのハンデなんかつけるんじゃなかった!姉としての威厳が!弟妹に尊敬される姉になりたいのに!


 ご飯食べた後子ども達はお昼寝タイムだそうで、私はその間お母様と話している。


「あの子達と遊ぶのは楽しい?元気だから相手をするのは大変でしょう」


「元気だしとても賢いから大変だけどすごく楽しいよ」


「良かった。シミオンもスペンサーもセシリアも、あなたと違ってよく泣くしおむつも何回も変えないといけないみたいで赤ちゃんの時から大変だったのよ」


 私は転生者だし、ほぼギフトで自分のおむつ綺麗にしてたからな。気持ち悪くて変えてもらえるまで耐えるのも泣いて迷惑かけるのも嫌だったし。実に子どもらしくない子どもだったと思う。でもそうか、お母様は私が初めての子どもだからそれが普通だと思ってたのか。


「ほら、気付いてると思うけど私って昔からちょっと変わった子だったじゃん。多分三人の方が普通なんだよ」


「やっぱりそうなのかしら?サイラスも乳母もそう言うのよ」


「そうだと思うよ」


 そういえばナニーもケヴィンが初めての子で、そのケヴィンは乳母に任せて私の乳母をしてたから子育てとか知らなかったのか。むしろこれ、私が普通の赤ちゃんだったらどんな風に育てられてたんだろうな。


「……クオルフの事も手元で育てたかったわ。あの時置いて行った事をずっと後悔しているの。無理にでも連れて行けば良かった。サイラスはきっと受け入れてくれたし、あなたが父親を亡くして辛かった時そばにいて支えてあげられたのに」


「私も……お母様と一緒に行きたかった。お父様が亡くなった時、私は狂ったとされたけど、本当に辛くておかしくなりそうだったの」


 あれ、なんだろう。涙が出てきた。お母様に愛されて育てられて私はお父様を失ってもひとりぼっちじゃなくてまだお母様がいて、そんなもしもの世界を想像しちゃったからかな。


「……言い訳に聞こえるでしょうけど、あの人が亡くなったと聞いてすぐにあなたのお祖父様に引き取りたいと言ったのよ。そうしたら跡継ぎにするかもしれないから駄目だと。跡継ぎ候補として大切に育てられるならと泣く泣く諦めたのに、それなのにあなたはスラムに捨てられていただなんて……」


「おかあさま……私ね、すごくさみしかったんだよ。でも、スラムには両親のいない子どもがたくさんいて、そんな子ども達に拾われて子どもだけで暮らしてたんだ。大変な事もいっぱいあったけど、兄弟で支え合って後見人にも世話してもらって今日まで生きて来れたんだ。だからなんていうか、自分を責めないでほしいの。スラムでの経験は得難いもので、悪いことばかりでも無かったから」


「……ありがとう。あなたは強くて優しい子ね。いつも私を気遣ってくれる。あの人が遺してくれた宝物」


「お母様は、お父様の事恨んでないの?」


 お父様がお母様にした事を思うと、恨んでいてもおかしくないのに。それなのに懐かしむように穏やかに、まるで私の中にお父様の影を見るように言うから不思議に思った。


「恨んではいないわ。あの人は私の事もあなたの事も愛してくれていたもの。ただただとても不器用で色々と愛情表現の仕方を間違えてしまっただけなのよ」


「それは私もそう思うけど、ちゃんとお母様にも伝わってたんだね。お父様はお母様がいなくなってから亡くなるまではきちんと私を愛してくれたのよ」


「そう……!あの人はようやく素直になれたのね。あなたのお祖父様からの呪縛が解けていたのかしら」


 呪縛か。最下級の身分である奴隷の産んだ子だったお父様を男の子だから跡継ぎにしたというくらいに、お祖父様は男尊女卑の強い人。


 その影響を受けてお父様も男の子に拘っていた。自分の存在価値はそれだけだと幼い頃から刷り込まれてきたのだろう。だから私にきつくあたったし、お母様にも早く男の子を産むように強要した。


 それは私達にとってとても残酷なことだったけど、お父様にとっては家族を守る為のものでもあった思う。お祖父様が存命で大きな権限を持ち続ける以上、跡取りになれないクオルフと跡取りを産めないお母様はダドレフ家にはいられない。一人でも男の子がいれば私もお母様もダドレフ家の一員として認めてもらえるから。


 貴族は家長が絶対だから、仕方が無い。けれどそんな風に生きるのはお父様にとっても辛いことだったんだろう。時折子どものように私にあたっていた。きっとお父様もお祖父様に殴られて育ったのだろうと思う。


 そう思うと本当によくがんじがらめの呪縛が解けたものだ。お父様ともっと色々話をしたかった。小さい時は分からなかった複雑な事情や思いなんかも今なら少しはわかるようになったのに。


 お父様はどうして死んでしまったのだろう。魔法で事故から身を守ったりとか出来なかったんだろうか。あまり当時の状況を知らないから、今度ナニーにでも聞いてみよう。




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