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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
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25 シミオン

ちょっと長いです




 夕食の後はお風呂に入ってから客間に通された。お風呂はダドレフ家では各自の部屋にあったけど、子爵家では一つのお風呂を順番に使うらしい。


 お風呂にまで侍女がついてきて体を洗ってくれるのは貴族らしいなぁと、懐かしく思った。客間にはふかふかのお布団があり、綺麗に整えられていた。


「貴族か〜、快適で良いよね」


 この家でお母様の娘として弟妹に囲まれて暮らす。いずれ子爵に従ってどこかの誰かへ嫁いで行く。そんな生活も悪く無い、のかな?


 いや!いやいやいやいや!お母様は大好きだし、弟妹も可愛いけど子爵とはどうにも気が合いそうに無いんだよな。


「それにこれ、渡されちゃったしなぁ」


 心配したドンに持たされたもの。それはドンと私との養子縁組の証明書だった。といっても本当に養子にしちゃうと色々めんどくさいから偽造書類というか、届け出に不備があって実際にはまだ受理されてませんっていう状態にしてあるらしい。


 これくれるって言うのは結構凄い事なんだよね。ギャングの長の娘ってなると相続権も発生するし、そうなると娘と結婚して次のギャングの長になろうとする輩も出てくる。今ドンには他に子どもがいないから。だからこそ実際には養子になってないんだけど、それも別に本当に養子になるんでも良いぞって言われてるし。


 ここまでの事してもらっといてポイッとスラムを捨てるなんて、そんな酷い事出来ないよ。




 それはそれとしてふわふわなお布団で眠って翌朝はとってもスッキリ起きた。支度を整えて朝食室に行くと先客がいた。ちなみにこの世界での貴族の朝食は、好きな時間に朝食室でそれぞれ食べる。てわけで私も来たんだけど、まさかシミオンがいるとはね。気まずいなあ。


「おはようございます」


「……いつまでいるんだ?」


 適当な席に座ってとりあえず友好的にしてみたら、挨拶も返さずいきなりそう来たか。しょーがない。こっちも他人行儀で行こう。


「三日ほど滞在させて頂きます。その間よろしくお願いしますね」


「ずっとはいないんだな?父上と母上にうちで引き取るかもしれないから仲良くしろと言われた」


「ご安心下さいませ。その件はお断りするつもりですから」


「それならもう来ないのか?」


「それは、どうでしょう?引き取られなくても私とお母様は母娘ですから。お腹の子が産まれたら一度会いたいですし」


 できれば成長する過程を見て行きたいから、小さい内は半年に一度くらい会いたいけど。そしてスペンサーとセシリア含め無事成人するまで見守るつもりだけど!


「離れ離れなのに親子なんて変だ。一緒に暮らすのが親子だって母上も言ってた」


「私もできれば一緒にいたいですよ。だけど今は私だけのお母様じゃないし、私には私の生活がありますから」


「そうだ!母上は僕たちの母上で、お前のじゃない!お前はお前の家に帰れ!」


 あらら。これあれじゃない?嫉妬ってやつ。昔のキースくんにちょっと似てるな。そう考えるとこの場合の対処法は……


「私には帰る家が無いから、シミオンがうらやましいよ。お父様を喪ってからずっと孤児として生きてきたんだよ。せめて今くらいはお母様に甘えさせてくれても良いんじゃないかな?」


「っ……!代わりにお前は僕に無いもの全て持ってるじゃないか!上級貴族の血に才能、母上の金髪。なにもかも」


「うん。全部遺伝で貰ったよ。代わりにそれ以外の物は何も持ってない。シミオンはお母様と血の繋がりは無いけど手元でずっと愛されて育てられたんじゃない?貴族として必要な教育は十分に受けているでしょうし。遺伝では得られない物もたくさんあるわ」


 お母様の事だから前妻の子だからって虐げたりしなかっただろうし、私に注がれていた愛情を考えると、正直本当に羨ましいくらいの環境で育ってるんだよな。


「遺伝では得られないもの……それも、家に来たら手に入れるだろ?」


「そうだね。でも、手に入れるつもりは無いわ。お母様にはもう十分に貰っているもの。可愛い弟妹までいたら他に何が必要なの?」


「僕だったら全部欲しい。それに……スペンサーの方が跡継ぎにふさわしいから、僕はスペンサーを可愛いと思えない時がある」


「そうかなぁ。スペンサーは当主になれるようには育てられてない気がするけど。当主教育ってすごく厳しいじゃない。普通はあんな風に無邪気に笑えなくなるよね」


 私も一時期お父様にスパルタ教育受けてたからな。それまでも厳しかったけど、お祖父様に跡継ぎとして認められてからは半端じゃなかったもん。


「それは……確かに。でも今は小さいから受けてないだけでこれからどうなるか分からないじゃないか」


「あれ、当主教育って年齢とか関係あったっけ?私の時は四歳くらいから始まったけど」


「僕は本格的なものは六歳過ぎてからだったぞ。スペンサーも今から始まってもおかしくないだろ!」


「まあでも基本は長男が継ぐものだし。よっぽど無能じゃなければ大丈夫でしょう。私が元いた家なんて間抜けないとこが跡継ぎです。」


「母上の実家は派閥でも上の立場だから」


「あーそうなのか。シミオンを産んだお母様の方は?」


「かあさまは男爵の娘だったらしい」


「じゃあ厳しいか。んー、やっぱりシミオンの有能さを示さないとかな。九歳ってことは来年学園入学だし、評価が目に見える形になるから好都合かもね」


 弟が後輩になるのなんか不思議で嬉しいね。焼きそばパンと牛乳パシらせるか(笑)


「……お前、なんで僕の肩を持つんだよ。普通スペンサーを応援するだろ。弟なんだから」


「だってシミオンも可愛い弟だよ。それに、私も元跡取りだから共感しちゃうっていうか」


「馬鹿な奴だな。血も繋がってないのに。昨日会ったばかりだぞ」


「それはスペンサーも同じだからね。血の繋がりは正直そんなに重視してないし。スラムの孤児院育ちだから他にも兄弟たくさんいるし」


「なんだそれ。突っかかって僕がバカみたいじゃないか」


「それ気付けるあたり全然バカじゃないよ。キースといい、私の周りの男の子たちはどうしてこんなに賢いんだろ」


「お前のそういうちょっと上から目線な所は腹が立つ!」


「ああうん。ごめんなさい。気を付けようとは思ってるんだけどどうしても子ども相手だとなるんだよね。自分も子どもだって事ちょくちょく忘れるの」


 お嬢様言葉とっくに剥れてるしボロが出まくってるな。可愛いんだもん年相応に母親や腹違いの兄弟の事で悩んであたったりしてるの。私も大人からみたら同じように見られてるんだろうけどね。


「変なやつ。図体が大きいと自分の年も忘れてしまうのか」


「失礼な方ですね。レディの体格を揶揄するなんてマナーがなっていませんわ」


「それは失礼しました。でもレディはそんなにたくさん食べないと思いますよ」


 うん、そうだね。話しながらめちゃくちゃバクバク食ってるもん。もうシミオンにそんなに気使わなくても良いかなって。


「シミオンもね、もっと食べて大きくなりな!」


「食べてる。お前は食べすぎだ!そんなだから育ちすぎるんだ」


「ふひひっ、身長高いといいよー。運動系の授業で有利になるからね。ダンスの相手がいなくなるのは困るけど、男の子は多少背が高くても大丈夫だし」


「ダンスの相手もいないのか。卒業パーティはどうするんだ?」


「え、卒業パーティ?そんなのあるの?」


 こないだから夏休みやら知らないイベントが盛りだくさんだな。パーティに着てく服なんか無いぞ。お母様に貰った服着てくか。


「毎年卒業式の一週間前に開かれるんだ。貴族は大抵婚約者同士で踊る。一ヶ月前には相手を決めて練習するものだと聞いたぞ」


「えーどうしよう。不参加じゃ駄目なの?」


「貴族は全員参加だけど、お前は平民として入学してるんだろ?だったら出なくても良いんじゃないか?」


「じゃあそうしようかな。シミオンは学園に入ったらどうするの?婚約者とかもういるのかな」


「いない。学園で誰か探すつもりだ。それかそのうち父上が相手を見つけてくるだろう」


「やっぱりそうなるよね。私も後見人が候補を見繕ってくれると思うんだけど、女心ってモノが分かってないからなぁ。良かれと思ってどんな人連れてくるか分からないよ」


「お前も大変そうだな。父上は野心家だから僕の相手は高慢な上級貴族の令嬢とかになるかもしれない。母上は違うけど、上級貴族はそういう人間が多いんだ」


 苦々しく言う辺り、もうそういう体験をしてるんだろうな。私は途中でドロップアウトしてるから分からないけど、貴族って小さい頃から社交したりしてそうだし。


「分かる。私を貴族の隠し子だと思って声掛けてきた人達もいやーな感じだったもん。上から目線でお上品に嘲ってきてさ」


「そうだろうな。普通に和やかに会話が出来る人で父上の納得する相手を早く見つけないとな」


「私も誰か自分で探そうかな」


「そうしろよ。お前なら選び放題だろうし」


「私、可愛いもんね。能力もそれなりに高いし」


「お前はどうしてそんなに自信満々なんだ?その通りだけど普通は自分で言わないだろ」


「自己認識がしっかりできてるって言ってよ。まあ遠慮とか謙遜とかそういうのはお母様のお腹の中に置いてきちゃったみたいだけど」


「本当に変なやつ。お前が置いてきたおかげでスペンサーとセシリアが天使みたいな性格なのかもしれないな」


「あ、そうだ!今日二人と遊ぶ約束してたんだった。早く行かないと。シミオンも来る?」


 特に何時とか決めたわけじゃないけど短い滞在なんだから目一杯遊んであげたいよね。何して遊ぼうかな。ハンナ姉とやった花冠作りくらいしか知らないんだけど。貴族だった時って何してたっけ?思えば本読んだり勉強っぽい事ばっかだったな。


「僕は良い。あの二人と遊ぶとお気に入りの服がぐちゃぐちゃになるからな」


「やんちゃだねー。子どもらしくて良いと思うけど私も汚されてもいい服に着替えて来ようかな」


「その方が良い。泥だらけにされるぞ」


「うん!教えてくれてありがと」


 立ち上がってまたねっと軽く手を振ったら肩をすくめられた。まだ振り返してはくれないか。シミオンが入学する頃には仲良し姉弟って言われるくらいになりたいな。





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