表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
118/142

23 宿屋にて





 最初に少し話をした後は、勉強をすると断ってひたすら聖書を読み耽っていた。創作物として見ると結構面白いんだけどな。テストに出されると困るよね。途中から演技では無く本当にうとうとしてきて少し眠っている間に夕方になって今日滞在する宿へと着いた。


 宿代マクミラン子爵持ちでそれなりに良い部屋をあてがわれてちょっと嬉しい。思えば旅行なんて一度もした事が無いし、実家のダドレフ侯爵家の屋敷の中と王都しか知らなかったから良い経験になるだろう。


 夕食はマクミラン子爵の部屋で一緒に食べようと誘われているのでそれまで荷解きをして待つ。と言っても取り出すのは歯ブラシと寝間着と明日の着替えくらいだけど。


「夕食の準備が整いました。お越し頂けますか?」


「はい、今行きます」


 ノックの後侍従の声が響いてそれに返事をする。昼間は馬車の中で簡単に食べられるサンドイッチだったから、お腹が空いている。育ち盛りだから出来ればガッツリ食べたい。多分コース料理だとは思うけど。テーブルマナー思い出さないとな。


 マクミラン子爵の部屋は侍従の部屋がついているので私の部屋よりは広い。ダイニングに通されて対面の席に着く。失敗しないように緊張しながら運ばれて来た料理を上品に食べる。あーめんどくさい!


「……君は貴族としてよりスラムで生きた期間のほうが長いだろう?よく貴族としての振る舞いを忘れなかったね。それも四歳ではまだロクに教育も始まっていなかっただろう。セシリアなんてまだ勉強はさせずに遊ばせているよ」


「それは私がちょっと普通の子より心の発達が早くて、お父様がかなり厳しい人だったからです。無理に勉強させても身につかないと思うのでセシリアにはそのままで接してあげて下さい。私は全く参考にならないので」


 だって転生者だもの。それにお父様の教育法は手荒くて三歳の時に打ち解けるまでは虐待紛いの物だったし。すぐ手が出るんだもん、普通の子だったら泣いて逃げ出してるね。


「そうだね、セシリアやスペンサーに君と同じものを求めてはいない。二人には貴族として平凡でも幸せな人生を送ってほしいんだ」


 マクミラン子爵は殊更「貴族として平凡で幸せな人生」の価値を強調する。私の引き取りへの誘い文句もそれだし。


 それって、次男にあたるスペンサーには分家として兄を支え、兄に何かあったら代わりにあとを継ぐ予備としての人生。娘のセシリアにはどこかの下級貴族の家に嫁いで子を産み育てて、嫁ぎ先の人達の言う事を聞いて生きて行く人生。それが貴族の平凡で幸せと考えられているから。


 次男はまだ良いよ。一生兄の影で生きる代わりに領地でそれなりの暮らしが送れるから。


 けど娘は嫁ぎ先が悪いとどうしようもないからね。実家には跡継ぎがいるから出戻りも出来ないし、言っちゃ悪いけどお父様みたいな人に嫁ぐと大変なのは目の前で見て来たからね。


 だからセシリアの幸せはマクミラン子爵の目利きと良心にかかってるんだよ。領地と子爵家の利益だけを追い求めるとまず不幸な結果になるし、貴族で恋愛結婚て早々ないし。良い嫁ぎ先を探してくれると良いな。私もギャングの力をお借りして後押しするからさ。


 あとはお腹の子が男の子だとこれが一番困るかも。三男って領地にも居場所が無いし、娘しかいない家に婿入りするか、士官先を見つけて生きていかなきゃならないから。


 もし男の子で行き先が決まらなかったら私が面倒を見よう。女の子で嫁ぎ先が辛いようなら逃して保護しよう。スペンサーもどうしても兄と反りが合わないようなら私が引き取ろう。


 って、私まだ10歳なのに何考えてんだ。しかもまだ一度も会った事も無いのに。まあ精神年齢はもっと上だから、うん。


「私は今まで一度も平凡を味わった事が無いので分かりませんが、私も弟妹には幸せになって欲しいです」


「君にも今からでも平凡な人生を送る権利があるんだよ。聞いた話では王子殿下に目を掛けられているそうじゃないか。それに、乳母の子とも親しくしていると。貴族に嫁ぐつもりなら早めに貴族に戻った方が良い」


「お気遣いありがとうございます。ですが殿下には面白がられているだけですし、ケヴィンはただの友人です。嫁ぎ先は後見人が決めると思いますので、その段取りも後見人がするでしょう」


 多分私をスラムからは出したくないだろうから、いずれギャングの幹部の息子とかとお見合いでもさせられるんじゃないかな。ドン達なら悪いようにはしないでしょ。恩返しもしなきゃだし。


「私が思うに殿下には君を求める理由がある。殿下は第二王子であらせられるから、王位を継ぐには余程強力な後ろ盾がいる。ダドレフ家の娘である君は最適だ。君は望まなくても強引に婚約を結ばされるかもしれないね」


「そうだとしても私にはエルフの血が流れていて、その上市井育ちですから。他の侯爵令嬢をオススメしますね」


 この国でのエルフは昔から奴隷で、その血が血統を重んじる王家に流れる事になるのはよろしくないだろう。あークォーターエルフで良かった!王族に嫁ぐとか冗談じゃない。


「王子と同年代の侯爵令嬢は他に一人しかいないし、その令嬢は王太子殿下の婚約者だからね。可能性は考えておいた方が良い」


「ご心配ありがとうございます。注意深く様子を伺いたいと思います」


 大丈夫だとは思うけど、生徒会長には弱み握られてるからなぁ。私が医学会専有書庫に侵入した犯人だって気付かれてないと良いな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ