22 マクミラン子爵
翌朝、支度を整えてロビーで待っていると、寮監が呼びに来てくれた。
「クオルフさん、お迎えの方がいらっしゃいましたよ」
「はい、ありがとうございます」
寮監に頭を下げて荷物を持って寮を出る。外にはマクミラン子爵の従者が待っていて、マクミラン子爵の待つ学園の外の馬車まで案内してくれる。
「こちらです。どうぞお乗りください」
従者に差し出された手を借りて、優雅に馬車のステップを登る。薄い茶色の髪に金色の瞳をしたマクミラン子爵にカーテーシーをして向かいのソファに座る。
「初めまして、クオルフ嬢。サイラス・マクミランです。これからよろしくお願いしますね」
「ええ、よろしくお願いします」
「今日はこのように呼び立てて悪かったね。現段階では私たちの関係をあまり知られない方がいいと思ってね」
「はい、私もその方が良いと思います」
私の引き取りの件、外堀から埋められたりしたくないし。向こうも確定した話じゃないし、まだ私に会って能力や人となりを確認した訳じゃないから伏せておきたいだろうし。
「ありがとう。さっそくだけど色々話を聞かせてくれないか?私も妻や子どもたちの話をしよう」
「私についてどの辺りまでご存知ですか?私はお母様の子どもたちの名前くらいしか知らないのですが」
「そうだね。集められたのはスラムの孤児院で育ち、自警団の後見を受けて診療所で働きながら暮らしているという情報だけだ。困った事にそれ以上は一切出て来ないんだ」
生徒会長に調べられた時と同じく詳しい事はギャングで情報統制が掛かってるからね。さて、どこまで話すべきか。
「そうですか。スラムの中の診療所という特性上、そこで働く者たちを守る為の措置なのです。どうかご理解下さい」
「私もナタリアも君が危ない事をしていないか。危険な環境に置かれていないか心配なんだ。その後見人は信頼できる人なのかな?」
「はい。今の仕事を紹介してくれたのも後見人で、スラムで危ない目に遭わないように護衛もつけてくれています」
「そうか……その人達はどういう理由で君を後見する事になったのかな?赤の他人が何の利益も無しにそこまでの事はしてくれないだろう?」
「診療所は自警団の肝いりの事業なのですが、今診療所には女性医師がいないのです。ですから私を医療学校に入れ、医師として育てようとしています」
「医師か。君はそれで不満は無いのかな。手紙でも書いた通り、我が家には君を迎え入れる準備があるよ。そうしたら貴族として平凡で幸せな生活を送る事が出来る。考えてくれたかな?」
はい。来ましたよ本題が。さっそくだね。用意しておいたセリフを並べようか。
「その件についてはもう少し考えさせて下さいませ。失礼ながら私もマクミラン子爵家について何も知らないのです。突然弟妹がいると知ってまだ驚いていますし、お母様と直接会って話すまでは気持ちの整理がつきません」
「そうだね。こちらが性急過ぎたようだ。ゆっくり考えてくれ」
「はい。では、お母様や弟妹のお話を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「ああ。まずそうだね。ナタリアが今妊娠中だという事は知っているかい?来月生まれる予定なんだ。だから会った時もあまり興奮させないようにして欲しい」
もうすぐ臨月かぁ。前にお父様の子どもを妊娠してた時は大事を取って近付かないようにされてて、しかもすぐに流産してしまったからな。どんな感じなんだろう。今度は無事に生まれて来られると良いな
「はい。分かっています。弟のスペンサーと妹のセシリアは元気ですか?」
「元気だよ。二人とも活発な子でね。すくすくと育ってくれているよ」
「良かった、早く会いたいです。二人の名前はマクミラン子爵がお付けになったのですか?」
「そうだよ。ナタリアにも考えてもらったんだけど彼女は名付けが下手なようでね」
「そうなんです。お母様に悪気は無いのですが、お母様に任せると私のような名前になってしまうので。マクミラン子爵が付けてく下さって安心しました」
「クォーターエルフでクオルフだったね。響きが可愛らしいと思うよ」
由来は兎も角。っていう副音声が付きそうだけどね。マクミラン子爵の子だからマックとか、サイラスの娘だからサラとか短絡的な名前じゃなくて良かったよ。まあサラならギリギリありかなって思うけど。
サイラス・マクミラン子爵 お母様の再婚相手
ナタリア お母様
スペンサー 弟 六歳
セシリア 妹 四歳