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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
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20 憂鬱な手紙




 担任からの呼び出しの後、ケヴィンが待ち構えるようにして会いに来て、そして謝罪された。


「すみません、先にクオルフさんにお伝えすべきだったのですが、他の貴族家の事ですのでこちらから勝手に話すわけにも行かず……」


 そうなんだよ、ナニーに私のことを頼まれてていつも何かあったらすぐ飛んでくるケヴィンが、今回は一向に姿を現さなかった事からしてそんな事だろうとは思ってた。


「大丈夫だよ!干渉とかになって色々面倒なのは分かってるから。それに、マクミラン子爵がどんな思惑だろうとお母様に会えるのはとっても嬉しいし。あ、これでお母様に会わせてもらえなかったらさすがにキレて良いよね?」


「ふふっ、はい。クオルフさんにはその権利があると思いますよ」


 ここで面白そうに笑ってくれるあたりケヴィンは良い奴というか、人の心を掴むの上手いよね。貴族として将来有望だね。


 で、多分私には貴族は向いてないんだよ。どう考えてもこんな風に上手くやっていけないもん。前世の記憶持ちとかスラム育ちとか色々要因も重なってるし。知ってる?貴族令嬢って、歯見せて笑っちゃ駄目なんだよ。基本微笑むか、扇で表情を隠して笑うんだ。やだねえまったく。



 兎も角。いつも通り働きに出かけてエインさんには診療所で、ギャングの長達には手紙で一週間ほどスラムを空けることを報告した。「エインさんにはお前がいないと地味に困るんだが、まあせっかくだから楽しんで来い」と嬉しい事を言われ。すぐに手紙を読んだドンは診療所の終了時間に来て、私に注意事項をたくさん言って帰って行った。心配してくれているらしい。


 寮に戻ると私宛の手紙が二通届いていた。


「お母様とマクミラン子爵からだ……もしかして行き違いになったのかな。だと良いけど」


 私もこっちに何も知らせずに全て決めて進めちゃうやり方には思う所があるからね。先に手紙を届けて私に知らせてから学校に許可を取る予定だったってなら納得出来るんだけどどうだろうか。


 お母様の方から開いてみるとびっちりと何枚にも渡って文章が綴られていた。要約すると一枚目は無事で良かった。二枚目は離縁のとき置いて行ってごめんなさい。三枚目は今までどうしていたの。四枚目はお母様の近況。五枚目は会いたい。六枚目は……また一緒に暮らせないか。引き取らせて欲しい。


 はいっ!えーっと、とにかくお母様の愛をたくさん感じられたお手紙でしたね。そんで六枚目は見なかった事にしましょう。なんでって?


 だってさすがに今さらそんな事言われてもって感じ。私はもうスラムに生活基盤置いてるし。成人までの道筋も立ってるし。どう考えても大きな連れ子が前妻の子とお母様の子がいる家庭に入るのって居心地悪そうだし。


「こうなるとマクミラン子爵の手紙が気になるな……」


 一枚目、妻の娘であり候爵令嬢であり学園の一位特待生であるクオルフ嬢に興味がある。ぜひ一度遊びに来ないか。二枚目、子爵領が気に入れば成人まで後見につく事も考えている。是非検討して欲しい。


 ふぎゃあああ!OK、ちょっと情報を整理しようか。マクミラン子爵は貴族として実に有能な人だ。


 まず、以前ケヴィンも懸念していたように、候爵令嬢で成績優秀な私は利用価値が高い。さらに他の王族や貴族の取り込みと違って、妻の連れ子となればマクミラン子爵は大義名分があるので大手を降って私を手に入れる事が出来る。


 さらにさらに、これは考え過ぎかもだけど、向こうには私やお母様と血の繋がりがない跡継ぎの前妻の息子がいる。お母様の手紙にもマクミラン子爵の手紙にも、引き取りや後見はあっても私を養女にするなんて言葉は一切書かれていなかった。つまりこれって、本来はそうそう無い上級貴族の娘と下級貴族の息子の結婚のお膳立てが出来てるって事になるのよ。


 私ね、正直言って別に結婚相手は誰でも良いんだよ。暴力振るわない全うな人ならだいたいね。でもやっぱり希望としては年下は嫌かなっていうのと、貴族の跡取りは困るなっていうのと。


 だってこれでも一応前世の記憶持ちで、年下どころか同年代でも可愛らしい子どもにしか見えないんだよ。そんな相手と子どもが作れるかい?ましてや相手が跡取りだと子作りは義務だからね。


 お母様だって跡継ぎである息子を産めなかったから離縁されて、下級貴族だけど既に跡継ぎのいるマクミラン子爵家へ後妻に入ったわけだし。


 できれば跡継ぎのいらない所へ嫁ぎたい。それもスラムの人間が良い。今の所スラムから離れるつもりが無いから。それを考えると意外と誰でもは良くないか。というかスラムで暴力振るわない全うな人なんているのか?エインさんくらいだろ。ハンナ姉滅茶苦茶良い人捕まえたな。


 話が脱線したけど、私にはもうお父さんは必要無いって事は確かかな。亡くなったお父様にドンだっているし、マクミラン子爵が欲しているのは可愛い娘じゃなくて、強力な駒だもん。


 例え自分の息子じゃなくても、私を上級貴族に嫁がせれば下級貴族の中での存在感は増すし、上級貴族へのツテが出来るし良い事尽くしよ。


 はぁ〜あ。面倒だな。お母様だけに会えればそれで良いんだけどな。





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