19 呼び出し
スラムの子ども達が安心して暮らせるように、とりあえず今の私にできる事を考えてみた。
①もっと勉強して知識をつけること
②何かあったとき頼れる味方を増やすこと
③現実的に何をするにしても欠かせないお金を稼ぐこと
考えた結果、とりあえずは今までと変わりない生活を送るのが一番という事になった。
「全員揃ったなー。それじゃあいくつか連絡事項を伝えるぞ。もうすぐお貴族様のシーズンオフに合わせて夏休みがあるのは知ってるか?期間は二週間。もちろん宿題も出すからしっかりやれよ〜」
「せんせー!宿題なんかいらねーよ!」
「そーだそーだ!」
「宿題っても日記だぞ。それくらい毎日書けばすぐ終わる。毎年最終日にまとめてやろうとして泣きを見る奴もいるがな」
クラスの少年達がブーブー言うのを担任が一喝して有り難い忠告をくれた所で朝の会終了のチャイムがなった。
「時間が無いから後は手短に伝えるが、寮に入っている者は夏休み中外泊許可が取りやすくなっているから、保護者の許可を貰って実家に帰るなりどっかへ遊びに行くなりしろ。羽目を外しすぎて面倒事だけは起こすなよ!それとクオルフ。お前には個別に話がある。放課後職員室へ来い」
「えっ、ちょっ、先生!私また何かやらかしましたか?今回ばかりは自覚が無いんですけど」
「別に叱ろうっていうんじゃ無い。良いから来い。それじゃあ皆授業行け〜」
何だろ、相変わらずやる気ない感じで有無を言わせないなこの先生は。またカトレアとキースに心配されてるじゃん。しかし本当に何も心当たりないんだけど?門限破りし過ぎで更なる罰則とか?でも寮の事は基本寮監の管轄だからな。
結局さっぱり思い付かないまま放課後を迎えてしまい、すごすごと職員室に向かう。担任のデリックの机に行って声を掛ける。
ちなみに平民と貴族クラスでは教師まで職員室が別れていて、貴族クラスの教師は個室が与えられている。貴族クラスは教師も貴族出身だからね。
「デリック先生、お話とは何でしょうか?」
「ああ、ここではな。外で話そう」
普段教室ではお互いに砕けた言葉遣いしてるけど、さすがに他の先生もいるからね。お互い職員室を出るまで堅い口調で話す。先生は職員室を出た途端にやっと笑う。
「お前、貴族らしい言動はまだ忘れてないな?」
「ええ、覚えておりますわ」
わざとらしく貴族令嬢のセリフに切り替えて、スカートの裾をつまみ美しいカーテーシーをして見せる。いくら幼い頃に家を出たからといって、上級貴族のひとり娘としてお母様やナニー、何よりあの厳しいお父様から受けた教育を忘れられるハズがない。
先生がどうして突然こんな事を言うかは分からないけど、それほど悪い話では無さそうだしこれくらいは見せても良いでしょ。どうせバレてるし。
「なら上手くやれるだろ。実は夏休み中にお前の外泊願いが出ていてな。学校に登録されている保護者以外からの申請だから本来なら断るんだが、相手はマクミラン子爵。つまりお前の実母の旦那だからな。お前の意思を確認する事になった」
「ありゃありゃありゃ。お母様の……前に手紙を送ったからそれでかな?先に返事を返してくれればいいのに。まあどうせ夏休み中にお母様に会いに行こうと思ってたし、許可出して下さい。ちなみに期間はどのくらいですか?今月お給料厳しいんですよね〜」
「一週間だな。マクミラン子爵領は王都から馬車で二日ほどかかるからな。何日かいて、帰りも考えるとそんなもんだろ」
「それなら仕方ないかぁ。じゃあついでに残り一週間の外泊許可も下さい。これ、正式な保護者の外泊許可申請書です」
「おー、分かった。ほんとなら寮監に出すんだが、今回は特別だからな。俺が処理してやる」
「よろしくです」
ギャングのアジトでお泊り会 兼 お礼働きだからね。しばらく節約しなきゃな〜。