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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
109/142

14 侵入

お待たせしました!



 翌日の放課後、カモフラージュのためにいつものようにスラムに向かって診療所に出勤する。そこからこっそり抜け出して、誰にも見つからないように、尾行に注意して王立図書館に侵入する計画だ。


 さらに、短い髪を活かして男装して、その髪も目立たない茶色に染める。


 よし!準備完了、出発進行!


 王立図書館は王都の中心部、貴族や豪商などの屋敷が軒を連ねる辺りにある三階建ての大きな建物だ。正面の受付で学園の図書室と同じく保証金と利用料を払えば中に入れる。


 それぞれの学会の専有書庫は、一番大きな真ん中の一般書庫を囲むように建てられている。その一つ、医学会専有書庫は正面から見て右から三番目の建物だ。


 真正面から入ると多くの人の目に付く。だから正面の受付からでは無く、直接医学会専有書庫へ行く。


 書庫の入り口には見張りが二人いて、周囲にも数人が巡回している。医学会に所属していないと入り口からは通してくれない。


 二つある大きな窓は高価なガラス窓が嵌められていて、換気のために天気の良い昼間は開け放たれている。


 出入り口と言えば一見そのくらいに見える。ただ、当然その二つの出入り口からの侵入は警戒されていて難しい。だからエインさんが教えてくれた屋根裏に繋がっていると思われる天窓からの侵入を試みる。


 ただしエインさんがその天窓の存在を知ったのは、偶然図書館の本館の三階の窓から外を覗いたときだった。つまりそこからは丸見えってわけだ。見つからないように最速で中に潜りこまなければいけない。まあ利用料を払って本も読まずに呑気に景色を眺めている奴なんて、早々いないだろうから気を付ければ大丈夫だろうけど。



 よし、シミュレーション終了!図書館の塀の前に到着した。ここからは時間との勝負だぞー!


 さっそく図書館全体を取り囲む塀を、同じ高さまで魔法で土をこんもり高く盛り上げて乗り越える。そのまま塀の上で伏せて姿を隠し、見張りの様子を確認する。


 情報通り、昼間のこの時間は昼食を交代でとるから見張りの数が少ないようだ。見張りが他の場所へ向かうのを待ち、塀の上で立ち上がる。


 少しでも助走をかける為に落ちるギリギリの所まで下がったら、後は前にやった走り高跳びの要領でそのまま跳ぶ。風魔法で速度を上げ、そのまま真っ逆さまに落ちないように下にも風を出して体を支える。


 こうして見事50メートルほども離れた書庫の屋根へと行く事が出来た。もちろん着地時には空気でクッションを作って衝撃と大きな音が出るのを防いである。


 不安定な足場と短い助走距離でも普通にいけるもんだね。さっ、万が一にも暇人な誰かに見られないようにとっとと屋根裏に入ろう。


 木で出来た天窓は、屋根側から開け閉めする想定はされていなくて、取っ手が無くて開けにくかった。がんばってこじ開けたけど。


 中に入るとしばらく使われていないらしく、埃まみれだった。……非常にまずい。


 皆さん思い出して欲しい。私は神様からのギフトで除菌・除去を真っ先に欲しがるほどの潔癖症である。


 こんな環境に耐えられるはずが無い。とっさにギフトを使って綺麗にしようとするも、既のところで思いとどまった。


 あのギフトはかけた対象の清潔度等によってキラキラが派手に出るのだ。普段は綺麗になったのが分かりやすくて便利だと思っている。


 でも今はダメだ。あのキラキラは多分屋根も透過して外へ出て行く。あんな目立つ物が屋根から出てたら絶対に外の見張りに気付かれる。


 必死に耐えて我慢して、置かれているガラクタを避けながら出来るだけ埃が舞わないようにつま先立ちで歩く。


 しばらく探すと床に下の書庫に繋がる、さっき入って来た天窓のような部分を見つけた。意を決してその埃まみれの木板を持って、少しだけズラす。


 下を覗くと近くの壁にはしごが立てかけられているのを見つけた。ここの人はあれを使ってこの屋根裏に登って来るのだろうが、今の私には使えない。


 幸い利用者が居ないのは塀の上から窓越しに確認済みだし、見張りは扉の外。司書も昼食時は来ないそうだ。


 木板を外し、床に手をかけてぶら下がりえいっと飛び降りる。高さがあるので登る時どうしよう。塀登るとき使った土魔法でいっか。


 エインさんによると書庫は入り口から見て右側に女性と子どもの、左側に男性の、真ん中にはどちらにも当てはまる医学書が置いてあるらしい。


 エインさんはほとんど右側には行った事が無いらしいので、自力で欲しい資料を探さなければいけない。


 大きなガラス窓から外の見張りに見られないように気を付けつつ、右側に向かう。


 片っ端からそれっぽいタイトルの本を取り出してパラパラめくる。これじゃ無い。これじゃ無い。これでも無い。これは役に立つ、かな?


 ギフトで小さくして持って来た大量の紙とインクとペンを取り出し、エインさんに新しく教えて貰った複写魔法で要点だけ書き写す。


 この魔法、手を動かさずとも魔力で書けるので便利そうに見えるが、ずっと文章を目で追いながら魔力を送り続けなければいけないのがなかなか疲れるし、周囲への警戒が疎かになってしまう。


 焦りながら良さそうな本を探しては写し探しては写しして、なんとかめぼしい物を全て写し終わった。あとは余裕があればついでにと頼まれたいくつかの本を写して終わりだ。


 まだ時間的には大丈夫だろう。頼まれた本はエインさんが大体の位置を知っていたから、さっきみたいに片っ端から探すような事はしなくて良いし。


 何冊かの本を手早く見付けて写し終わって、土魔法で登って屋根裏へ戻る。とっとと埃まみれの場所から出て、天窓を閉める。ホッと一息ついて塀へ飛び移ろうと周囲を見渡した時、あの本館の窓からこちらを見つめる暇人と目があった。


 っ!まずい!見られた!どうしようどうしようどうしよう!しかもあれって、生徒会長じゃん!王族だから利用料なんか惜しくもないんだな、だから窓の外なんか見てるんだバカめ!ぎゃーー!


 焦って慌てて混乱して、そのままトンズラしようと跳んだ。ちゃんと狙いも定めずに。結果塀の上への綺麗な着地に失敗して、背中をしたたかに打ち付けてそのまま塀の外の地面へと落ちてしまった。


「いったああああい!」


 背中を擦って痛みをやわらげつつ、立ち上がってすぐさま逃げ出す。スラムとは反対方向に。


 バレちゃいけないから追手は撒いてから戻らないと。


 追手が来る様子は無かったけど、小一時間王都中を逃げ回ってやっとスラムに帰って来る事が出来た。


 ぜえぜえはあはあと荒い息を整えて、心配するハンナ姉に応接室に手を引いて連れてって貰ってようやく落ち着いた。ソファにぐたっともたれ掛かって、ようやく除菌・除去ギフトで体についた汚れを綺麗にする事が出来た。ついでに染めた髪の毛の色も落とす。


 ジンジン痛む背中に触ると皮膚がちょっと剥けて打ち身にもなってそうだったから治癒魔法をかけて治す。


「大丈夫か?何があった」


「本は全部写して来れたんだけど帰りに見つかっちゃって……どうしよエインさん」


「顔は見られたのか?」


「バッチリ目が合っちゃったけど遠かったから多分大丈夫だと思う……」


「そうか、なら良い。それだけ変装してるんだ。顔さえ見られなきゃバレやしない。頑張ったな。流石に全部写して来れるとは思わなかったぞ」


 エインさんは重要な事だけ素早く聞き取ると安心したようで、優しく笑いかけて褒めてくれた。ちょっこれ惚れるわ。ハンナ姉への裏切り絶対駄目!おし!正気を取り戻したぞ。


「えへへ。じゃあこれここ置いとくね。今からでもちょっとは働かなきゃ」


「もう少し休んだらどうだ?まあギャングにも頼ったなら金が入用だろうからな」


「そゆことです」


 一旦本をそこに置いて二人で診療に戻る。あの本は診療後にエインさんが読んで何か安全な堕胎方法が無いか考えてくれる。果報は寝て待て!は、違うか。エインさんよろしくお願いしますっ!





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