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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
もっと知ろうよスラム街
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13 ドンの勘違い



 まずは比較的簡単な所からって事で、アポ無しでドンのアジトへ転がり込む。


「やっほードン!急にごめんね。ちょっと聞きたい事があるんだけど良い?」


「本当に急だな!連絡の一本くらい入れろ。菓子の一つも用意出来ないだろ」


「ちゃんとケーキ出て来てるじゃん。あ、もしかしてこれドンの分だった?だったらごめんなさい。一口食べる?」


 甘党なドンのちょっと残念そうな表情で察して、すぐにスプーンですくったケーキをあーん、と口の前に差し出す。ドンは一瞬戸惑ったけどパクリと大きな口を開けて食べる。


「うまい、お前も遠慮せず食え……ってもう食ってるな」


「うん、ここのケーキはいつも美味しいからね。でさ、寮の門限まであんまり時間が無いから手短に話すね」


 急いで、でもしっかり味わってケーキを胃に収めた後、真剣な顔に切り替えてドンを見据える。ドンもそんな私を見てただ事では無いだろうと姿勢を正した。


「なんだ、何か問題でも起きたか?」


「そんなとこ。でも正直ドンやギャングに関わりのある話では無いから、本当に個人的な相談なんだけど、良い?」


「ああ。言うだけ言ってみろ。何が出来るか分からんがな」


「ありがと。ドンはギャングの長だからスラムの事は一番詳しいでしょ?それに貴族にも伝手がある。だから教えられる範囲で良いから闇医者も含めた医者の情報を教えて欲しいの。特に妊娠とか出産とか堕胎とかを扱ってる医者のね」


 出来るだけ簡潔に、知りたい情報だけを聞いてみた。そしたらまあ勘違いされてもおかしくないよね。特に最後の文言。


「嬢ちゃん……誰だ!いつそんな事になった!?相手を言え!ぶちのめしてやる」


「ちょ、ちょっと待って!何の話?なんか勘違いしてない?」


「だから、出来ちまったんだろ?嬢ちゃんはまだガキだってのに相手の男は何をしてやがる!スラムの秘蔵っ子だぞ?手出ししたらどうなるか知らねぇのか?」


 ドンは勘違いして激昂してるし、混乱してるしで大変そう。今の私には物理的に(年齢的に)妊娠はまだありえないんだけど。


「ん、ん?違う違う。出来たのは私じゃない!私の……えーと、大事な人」


 こういう事を無関係な人に言うのは本来よろしくないと思ってね。妊娠したのがユリアだって事は伏せる。


「そ、そうか……なら良いんだが。良くはないのか?嬢ちゃんのその様子だと。とにかく嬢ちゃんの周りの男が全員一夜にして姿を消すような事にならずに済んで良かったな」


「ええ?なんじゃそりゃ。ちょっと過激過ぎでしょ」


「そんな事無いぞ。実際本当にそういう事態になったらそうなるだろ。あいつを見ろよ」


 そう言ってドンが指差すのは紅茶やケーキのセッティングをしてから部屋の壁際にスタンバイしてた執事さん。執事さんはにっこりと微笑んで懐からナイフと毒薬らしき粉末を取り出して見せる。


 こっわあ!○執事かよ!ちょっと違うけど。


「……早めに誤解が解けて良かったよ」


「で?本題に戻るが医者だったな。まず南には闇医者が三人、産婆は七人、薬師の類は十数人、堕胎屋は有象無象いる。生むのか堕ろすのかどっちだ?」


「堕ろす方だね。それで出来るだけ安全な方法を探してる。毒とかお腹蹴ったり冷やしたりとか、そんなのやってられないよ」


「なら産婆と堕胎屋は無しだな。闇医者と薬師が何か良い方法を知ってるかもしれん。が、まあこっちも人手を動かして調べさせるんだからタダってわけにはいかないのは分かってるな?」


 ドンがぐっと圧をかけてくる。もちろん分かってますとも。ギャング相手にタダほど怖い物はないよ。


「私の給料から必要経費は差し引いてくれて構わないよ。お礼の方は相場が分からないから何とも言えないけど」


「そうだな。そのお前の大事な奴ってのはこのスラムの者か?」


「そうだよ」


「だったらちょっと割引いてやる。調査に費やした倍の日数ウチで働け」


 まあ妥当な所だね。むしろ調査に何人使うのか知らないけど、私一人が何日か働くだけでチャラにしてくれるなんてかなり良心的だと思う。


「働くっていっても具体的には何するの?私には人殺しとかは無理だよ?」


「ばーか、分かってるよそんな事くらい。お前のギフトや魔法を使ってちょっとした雑用をさせるだけだ。心配すんな」


 雑用かぁ。掃除とか水出したりとか邪魔な物を小さくしたり魔法で燃やしたりとかかな。まあ良いか。


「分かった。じゃあよろしくね。ちなみにあんまり長くは待てないから良い情報が得られなくても三日で調査は打ち切りでお願いします」


「ああ、急がせるさ」


「ありがとう、お願いね。じゃあ私帰るね。もう門限破っちゃってるけど急がなきゃ」


 執事さんに見送られて、いつも通り夜道を護衛に守られて駆ける。寮監に一通り叱られて反省書を提出した後、部屋に戻ってカトレアにも心配されてちょっと叱られた。


「もう!心配したじゃない。何かあったの?」


「ごめん。色々あって……それでカトレアに聞きたい事があるんだけど」


「聞きたい事?」


「カトレアはどれくらい実家の手伝いとかお医者さんになる為の勉強とかしてたの?」


 エインさんはカトレアに聞いてみろって言ってたけど、そうは言ってもカトレアも私と同じでまだ十歳だし、いくらこの国の成人が十五歳だって言ってもまだまだ幼いと言っていい年齢だから、どこまで知っているか分からない。


「そうね……跡継ぎにされてからは両親の診察の場で見学したり、本もたくさん読んだわ。でもまだまだ分からない事だらけよ」


「じゃあさ、女の人の体の事とかはもう教わった?」


「お母さんから少しずつ教わっている所よ。お産の見学も一回したわね」


「そっか……あの、言いづらいんだけど、スラムの子みたいに望まれずに産まれてくる子もいるじゃん。そういう子をどうするかは知ってる?」


 この辺の性教育とかはされてるのかね?日本じゃ普通は十歳児に教えるような事じゃ無いけどね。


「孤児院に入れるか、子どもが欲しい人に養子に出すか、捨てるかだって聞いたわ。そういえば他の方法もあるけどもう少し大きくなってから教えるって言われたわね」


「そういう感じかぁ……だったら、うん。ありがとう。もう大丈夫だよ」


「クオルフは他の方法が知りたかったのね?だったらお母さんに聞いてみる?」


「あー。いや、良いよ。確かカトレアの実家ってちょっと王都から離れた所にあるよね?急ぎだからそれじゃ間に合わないと思う」


 中絶は早ければ早い方が良いって言うし、ユリアに話を聞く限り、私もそんなに詳しいわけでは無いけどかなりギリギリだと思うんだよね。


「そう……何か他に私に出来る事があったら言ってね。クオルフは厄介事に自分から飛び込んで行きそうで心配なの」


「ふひひ、カトレアは私の事よく分かってるな〜。心配かけてごめんね」


「良いのよ。友達じゃない。落ち着いたらまたどこかへ遊びに行きましょう!」


「うん!」



  今日の収穫

ドンと執事さんは過保護で、カトレアは天使だと再認識できました、まる。




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