9 さみしい
カトレアと一緒に寮の部屋まで戻った私は、机に向かって小一時間もうんうん唸っていた。
「うーん……お母様、お久しぶりです。お元気ですか?私は元気です……うーん。なんかなぁ、どーしようっううう!」
「お母さんに出す手紙?そんなに悩まなくても素直な気持ちを書けば良いんじゃない?」
頭抱えて叫んでたらカトレアがアドバイスをくれる。素直な気持ちかー。まだ心の中グッチャグチャなんだけどな。
「……とりあえず、寂しかったし、心配だからお母様に会いたいっていうのと、私の事は心配しないでって伝えたい。」
「うんうん。良いと思うわ。その勢いで一回書いてみよう。その後で手直しを入れれば良いじゃない。」
「うん。分かった。書いてみる。」
カトレアの言う通りにまずは箇条書きで一番伝えたい事を書き連ね、そこから少しずつ他にも書き足していく。そうして出来上がり、清書した物がこれだ。
お母様へ
今まで連絡出来なくてごめんなさい。お母様がどこにいるのか分からなくて、私も新しい生活に慣れるのに精一杯で探せませんでした。今は友達もいて、助けてくれる大人もいます。おかげで学園にも通えています。
ナニーに聞いていると思いますが、そこでようやく情報を得る事が出来て、ナニーにはこの間会いました。ただ、お母様に新しい旦那さんと子どもが出来たと聞いて、私は正直ヤキモチを妬きました。ずっと、ずっと寂しくてお母様に会いたかったんです。今度時間のある時、お母様の体調が良い時に会いに行ってもいいですか?出来れば弟や妹の顔も見てみたいです。
クオルフより
うん。一気に書き上げたからちょっと拙い文章だけど、まあ良いか。気持ちか鈍らないうちにこのまま出しに行こう。お母様の再婚先の住所は図書室に行った時に控えてあるからね~。手紙を持って、てくてく歩きながら貴族街を目指す。下級貴族の屋敷がある辺りは警備は厳重なものの塀があるわけでもなく、貴族の多く通う学園の制服を着ていれば怪しまれる事なくすんなり通れる。
同じような屋敷が沢山あるからちょっとだけ迷ったけど、着いた。今回も門番に袖の下を渡して用件を告げる。すると困った事にお母様は今この王都邸にはいないと言う。出産して落ち着くまでは領地にいるのだそうだ。考えてみればそうだよね。勢いで来ちゃったけどお母様は今妊娠中なんだもん。しょうがないよ。手紙だけ預けてトボトボと寮に帰る。
「おかえり!手紙ちゃんと渡せた?」
「渡しては来たけど、お母様今王都にいないんだって。赤ちゃんがいるから一年くらいは会えないかも。」
「そっか……残念だね。せっかく勇気出して行ったのにね。」
目に見えてしゅんとして落ち込む私を励ましてカトレアがよしよしと撫でてくれる。子ども扱いだけど子どもだから良いもん。って、ホントに幼稚な感じするなぁ。前世持ちのハズなんだけどなぁ……前世の事はもうあんまり思い出さなくなってるし、生まれたばかりの頃の方がよっぽど大人びてたかも。
「さみしい……会いたいなぁ。」
「もう、可愛い顔しちゃって!……そうだ!明日甘い物でも食べに行かない?そしたらきっと元気になるわ!」
私のほっぺを挟んでちょっとだけ困ったように笑うカトレアが、閃いたというようにその顔をキラキラ笑顔に変えて提案して来た。私は突然の事に一瞬だけ思考を停止して、それから泣きそうだった顔をパアッと弾けさせて大きく頷いて見せる。
「……うん。行く、行きたい!やった!こういういかにも友達な感じのイベント初めてだよ!楽しみだなぁ……!」
私ったら超単純。あんなに落ち込んでたのに一気に気分が上昇しちゃった。やっぱり大抵の女子は甘い物には目が無いし敵わないよねぇ。
ていうか、この世界の下町で食べられるような甘い物って何があるんだろうか。貴族時代に食べてたのは繊細な味と綺麗な見た目のデザートだったし、ドンの所で貰うおやつはドンがお金持ちで権力もある事を考えると庶民には口に入らないような物だろうしなぁ。スラムでは当然甘い物なんて食べられないのが当たり前だけどね、砂糖馬鹿高いから。