6 エルー
「ココ…何か困ってる事とか必要な物とか無いか?俺はこう見えてももう働いてるから、遠慮はしなくてもいい!今まで何も出来なかった分、色々してやりたいんだ…」
「いえ…特にはありませんが?修道士さまも修道女さまもみんな優しいですし、毎日ご飯も美味しいです。」
「そう…か。それなら良かった。」
エルーは何故かココの幸せそうな笑顔とその返事を聞いて、しゅんとなってしまった。
「じゃあこれもいらないかもだけど、良かったら使って。」
とりあえずエルーの様子をココに気付かれないように、元々渡す予定だったリボンを取り出してココに差し出す。
「良いんですか?こんなに綺麗なリボン。」
「良いの良いの、貰い物だから。私は今は髪短いからどうせ使えないし。」
そうである。これ、この間あんちゃんから貰った物なのだ。ココは薄めの栗毛だから似合うだろう。
「では頂きます、ありがとうございます。」
「じゃあそろそろお暇しようか。初顔合わせは終わったし、また近い内に来ればいいでしょ?」
「あ、あぁ…」
第一、エルーがこの調子じゃあ、長居してもあんまり意味無いって言うか…ね。
「どうしたのさ?」
修道士に挨拶してから孤児院を出て、歩きながら聞く。エルーはずっと何か考え込んでいる素振りで俯きながら歩いていた。
「え?……あぁ。いや、何ていうか。ココは何不自由無く生活出来てるみたいだし、このまま孤児院で育った方が良いんじゃ無いかって思ってよ…」
「まあ、孤児院の方が物質的には不自由しなさそうだよね。大人になってからは職業選択の自由があんまり無いんだけどさ。」
「そうなのか?」
「孤児院を運営してる教会に残って修道女になるか、外で働くかっていう選択肢は一応あるみたいなんだけど、今まで俗世間から離れて生きてきた子が外で馴染めると思う?見知らぬ場所で一人暮らしして働いて、しかも孤児院育ちって目で見られるだろうし。外で働くのは勇気がいるよねー。」
「うーん……確かにな。俺が引き取ったら、どこにでもいる貧民街の子。くらいにはしてやれるか?」
王都の大多数の人間は貧民街にいるからね。裕福に越した事は無いけど、普通のごく一般的な生活が送れるならそれで十分でしょ。
ちなみにスラムの人間は住民票を持ってないからその統計にすら入ってないし、増減が激しいからギャングの長でも正確には把握して無いと思う。
「うん。生活は貧しくなるかもしれないけど、将来的な事を考えるとね。ココもちょっとずつ働いてくれれば、二人でやっていけると思うけどね。
まあそこはココにも少しずつ説明しつつ、どっちにするか選んでもらわなきゃいけないけど。」
「そうだな…とりあえず俺は住民票を貰って、ココが選べる選択肢を増やしたら良いんだな!」
「そういう事だね!がんばれ!応援するから。」
エルーが再びやる気を出してくれたのでそれで良しとしつつ、エルーと別れて寮に戻る。
「カ〜トレア!エインさんからお手紙預かって来たよ。」
部屋に戻るとカトレアもお出掛けから帰って来ていたので、飛び込み気味に近付いて、弾んだ声で懐から手紙を出す。
「クオルフ、おかえりなさい!お兄ちゃんから?」
「うん!カトレアが会いたがってるのを伝えたからその返事だと思うよ。」
「…本当だわ!お休みの日か、授業が終わった後の午後に会おうって!」
カトレアはさっそくペーパーナイフで手紙の封を開けて読み始めた。そしてすぐにパアッと明るくなって嬉しそうに報告してくれる。
「そっか。どこで会うつもりなの?午後だとエインさん仕事だから、カトレアがスラムに行かないとだけど。」
「お休みの日だったら平民街で会おうって書いてある!でもお兄ちゃんがどんな所で働いてるのか見てみたいから、午後から行こうかな。」
「分かった!じゃあ明日そう伝えておくよ。日にちも決めておいてね。」
「分かったわ。お兄ちゃんはいつでも良いって書いてあるから…明後日とかでも良いかな?急過ぎる?」
「ううん。全然大丈夫だよ。お昼の患者さんのピーク過ぎたら夕方までいつもそんなに忙しくないから。用心棒の手配も任せといて!特に腕の立つ人を選ぶから。」
診療所の用心棒を交代でしてくれてる人達から非番の人を借り受ける事は出来るのだ。もちろん別で払う報酬はエインさん持ちで。大事な大事な可愛い妹を、無防備にスラムに招き入れるわけにはいかないもんね。