リサ、支配者となる。
木造の家。リサにとっては父親と母親が死んだ場所でもある。
その家が今、金色に輝いていた。
「リサ、とにかく中へ」と、カタルバは中へ入っていく。
「・・・」<みんなはここにいて>と、リサは念話する。
(アイリス、今日は水晶で覗いてはダメよ・・・あなたが怪我をするわ。でもきっとあの馬鹿な王様はあなたに覗く事を強要する。だから水晶で覗き見を始めたら壊れるように私の力で細工しておいてあげたから)
そうやって念話を終えたリサは歩いて家の中へ入った。
紫の天使の輪が頭上に輝き、青く濁った水晶が目のある場所にはまっている。
皮膚は灰色で、紫色のローブを着ている。
左手というよりは大きなハサミが左手として機能している。
右腕には複数のナイフが肉を突き破るように飛び出している。
マモン。
強欲と貪欲の魔王が父と母の人形を人質に金色の魔法陣の中心にいた。
7つの大罪の魔王の1人だ。背は高い。背中には黒い翼が見える。
「われは強欲の魔王、マモン」と、魔王は名乗る。
「あいつが・・・あいつがロイスとミシェラを」と、カタルバはリサを見て話す。
「・・・」<名乗らないで・・・あなたにはわたしの声が聞こえているわよね>
「何だ、貴様は。何故?」と、マモンは戸惑う。
リサは考える。
ここには魔王の書があるようには見えない。リサは1歩前へ進む。
灰色の服の女の子リズの笑い声が聞こえて来る。
カタルバは意識を奪われたのか、気絶する。
「そうよ、リサ。その魔王は私が呼んだだけ。短気なあなたは消しちゃうかと思ったけど」
<リズ・・・魔王の書とは何?>
「もしも受け継いでくれるなら私の願いは叶う。でも、受け継いでくれないなら私はまた次の後継者を100年待って探さないといけない。そうねぇ・・・簡単に言うなら・・・私の願いを叶え、あなたに生きるための力を与える禁断の書よ」と、リズはリサの頭上から、天井からゆっくりと浮かんだまま降りて来ている。魔王マモンが跪いて頭を下げる。リズに対して。
<そう。よくわかったわ。わたしの答えは父さんと母さんの身体を奪おうとしている魔王を倒す事よ!リズ、あなたの後継者としてわたしは生まれて来た。それは変わらないんでしょ。そのせいで父さんと母さんは死んだんでしょう。今さら何を言っているの>と、リサは魔王マモンの胸ぐらをつかみ、顔を殴った。
「貴様、リズ様の前で大人しくしておれば・・・無礼にもほどがある。切り刻んでくれるわ」と、魔王マモンは父と母の人形を投げ捨てて、左手の大きなハサミでリサの右腕をちょん切った。
<白き光よ>と、リサは言う。切られた右腕がつながる。
<転移>と、リサは身体を虹色の光に変換させて、魔王マモンの後ろ側へ。
「わたしはねぇ。怒っているのよ!わたしは16歳で死にたくない。それにねぇ、あの馬鹿な王様を倒してわたしが女王になるの。あんたなんかに負けてらんないのよ」と、リサは身体を一瞬で再構成して、かつ、左足で回し蹴りを魔王マモンの顔面に喰らわせる。
「あははははは、お前は面白いな。リサ、お前は面白い」と、リズは高笑いする。
「貴様ーーーー」と、魔王マモンは右腕のナイフを全部射出させてリサを串刺しにする。
「痛みは遮断してるわ・・・16歳の誕生日を迎える日まで・・・まだ10ハイゼンベルク(10年)あるわ。リズの力はわたしを守ってくれている。そんな陳腐な攻撃じゃわたしを痛がらせる事だってできないんだから」と、リサは再び転移して魔王マモンの頭上へ。両手を組み、ハンマーで殴るかのように頭を叩き割る。
魔王マモンの頭が壊れた。
動きが鈍ったところでリサは魔王マモンの心臓部を貫く。手刀だ。リサの右手は魔王マモンの紫に輝く、直径1.2イリ(60センチ)はある心臓と思われるモノを赤き光で取り出して、白い光で防壁を作り、奪い返されないように施術した。
<さあ、魔王とやら・・・わたしに従いなさい。わたしの下僕となりて、わたしに力を貸しなさい>
魔王マモンの頭は再構築されて復活する。
「ぐがが・・・心臓を奪われるとは」と、魔王マモンはリサの前に跪いて頭を下げた。
<従え>そう、リサは命じる。
「認めよう・・・名前を・・・教えてくださいませ、わが支配者様。われは強欲のマモンです」
<わたしの名はリサ・ヴァリュー。よろしくマモン>
「御意」と、マモンは紫色の光となりて、リサの銀色のイブニングドレスを黒く染め上げる。
「リサ・・・これが魔王の書だ。」と、リズは床に降り立って、リサに近づき、赤い表紙に金色の文字で魔王の書と書かれた本をリサに渡した。
【最上位契約が成立しました。支配者として承認します】
<何?この声>と、リサはつぶやく。
「他に類を見ない・・・あはは。私と兄にはそんな選択肢は無かった。いや、私がお前を助ける・・・これもお前の財産なのだろう。あと6人と最上位契約を結ぶといい。リサ、お前ならできる」
それだけ言うとリズはまた消えて行った。
金色の光も収まって、家の中に桜王、紅露、アザラン、シャーレ、ドラ、カルンが家の中に入って来た。
「リサ、誰と戦っていたの?」と、シャーレが聞く。
<姿を現しなさい>と、強欲のマモンを呼び出す。
「ひぃいい」と、シャーレは尻餅をつく。
桜王、紅露はいつも通りだ。アザラン、カルンは気絶した。
ドラは大盾で身体を隠しながらリサに話しかけてくる。
「なあ、リサ。この御方は魔王でねぇのけ」と、ドラは言う。
<ええ、そうよ。私が支配者・・・だから大丈夫よ>と、リサは笑った。
カタルバはまだ気絶している。
<マモン、おじいちゃんを運んでおじいちゃんの家へ連れていってあげて>
「御意」と、魔王マモンはカタルバを担ぎ、背中の翼を羽ばたかせて運んで行った。
「ちょっとリサ。いくら何でもあれは大丈夫なの?」
<大丈夫よ、頭を潰して心臓を奪っただけだから>
「それは大丈夫って言わないべ」と、ドラは呆れて天井を見上げる。
首都ベルタではリサを映す水晶が壊れた。国王バルザーは保存庫から新しい水晶をすぐに用意させたが、それでも午後を過ぎて30マクスウェル(15時頃)になる頃にようやく見る事ができた。
「ふむ。家で大人しくしておったのか・・・赤い表紙の本などを読んでおるわ」と、国王バルザーはつまらなそうにつぶやく。
「国王様、大変です」と、近衛兵バルコーがやって来た。
「何じゃ」
「北のバシリウス帝国が停戦協定を結びたいと言って来ました」
「それはまた急な話じゃのぉ。魔王マモンを召喚し、これからじゃと活気づいておったのではなかったか」
「それが魔王マモンがいなくなったそうで」
「何じゃと」
「またリサ・ヴァリューでしょうか」と、バルコーは言う。
「あやつは今日は読書をしていたようじゃぞ」と、国王バルザーは高笑いした。
リサは1行だけ文字の書かれた魔王の書を眺めていた。いや、リサ以外の人間の目にはそのように映る。
リサは魔王マモンの所属していたバシリウス帝国の情報を読み終わったところだった。
<みんなバシリウス帝国へ行くわよ。ゾンビ退治に>
念話を聞いた大勢がリサの家に集まる。
「それで何を準備すれば?」と、シャーレは呼吸を整えてから言う。
「ええっと温かいお茶でも用意して待っていて。バシリウスへ行くわ」と、リサは話した。
「何じゃと」と、これには国王バルザーも水晶を見ながら驚く。
「国王様、やはり」と、バルコーはつぶやく。
「急ぎの馬を出せ。急ぎ、バシリウスと停戦協定を結ぶのじゃ。」と、国王バルザーもまたバルコーと近衛部隊を引き連れてバシリウス帝国へ赴いたのであった。