リサ、涙を拭いて決断する
リサはすすり泣いている。
<1歩も動けない。その上、信仰者たちも使用できない。宝石を手に入れても痛みを消せないなら拷問と一緒・・・わたし、どうすればいいの?>
目をこすらないように歩いている。決して国王には泣いていると悟らせたくない。
シャーレが近寄って来る。
「リサ、ほら見て。さあ、こっちの試着室に来なさい」と、シャーレは強引にリサの手を引っ張って連れて行く。リサは戸惑いながらも後をついて行く。試着室に入ると抱きしめられた。
「泣いていいのよ、泣きなさい」と、シャーレは抱きしめる力を強める。
「うぐぅあぐぅううう」と、リサは泣き出す。
シャーレはリサの背中をさする。
「リサ、踊るのじゃ。こういう時はの」と、リズは言う。リサにしか見えない灰色の服を着た女の子、リズは今、鏡の中にいた。
<またあなた・・・あなたは何なの?あなたの正体を教えて>
「開かない扉の遺跡で眠る赤き聖女、魔王・・・そのどちらでもある。のぉ、リサ。誕生日の日、そなたが受け取れ無いのは私の力だけじゃ。そなたが私と同じ力を手にいれるなら、そなたは力を使用できる」
「え?また例のあの人なのね、リサ」と、シャーレは言う。鏡を睨んでいるリサを見る。
<ええ、そうなの。少しみんな聞いていてくれる。わたしの独り言・・・で、どういう事?あなたと同じ力?>
「そうじゃ。7つの大罪と契約せよ」
<本気で言っているの?>
「それしか他にそなたの生きる道は無い。涙を拭いて決断せよ」
リサは立ち上がる。右腕で涙を拭いて、クチビルをかみしめて立ち上がる。
<7つの大罪とは何?悪魔?それとも魔王?>
「そう急くな、リサ。私が本を渡せば旅は始まる・・・受け取るか、受け取らないか、リサはそれだけ決めればよい」と、リズは言う。
<はぐらかすのね・・・受け取るわ、それしかないのでしょう>
「わかった・・・そなたの家の方へ用意しておこう。家に帰ってから見るがよかろう」
それだけ言うとリズは鏡の中から消えた。
「ありがとう、シャーレ」と、リサはシャーレを見る。シャーレが泣いていた。
「?どうしたのシャーレ」と、リサは聞く。
「7つの大罪・・・7つの魔王と戦うというの?」と、シャーレは言う。
「そう、魔王の事だったのね」と、リサはつぶやく。
「リサ!やめるだ」と、ドラが試着室の外から叫んで来る。
「私からもやめる事を忠告する」と、アザランの声も聞こえる。
「オレはよく分からない」と、カルンの声も聞こえる。
「・・・」紅露は無言でドレスを見ている。
「何?みんな知っているの?」
「知っているも何もそれは人間の道ではねえだ。リサは読んだ事ないのけ、最初の人の悲しい物語を」と、ドラは言う。
「無いわ・・・」と、リサは答える。
「ドラ、この子はまだ6歳。あの書物を知っている方がどうかしているわ」
「そだどもシャーレ」と、ドラは口ごもる。
「リサ、とりあえずここから出ましょ。試着室から」と、シャーレはリサの頭を撫でる。
「うん、いいわ」と、リサは試着室から出た。すると店長らしき女性がやって来る。
「当店は宝石だけで無く、ドレスも一緒に販売しております。どうです?見ていかれますか」と、店長は聞いてくる。
「いいえ、いいわ。それよりも国王様から手紙は来ていないかしら」と、リサは聞く。
「え?どうしてそれを。はい、早馬で伝令の騎士が来ましたわ。手紙は今日の夕方に届くそうですけど」と、店長は顎に手を当てて答える。
「わたしが依頼したからよ」と、リサは答える。
「え?あなたが?あなたがリサ・ヴァリューだと言うの」と、店長は驚く。
「そうよ、まだ6歳だけど国王様と取引をしたリサ・ヴァリューです。どうぞ覚えていてください」
「ええ、ええ。覚えておきますわ。全品お買い上げ、ありがとうございました。またごひいき下さいね」と、店長はにっこり笑う。
「ところで店長さんは”最初の人の物語”というのをご存知ですか」と、リサは聞く。
「ええ、知っていますよ。赤き聖女にして赤き魔王の物語でしょう。破壊と再生の泣ける話ですわ」
「そう・・・破壊と再生・・・」と、リサはつぶやく。
シャーレが慌てて抱きかかえに来る。
「すみません、うちの子が」と、シャーレは言う。
「あら?あなたが母親?」
「いえ、違うんです。この子はうちらが預かっているというか、仲間というか」と、シャーレは説明してからドラとアザラン、カルンを見る。
「そうなんです。この子とは変な事から知り合ってしまって」と、アザランもフォローする。
「あら、ギルドマスターじゃありませんか。あなたが言うなら間違いないですわ」と、店長は頷く。
「それじゃあ、わたしはこれで。あーそれと、この紙の住所に『世界蛇』を届けておいて」と、リサは紙を店長に渡した。
「はーい、わかりましたわ。あなたの瞳と同じブルーサファイアの宝石、たしかにお届けしますわ」と、店長はにっこり笑い、蛇の形をしたブルーサファイアを持って、店の奥へ消えて行った。
「それじゃあ、行こうよ、シャーレ、ドラ、カルン、アザラン、紅露」と、リサは言う。
リサたちは宝石店を出る。リサは術者アイリスに自分の後ろ姿だけ見せるように言う。それから泣き声は消す事ができるか聞いた。(できません、赤き聖女様)<そう、いいわ。聞かせてあげて、趣味の悪い国王様に。きっとお悦びになるわ>
「ちょっとリサ。今度は誰?見えない誰かじゃないよね」と、シャーレは言う。
<うん。国王様直属の宮廷魔術師アイリスに連絡を取っていたの>と、リサは何事も無く念話してくる。
「え、それってアイリスちゃんにも聞こえているわけ」
<大丈夫、今はあなたたち5人にしか聞こえていないわ>
「どうして?」
<わたしが思い浮かべた対象とだけ念話はできるようになっているの。ただ半径2イリ(1m)以内にいるシャーレのように思い浮かべた相手以外にも聞こえてしまうのが念話の弱点でもあるけどね>と、リサは笑った。
「そうなのね・・・ねえ、リサ」と、シャーレはリサを見る。
「あんなぁ、リサ」とドラも近寄って来る。
「リサ、その道は鬼にいたる事よりも残酷で険しい道」と、紅露は語り出す。紅露は一旦目を閉じてからリサを見つめて話しだした。
「最初の人は兄を生き返らせるために耐えて契約を成し遂げたでありんす・・・だが、リサ。お前さんには何があるでありんすかぇ?」
<わたし?わたしは16歳で殺されるのが嫌なだけよ>
「それもそうでありんす・・・悪かったでありんすぇ・・・」と、紅露は納得する。
「運命に抗う?いや、これがリサには開かれた道なのかしら」と、シャーレは首をかしげる。
ドラも「たしかにそげはいやだ」と、納得していた。
リサは空間と空間をつなげる。リサの移動魔術によって、リサたちはパルナーラ村に帰った。
カタルバが息を切らして走って来る。カタルバの目も赤く光っている。
「大変なんじゃ、リサ。開くことの無い遺跡から金色の光が!リサの家に、リサの家に」と、まくしたてる
「大丈夫、予定どおりだから」と、リサは答え、祖父の後をついて行く。紅露、アザラン、シャーレ、ドラ、カルンも後に続く。桜王はすでにいるらしい。<急ぐわよ>と、リサは駆けだした。