リサ、取引をする。
国王バルザーは寝室にパジャマ姿のまま近衛兵バルコーを呼んでいた。
「なあ、バルコー」
「何でしょうか、国王様」
「今年は宮廷魔術師が何故こんなにも多いのじゃ」
「赤く光る目をした魔術師たちの事ですか?」
「そうじゃ。赤く光る目は十年に1度現れるという希少な魔術師じゃ。それが我が国の売りであり、他国に傭兵として派遣できる無敵の兵士であり、財産じゃ。それが今年は10人もおる。これは何かオカシイじゃろ」と、バルザーは髭を触りながら首をかしげる。
「赤き聖女のせいでしょう」
「誰じゃ?赤き聖女じゃと」
「リサ・ヴァリューです。王様」
「ななな、何じゃと。災害をもたらす、あのガキの事か」
「ええ。リサ・ヴァリューの信仰者たちです。何でもリサ・ヴァリューに信仰と命を捧げると赤く光る目となって帰って来るとウワサにまでなっています。それと、これは推測なのですが・・・開く事の無い遺跡に眠っているのもまた赤き聖女なのではないですか・・・その力をわが王国は独占し、傭兵を派遣する事で莫大な利益を手にして来た。違いますか?」
「・・・なるほどのぉ。遺跡の化物を逃せばワシの国は貴重な財源を失うわけか。それならますます殺してやらねばのぉ」
「王家の言い伝え、もう1度見せてもらってもいいでしょうか。」
「ああ、構わん」
国王バルザーは枕元の小さい3段式の茶色のタンスの1番下を開けて、金の鍵を取り出す。
金の鍵をベッドの下当たりにある鍵穴へ差し込み、開いた。
古びて黄ばんだ紙を取り出して、バルコーに渡す。
バルコーはそれを両手で受け取る。
バルコーは文章を眺めてから
「これによりますと彼女の誕生日は開く事の無いの遺跡の魔王か、聖女の力が消える日となっています。つまり、リサ・ヴァリューはその日、動く事すらできない。自分の信仰者を操る事もできない。魔物たちも動けない。策は簡単です。リサ・ヴァリューの16歳の誕生日の前日、どこにいるか把握しておればいいだけです。それでこちらは事足りるでしょう」
「はっはっは。そうか、そうか。それなら毎日確認しておる。ぬかりは無いという事じゃ」
そう言ってバルコーを下がらせてから国王は召使いたちを呼び、着替える。
威厳ある国王の姿を纏って。
それから玉座の間に行って、術者アイリスに頼み、水晶にリサ・ヴァリューの姿を映し出した。
「ふむ」と、国王バルザー玉座に座って、眺める。首都ベルタのいつも変わらない風景の中にリサ・ヴァリューがいる。
茶髪で三つ編みにしていて、親譲りの青い瞳。小顔で遠くから見れば気品のあるお嬢さんにも見える。
何よりも銀のイブニングドレスを着こなしている。ただ建物の影に入ると瞳は赤く光った。
身長は2イリよりも低い。(90センチ)
まだ6歳の子どもだ。
今は第8の月、ギブリ・コマンチ 16日の朝、首都ベルタにギルマス、アザランたちと一緒にリサは1番高い宝石店、ティアラ・リクサスに到着していた。
そこで他の4人は中へ入って行くのに、リサだけが後ろを振り返って、水晶の向こう側にいる国王バルザーを見つめるように話し出す。
「国王様、ゲームをしましょう」と、リサは言う。
「な、何じゃ?まさかワシが見ているのが分かっておるとでも・・・」と、国王バルザーは驚く。
「ええ、ゲームをしましょう。国王様の声はわたしに聞こえているから」
「ふ・・いや、どうやって聞こえているかは聞きとうない。つまり、信仰者を通してという奴じゃな」
「ええ、そんなところ。それでゲームをしてくださるの?」
「ふん。子どものたわ言など・・・まあ、言うてみい」と、国王バルザーは言う。
「1ジュールコインの裏と表を当てる、単純なゲーム。賭けるモノはわたしの心臓。国王様は宝石店をわたしに買って、それと王家の言い伝えに書いてある、誕生日の力が消える部分をわたしに話す事。どう、やってみない」と、リサはいい笑顔で笑う。
「・・・ほう。心臓をよこすとな。それが手に入るならお主を誕生日の日に、わざわざ殺しに行かなくてすむのぉ」と、国王バルザーは邪な笑い顔になる。
「初代国王の顔なら裏、聳え立つベルタ城なら表。それで受けてくれるの?」
「もちろんじゃ。こちらに有利過ぎる条件じゃな。そっちこそ止めたなどと言わんでくれよ」
「ええ、止めない。国王様、わたしは表に賭けるわ。投げるのは公平を期して、ほら、今やって来る、あの貴婦人のおば様でいいかしら」と、リサは高価な帽子を被ったおば様のところへ走っていく。
「ああ、構わん。好きにせい」と、国王バルザーは言う。
確立は2分の1じゃ。それにワシはこの国でいちばん運のよい人間じゃぞ。それが生まれた時から不幸の中にいるお主などにワシが負けるわけが無いわい。
高価な帽子を被ったおば様は少し戸惑いながらもリサの遊びに付き合ってくれた。
コインは投げられた。
高く上に上がっていく。クルクルと回転して上へ上がって・・・重力に従って落ちて行く。
地面に1度落ちて、跳ねて、また落ちて転がって行く。
通行人の1人がそれを拾おうと近寄る。「あ、それわたしのなの」と、リサは声をかけて近づく。
「ねえ、裏と表どっち?」と、リサは通行人に聞く。
「ベルタ城は表かい?」と、通行人は聞き返す。
「ええ、表だわ」と、リサは言う。
水晶の向こう側で国王バルザーは吠える。「待て。リサよ、そなたの目でたしかめよ」
「一緒だと思うけど」と、リサはコインに近づいて裏と表が入れ替わらないように手の平に載せた。
「ほら、見えるでしょ」
「・・・たしかに・・・じゃがこれは口約束じゃ。無効じゃな」と、国王バルザーは目をつぶり、玉座を立ち上がって立ち去ろうとする。
赤く光る目の術者たち、つまり宮廷魔術師たちが国王バルザーの前に立ち塞がる。
「貴様ら、ええい。バルコー、こ奴らを・・・あ、いや。」と、国王バルザーは慌てる。無敵の兵士と言ったのは自分だった事を思いだす。
「・・・わかった・・・戻る。戻るからワシを解放してくれ」
国王バルザーはしぶしぶ玉座に座った。
「国王様、それじゃあこの宝石店お買い上げありがとうございます。それから誕生日の日、わたしに起こる事を教えてください」と、リサはとてもいい笑顔をする。
「・・・わかった。宝石店にはこの便せんを届けて、今日の品はお主が持ち主となるよう手配しよう。・・・誕生日の日に起こる事を知ってどうする?お主も知っておるのじゃろ。そのお主の万能の力が全て消える日じゃと言う事を」と、国王は言う。
「うん。ありがとう・・・すべて・・・それで十分わかったわ」と、リサはいい笑顔をしてから頭を下げてから店の中へ入って行く。リサの頬には塩辛い水が流れ落ちる。
後ろ姿だけが国王バルザーには見えている。
「ふん。見られている事に気づかれていたとはのぉ。まあよい。あやつに打つ手など何も無いわ。今日は気分が悪い。ワシは寝る。今日の分は記録として残して置いてくれ。水晶代なら余分に払う。それでいいじゃろ」と、国王バルザーは玉座を離れて寝室へ帰っていった。