リサ、友達を作る
4人は駆け足で急いでいた。そんな4人の前に赤く光る目をした白い頭巾を被った女性が現れる。
「あの、私たち急いでいるのですが」と、アザランは話す。
「リサに呼ばれたのじゃろ」と、白い頭巾を被った女性は話す。
「え?どういうご関係で」と、アザランは聞き返す。
「わたしゃ、リサの祖母に当たる者でのぉ。メフェールという」と、メフェールは話す。
「おばあ様?」と、アザランは口を大きく開けて間抜けな顔をしてしまう。
「あやつの友達になってほしいのじゃ。生きている人間としてな・・・友達。それがキーワードじゃ、忘れるでないぞ」と、メフェールは言うと4人の前から去って行った。
「何あれ?」と、シャーレは言う。
「友達って言われてもな」と、アザランは上を見上げて、腕を組む。
「そうですよ、あれだけ脅してくれた相手を友達だなんて・・・」と、カルンは目をつぶって頷いている。
「オデ、なんとなくわかる。本当は友達が欲しい。でも、強がって虚勢を張っていないと自分のプライドがズタズタになる・・・カルンに会うまでのオデ、そうだった」と、ドラは下を向いて話してくれた。
「・・・」アザラン、シャーレ、カルンは黙り込んでしまった。
「たしかに脅された。でも・・・なんだ。オデたちがリサの最初の友達になれるんでねぇかな」と、ドラは3人の顔を見ながら話す。
「・・・わかったよ、ドラ。オレは協力する」と、カルンは言う。
「仕方ないわね、今回だけよ」と、シャーレはドラの肩を叩き、北へ歩き出した。
「ドラ、お前を信じて任せる」と、アザランはドラの両手を握った。
ドラとアザランとカルンは肩を組み合って、何やら掛け声をかけている。
いや、歌っている。
「バカね、男って」と、シャーレは後ろを振り返り、そうつぶやいた。
石畳の道を北へ進む。町中を歩く人の中にはちらほらと赤く光る目の人間が歩いている。
それも景色の1つと思えばと、シャーレは思う事にした。それにウワサ話をしただけで脅して来た相手が今は沈黙を守っている。それは案外、ドラの言った事は図星なのかもしれないとシャーレは思うのであった。
パルナーラ村を出て、北へ400イリ(200m)行くと魔物の森と呼ばれる場所がある。
その場所から魔物が大量発生する前にパルナーラ村の住民は観光客が落としていったお金を使用して2ヶ月に1度は定期依頼をハンターギルドに依頼していた。
それがここ半年、停止している。
停止した理由はリサ・ヴァリューだった。リサは今日も森の切り株の上で座って、木製の横笛を奏でる。
茶髪で三つ編みにしている。瞳は青い。父と母と一緒だ。服は誰かからプレゼントしてもらったのか銀のイブニングドレスを着ている。雲が瞳を隠す。瞳は赤く光った。
リサの周囲にはドラの言っていた鬼が2人だけリサを囲むように座って聴いている。2人とも和服と呼ばれる東の国の服を着ている。背格好は中肉中背と言ったところで人に近い。
顔立ちも人に近い。魔物は人に近い姿をするほど強いと言われているが・・・例外無く2人も強い。
鬼の男の方は頭に2本の角があり、髪の色は桜色をしている。目は2人とも金色だ。
鬼の女の方は頭に1本の角があり、髪の色は紅色をしている。
「いつ聴いてもいい音色だ」と、男の鬼、桜王は言う。
「そうでありんすなぁ」と、女の鬼、紅露は目を閉じたまま同意する。
命を捧げる観光客たちは今日はいなかった。いや、リサに追い返された。明日来てほしいと。
祖母の言っていた友達という言葉。
それは目の前の2人のようにわたしの傍にいてくれる事だろうか。
ドラ、あの男の言い分には腹も立ったが・・・そうかもしれない。と、思ってしまうところもあった。
もうすぐやって来る。リサは今はただ目をつぶり曲を奏でた。
吟遊詩人から教わった曲で、春を知らせる曲だそうだ。
4人の足音は聞こえない。わたしの感知力なら聞き逃すはずは無い。
もしかして逃げた?わたしの目、手、足よ・・・教えて。
20イリ(10m)?
どうしてそんなに近くにいるの?
あ・・・沈黙。シャーレさん、音を消す魔術を使用してくれたんだ。わたしの演奏を邪魔しないため?
ちょっと嬉しいかな。
「来客のようだが・・・」と、桜王は後ろを振り返る。
「殺すでありんすか?」と、紅露は立ち上がる。
<ダメ・・・殺さないで。お話がしたいの>
「で、ありんすか」と、紅露は座り直す。桜王は目をつぶり、前を向く。
「オデたちやってきた。リサやー。オデと、いや、オデたちと友達にならねぇか」と、ドラは言った。
リサ・ヴァリューは演奏をやめない。
<本気で言っているの?>
「もちろん、本気だべ。孤独の辛さはオラも知ってるだべ・・・あれは嫌だべ」
<16歳の誕生日・・・セラ・スペイドの32日目(15の月に分かれている11番目の月)、わたしの万能なる力は消える。その日、1日・・・わたしの力は消えるの・・・わたしはそこを襲撃されたら殺されるわ。わたしの友達になるという事はあなたたちが軍隊からわたしを守ってくれるの?>
「わがった、オラ戦う」と、ドラは怯えた表情で答えた。
<死ぬかもしれないのよ>と、リサは言う。
「守るのがオラの仕事だ」と、ドラはリサを見つめる。リサはまだ目をつぶったまま演奏している。
「王国からリサを守る?」と、シャーレは言う。
「守れるのか、オレたちで」と、カルンはアザランを見る。
「守れるさ。リサに近づく奴らだけを退治すればいい」と、アザランは答える。
「もっと簡単な方法がある。」と、桜王は言う。
「あるでありんすよ、リサ」と、紅露も言う。
<どんな方法?>と、リサは聞く。
「われが魂分けをしているのと同じ事をリサもすればいい。われは黒い簪に自らの魂をこめている。黒い簪が壊れない限り、われは不死であり、不老だ。」と、桜王は言う。
「あちしは赤い簪でありんす。今はあちしも桜王もリサに預けているでありんす。お主たちはどうするでありんすえ。そのまま軍隊と戦えば不死でもない限り、確実に死ぬでありんすよ」と、紅露は後ろを振り返り、4人を見た。
「それはリサに命を預けろと言うことか・・・いいな、預けよう」と、アザランは答える。
「オデも預ける」と、ドラも言う。
「オレはちょっと考えさせてくれ」と、カルンは言う。
「私はもうちょっと聞きたい。死霊術とは違うの?私の意志はある?五感はそのまま?」と、シャーレはもじもじしながら聞く。
<魂を抜いて、別の物質の魂を入れるのが死霊術・・・わたしのは魂をわたしが預かり、肉体に不老と不死を与えるモノ。ただわたしが命じた時はわたしの目と耳と足になってもらうけど>
「わかったわ、それなら私も預ける」と、シャーレはリサを見る。
「オレはあんたと戦ってみたい。リサ・ヴァリュー剣を持っているか、勝負してもらえないだろうか。あんたが勝つならオレはあんたの剣士になるよ」と、カルンはリサに剣を突きつける。