リサ、ネクロマンサーと呼ばれる
リサ・ヴァリューにかけられた懸賞金は1億ジュール、それだけあれば10年は遊んで暮らせる金額だ。ギルドマスター、アザランはその大元を見極めようと派遣部隊を編成した。部隊の長は自分が勤め、仲の良いCランクのハンターを3人引き連れて首都ベルタからパルナーラ村に赴いたのだった。
パルナーラ村はかつてのにぎわいどころか、以前よりもさらに観光客がにぎわう場所となっていた。パルナーラ村付近まで馬車に乗って来た4人は馬車から降りて、パルナーラ村まであと300イリ(約150mの事)を歩く事にした。
「アザラン・・・いや、ギルマス。リサ・ヴァリューに会ってそれからどうするつもりなの?」と、金髪で三角帽子を被った魔道士らしき女性、シャーレはアザランの横に並び、聞いた。
「危険人物なら・・・いや、ウワサに踊らされるわけにはいかない。国王は国に災いをもたらす悪しき存在としている。だが、観光客は素直だ。彼女を何と呼んでいるか知っているか?」と、アザランはシャーレに質問する。
「あら。知ってるわよ、聖女様でしょ」と、シャーレは言う。
「あら、あなたたちも聖女様に会いに行かれるの?」と、金髪で赤く光る目をした女性が聞いて来る。
「え?赤い?」と、シャーレは驚く。
「ええ、これは聖女様に命を捧げたの」と、金髪で赤く光る目をした女性は答える。
「そ、そう」と、シャーレは答える。
「たくさん並んでいるから急いだ方がいいわよ」と、金髪で赤く光る目をした女性は去って行く。
「シャーレ、どう思う?パルナーラ村から帰って来た人間は赤く光る目をして帰って来ると聞く。病弱な女性が突然元気になって仕事を始めたり、よく怪我をしていた男性が全く怪我をしなくなったり・・・リサ・ヴァリューが聖女と呼ばれる由来だ。だが、何かおかしい。私は少なくともそう思う。シャーレの意見とお前らの意見も聞きたいな」と、アザランは言う。
「・・・あれは魔力・・・いえ、魔素。魔素が身体を満たして・・・つまりそれは」と、シャーレは口ごもる。口を押えて首を横に振る。
「オレも聖女のウワサは聞いた事ありましたけどおかしいって思ったのは今回が初めてです。目、赤く光るんですね」と、茶髪で剣士、カルンは答える。
「オデはよくわからない」と、大盾を持つ重装備の兵士、ドラは首をかしげる。
「シャーレ、言いにくい内容なのか?それは禁忌に関わる事なのか?」と、アザランは聞く。
「死霊術・・・でもありえない。6歳の子が死霊術なんてありえない。それも腐敗臭を消しているなんてもっとありえない。っていうかさっきの人には意思を感じる事ができた・・・操り人形じゃない。どうなっているの?」と、シャーレは頭を押さえる。
「おい、どういうことだ?わかるように説明してくれ」と、アザランは言う。
「魔素によって魂を操り、人形として使役する邪なる魔術です。それが死霊術の定義です。でも、さっきの子は自分の意思で動いていました。それに自分が死んだ事さえ理解していなかった。訳が分からないわ」と、シャーレは空を見上げて叫ぶ。
「・・・そうか。魔術師である君を連れて来てよかったよ。あれは人形にもなりえる。そういう事だな。方法は分からないが・・・本人の意思も残っていると。とりあえず聖女じゃなくてネクロマンサーであることは確定したな」と、アザランは顎をさわりながら答える。
「あの、アザラン。やっぱり止めません。もう帰りたいです」と、シャーレは立ち止まる。
「オレも怖くなってきた」と、カルンも立ち止まる。
「オデは会ってみたい。何でも変わった服を着た鬼を連れているって聞くからなぁ。オデはその鬼と戦ってみたい」と、ドラは言う。
「調査が目的だ。戦いは今度にとっておいてくれ。それに国王の報告が本当だとするとリサ・ヴァリューにはどんな攻撃も効かない。近衛兵は赤子であったリサ・ヴァリューに攻撃して武器破壊の後、死んだからな」と、アザランは言う。
「ねえ、やっぱりかえ・・・」と、シャーレは言葉を言い終える前に口の動きを止めてしまった。
<逃げても追いかけてあげる>
「・・・シャーレ、冗談でもそういう事を言うのはやめろよ」と、カルンは苦笑いする。
「オデ思う。あれはシャーレじゃない。」と、ドラは言う。
「わかってるよ、そんな事は!怖いんだよ、バカやろう」と、カルンは叫んだ。
「・・・」シャーレは無言のまま止まっている。
「われわれの行動はリサ・ヴァリューに筒抜け?」と、アザランは周囲を見る。
よく目を凝らせばわかる事だった。
行きかうほとんどの人が、赤く光る目をしている。それはリサ・ヴァリューの人形である証。
<わたしは人形のいるところならどこにでも転移できる。どんな話でも聞ける。人形はわたしの目、わたしの耳、わたしの足・・・あなたたちが来ることは首都ベルタからずっと一緒。そうずっと一緒>
「・・・」シャーレは泣いている。震えている。青ざめて両手で自分の身体を抱きしめている。今は夏だ。寒いわけでもないのに寒そうにガタガタと震えている。
「ど・・・どうすれば」と、カルンはアザランを見る。
「オデたちは・・・」と、ドラもアザランを見る。
「調査は続ける。怖いのもわかる・・・おそらくもう・・・私たちは人間としては死を迎えるだろう。それは覚悟して前へ進めるわけないか。だが、逃げれば、もっと過酷で残酷な事をされると思わないか?不幸中の幸いという言葉があるだろう。前へ進もう」と、アザランは締めくくる。
<それが正解。選択肢など最初から無い。あなたたちは任務遂行するしかない。ちゃんと首都ベルタへ帰してあげる。報告書を書いてもらいたいから>
「ワタシ、まだ死にたくない!ワタシまだアザランに告白してないの!人間として生きたまま好きだって言いたいの!こんなところで死ぬなんて嫌!死人になんてなりたくない。助けて」と、シャーレは叫んだ。
「お前、何気にすごい事を言っているぞ」と、アザランは少し顔が赤い。
「オデも驚いた」と、ドラは頷いている。
「はは、いい告白だったよ、シャーレ」と、カルンはシャーレの肩をたたく。
<北の森にいるから・・・早く来てね>
「助けて・・・くれるのかなぁ。ねえ、スルーされたけどそう思う?」と、シャーレはアザランを見る。
「そのためにも早く行った方がよくないか。お嬢様の気が変わらないうちにな」と、アザランは少し早足で歩き出す。顔はやはり少し赤い。
「オデもそうする。」と、ドラは駆け足で走り出す。
「おい、待てよ。ドラ、待てったら」と、カルンは慌てて追いかける。
「もう」と、シャーレも2人の後を追った。「やれやれ」と、アザランも追いかけた。