リサ、1人で出歩く
リサは戦いを終えて、ペンタゴラール国へ帰って来ていた。今いる場所はいつもの休息所だ。
開かない扉の遺跡から南へ進んだところにある森の広場にリサは来ていた。
久方ぶりにリサは何の護衛も付けずに、この遊び場へ来ていた。
次の暗殺者がすでに雇われていると聞いているにも関わらず。
目の前にあるブナの木、足元に転がる小石。
木は物を言わない。
それをいい事に心が無いとののしる者もいる。
だがどうだろう。
眺めていれば、心は落ち着き、癒される。
足元に転がる小石にしても・・・わたしが念を込めるならば・・・
わたしを守る小石となりうる。
小石も、ブナの木も神が宿っている。
神性がそこにはある。
なぜなら存在しているから。そう、リサは考えて、また眺めた。
それから念の為に、「念」を小石に込めた。
誰かが近づいている。とても敵とは思えない懐かしき気配ですらある。
だがきっと暗殺者だろう。
そうリサは覚悟を決めて、目をつぶった。
「どういうつもりリサ・ヴァリュー・・・わたし相手だと目をつぶっていても勝てるというの」
茶髪で肩まであるストレート。瞳は青い。服は黒のイブニングドレスを着ている。雲が瞳を隠す時、瞳は赤く光った。リサにとても似たレーベなる16歳の少女はリサに歩み寄る。
「懐かしい気配・・・血縁者?」と、リサはつぶやく。
「?何を言っている?血縁者だと。お前とわたしが?暗殺者だと思ってなめているのか」と、レーベは叫び、リサの胸ぐらをつかむ。
「わたしに子どもはいない。わたしはまだ6歳。わたしよりも年上の子どもがいるわけない。」と、リサは目を開けてレーベを見た。
「!お前の子ども?バカも休みやすみに言え・・・。だが、たしかに似ている。雲に隠れた時、赤く光るところまで。お前はわたしの妹なのか?いや、しかし・・・そんな記憶は。」と、レーベは考え込む。
「わたしが生まれた日、父と母は死んだ。間違い無く、わたしが長女で終わりだ。姉妹などでは無い。だからわたしは子どもの可能性を考えた。」と、リサは語る。
「さっき自分で言っていたではないか、6歳だと!わたしは16歳だぞ。わたしよりも幼い母がいてたまるものか!白き輝き、虹の魔法陣で滅してくれる」と、レーベはリサを突き放し、リサは地面に尻餅をつく。
レーベの左手が上がると同時に無数の魔法陣、虹色の魔法陣が展開して、起動されていく。
リサは地面を右手で叩くと同じ数の虹の魔法陣を展開していく。
「ば・バカな!使えるだと!」と、レーベは後ずさる。虹の魔法陣を消してリサを睨む。
「・・・1つ言える事は・・・血縁者。またはわたしとリズのような関係かもしれない」と、リサはつぶやき、リサも魔法陣を消した。
「わたしはお前なんて知らない。知らないんだからな」と、レーベは叫び、強制転移を発動して消えて行った。リサはそれをただ眺めた。
「何か調べる方法は無いものかな・・・リズ。」と、リサはつぶやく。
<相手に身体を攻撃させて見ればよい。相手の身体が透明化されるなら、それはそなたの血縁者で間違いない。リサ、未来から来たとは考えられないか>
「未来・・・どうして未来から・・・世界が滅びてしまう危機でも訪れたのかしら」
<それはあの者に聞くしかないじゃろうな>
「それはそうね。ちなみにもしも透明化されなかったら・・・わたしが、力を譲った者という事になるわね」と、リサはつぶやく。
<そうだな。その2択になるだろう>
リサは青い空を眺めた。所々に雲が流れている。
不死の魔導兵士を倒せると聞いて・・・何となく血縁者か、わたしと関係のある者だと思っていたけど・・・1人で来て正解だったわ。
今度の暗殺者はくつろげる。それも暗殺を家業にしていた人間でないし、鬼でも無い。
うふふ、たまにはそういう事も無いとね。
リサは寝ころんだ。大の字に足を開き、草と花の香りに身を任せて眠りについた。
レーベはリサの祖父母家の屋根で寝そべっていた。
あんな奴は知らない。
知らないはず・・・。
懐かしい匂いはした。とても落ち着く・・・不思議な匂い。
違う、違う。
あいつは倒すべき敵。
お金だってもらった・・・そしてわたしの記憶を知っているかもしれない奴。
分からない。
「リサや、何を寝そべっているんだい。はしたない・・・おや?見ないうちに背が伸びたねぇ。ほら、大好きなカボチャスープを作ってやったから降りてきな」と、祖母メフェールは言う。
「?違う。わたしはレーベだ」と、レーベは言い返す。
「何をバカな事を言っているんだい。どう見たってリサじゃないか。早く降りてきな」
うう。カボチャスープは大好きだ。どうしてわたしの好きなモノを知っている。
「分かった、降りる。」と、レーベは屋根から飛び降りる。
ジャンプすると同時に複数の魔法陣は展開し、起動されていく。
レーベはふわふわとゆっくりと降りると、メフェールに案内されて家の中へ入った。
10歩も歩かないうちに茶色のテーブルと椅子が見えて来る。
レーベは座り、入れられたカボチャスープをスプーンで飲み始めた。
「おや?今日は三つ編みしてないねぇ」と、メフェールは言う。
「それは母様と区別するために、わたしはストレートにしているの」と、レーベは何気無く答える。
「母様?ああ、そうなのかい・・・不憫な子だねぇ」と、メフェールは目尻を押さえて泣き出す。
「え?母様は・・・あれ・・・そう言えば母様の名前って。」と、レーベは天井を見上げる。
「ミシェラ・ヴァリューじゃよ。おやおや、忘れたのかい。何だかんだとまだまだ6歳だねぇ」と、メフェールは涙を拭いて笑う。
「えっと。それは・・・」と、レーベはスプーンを止める。
ミシェラはわたしの祖母の名前のはず・・・。という事はこの人は。
え、じゃあ、リサ・ヴァリューって、わたしの・・・。
ええええ。母様だと言うの。年齢が合わないけど?
わたしは別の時間軸から来たとでも?
あれ、そうだとしたらわたしはどうして過去へ来たの?
何か未来で大変な事があったのかしら。ああ、そこいちばん大切でしょ。
「ほらほら、冷めてしまうよ。考え事をしないで早く飲みな」と、メフェールは言う。
「はーい」と、レーベは答えて、カボチャスープを再び飲み始めた。
えっと。わたしはレーベ。レーベというのは母様がわたしを呼ぶあだ名で・・・本名じゃない。
レーベ。
あだ名だから・・・記憶が消えてしまったのだわ。
レーベ・ヴァリューじゃない。
何だったかしら、わたしの本名。
「おばあ様、ただいま」と、リサは玄関で叫ぶ。
「え?今、リサの声がしたけど・・・。じゃあ、お前さんは?」と、メフェールは初めてレーベをまじまじと見つめる。
「あ、あの。失礼します・・・」と、レーベはまた強制転移によって消えた。
リサが入って来る。
「リサ、今までお前さんにそっくりな子が・・・そう言えば背丈は高かったねぇ」と、メフェールは思い出しながら言う。
「メフェールおばあ様・・・たぶんですけど・・・未来から来たわたしの子どもです」
「・・・それを信じろと言うのかい」
「はい、それをこれから確認して来ますから」
「そうかい。まあ、リサのやる事にいちいち驚いていたら、あんたのばあちゃんは務まらないよ」と、メフェールは笑った。リサは森で強制転移で逃げられる瞬間に、レーベの服に「念」を込めた小石を張りつかせていた。
どこへ逃げても追いついてあげるわ




