リサ、お腹がすく。
第2話です
「カタルバさん、大変だ!ロイスがミシェラが・・・」と、村人バイルは叫ぶ。
「?どうした・・・ロイスとミシェラでも生き返ったとでも言うのか」と、カタルバは聞く。
「そのまさかだよ」と、バイルは答える。
「え?生き返った?バカな!たしかに死んでおったぞ」と、カタルバはリサを抱いたままなので、ただ顔を近づけて睨みつけた。
「いいから来てくれ。来てくれればわかる」と、バイルは答える。
「・・・メフェール!いくぞ」と、カタルバはメフェールに叫ぶ。
「ああ、行くよ」と、メフェールはすでに走っている。
「あーあー」と、リサはカタルバの腕の中で起きたのか、腕を伸ばして騒いでいる。
「お、おお。そうじゃな、リサ。お前も一緒に連れて行ってやるぞ」と、カタルバはリサを抱っこしたままバイルに案内されて棺屋にたどり着いた。
棺屋が主人が腰を抜かしている。「あわわわ、お助けー」と、叫び、頭を地面につけて手を合わせている。
「ほら、あれだ」と、バイルの声がする。
「ぬぬ・・・たしかに生きておる・・・じゃが、何かおかしいぞ。ロイスは目は赤く光ってなどおらなんだ。わしと同じ青い目のはずじゃ。それが今は赤く・・・それも光っておる。ミシェラも・・・」と、カタルバは2人を見て立ち止まる。
「ネクロマンサー・・・死霊術じゃ。じいさん、これは死霊術じゃよ。」と、メフェールは叫ぶ。
「死霊術じゃと・・・つまり身体を誰かに冒涜されていると言う事なのか」と、カタルバはリサをふと見る。
「あーうー」と、リサは悩んでいるように見える。リサの目にはリサの目にだけ・・・灰色の服の女の子が見えている。
灰色の服の女の子、リズはリサを見つめてつぶやく。
「魂が入っていないわよ。リサ、あんたなら・・・ほら、そこに道端の小石があるでしょう。それを使って魂を入れなさい。どんな石にもどんな物体にも、魂はあるわ。石の魂を代用するのよ。まあ、命令を聞くだけの人形しかできないけどね」
「あーあー」と、リサは言う。
「お?どうしたのじゃリサ」と、カタルバは言う。
「もしかして眠たくなったのかもしれないよ」と、メフェールは言う。
「さっきまでよく寝ておったし、それはないかもしれぬ。どちらかと言うと・・・腹が減ったのではないか」と、カタルバは言ってリサをメフェールにあずけて棺屋の中へ入って行く。
「ちょっとカタルバさん、メフェールさん・・・今はリサちゃんの事よりも、ロイスとミシェラの事を何とかしてくださいよ」と、バイルはカタルバを追いかけて行く。
「あー」と、リサはまた指から赤い光を出す。メフェールはその光を目で追いかける。赤い光はロイスとミシェラの脳につながる。2人は動き出して小石を拾った。それを口に入れて食べた。
灰色の服の女の子、リズはリサを見つめてつぶやく。
「うん・・・成功したわよ。脳に直接赤い光をつなぐ事であなたの意志は反映されるわ。簡単でしょ」
「あー」と、リサは言う。赤い光は脳に繋がったままだ。
まさか・・・動く。いや、動かすというのかと、メフェールは推測する。
「父さん、母さん・・・心配をかけたね。もうボクたちは大丈夫だよ」と、ロイスは突然しゃべりだす。
動かしおった。それも、それも・・・おお、何という事じゃ。と、メフェールは膝をついた。
「父さん、母さん・・・心配かけたね。もうボクたちは大丈夫だよ」と、ロイスは同じ台詞を繰り返す。
カタルバは片手にミルクを持ちながら出てきた。そのミルクを落としてしまう。足は自然と駆け足になり、
「お、おおお。ロイス、ホントに生き返ったのか・・・」と、カタルバはロイスを抱きしめる。
「じいさん、しっかりおし。死人の匂いがする人間なんているものか・・・そいつは間違いなくアンデッド。ゾンビじゃよ、じいさん」と、メフェールはリサを抱きながら言う。
「わかっておる。わかっておるよ、メフェール。それでもそれでもいいんじゃ。これが誰かのイタズラで生き返ったのだとしても死人だとしてもじゃ」と、カタルバは泣き出した。
「気持ちは痛いほどわかるよ・・・あ、あああ。それでもそれでも・・・わたしゃには無理じゃ」と、メフェールは地面に座り込んた。
リサは灰色の服の女の子、リズを見つめる。
「なあ、リサ。爺さんと婆さんにちゃんと説明した方がいいんじゃないの。それとさ、白い光も使えるだろ?それで腐敗臭を消して、腐敗防止も施してやれよ」と、リズは言う。
「あーあー」と、リサの指から今度は白い光が出ていく。白い光はロイスとミシェラを包みこむように大きくなっていく。その光景にメフェールもカタルバも見惚れている。
「どういう事じゃ。臭いがせん。臭いが・・・これは一体・・・。夢を見ておるのか?ホントに生き返ったとでも言うのか。いや・・・違う。目は虚ろなまま」と、メフェールはつぶやく。
「婆さん、見てくれ。」と、カタルバはメフェールにリサを見るように促す。
「やはり悪魔の子じゃ」と、メフェールはリサの右手の指を見た。
白い光が溢れている。
その白い光はロイスとミシェラを包むように流れている。
流れている。
「爺さん、わたしゃこの子と一緒に死ぬよ」と、メフェールは突然走り出した。
メフェールは棺屋の家の中に入り、台所で料理をしている棺屋の奥さんから包丁を奪い取り、リサを片手でしっかりと抱きしめて走っていく。
北へ向かって。北には開くことの無い遺跡と魔物たちの住処である魔の森がある。
ハンターギルドに依頼を出して定期的に狩りをしてもらっている危険地帯だ。
そんな場所へメフェールは走っていく。
「待て、待つんじゃ」と、カタルバが追い付く。
肩をつかんでメフェールを止める。
「離しな!」と、包丁を後ろへ振り回す。
「離さんよ、落ち着くんじゃ」と、カタルバは包丁を予測していたのか、しゃがんでかわしてメフェールの前に立ち塞がる。
「どきな、爺さん。たとえあんたでも容赦しないよ」と、メフェールは包丁をちらつかせる。
「リサ!包丁を壊すんじゃ」と、カタルバは叫んだ。リサは赤い光を指から出す。メフェールの持つ包丁は壊れた。2人、いや3人の間に沈黙が流れる。後ろからはバイルも来ている。
「メフェール、落ち着くんじゃ・・・リサはわしらの孫じゃ」
「死者を操る、道具を破壊する、悪魔の子さ」と、メフェールは言う。
「なあ、メフェール・・・それでもわしらの孫じゃ」
「わたしに善悪を捨てろって言うのかい!」と、メフェールは叫んだ。
「何度でも言う。孫じゃ」と、カタルバはメフェールの目を見つめた。
「・・・ロイスの血を引いた子さね」と、メフェールは言い直す。
「そうじゃ。息子の血を引いた子じゃ」
リサはまた灰色の服の女の子、リズを見ている。
「はん、殺さなくてよかったね。いい爺さんと婆さんじゃないか。大事にしな。それと・・・私の声もあんた以外には聞こえていないから安心しな」と、リズはそれだけ言うとリサの前から消えた。
「あーあーうー」と、リサは唸る。
「おお、やっぱり腹が減ったか」と、カタルバをリサをのぞき込む。
「帰ってご飯にするよ・・・あんた」と、メフェールはリサを抱っこしたまま歩き出す。
「素直じゃないのぉ」と、カタルバは笑う。
「お互い様さね」と、メフェールも笑った。
6年の歳月が過ぎた。
最初の異変に気付いたのはハンターギルドだった。
「ギルマス・・・国王様からおかしな依頼が。それとパルナーラ村からの2ヶ月に1度の魔物の森討伐依頼がここ半年ほど音沙汰がありません。」と、受付嬢はギルマス、アザランに報告する。
「国王様からの依頼はパルナーラ村の6歳の少女を殺せという依頼・・・金額は1億ジュール。それと定期依頼の消滅。一度パルナーラ村に調査部隊を派遣しよう。判断はそれからでも遅くあるまい」
「わかりました。それではそのようにハンターに呼び掛けてみます」と、受付嬢はそれだけ言うと出て行った。