リサ、神王に捕まる
商人の国、デマリーク国。
無数の馬車が行き来している。
空は青く、鳥たちも飛んでいる。頭部にターバンを巻いているのは男性のようだ。
女性は肩の当たりで髪を切り揃えている人が多い。
ここは暑いのか、シャツ1枚で歩いている人たちが多い。
「暑いわねぇ」と、リサは手で自分を仰ぐ。
「あの、リサ様・・・水の魔法を使用して纏えばいいのではないですか?」と、イブは言う。
「あ・あら。そうね・・・別に忘れていただけよ」と、リサは赤き光を発動させて水を身体の表面に纏う。
「涼しいじゃない」と、リサは笑顔になる。
シャーレたち(紅露、桜王、ドラ、カルン、アザラン)は宿に入ったようだ。
今、夜叉姫、死姫とイブ、コルシカ、リサの4人でデマリーク国、首都バザルを歩いている。
威泥はそれを建物の上から眺めている。
「魔王と契約する時・・・そこで仕掛けさせてもらいますよ、お嬢ちゃん」と、威泥は姿を消した。
「リサ様」と、イブはリサの腕を引っ張って、右側を見るよう促す。見ると、手に縄をかけられて、下を向いて歩いている住民たち。前後を兵士に見張られて、その行き先は高くそびえ立つ白亜のお城へ向かっているようだ。
「罪人でしょうか、リサ様」と、イブは問いかける。
「さあ、どうかしら。コルシカはどう思う?」と、リサは聞いてみる。
「はい、あれが生贄だと思います。リサ様」と、コルシカはわざわざ立ち止まって答える。
「私もそう思う。あれは生贄ではなかろうか」と、夜叉姫もつぶやく。
「そこで何をこそこそとしている!」と、兵士の1人に呼び止められる。
「ええ、わたしたちも罪人になろうかと」と、リサはつぶやく。
「・・・なんだ?われらをからかっているのか」と、兵士は槍をリサに向ける。
「夜叉姫、いいわ。下がっていて」と、リサは歩みよる。
「あなたを殺せば罪人になれる?それとも?捕まえてくれないの?」と、リサは問いかける。
「不敬罪だ。貴様らのような奴も罪人として捕まえてやるぞ」と、兵士は叫び、後ろにいる兵士と一緒にリサたちを抑え込もうとする。
<いい、捕まるわよ。それがいちばん早くベルフェゴールに会えるわ>
リサの念話でコルシカ、イブ、夜叉姫も従い罪人として捕まった。
王城の地下の間で、
音。音が鳴る。
とぎれ、途切れ。それは消えて、現れ。
不協和音となって響く。
「ひっ、いやだぁあああああああ」
ターバンを頭に巻いた神王ガセフは罪人たちを1人、ひとり炎の精霊の力で焼き殺していた。
「はぁはぁ、これで100人・・・魔王ベルフェゴール召喚まであと7人・・・」と、ガセフは言う。
ガセフの黒い瞳は赤へ変化しつつある。魔素が身体に満たされていっているようだ。ガセフは額の汗を拭いてから黒炭となった罪人の死体を踏み砕く。
「片付けておけ」と、自分と同じようにターバンを巻いた黒肌の兵士たちに命じる。
暑いためか兵士は上半身裸だ。下は黒いズボンを履いている。ガセフは黒いチョッキに神王だけに許される黄色のズボンを履いているためか、ガセフを見て兵士たちは敬礼していく。
そこへ1人の兵士が走って来て、立ち止まり、敬礼してから話しだした。
「ガセフ様、報告があります。9人の罪人を捕まえました。規定人数は揃いました」
「240ファラデー(2時間)経過したら持って来い。それでこの儀式も終わりだ。くくく、これでやっと・・・これでやっとわしも世界を支配できる王になれると言うものだ」と、神王ガセフは高笑いして去って行った。
「魔素が溜まっているわ・・・十分な量よ。魔王の書で強制召喚させる事も可能なぐらい。」と、リサはつぶやく。
「それではリサ様。」と、イブは言う。
「待ちなさい。この国の王を拝んでからね」と、リサは片目をつぶる。
「はい、リサ様」と、イブは言う。
「それよりもリサ様・・・刺客に狙われています・・・」と、夜叉姫は跪いて言う。
「分かっているわ、その対策も・・・ちゃんと考えたから」
「また貴様らか!」と、兵士が槍を持ってリサたちに近づく。
「これはこれは兵士様・・・早くお連れしてくださいな」と、リサは言う。
槍で脅したのに、またするりと交わされる。兵士は下を向いてから
「くっ。いいから黙って歩け」と、背を向けて地下への階段を降りて行く。
「神王様、お時間通りお連れしました。」と、兵士は神王ガセフに報告している。
「よく来たな、罪人ども。さあ、地下の牢獄へ入るがよい」と、神王ガセフは扉を開く。
リサを含む9人は扉の中へ入った。
リサは自分たちを縛っていた紐を赤き光によって、風を起こして断ち切った。
「おい、どうなっている?罪人が逃げ出したではないか」と、神王はうろたえる。
「そ、そんなはずは」と、兵士は槍を持って威嚇してくる。
「やりなさい」と、リサはつぶやく。
槍を持った2人の兵士は蜘蛛に心臓を破壊されて声も無く、崩れ落ちる。
夜叉姫だ。最初に出会った時に仕込んでいたようだ。
「バカな!何だ貴様ら」と、神王ガセフは叫ぶ。
黒き渦と赤紫の渦が神王ガセフとリサの眼前に広がって行く。
2つの渦は混ざり合い、1つの渦になり、円形となって具現化していく。
初めに現れたのは金の髪・・・目を覆うように前髪が長い。風で揺れた前髪の下には目は無かった。
右耳の上に、白銀のティアラをつけている。
似合わない。
着ている服は燕尾服。ズボンでは無く、黒いフレアスカート。
「わらわを呼んだのはあなた?」と、ベルフェゴールが、金の杖を両手で抱えながら歩いて来る。
「わたしだけど」と、リサは答える。
「たかだが人間ごときが!」と、ベルフェゴールは金の杖の尖端から灼熱の炎を召喚し、リサに攻撃した。
「・・・」リサは燃え上がる。
夜叉姫、コルシカ、イブは跪いている。
「ぐははははは、燃えた、燃えおった」と、神王ガセフは大笑いしている。
「・・・」リサは1歩前に前進する。
「何じゃ?わらわの灼熱の炎を受けて歩けるじゃと。最後の悪あがきかや」と、ベルフェゴールは言う。
「・・・そう思う?」と、リサは聞く。
「ぐはっ?」と、神王ガセフは笑うのを止めてリサを凝視する。
皮膚は黒くなり、炭となっている。普通なら死んでいる。
だが、起きている時のリサはリズに守られている。赤き光と白き光に。
炎の化身、リサが歩く。
「・・・・・・」今度はベルフェゴールが黙る。
神王ガセフは「ひぃひぃいいいいいいいいい」と、叫び声を上げて後ずさっている。
「ベルフェゴール、わたしと契約しなさい。最上位の契約を」と、リサは言う。
「敗北を認めるわ・・・支配者」
<では、さっそく命じる。わたしの身体と心臓をわたしが眠った時だけ炎にせよ。>
リサはあえて威泥には聞こえないように念話を使用した。
「仰せのままに」と、ベルフェゴールは跪いて頭を下げた。
「強欲のマモンよ、これに」と、リサは命じる。
紫の天使の輪が頭上に輝き、青く濁った水晶が目のある場所にはまっている。
皮膚は灰色で、紫色のローブを着ている。
左手というよりは大きなハサミが左手として機能している。
右腕には複数のナイフが肉を突き破るように飛び出している。
マモンが召喚された。
<わたしが眠っている時、わたしの身体が炎に変化しても周囲に燃え広がらぬように水の結界で炎を閉じ込めよ>と、念話でリサは命じる。
「容易い事で支配者様」と、マモンも跪いて頭を下げた。
リサは目をつぶった。
これでいい。
威泥は待ちわびていたかのように魔法陣を発動させた。




