リサ、放火される
誰もが寝静まる深夜、赤いベレー帽を被った大学生のように見える男が、リサの家の天井に遮音魔法と浮遊魔法を使用してゆっくりと着地する。ぱっと見はどこにでもいる一般人的な服装をしている男だが、赤いベレー帽を取ると、2本の白い角が額から見えた。短髪で黒髪。目は金色・・・男は鬼だ。
鬼の名前は威泥。お金で動く鬼だ。
威泥はリサの家の天井に魔法陣を刻んだ石、魔石をそっと置く。
威泥の口だけが動く。魔法陣は静かに発動する。天井から火は燃え広がっていく。威泥は音も無く、静かに去って行った。
火の燃える音。
それは静かに大きく、ゆっくりと伝わり、気づけば炎の中へ
「リサ様、起きてください。リサ様ーーー」と、コルシカの叫びは虚しく響く。
「どぐでありんす」と、紅露がリサを抱える。
「飛び降りるでありんすよ、リサ」と、紅露は窓へ向かって迷わず走った。
窓ガラスを壊し、2階から飛び下りて地面を転がる。
紅露もリサも炎に包まれている。
シャーレが水の魔法を使用して消火する。だが、リサについた火が消えない。
「どうして、どうして消えないの?どうしてリサは起きないのよ」と、シャーレは叫ぶ。
イブが水道から水桶に入れた水をリサにかける。
「起きて、起きてください。リサ様」と、イブは水を一気にかけた。
リサの炎はまだ消えない。
「運ぶでありんす。これは魔法陣による炎。距離を取らないと消えないでありんすよ」と、紅露は叫んだ。
「わかったわ」と、イブとシャーレが2人がかりで担ぎ上げて走った。
800イリ(400m)まだ消えない。
さらに800イリ・・・炎は消えた。
「人工呼吸を!」と、シャーレは叫ぶ。
「はい」と、イブはリサの口を塞ぎ、息を送った。
シャーレはみぞおちの下をリズムよく押す。
「かっ、かは」と、リサが意識を取り戻した。
「リサ様!」と、イブは抱き着く。
「白き光よ」と、リサは自分の傷、紅露、コルシカを修繕する。
「夜叉姫は?」と、リサは聞く。
「それが暗殺者に呼び出されて森に」
「・・・何者なの・・・魔法陣の永続性の利用といい。素人じゃないわ。厄介な暗殺者に出会ってしまったわね。次があるかわたしにも分からない。」
「リサ様ーーー」と、夜叉姫の声がする。
「おかえり、夜叉姫・・・わたし、生きていたわ」と、リサはかろうじて笑う。
「あ、あうぅ。リサざまー」と、夜叉姫は抱き着く。
燃えている。
木造建築の思い出ある家が燃えている。
「わたしの家を燃やしやがってー」と、リサは叫ぶ。リサはイブ、夜叉姫をどかして走る。
5歩も走らないうちに足がもつれてこけた。
「うぅううう」と、リサはつぶやく。
「リサ様、お父様とお母様が・・・」と、シャーレは黒く焦げた何かを見せる。
「あ、あああ。お父様、お母様」と、リサは黒く焦げた両親の人形に抱きつく。
「今、今修繕しますから」と、リサは泣きながら白き光によって修繕していく。
その様を威泥ははるか遠くから眺めていた。遠視の魔法陣を使用して。
「あと2手ほど準備が足りなかったか・・・だが、次もしのげるかなぁ。子猫ちゃん」と、威泥は姿を消した。
「イブ、怠惰と堕落のベルフェゴールを探しなさい。いえ、もう見つけているの?」と、リサは父親と母親を修繕して落ち着いたのか、イブに告げる。
「はい、リサ様。ベルフェゴールを召喚しようとしている国は南西にあるデマリーク国ですわ。行く準備は今から取り掛かるますので。120ファラデー(60分)ほどお待ちください」と、イブは跪いて頭を下げている。
「わかったわ、取り掛かって」と、イブは言って夜空を見上げる。




