リサ、逆に罠にはめる
「いい日和ね」と、リサはつぶやく。
白髪で、額には金色の角、左目は無い。左目の奥には黒い蛇、ギョロがいる。
青い和服を着た女の子の膝の上にリサの頭はあった。
「ねえ、死姫。奴らは来るかしら」と、リサは目をつぶる。
「ええ、来ますとも・・・。」と、死姫と呼ばれた白髪の金色の角を生やした左目の無い女の子は答える。
今、夜叉姫、死姫の両腕は無い。両腕を蜘蛛に変化して結界を張っているから。
シャーレ、コルシカ、イブ、紅露たちは蜘蛛の結界【冥府結界】から距離を置いてしゃがんで待機している
ガストールは土の中にいた。土の中にいて、ほんの少しずつ魔力を気づかれないように使用して掘り進んでいる。(ギルスよ。ガストール・・・面白い事してるわねぇ。そのまま真っ直ぐでいいわ。あと2イリ(1m)ほど進んだら真下ねぇ。くふ。私が【冥府結界】を焼くからその後でもいいんじゃない。)
(それではダメだ。3人の魔導兵士と、2人の鬼相手にそれではわれらが殺される)
(そうねぇ。くふ。じゃあ、私が外から短刀を投げるのも止めた方がいいわねぇ。いえ、いい策があるわ。ガストール、私がどこにいるかは目をつぶっててもわかるでしょ)
(ああ、そういう血の盟約を結んだからな。魔力によって、お前とヴァラクとは。)
(ガストール、私がリサお嬢ちゃんの上空、真上へ移動するわ・・・わかるでしょ?私の言いたい事)
(なるほどな。それだと誤差をだいぶ減らせる。それで失敗した時はお前に任せる、ギルス)
(ええ、いいわ)
「ぎょ、ぎょ」と、夜叉姫、死姫の左目の黒い蛇は何かを叫ぶ。
「下と真上・・・。大丈夫よ、ギョロ。【冥府結界】を正しく理解している奴なんていないから。」
「ぎょ」黒い蛇は再び中へ入って行く。
ガストールは今、銀のイブニングドレスが見えている。「・・・」笑いを押さえるのに必死だ。
あとはジャンプして突き刺すだけ。
さよならだ、リサ・ヴァリュー。
心臓の位置は熟知している。今さら間違うとも思えない。
足を踏ん張り、右手に握った短刀の刃先を心臓部分に当てて、飛び上がった。
「ぐはっ」
ガストールはまるで壁に頭をぶつけたかのように頭を押さえる。もだえる。
何だ?これは何だ?
視界に蜘蛛が見える。
蜘蛛?冥府結界が発動?
蜘蛛に見つけられてなどいないというのに何故?
ガストールの指先は蜘蛛になっていく。様変わりしていく。
「ひぃひいいいいいいいいいいいいいいいい」と、ガストールは叫び声をあげる。
ガストールが失敗した?ギルスは狙いを定めて短刀を投げる。真上からまっすぐ。
リサの脳天を狙って。
ドスっ。
「どす?」と、ギルスはつぶやく。
「あ・・・う・・・」ギルスの投げた短刀はギルスの『脳天』に突き刺さった。
ギルスの死体はそのまま落ちていく。落ちながら蜘蛛へ変化していった。
ヴァラクは走り疲れてきた。アザランは脳天に短刀を当てたので、途中から追って来なくなった。問題は鬼の方だ。桜色の髪をしていて、額には金色の2本の角がある。目も金色だ。
さっきから何度か短刀を当てているはずなのだが、一向に遅くなるという事も無い。止まる事も。
ヴァラクは思い切って立ち止まって、後ろを振り返る。
鬼は歩いていた。ゆっくりと歩いて近づいて来る。
「おおおお」と、ヴァラクは短刀を正中線に構える。そして右手を支えるように左手をそえる。
戦法は単純。そのまま突っ込む。足腰を魔力で身体強化する。
グンっとスピードは上がる。
殺った。そうヴァラクは確信した。短刀は間違い無く、鬼の心臓を・・・。
「悪いな・・・不死身なんだわ。それに痛覚遮断してるから」と、鬼、桜王はつぶやく。
「は?」と、ヴァラクは目を開いて驚きを隠せない。
「じゃあな」と、桜王は左手を横薙ぎする。ヴァラクの赤いフードを被った首が転がった。
「心臓は喰っておいてやるよ」と、桜王はそれだけ言うとヴァラクの心臓を取り出して食べた。
まるで蜜柑を食べるかのように。
暗殺者たちは見事に返り討ちにあった。
国王バルザーは事の次第を水晶で見ていた。
「バルコー・・・次の暗殺者は用意しておるのか」と、国王バルザーは聞く。
「はい。前金で10万ジュール払う事になりましたが・・・」と、バルコーは答える。
「それはよい。それでどんな奴だ・・・」
「こんな奴だよ、王様」と、赤い剣を王様の首元に突きつける。
「名前は威泥と言うそうです」と、バルコーは答える。
「わ、わかった。剣をどかしてくれ」と、国王バルザーは言う。
「ひっひっひ。以後お見知りおきを」と、威泥と呼ばれた暗殺者は消えた。
「なっ」と、国王バルザーは周囲を見渡す。
「赤いベレー帽の下には2本の角があります・・・鬼ではないかと思われます」
「う・・・うむ。だ、大丈夫なのか」
「お金は受け取ってもらえました。おそらく大丈夫かと」
「いや、あ奴・・・今度はわしの命を狙って来たらどうするつもりじゃ」
「玉座に興味は無いと申しておりました。大丈夫でしょう」と、バルコーは答える。
「ふむ。まあよい。下がってよい」と、国王バルザーは王の間からバルコーを下がらせた。




