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リサ、夜叉姫を仲間にする

倭の国で宿に荷物を置いて、リサはイブと合流して廃墟となった村を訪れた。

蒼龍そうりゅうと呼ばれたその村は名前の通り、風の集まる村だった。

村が滅んでから200年の月日が経つにも関わらず、村の復興はなされていない。

それはこの村にスケルトンと呼ばれる魔物が住みついた事も1つの理由だ。

村の中を歩くのは鳥、馬、豚、牛、人間のスケルトンたちだ。

その目は黄色の色をしている。それが夜叉姫、死姫しきの妖力なのだろう。

イブの目は赤く光っている。イブも魔導兵士の1人としてリサに付き添っている。

生者せいじゃには容赦無く襲いかかるスケルトンたちだが・・・。


イブとリサには襲いかかって来ない。それどころか道を開けて両脇に跪いて頭を下げている。


「リサ様、嫌な景色です。私、帰りたいです」

「ほら、もう少しよ」と、リサはイブを励ます。


手毬をついて遊んでいる白髪で赤い角が1本、額から生えている女の子の姿をした鬼がいる。

青い和服を着ている。着物というモノだろう。ただ左目が無い。

「ギョロ・・・この村のあるじは私たちだよね」と、夜叉姫、死姫しきは言う。

「ぎょ、ぎょ」と、夜叉姫の空洞化した左目に住んでいる黒い蛇は答える。

「じゃあ、どうしてスケルトンたちは道を作って跪いて頭を下げているのよ」

「ギョロ~?」と、黒い蛇ギョロは空洞化した左目から出て来て、分からないという仕草をする。

「もう。まあいいわ。」


ここはどこの細道じゃ。天神様などおりはせぬ。私を救ってくれたのは

夜叉としての憎しみと怒りだけ。

ここはどこの細道じゃ。地獄のどこかの細道じゃ。

ここを通るはどこぞの誰ぞ。

また私の住処を汚しに来た者たちよ


と、夜叉姫、死姫しきは歌を歌い、赤い手毬をつく。


「ギョロ、細道からやって来るのは誰だと思う?私を裏切った父親?それとも幼馴染の村長の息子?私のために戦って、黒い蛇・・・になってしまった母親かしら?」

「ぎょ、ぎょ」と、黒い蛇ギョロはまた左目の中に戻ってしまう。

「分かるわけ無いよ。私たちはずっと倒して来た。この200年。私が滅ぼした村を復興させないために、ずっと倒して来た。夜叉姫と呼ばれるほどに長く生きた。だからギョロ、今度も勝てるよね」

夜叉姫、死姫の右目に、茶髪で三つ編みにしている6歳ぐらいの女の子が見えてくる。

西洋の衣服を着ている。瞳は青かと思いきや、雲に隠れた一瞬、赤く光った。

弓矢と弓を持つ女の子は胸元まである金の髪をしていて、瞳は赤く光っている。

身体には革制の鎧を身につけている。

リサは木製の横笛を取り出して吹き始めた。吟遊詩人に教えられた春を知らせる曲を。

「え?」

これには夜叉姫、死姫しきが驚いた。

戦いに来たんじゃないの。

何?どういう事?


曲は続く。リサは目をつぶって演奏している。

イブも弓を置いて、リサの演奏を聴いている。


「ぎょ、ぎょ」と、ギョロはご機嫌だ。

「オオグモ様、お力をお貸しください」夜叉姫、死姫の左手が蜘蛛に変化していく。

右手も左足も右足も。胴体さえも。

崩れ去る。蜘蛛となりてリサに近づいていく。

蜘蛛の1匹、1匹が白い光にからめとられていく。

心地よい。

この200年ずっとこれを求めていたかのよう。

魂に絡みついていた赤い糸が白い光によってほどかれていく。

安らぎを感じる。

「ぎょ、ぎょ」と、ギョロはリサの足元でとぐろを巻いて眠り始めた。

夜叉姫、死姫は元の姿に戻る。

泣いていた。大粒の涙を廃墟の村の地面に落とす。

「お、おっおえああああああああああああ」とうとう声を出して泣き出した。

両手を地面に、両膝も地面につけて四つん這いになって泣き続ける。

曲が止む。

リサは木製の横笛をしまい、夜叉姫、死姫の頭を撫でた。

「夜叉姫・・・わたしを守る刃となってほしい」

「あ・あぅ。あうあー」と、夜叉姫、死姫は答える。

「ありがとう。じゃあ、魂を預かるわ」と、リサはにっこり笑い、夜叉姫、死姫の身体から魂を取り出して自分の中へしまいこんだ。

「あ、ありがたや」と、夜叉姫、死姫は頭を下げる。

下を向いた夜叉姫、死姫の目は赤く光る。赤かった角は金色に輝き出す。

「あなたの名前は?」と、リサは聞く。

「死姫です。偉大なるあるじ様、私に名前を教えてください」

「わたしの事はリサでいいわ。」

「リサ様。ありがとうございます」

「わたしの命を狙う暗殺者からわたしを守って欲しいの。あなたの蜘蛛の力と母親の魂を縛っている黒い蛇に助けてもらう事になると思うけど。」

「はい、はい。喜んで。リサ様の命を守れるという大役、たしかに承りました。」

夜叉姫、死姫は跪いて頭を下げた。

「ふふ、大袈裟ね。それじゃあ、宿へ戻るわ」と、リサは言う。

白い扉は開かれる。イブは先に入っていく。

リサはその後をついて入った。夜叉姫、死姫も戸惑いながらもついて入った。

第9の月 キャラミ・コルディア 4日目の午後。

雲無く晴れている。カラスが数羽飛び立つ。

走っている、騒いでいる、おろおろと立ち回っている。

着物姿の男女、赤い甲冑を着た近衛兵たち、槍、刀、魔導兵器(魔法陣の刻まれた魔石)を持った魔導兵士たちが所狭しとうごめきあっている。

それを宿屋の屋上で眺めているは、リサだ。リサ・ヴァリューだ。

その背後には白髪の夜叉姫、死姫と紅露が控えている。

さらにその後ろにイブとコルシカ、シャーレもいる。桜王とドラ、カルン、アザランは倭の国の王城へ紛れている。

「リサ、どうする?」と、紅露は言う。

「イブ、報告しなさい」と、リサは言う。

「儀式はあと1日と迫っています。大量の牛、豚、にわとりたちが殺されました。あと奴隷の男女が1000人ほど今日、殺されます。」と、イブは屋上の床を見たまま言う。

「イブ、それはいつ?」

「120ファラデー(60分)後です。時刻にして27マクスウェル(14時頃)が始まるところから」と、イブは答える。

「紅露、桜王に念話飛ばせるよね。奴隷を助けるわよ・・・その上で魔王の書によって強制的にベルゼブブを召喚するわ。さあ、みんなついて来て」と、リサは白い扉を開く。

リサが真っ先に飛び込んで行く。「くはは、そう来なくてはな」と、夜叉姫、死姫も飛び込んで行く。

「さすが、リサ」と、紅露も飛び込んで行く。イブとコルシカは互いに目で合図を取り合い、飛び込んで行く。シャーレだけが、三角帽子を直してから「仕方ないわね、もう」と、飛び込んで行った。


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