ヤクザ吸血姫、吸血鬼伯爵
強敵出現
前回概要:遂に帝都へ戻る一行、何事もなく帝都へ辿り着けるだろうか!(フラグフラグ)
この世界には科学が発展してない代わりに、魔法が発達している
それはそれで便利かと思えば、本当はそうでもない。
魔法だって才能が必要で、魔力を要する。
科学は自然からエネルギーを借りるが、魔法は最初から最後まで自分だけが頼りだから、連発する人間は少ない
ジークさんならできないことはないと思ったけれど、彼は魔法剣士タイプで、あくまで魔法が補助として使っている。
まぁ、名前もどっかの竜殺しの聖剣使いと同じですしね。聖剣は持っていないけど、中々の業物を所持している
つい話題がズレてしまいましたが、つまりですね
「座っているのが辛いです、外に出ます」
「はい?」
同じ馬車の中にいるメイド、メイちゃんに一言告げると、勝手に自分の体を気体に溶かして、外に出た
吸血鬼は以外でもなんでもなく、体だけでもチートいっぱいの規格外存在。
気体、正確には霧に変化できるのもその一つです。蝙蝠に変化するのも無論お手の物で、蝙蝠でなくてもワンちゃんでも可能です
霧化の能力は図鑑によると目撃例は爵位持ちの吸血鬼のみという話ですので、多分普通の吸血鬼じゃできない
できたら人間が益々勝てなくなるでしょうね。ただでさえ強い相手、物理無効と言わんばかりのチートスキルを持っていたらやってられません。
多分身体の特性なので厳密にはスキルじゃないけれど
外に出て自分の体そのものである霧を凝結させ、人型に戻る。
着てきた服は馬車の中に残ったままですので、一応変化の応用として自分の髪を白いワンピースと短パンにして身に纏わせる
変化した簡易の服と髪の連結を切って、浮遊の魔法でフラフラ馬車の上で飛んで、夕日を眺めて楽しむ
慌てて馬車の窓から頭を出して確認するメイちゃんに小さく手を振り、彼女も呆れたかこめかみを抑えながらため息をついた
最近では歩行よりも便利かつ面白い浮遊を気に入っています。
ちょこっと魔力を消耗するだけで、歩かずに空を飛べるのですから。
人間では長時間無理でも、私の魔力量なら24時間飛んでても全然苦にならないし、消耗した魔力はそのまま回復してしまうので擬似的な永久機関のようだ
流石に疲れる時は降りて休むけれど、疲れはほぼ吸血関連なので浮遊してようがしてまいが関係ない。
無消耗だけでも非常に素晴らしいというのに、なんと浮遊を使い続ければ風属性の魔法のレベルも一緒にあがるんだから二重の意味美味しい
浮遊の魔法は風魔法lv5で使用できる。浮遊の素晴らしさに気づいてから風魔法のレベリングはしてないが、既にlv7になっている。
その他の魔法は無論暇あれば練習するけれど、闇魔法がlv6になったが、他はlv1しか上がらなかった。特に光属性は未だにlv4のままで、火と水のlvは昨日にようやくlv5になったのだ
そこは恐らく相性でしょうと私は理解している。吸血鬼が光属性を嫌うのは当たり前として、火と水は心当たりがない。
気ままに空を飛んで周り、なんかつまらなく感じてジークさんの所に行く
別に皇子だから馬車に乗っててもいいんだけれど、馬車の乗り心地が非常に悪く、将軍として馬に乗って帰還するおつもりです
隣の副官であるバリンさんと道中の警備などの話をしている彼の右に移動して、ゆっくりジークさんを観察します
特に面食いというわけでもないのだけれど、ジークさんは客観的にいうとイケメンに分類されるでしょう。
漆黒な短髪が針のように鋭く見えてて柔らかい、青年だけれど整った五官に何処となく老練が隠れて見えてて優しく、その人のなりをそのまま体現している。
例えるならば、彼はどんな矛でも受け止められるような大盾だ。
剣を持っていても、人類を超える力を持っていても、彼の本質は破壊ではなく、守護であると理解できる
そういう私も、ジークさんに守られている存在の一人、いいえ、真祖の数え方はひと柱、でしょうか
「どうした、俺の顔に何かついているのか?」
私は別に気配を隠すのは苦手ではないけれど、この世界に来て闇討ちする必要がなくなったので堂々としている
それでも影は薄い方で、浮遊を始めた最初の頃は城の幽霊と勘違いされることもまあまあある。
私の気配を正確に捕捉できたのは、妖狐の廉治(今はメイちゃんの馬車に残っている)、奴隷のギルムとジークさんくらいです
廉治とギルムは見えない線で繋がっているような感じで、恐らく隷属の契約の効果と思われるけど、いつの間に廉治を隷属させたのかしら
別に隷属してようがしてまいが廉治への扱いは変わらないので気にしてないけれど。
そういう意味なら、個人の能力だけで私に気づいてくれるのは今の所ジークさんだけとなります
実際、ジークさんに声掛けられる前に、隣のバリンさんは全く気づいていない様子で、純粋に驚いている
「暇です。遊びたいです」
「いや、無理だろう、普通に」
無理じゃありません、旅の中はUNOとババ抜きと相場が決まっています
どうしてもダメならオセロもいいですね。
持ってませんが
「では花札は諦めるとして、しりとりをしましょう」
「なにがではなのかよくわからんが、わかった。」
「では先攻は私に、ジークフリード」
「俺の名前かよ、入れちゃだめだろうしりとりに、土壇場」
「ば、ババア?」
「……泡」
゛わ゛ですか、聞けば゛わ゛で終わるのはしりとりの常套手段であると
負けまいと、少し気合をいれた私ですが、急に名状しがたい嫌な気分になってしまう。
殺気なら私は前世で慣れているので、別にどうってことはありませんが、その気分だけは何時経っても無理です
悪意ではない
むしろ好意である
でも、
形容するとしたら、ネバネバの蛇にまとわり付かれて、その舌に舐められているかのよう
純粋かつそれ以上ないほど、粘着質な好意と愛情。
かつて容姿のせいで良く受け止めてた、望まない感情。
感情の漏れてくる先を眺めながら浮遊を止めて地面に立つ。
少し遅れて、ジークさんも異常に気づいたか、馬車隊を止める。
「ふふふ、気づいて頂き、恐縮至極にございます。我が君」
濃厚な、邪悪に満ちた、猛毒の霧。
私が霧化する時は薄く、存在感を感じさせない霧だったけど、彼の霧は違う。
禍々しいほどの紫、吸い込むだけで死に至るだろうほど毒々しく、実際、その霧が移動するだけで、触れられた植物は枯れていく。
やがて彼は形になっていき、細身の若き少年に変化した。
腰まである紫の長髪を靡かせ、細目で可愛らしい少年は自分が生成した執事服を纏って私に一礼した
「お目覚めおめでとうございます。我々吸血鬼一同、貴女様の出現を心からお待ちしておりました」
「……誰?」
「失礼いたしました。ワタクシ、伯爵位を持つ三代目の吸血鬼、ロウガと申します。以後もよしなに」
長く尖った耳を遮る髪を退かしながら、真紅の両目が実に嬉しそうに私を見つめてきた
「新たなる真祖の姫君よ、貴女様の気配を感じてここまで来ましたが、よもや既に帝国の皇子を自分の奴隷にされているとは、このロウガ、誇らしく前が見えませぬ」
「……何用なのですか?」
ジークさんは対等な契約相手で、別に血を吸うだけの奴隷ではない。
その言い分にすこしイラつき、それでも冷静にと問いかける。
バリンさんはジークさんを庇おうと前へ出ようとするが、そのジークさんは険しい表情で彼を阻止する。
当然である。ジークさんは鑑定持ち、相手のステータスを全て視認できるのだ。
その威圧感、胸に湧き上がる恐怖は決して気のせいではない。
伯爵と言えば、真祖から数えて三代目。それこそ数千年生き延びてきた吸血鬼の中のエリートのエリートである
私は真祖でも、レベルはたったの2、雑魚だ。
そしてその私にも遥かに届かないジークさんでも、恐らく足手纏いにしかならない。バリンさんは最初から戦力外だ
最初から、中ボスの枠では収まりきれないような大物の登場に、私は戦闘態勢に入った。
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「はい、ワタクシは貴女様をお迎えに上がりました。」
「どちらに?」
「我々吸血鬼の本拠地にですよ。詳しいことはあちらでお話致しましょう」
本当に冗談ではない。
帝都に戻るに当たって、危険は殆どない。
俺の部隊は帝国兵の中でもトップクラスの猛者揃い、その俺を狙う野盗なぞいやしない
かと言って俺の政敵が何か直接仕掛けてくる可能性が低く、例え10倍の軍隊を連れて俺達を襲っても返り討ちできるとの自信がある。
それに彼女、シルフィもいる。男が言うのはダサいし、カッコ悪いかもしれんが、彼女の隣はこの国一番安全な場所なのだ。
でも、その算段は全て崩れた。他の誰でもないシルフィの影響で
伯爵位の吸血鬼。存在はほぼ伝説そのものとも言える、真祖の三代目。
数は知らないが、そんなに多くはいまい。でもその実力は当然他の有象無象と一線を画している
鑑定して、俺は息を飲んだ。
名前:ロウガ・ヤマト
種族:吸血鬼・三代目伯爵位
年齢:416歳 性別:♂
レベル:100 状態:狂化・記憶喪失・飢餓(軽)
筋力:461 抵抗力:554
速度:720 魔力:412
精神力:90 回復力:131
技巧:67 幸運:47
スキル:三代目、吸血衝動、神速、日光耐性lv5、状態異常無効、鮮血操作lv10、闘技lv10、闇魔法lv10、魔力操作lv10、限界突破lv7、毒生成lv10、使い魔召喚、シルフの加護
特典スキル:古竜語、蠱毒爆発、常時飢餓、狂化lv10
「お断りします。私はこの男と契約を交わしているので、彼から離れることはできません」
「ならばその人類も連れてくればいいでしょう。見たところ人類にしてはそこそこできる方ですし、せめて飢えを満たすくらいの働きはしてくれるでしょう」
「彼とは対等な関係です。見ず知らずの方に口出されるのは不快です。」
「ああ……!なんということでしょう、我が君は人類に洗脳でもされたのでしょうか、まさか家畜如きと対等など」
大げさに嘆いて、ロウガという伯爵吸血鬼は大きく揺れて、俯く
そして、毒々しい殺気を全身から放ち、ゆらりと姿勢を正す
「では、その人類達を殺せば、我が君は目を覚ましてくださるのですね?」
狂気に染めた両目が、その吸血鬼の心の状態を如実に示してくれる
警戒しているシルフィが、軽い溜息と共に、全身リラックスして、両手がだらーとぶら下げた。
構えはしない。あくまでも自然体でいるのが、シルフィの戦闘スタイルだから。
「では、後ろから刺されると堪らないので、まずは貴女様を素直にして差し上げましょう」
ロウガは非常に強い吸血鬼である。
回復力、精神力と技巧こそシルフィに遠く及ばないものの、その他のステータス、特にスピードは非常に突出している。
スピード50さえあれば、人間では早い部類に入る。それが100になっては、単純にそのスピードの二倍になる。
つまり、体感的には、100メートルを10秒で走りきった人間の二倍、5秒で走りきれるという非常識さだ。
実際、シルフィのスピードも恐らく激しく早い。100メートルなぞ、それこそ一秒もかからない。
それよりも200高いロウガは、正しく格が違う。人類が感じれば、10のステータス差は既に絶望的なのだから、その差を推して知るべし
まるで動く軌跡が見えず、二人の吸血鬼がぶつかる物音だけが聞こえてくる。
いや、正確には、
「ぐぅ!!」
ロウガが、シルフィを一方的に嬲る物音である。
双方が衝突する瞬間だけ、荒れる狂風は凪ぎ、シルフィがいとも簡単に貫かれる光景が見えてしまう
僅かの数秒、シルフィはすでに全身穴だらけで、地面に転がっていた。
普通の人間なら即死の傷を、数十回も受けて、爆発されて、もはや地面には美しい彼女の面影がない
ロウガの強さの秘密は、狂化lv10と蠱毒爆発にある。
まず、シルフィは状態異常無効をもっている。スキル的に一見毒使いに見えるロウガとは相性がいいように見える。
実際、スキルだけならシルフィの方が何倍も優れている。
それを覆すのは、狂化lv10である。
狂化:lvに応じ、自分の筋力と速度ステータスを上昇させる。最大値は100。状態異常狂化に陥る。(パッシブ)
三桁同士の戦いは二桁の人類じゃ想像もできないが、恐らくステータスの差も10などではそれほど大きく変わらない。
でも、狂化のlv10は、100の上昇をもたらす、それは三桁同士でも大きいすぎる。
そして、蠱毒爆発
蠱毒爆発:毒性を持つ存在を数倍に膨張させて、爆発させる。(ユニーク)
名前を見てもわかるが、彼は恐らく転生者だ。これは転生特典として与えられたスキルと見るべきだろう
実際、いくら毒を注いでも、シルフィは毒のダメージを受けることはない。
吸血鬼や竜などの生物の頂点に立つ生き物は、ほぼ全て状態異常無効を持つ。
でも、効かないからといって、受けてないわけでもない。毒は確実にシルフィの体の中に入った。
その時、蠱毒爆発を使ったら、どうなるのか
軽く、ロウガは手を叩く、
その音に応じて、シルフィの腕一本が綺麗に消し飛ばされた。
自己再生で治るだろうが、すでに瀕死な彼女は、もはや俺達を庇う余裕がない。
「では、姫君を待たせておりますので、家畜達の処分を済ませておきましょうか」
ゆっくりこっちの方向に目をやるロウガを見て、俺は柄にもなく死を想像した。
あの日、彼女を庇い、日本刀に貫かれた記憶が蘇る。
死は恐れない。すでに一度経験した事象だ、先が虚無でないことを知っている俺にとって、死は二回目の始まりに過ぎん。
ただ気掛かるのは
彼女を守りきれなかったことだけだ
彼女は、強かった。
前も、後も、今でも
俺は彼女を追いつこうと、武に打ち込んだのに
未だに彼女の背中も見せてもらえない
ここ数日の共同生活、彼女は普通に俺に武術を教えてくれた
“成長が楽しみです”と言って、自分が居座る頂上に来いを、期待してくれた
空腹の彼女が可愛らしくて、自分より遥かに弱い俺を頼ってくれた
あんまり迷惑かけられないと、血を吸われて情欲を持て余す俺を心配してくれた
近いはずなのに、結局彼女一人に任せて遠く行かせてしまう
背中を、任せてはくれないのだ。弱いから
今も、俺は
「ん?」
ロウガが静かな殺気を放ち、手を挙げようとする時、急に彼の耳がビクっと跳ねてしまった
薄く、薄く、気づかれないほどに、薄くした霧が、ロウガを優しく包み込む
そして一気に凝結する
おかしいと気づいた時点で、ロウガはすでにシルフィに拘束されてしまった
「おやおや、数刻は起き上がれないと思いましたが」
「死んでいないなら、多少の傷は気になりません」
自動回復lv10と、光魔法lv4。
そして631という、馬鹿げた回復力。
シルフィは、死にさえしなければ、すぐにでも回復できるほどの回復チートであることを、ロウガは知らない。
「無駄です。筋力がワタクシの方が圧倒的に高い、この程度ではワタクシを拘束することは不可能です」
「果たしてそうでしょうか」
ロウガが全身に力をいれて、暴れようとするが、何故か力がうまく入らず、筋力が自分より100ほど劣るシルフィに敵わない
それもそのはず、シルフィは武術を心得ている。だから、どの関節を極めれば、人が動けないことも熟知している。
だから、ロウガは自分のステータスの10分の1の筋力すら出せずに、ただひたすらもがいている。
シルフィがずっと拘束しているだけでは埒があかないと思ったのか、ふんっと力をいれて、ロウガの数箇所の関節を外した。
追い打ちをかけようと首の骨を折ろうとして、急にロウガが溶けてしまう
霧化だ。
拘束から逃げるに一番適している手とも言えるが、さっきのロウガは恐らく咄嗟のことで思いつかなかったのだ
流石に霧化されては拘束できず、蠱毒爆発を警戒してシルフィは俺の隣に飛んで距離を取る
段々ロウガもまた人型に戻り、だらーと外れた関節をくにゅくにゅと妙な動きで直しながら笑った
「いや、流石は我が姫君でございます。でも、その程度ではワタクシは止められませんよ?」
関節を治す動きこそ気持ち悪いが、奴の言うとおりでもある。
ステータスの差は大きい、それを補うためのスキルはあるが、捉えられない以上、光魔法も当てにならない。
そもそも、ロウガが本気を出して、俺達を真っ先に狙ってきたら完全にゲームオーバーだ
簡単に直せてはやらないシルフィは、神速を駆使して、未だ本調子ではないロウガを追撃している
でも局部部位の霧化ができるロウガには、まったくと言ってダメージを与えられない。
自分よりステータスが高い敵を出し抜くには、スキルしかない。
でもシルフィはこの世界に来てそう日が経っていない、スキルの運用で勝てるかどうか怪しい
だから、
ステータスでは吸血鬼伯爵に届かない俺を、シルフィが助ける。
そして、そのスキルへの経験と認識の不足を、俺が補う。
第二ラウンドだ。そのスカとした顔を歪ませてやろう、伯爵野郎!
すこしでも、シルフィがレベリングすれば完封できる相手ですが、あいにくlv2でした
みんなもちゃんとレベリング心掛けてくれたまえ!お姉ちゃんとのお約束だ!