チート青年、俺が気に入らない
前回概要:色々あって、壊れちゃったロウガ君。そもそもこいつは男か女か、わからなくなったな
つうかこれは前回概要じゃねぇ!!作者見切り発車もいい加減にしろ!!
目の前の吸血鬼。鑑定を使うまでもなく分かる
全身が憎悪、憤怒、殺意に包まれていて、何もかも全て闇に堕ちてしまっている
シルフィは鈍感ではあるが、負の感情にだけは敏感だ。毎日のように触れていただろうからな。
だから、シルフィ的には、引導を渡してやるというのがせめての情けだろう
まぁ、合理的だ。
漫画の中のように、闇堕ちした人間を次々と助けるのは無理だ
白を黒く染めるのは簡単でも、黒を白に戻すのは至難
ロウガヤマトはどんな経歴をもって、そこまで真っ黒に染まったのか
俺にはわからん。
そもそも、最初からド悪人の可能性だってある
殺してしまうのは一番利口で、それ以外は考えられない。
でも、俺は見えている。
前世から、見えてしまう。
表側の人間の顔と、内なる本音を
だから少し人間不信になったし、グレてしまったが
それは別にいい。
表と裏、似ている時もあれば、
完全に同じという人間もいる。
一番やりにくいのは、表と裏がまったく逆のやつだ
特に表で笑っているのに、裏で他人を平気で貶してくる奴とは話もしたくない。
ロウガヤマトも、真逆な方だ。
でも、性質はさっき言ったやつらと更に逆だ。
ロウガヤマトは、憎悪、憎しみ、憤怒や殺意、ありとあらゆる負の感情を身に纏っている
よくそれで狂わなかったなと思う人もいるかもしれんが、
狂っているからこそ、その暗き鎧を身に着けているのだ。
そうでもしなければ、本当の裏の感情を堪えられないから。
表の負の感情展覧会みたいなのと違って、裏の、ロウガの本物の感情は二つだけ
寂しさと、悲しさ。
見えてくる裏のロウガは、村娘のような装束した少女だ。
でも、彼女は全身ボロボロで泣いていて、心臓の所に大きな穴が空いている。
死ななかったのは、奇跡のようなものだ。
何が彼女の“命”を繋ぎ留めたかは知らないが、心がギリギリの所で、崩壊に至らず、未だに生き続けている
このままでは、何れ裏も表と同じに、悪意の集合体になるだろう。
もし、ロウガがそんな存在だったら、迷わずシルフィに止め刺させたのだろう。
でも、無理だった。
俺は、この世で一番嫌いなものは、不幸だ
特にそういう、純粋な心の持ち主が不幸になるのは耐えられない
一途な少女、
尻尾を振りながら近づいてくる犬、
ボロボロになってても、精一杯通り魔を引きつけている彼奴
それらが不幸になるのが絶対絶対許さん。
それこそ俺が命を投げ出してても、阻止しなければならないと思えた
バッドエンドは普通によくあることだ。
でも俺が関わっている奴らに、ハッピーエンドじゃないなんて許さん
「泣いてんじゃねぇよ……」
気づいていたら、俺も狼牙の裏の顔のように、ポロポロと涙が溢れてきた
「特典スキル 精神同調を獲得する条件を満たしました。精神同調を獲得します」
無機質なシステム音が聞こえる。無視する
俺はただ、悲しかった
俺に感化されたのか、最初は敵意丸出ししていた狼牙も静かに涙している。
ふいに、腕に柔らかい感触を感じた。
「……」
無言で、シルフィは俺の腕にしがみついて、泣いている。
いつの間に、集中も乱れてしまい、結界も消えた。
これで、ロウガがその気になれば、すぐにでも逃げられただろう。
シルフィは静かに泣いてて暫くは役に立ちそうにないし、俺は単体でロウガと対等に戦えるほどの力は持っていない
でも、ロウガは逃げなかった。
逆に、地面にパタンと、女の子座りして、号泣し始めた。
「貴方様!何故!何故ボクを置いて行っちゃうの!!」
誰かの名前を呼んで、感情が滝のようになだれ込んでくる
何故か受け止めてやらねばならんような気がして、俺も寂しさと悲しさを噛み締めていた。
シルフィに至っては、腕ではなく、今や俺の胸に顔を埋めて小さく泣いている。
いくつの時間が過ぎたのか
遂にロウガも俺も、シルフィも落ち着いて来た。
泣きつかれたロウガは地面に転がって、静かに眠っている。
俺もシルフィも久々の大泣きで目が腫れていて、シルフィは光属性の治癒魔法が効かないから自己再生を待つしかない。
無表情ながらも、少しジト目でこっちを睨むシルフィに少し謝り、頭を撫でてやった
すぐに顔が赤くなり、ぷいと顔を逸らしたが、別に撫でられるのを止めてこない辺りこいつもくっそ可愛い
俺達が泣いた理由はすぐに気づいた
特典スキル。
精神同調:相手の精神を自分のものと同調させるか、もしくは自分の精神を相手のものと同調させるスキル。
チートの限りを尽くしたような阿呆スキルと思う。
それは一見、ロウガの悲しみを肩代わりするだけのスキルのように見えるが
その実際、逆に俺の精神、感情をロウガに同調させることもできる。
つまり一種の洗脳とも言える馬鹿げた性能を持つスキルだ。
無論、持ち主の俺が目覚めた同時に、恐らく上位存在のシルフィも獲得しただろう。
だから、俺がロウガの悲しみと寂しさを、彼奴も一緒に受け止めてやった。
幸福を分かちあえば二倍だが、不幸を分ければ半分減する。
俺ほど使えないだろうけど、シルフィも加えれば、三分の一になる。
俺は、裏なる狼牙を強引に表に引っ張りだして、その狼牙が津波のような悲しみと寂しさに押され壊されないように、その感情をシェアする
洗脳のようなことだ。
俺が裏の狼牙を救ったのは正しいことかどうかわからない。
きっとシルフィのような、単純なる暴力で殺した方が一番合理的だ
それでも、俺はクサイセリフを言って、あいつの助ける
正義ではない、ただ酷く単純に
俺は、不幸が気に入らない。それだけだ
お気づきかと思うが、鑑定lv10はジークフリード前世の観察力の体現である。
感情移入しすぎなジークフリードさんなので、精神同調も同じ感じ。
そういう人間は悲劇が読めないのである意味損している