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吸血鬼伯爵、過去の闇

前回概要:勝ったど!あれ、ジークくん何言ってんの?頭沸いてんの?




ボクは、どこにもいるような普通な中学生徒だった


違った、どこにもいるようないじめられっ子だった


女顔で、気が弱く、背も小さい


狼牙とか、異常にかっこいい名前持ってて女に間違われるほどの少年はいじめの格好の餌食だったろう


あの日も、いつものようにパシられてて


でも、不良くんがボクが買ってきたものが気に入らないらしく


殴られ、階段から落ちた所まではっきり覚えていた


今には、既に風化された、遠い昔の夢だったけど、


実際に起きていたと理解わかっている



両親の名前も、通っていた学園の名前も


自分をいじめてた不良くん達の名前も、顔も全て忘れていた


ボクが、少年吸血鬼になって生まれ変わってから、416年


最初は、最初からやり直そうと思った


闇魔法を使って村娘に擬態して、小さな村で過ごした


お腹はどんなに食べてもいっぱいにならなかった、


出歩く時は大きな帽子をかぶっていないと辛かった


例え動物や魔物を襲って血を頂いても、渇きはちょっとだけ満足させられるだけで、空腹感は遂に満たされなかった


かと言って、人間を襲うのは躊躇われる


自分も昔は人間、しかも非常に弱い人間だったのだから


弱者を虐めるような気がして、捕食する気には到底なれなかった


でもたまには山賊など危ない人が出て来るので、そいつらは全部責任を持って拉致って来た


暫くすると血が乾いて死んじゃうけど、悪いことするような人間に慈悲をかけたりしなかった


なんだかんだ言ってボクも飢えでいっぱいいっぱいだったから



数年の歳月が過ぎて、村娘に擬態していたボクに親しくしてくれる人間も多くなった


表向きには体が弱いという設定なので、一応男にはモテたらしい


心配してくれる人がいるのは嬉しかったけど、男にモテたのはちょっと複雑だった。



更に二年、ボクは村の勇者と呼ばれる強いらしい男の子に恋をした


昔ボクを拾ってくれた村長の息子で、幼馴染みたいな存在だった


ボクに騙されているからだけど、ここ数年はボクにも興味を示してくれた


甘酸っぱいものだった


名付け親の村長から頂いた、リリィという名前を呼んでくれるだけで、ふわーと暖かい気持ちになれた


手を繋いで散歩する時、昔の悪い記憶が全て消し飛ぶような、幸せな気分になってた


いたたまれなくなって、村から離れて眠りに落ちる覚悟で自分の正体をバラした


彼はただ笑って“うん、知ってた”と返して来た


擬態のまま、彼の一夜を過ごした。もう男だった頃も、吸血鬼の身分も全ていらないと思えた


流石に本体は♂だったので、子供はできないが、彼と結婚して、互いを愛し合っていた



急に戦争が起きた。


神々を信仰する人間は、魔族全般に戦争を仕掛けた


なんとも教会のお偉いさんが、主神からお告げを受けたらしい


ボクも、彼も正直戦いたくなかった。


ボクは人間としての心をも持っていたし、


彼にしては、ボクと同じ吸血鬼に手を出すのを躊躇われるのだろう


でもそう簡単には行けなかった。


なんせ彼は勇者スキルをもっている人間の一人。


爵位持ちの吸血鬼に対抗しうる力を持つ少ない人材だからだ



一緒にどっかに逃げようと考えたこともあった


でも彼は拒否した。


いくらボクが吸血鬼でも、人間が殺されるのを黙って見ていられないから


人間を守る盾になると、彼は言った。


ボクには、大人しく帰りを待っているようにと


彼は戦場へ征った



アラクニド種の糸で、何れ帰ってくるだろう彼のために服を作ってた


絶対に破れないように、強靭なアラクニド種を態々狩って、糸を集めてきた


その頃、ボクは既に自分が男だった事実すら認識してないほど、女になりきっていたかも


ただひたすら、愛するかれが帰ってくるのを待っていて


かれを想って服を縫う。



戦争は人類の勝利に終わった。


本来なら人類程度のステータスじゃ負け確実と想っていたけど、まぁ勝って良かったと思う


彼の死の報告は伝えてきていない。つまり生きているってことだ


先日もこっちに届いた手紙をもう一度読んで、知らずと笑顔になる


“粗方片付いた、すぐ戻れるだろう”


貴方の手紙だけを拠り所にして、ボクはすっごく頑張った。


だから、さっさと帰ってきて


いっぱい抱きしめて、ボクの名前を呼んで?



「貴様か、盾の勇者を誑かしたという吸血鬼は」


「え?」



でも帰ってきたのは、十字軍の兵士達だった



彼は盾の勇者として活躍してきた


でも、一つだけ大きな特徴があった


それは、盾の勇者は、絶対に吸血鬼に止めを刺さない


同じ勇者だった、方術の勇者である少女は彼に理由を聞いたが、欲しい答えが帰ってこなかった


方術の勇者は盾の勇者に求愛もしたが、自分には妻が待っていると断られた


生まれた初めて思い通りにならなかった


方術の勇者は盾の勇者の虚を突いて、方術の掛かった酒で盾の勇者を酔わせた


そこで驚きな事実を彼女が知る


なんと、盾の勇者の妻は吸血鬼だったのだ



盾の勇者を手に入れたいなら、リリィは邪魔だ


だから、その事実を方術の勇者は教会に報告した。


盾の勇者は凄まじい戦果を出してきた。


今更吸血鬼を伴侶にしたことくらいで罰することはできない


そもそも、吸血鬼とは邪悪な存在で、きっと盾の勇者はその吸血鬼に騙されただけなのだ


そう思った人間共は、盾の勇者を騙して足止めしながら、


吸血鬼であるボクを殺す計画を企てたのだ



真実を聞かされて、夢が覚めたような気分になった


そうだ、ボクは日光を当てられない吸血鬼


でも彼は人間の英雄で、勇者なのだ


釣り合うわけなかった。認められるわけなかった


ボクは、彼の邪魔になったのだ



いくら下級吸血鬼と思われたボクでも、普通の十字軍じゃ手に負えない可能性もあった


だから、方術の勇者と光剣の勇者と兵の勇者も一緒にきた。


まぁ、いっかと思った


結構、幸せだった


彼と離れ離れになれば、きっとボクは狂ってしまう


ボクは寿命のない吸血鬼。何れ訪れるであろう別離に、今更気づいて怖気付いた


なら、彼を愛したまま、先に逝くのもいいのかもしれない



諦めたように目を閉じたボクに、


拘束の方術が走り、


光剣がボクを両断する勢いで振り下ろされ、


兵の引く強弓から吸血鬼殺しの光矢が放たれた。


でもいつまでも


終わりの痛みが感じられない



“お前たち、ダメじゃないか”



待ちに待った声が、少し弱かった


目を開けてみれば、満身創痍な彼が盾を持って光剣を防ぎ、


キレイに割れた腹筋が、光輝く矢に貫かれていた



「……どうにか間に合ったようだな、リリィ」


「な、ん、で?」


「盾の勇者、気が狂ったか!彼女は吸血鬼、ドラキュリーナだぞ!」


「ごめん、リリィ、俺が甘かったから、バレてしまったんだ」



後ろの同伴の呼び声に返事すらよこさず、彼はそっと近づき、ボクの頬を撫でた



「まぁ、これで勘弁してくれ。本当は、最後まで君を守り抜きたかったんだが、仕方ない」



もう、逃げてと


彼の口から出た最後の言葉と、力なくぶら下げた手に、ボクの中のナニカが切れた音がした



「え?なんで?動いて?寝っちゃだめだよ?」


ベタベタと彼の顔に手を触れて、小さくビンタする


「すごい怪我だよ、手当しなきゃ、もういつまで立っているの?横になりなよ?」


苦手とする光属性の矢が目に入って、苦しい気持ちが溢れ出て


思わずその矢を素手で握った


「ぐっ」


流石に天敵の光属性。非常に痛かったが、本気で自分の魔力を混ぜていたら、消えてなくなった


「な!吸血鬼が、素手て日輪の矢を!」


「ね?もう、矢は抜いたよ?早く、早く、服を脱いで、横に……」


酸っぱい味がした


知らずに涙をこぼしてしまったようだ


「ねぇ!ねぇってば!!!」


二度と動かなかった


二度と呼んでくれなかった



「ねぇ……」



たくましい彼の体を抱きしめた


いつもの反応は帰ってくれなかった



「うう、ねぇ……応えてよ……」



勇者達の攻撃だけじゃ、そんなに満身創痍になることはない


帰ってくるまで、どんな戦いをした?


何故、剣と槍にこれでもかって言うほど、傷付けられてたの?


何故、もう応えてくれないの?



「仕方ないな……ボクが寝かせてあげるから、横になってて」



涙を浮かべながらも、まずは愛しい人を抱えてベッドに置く


ボクより頭二つ分デカかったけど、吸血鬼の力を持てば別に難しいことでもない


もう、休む時、目を開いちゃだめだよ


優しく、目を閉じさせてあげて、ボクは後ろに振り返った。



「ボクなら、別に殺してくれてもよかった」



元々、死は二回目なので、怖くなかったし、彼の幸せのためならば喜んで命を捧げようと思った



「でも、だめだよ」



それでも



「ボクの夫に、手を出しちゃ」



擬態を解除して、ボクは可愛い少年に戻った。


服装は未だ彼の送ってくれたワンピースだから、女の子にも見えるけど


今のボクはもはや、彼の妻と言える存在ではなかった


真紅の瞳に、長い耳。


本来清純そうな外見と似合わずの、禍々しい魔力



「待っててね、すぐ、悪い人を片付けてくるから」



彼の唇にそっと重ねて、ボクと三人の勇者の戦いが始まった

ロウガ(リリィ)くんの年齢を変更いたしました

流石にノリで設定した4000年は無理がありましたな

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