ヤクザ吸血姫、憧れのあの人
昨日は他のやつを更新しました、全然違う内容ですが、宜しければどうぞ
前回概要:経験値を与えられて逆転だぜ!
「がぁ!!!」
伯爵位吸血鬼ロウガが焦る
彼は知っている、目の前の真祖の姫君は生まれたばかりである
いくら真祖が強かろうと、戦の経験が足りず、レベルが一桁の少女では百戦錬磨のロウガには勝てない。
狂化の状態は彼の理性を奪っても、彼の戦闘感覚を奪えなかった。
だから出会った瞬間に理解できた。
ああ、この方はまだまだ赤ん坊であると。
慌てて自分の腹部を霧化させ、次の瞬間、その霧が爆ぜた
吸血姫シルフィは別に魔法を使ったわけではない
ただの拳圧だけで、ギリギリ避けたはずのロウガの腹部の霧を爆発のように散らせた
物理無効とも言える霧化を上手く操れるロウガは、魔法無しの戦闘では無類の強さを誇る
シルフィでも、霧化は全身しかできないし、霧化の詠唱時間と凝結時間もロウガと比べて格段に遅い。
それでも、レベルアップして、最初の抱擁を済ませたシルフィは単純な暴力を持ってロウガの技巧を圧倒した。
存在しないはずの真祖14位を迎え入れ、人類への復讐を果たす
狂化をパッシブスキルのように使っているロウガにとって、それが全てだ
4200年の歳月を過ごし、それとほぼ同じくらいの孤独を味わった
常時飢餓というスキルのせいで、眠ることも許されない、伯爵の中で一番の落ちこぼれ
孤独に抗うには、狂気しかない。
でも気づいた時、吸血鬼達は全員息を潜めた。
理由はわかっているつもりだ。でもその胸の中に走る、狂おしい殺意はどうすればいい
手当たり次第、出会う人間を血祭りにあげた
誰一人たりとも活かして逃がさなかった。痕跡すら残さず消し飛ばした
無為のまま旅を続き、感じてしまった
遠い彼方に、一柱、真祖が生まれたと
その旗印があれば、他の眠りについた吸血鬼達を呼び起こし、
忌々しい人類種に復讐することも可能だ。
生まれたばかりで、吸血鬼としての技術もレベルも低いが、
何年もすれば、自分を超えた怪物になるだろうと思った。
でも、
手に入れる前に、自分を超えられると想像できなかったのだ
「ふん!」
「っちぃ!!」
霧化は物理無効とも言える究極な防御能力だが、別に無敵でもない
自分の体を水分に変えているわけだから、実際のところ打たれ弱くはなっている。
無論散られた所で、すぐに凝結できるから、普通の攻撃だとほぼ無傷と言っていい
でも、弱点もある
まず、気体の正体は小さな水だから、その霧を蒸発させられたら、その分吸血鬼の体の一部が消失する
そして、小さくても、ダメージを受けないわけではない。吸血鬼特有の高回復力で補っているにすぎない
更に、風などに吹き飛ばされれば、その分凝結して体に還元することが難しくなる
なら、爆風を纏った大砲のような拳に抉られたら、霧化した吸血鬼はどうなるか
逆転され、逆に自分がボロボロになったロウガは既に逃走を考えている
速度では既にシルフィに勝てないが、霧化して逃げれば、その一部を逃がすことができる
体の30%さえ残っていれば、いずれ自然回復で回復する。
でも、逃げることは遂に叶わなかった
みんなは覚えているかな、吸血鬼の弱点
今は黄昏で、そろそろ夜におちる。長い歳月をかけて日光耐性を鍛えてきたロウガにとって別に大したことではない
もう一つは、光属性の攻撃だ。
本来光属性が苦手なシルフィだが、転移ボーナスとして光魔法lv4を会得している
今はジークフリードを眷属に迎えたお陰で、光魔法のlvは6に上がっている。
lv6になって増えた魔法には、太陽結界がある
光属性の防壁を持って、対象を結界の中に閉じ込めるという魔法だ。
自分を閉じ込めば、太陽結界は攻撃を防ぐ盾になり
他人を閉じ込めば、それはたちまち外敵を拘束する檻にもなる
その結界が、火属性の業火結界や水属性の水瓶結界なら、力ずくで破壊できた
よりによって、それが吸血鬼が一番苦手とする光属性なのだ
でも、本来魔力が圧倒的に高いシルフィに使わせるべきだが、
本来吸血鬼だと光属性に弱い上、相性が悪い故使うこともできない
シルフィも吸血鬼なので、魔力を光属性に変化する時の効率が非常に悪い。
その上lv6の魔法だと少しだけ詠唱時間はかかるので、ロウガに気づかれて逃げられたら元も子もない
できなくはないものの、非合理的だ。
ならジークフリードが使うとどうだろう。
ただの人間、魔力量が三桁にも満たないジークフリードだとロウガを閉じ込められない可能性もある
でも、鮮血契約の増強は、その不利の条件を消し飛ばす。
シルフィのフェイントに集中したロウガが気づいた時に、すでに太陽結界の中にいる
勝負は、既に決しているのだ
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私、染岡竜胆は、暴力に囲まれて生きてきた
私に意地悪してきた男子は、家の連中の言葉の暴力によって潰され、転校した
私を誘拐しようとしたオジサンは、本物の暴力によって海に沈まれた
私達はヤクザ。
街の裏の平和を守り、街の秩序を暴力で維持する集団
お父様はいう、私達はいずれ地獄に堕ちるだろうと
お母様はいう、暴力は悪であると
でも、そういう二人は、正しく暴力の権化であった。
二人に倣い、私も暴力を極めようとした。
ただの試合なら、同年代の子に負けたことはなかった
このまま、暴力を極めていけば、私も両親のように、街の守護神になれた
でも、あの日、私が道場帰りで、通り魔に遭遇した。
恐らく麻薬をキメており、精神は既に狂気に飲まれていた。
証拠に彼は、大太刀をめちゃくちゃに振り回し、手当たり次第に人に斬りつけていった
ボディガードの銃撃が彼の肩を打ち抜く。
でも、麻薬の効果で興奮状態にある通り魔の行動は止まらず、逆に激昂してボディガードに突っ込んでいく
ボディガードは勢いに飲まれ、右腕が切断された
追撃をかまそうとする通り魔の脳天に、私の投擲した石が炸裂した
惹きつけながら、逃げていく。
麻薬状態の彼を倒すことは不可能だ。ただでさえ体格の差があった
できることは、救援が来る前に、彼を惹きつけることだけ。
なのに、周りの一般人はいつの間に逃げることをやめて、私達の戦いを観戦し始めた
彼らがもっと必死に逃げなければ、巻き込んでしまう
それを認識した私は逃げることをやめ、小回りの聞く体を利用して、通り魔を挑発し続けた
道場帰りで体力が大分消耗した状態で全力疾走は流石に無茶すぎたか、私はすぐに体力切れで蹴りをモロに受けてしまう
目の前に振り上げられた大太刀を見て、私は悟る
ああ、私は本物の暴力に殺されるのだと
死を受け入れようとした私の前に、男の背中があった
大太刀に貫かれて、血まみれになりながら、暴力を受け止めた
そして、火事場の馬鹿力を持って、通り魔の下半身を蹴り潰した
流石麻薬の効果でも耐えられなかったそうで、通り魔は悶絶し、ようやくやってきた警察に逮捕された。
初恋だった
命を助けられて恋に落ちたなぞ、我ながらベタと思っている。
でも、カッコよかった。
死した彼は、暴力と無縁な生活をしてきた
なのに、何故彼はあんな原始的かつ無慈悲な暴力に勝てたのだ?
何を持って、彼は暴力を超えたのだ?
私はわからなかった。
彼を追って、彼のような犠牲者が二度とでないように、今までの倍の努力をした
麻薬も取締も厳しくした。
それでも、私はただ相手以上の暴力を振るったに過ぎなかった
ジークさんに会った時、なんとなく彼の面影を思い出した
貧血で、お腹が空いて狂いそうになって、彼に抱きしめられた時、なんとなく彼の匂いがした気がする
寝ぼけて、彼が目の前にいるのをわかった時
生きててくれてたんだと、初恋の彼に重ねた
私は暴力の塊だ。
それこそ、ジークさん曰く一人だけで帝国を滅ぼせるほどの暴力だ
でも、その暴力を、ジークさんは何かを使って自分の盾にした。
確かに進んで関係ない人間を襲う気はなかったが、
ジークさんがあの時抱きしめてくれなかったら、私は血を求めるただの修羅になってたろう
その後も、ジークさんは私という暴力の塊を、上手くに帝国の盾に変えた。
懐かしい匂いがする
もしかしたら、彼は私が求め続けた答えを持っているのかもしれない
太陽結界に閉じ込めたロウガに止めを刺すべく、私は両手に爆炎の魔力を纏わせる
例え霧化されても、炎をもって霧を蒸発させれば、何れロウガは消えていなくなる
敵は、暴力で潰す。
今までそうしてきた。
でも
「待ってくれ。シルフィ」
今まさに暴力を振るわんとする私を止めた
私の眷属、下位の存在、私に抗えないはずのジークさん
彼の言葉に、何故か私は逆らえなかった。
「ロウガ、我が軍門に降れ」
「?」
ジークさんはロウガを勧誘する
無理に決まっている。
殺意ただ漏れしているロウガは敵だ
敵は暴力で潰す。
他の選択なんかなかったはずだ。
「ご冗談を、人間に仕えるくらいなら、死んだほうがマシだ」
ロウガ本人も、敵意を剥き出しにして、ジークさんを睨んでいる
目には目を
暴力には暴力を
吸血鬼には、吸血姫による深き眠りを
私は意を決して、再び魔力を練ろうとする
でも
ジークフリードは、
あの人と同じ悲しい笑顔でそう言った
「なら、何でお前はそんなに悲しそうに泣いているんだ?」