3.【侵入者撃退】
従者ってのは本来暇がないぐらい主人に拘束されるはずなんだがなぁ……。
フラン様が館の主人というわけでもないし、私は基本的に咲夜と比べると自由に行動できる時間が多い。
ちなみに、お茶会で喋りつかれたフラン様は今、自室で昼寝をしている。
「今日だけは絶対に屋敷に入れませんよ!」
「なんだ? グータラ門番にしては気合が入ってないか?」
そして今、私の前で魔理沙が紅魔館に侵入しようとしている。
……よりよって今日、来なくてもいいのに。念のために先ほど美鈴に一声をかけておいたが、正解だったようだ。
「蒼波さんが託してくれたこの扉……今日だけは絶対に守り切って見せる!!」
いつもならとっくに侵入されているのだろうが、今日は弾幕ごっこにまで発展する様だ。
寝ていても門番としての仕事をこなせるのが美鈴の凄いところだが、一度侵入を許した魔理沙相手には幾分か甘いところがあるからなぁ。もう何度忍び込まれたか。
それにしても………。
「どっちが勝つのかしらね」
ちなみに私が此処にいるのにはそれなりの理由がある。が、それは置いておこう。
それと先ほどの話、正直なところ魔理沙と美鈴では魔理沙が圧倒的に強いだろう。それほどに魔理沙の努力とその実力は凄まじい。美鈴が弱いわけでも努力していないわけではないが、魔理沙のそれは常人の範疇を超えているのだ。
お、どうやら始まる様だ。使えるスペルカードの枚数は……五枚か。
いつものように綺麗な弾幕がぶつかり合う。だが、今日は様子が違った。
「一気に押し切らせてもらうぜ! 恋符『マスタースパーク』!!!」
「え!? ちょ、ちょっと早くないですかーーー!!」
一際濃い弾幕の影で魔理沙が八卦炉を構える。その中心部分には強力な魔力がその密度を高めていく。
なんの用意もしていなかった美鈴は、もろに、その巨大なレーザーを受けてしまった。まあ、あれなら一日いい食事をさせてやれば治るだろう。問題は魔理沙だ。
確かに美鈴が若干隙だらけだったが、勝負の序盤なんてどこだってそんなものだろう。だが、魔理沙は一気に美鈴を攻め落とした。これは何か裏があるとみてもいい。
「もしかして美鈴が新しいスペルカードを……?」
頭の中でふとそんな可能性が思い浮かんだ。だが、あまりにも現実性のない話だ。そもそも私が知らない情報をどうやって魔理沙は仕入れたのだろうか?
「うっ、流石に初手マスパはなかなか辛いぜ…………。さあ、次はお前だ!」
まだ体が温まっていない状態でのマスタースパークは流石に辛いのか、苦しそうに肩で息をしている魔理沙…………。
?
え?
「私もやるの?」
「何のために私があんな無茶な勝ち方したと思ってるんだ!!」
ああなるほどね。私がいるから余力を残したいけど、そこまで余裕を見せて勝てる相手ではない。けどギリギリの状態で私に勝てるわけない。
まあ、確かに初手でマスパを打てば少しの反動と引き換えに、すぐに決着をつけることが出来る。なかなか賭けっぽい考え方だ。そもそも当たるとは限らないし。私との勝負では自分の反動が消えるまで時間稼ぎでもする気だったのだろう。
「……とまあこんな風に考えていたんでしょう?」
「全部お見通しだったのかよ…………。あの時の借りを今返すぜ!!」
そういえばこの前の異変で相手したのって魔理沙だったっけ。あの時は発展途上で楽勝だったなぁ……。
…………そ、そりゃあ負けるわけにはいかないよ? ただ、さっきのマスタースパークはいなせる気がしないんだが。なんか威力が桁違いだし。この前みたいな展開は望めないだろう。
果たして勝てるだろうか?
「魔理沙」
確かに貴女は成長した。
かつて互角だった相手すらも打倒してなお私の前に立つ。
それは貴女の強さの証であり、また貴女の努力の証だろう。
「だけど…………貴女は私に勝てない」
「……前から言いたかったが、お前はいきなり雰囲気が変わるよな」
もう、言葉はいらないだろう。
ちなみに私は弾幕に空気を固めた弾、空弾を多用するのだが、それを放つと同時に、魔理沙の魔力弾に防がれてしまった。ハンディがある割には素早い反応。どうやらこんな程度じゃ小手調べにはないらしい。
残った空弾は地面に向ける。思ったり威力があったのか予想に反してかなり大きい礫が巻き上げられる。ふむ………。これだけあればそれなりの防御にはなるだろう。
「そんなものまとめて吹き飛ばせばいいぜ!!」
うっわ。勇まし過ぎやしませんかねぇ魔理沙さん。
こりゃあ、どうしようもない。私は魔理沙と同じ様に魔力球をぶつけることにした。あまりコレを使うとあとで切り札用の魔力が消えてしまうからとっておきたかったんだけど、まあ仕方ない。
こっそり能力で追撃用にいくつかの空弾を作り上げておく。今度はちゃんとした性能の奴だ。
「まあ、お前なら簡単に防ぐよな」
「そうでもないわ。魔力を使ってしまったんだもの」
ま、これぐらいで問題が起こるわけじゃないんだけど。やはり、上限が少ないのだから出来るだけ消費は抑えた方がいいだろう。
それにしても、危うく美鈴の二の舞になるところだった。魔理沙め、本当に腕を上げたな。
ほいっと。
「これはさっきのお礼よ。回符『空廻円舞』」
大気をゆがませるほどに密集した空弾が渦を描く様に魔理沙へと向かう。生半可な攻撃では渦に流されその効果を失いより渦を拡大させるだろう。そのかわり、着弾までには時間がかかるが、さて、どう防いでくるのやら。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!!」
ですよねー。
私の予想通りのスペルカードを魔理沙が使った。星型の弾幕がばら撒かれ、どんどん私の弾幕を打ち負かしていく。
やっぱり魔力弾とかずるいなぁ。私が作った空弾とは威力は桁違い、耐久力も全く違う。唯一対抗しうる速さだって普通に使ってりゃ互角レベルだし。
「お前相手に長期決戦する気はないぜ! 喰らえ、『マスタースパーク』!!」
うわぁ、早速ですか。
先ほど見たよりも幾分か太くなったレーザーが私に迫ってくる。視界が光に包まれ、周囲の物が霞んで見えてくる。
それにしてもまさかこの至近距離で撃ってくるかね。いつだったか、「弾幕は火力だぜ!」とか言っていたが、このマスタースパークとかまさにその通りだと思う。私は速さを売りにしているタイプだから、正直魔理沙は結構苦手な相手だ。
「まあ、別に低火力なわけではないのですが。流操『ソニックストライク』」
極限まで薄く生成した小さな空弾を、いや空刃ともいえるソレを音速ちょうどの速さでマスタースパークへ向ける。巨大なレーザーと極薄の刃が衝突する。
すると、私の目の前でレーザーが真っ二つに切り裂かれていく。
私の両側ギリギリを通り抜けて。
…………って、
「髪が、髪がぁ~!」
焦げてる!!! 焦げてるよ!!
余りに気にしてないからいいけど。
「やったか?」
魔理沙。それはフラグだぞ。まあ、今の私は完全にマスタースパークに包まれていたし、勘違いするのも仕方ないだろう。
実際は無傷だけど(髪を除いて)。
「この程度で紅魔館の従者が倒れるわけないでしょ」
「そりゃあ、そうだよなあ」
ちょっとまって。まだ土煙晴れてないのになんで弾を打ち込んでくるん?
「手加減はしないぜ!!」
いや、あの、話聞いてます?
…………あー、もういいや。このトチ狂った盗賊魔法使いめ。
それにもうそろそろ帰らないとお嬢様の機嫌が……。
べ、別にね、怒ったフラン様が怖いとかはないんですよ? むしろその拗ねた表情とか膨らんだほっぺとか可愛い目つきなんだけど一生懸命睨んでくるところとか如何にも怒ってますアピールされるのは良いんですよ。
だけど、さ。
癇癪は勘弁です!!
「というわけで、早速ですが勝負に出させてもらいましょう」
ついでに土煙を流す。
視界が晴れたその先では、魔理沙が不敵にも微笑んでいた。
「おう、いつでもいいぜ!」
おーおー、勇ましい返事で。
こっちとしても魔理沙との勝負は楽しいんだが、お嬢様の機嫌と比べられるものではないな。それにさっきの今でパチュリーに会わせるわけにもいかないし、今日は大人しく・・・・帰って貰おう。
私が愛用する最高の切り札を、再び魔理沙に使用する。
「それじゃ、流符『トリック&イリュージョン』」
「なら……魔砲『ファイナルマスタースパーク』!!」
あれ? 魔理沙にそんなスペルカードあったけか?
ただでさえ魔理沙の代名詞、『マスタースパーク』は幻想郷でも有名なほどの火力がある。だけど、今彼女が構えるミニ八卦炉にはそれ以上の魔力が集まっているように見える。なら恐らく、先ほど以上の威力のレーザーが私を襲うだろう。
…………勿論私が何もしなければ。
同じ人間として彼女の若さ、いや、幼さであのレベルの魔力を扱うことには純粋に尊敬の念を感じる。実際私は彼女ほど魔法を使えないし、魔力の総量は足元にも及ばないだろう。
「だけど火力だけじゃ私には勝てない………前にそう言わなかった? 魔理沙」
「それでも、私にとっての弾幕は………
弾幕は火力だぜ!!!」
人一人どころか、建物すら凌駕するほどの超極太超高威力の魔力レーザーが轟音を立てて八卦炉から放たれる。土砂すら飲み込み大地を抉り大気が膨張する。
………うっわ。ないわ。あれはなしでしょ。無理だってアレ。防げるわけないないでしょう。何アレ? 凄いバチバチ言ってない? この前河童が言ってたプラズマ? 超高温? 私が撃ったスペルカード完全に消えてるし………。
あ、もうダメだ――――――。
その時、ふと私の姿が掻き消されていくのが見えた
―――――奇術『操り道化の姉妹人形』