十六
私が考えていた計画は、カムイを自分に取り憑かせて律たちと対峙し戦う、というものだった。
カムイが強いことは分かっていたけど、律たちはそう簡単にやられるたまではない。きっとカムイを極限まで追い詰めてくれる。そうなれば、恐らくカムイに隙ができ、内部からカムイを追い詰めることが出来るのではと考えたのだ。
しかし、ろくに計画を立てず行動してしまった自分に後悔する。
こうなる事は予測できたはずなのに、焦るあまり全てを見ないフリしてしまった。ちゃんと考えないといけないことだったのに。
カムイと対峙した時、律は怒りに任せて戦い始めてしまう。そうなれば、不安定になっている均衡は崩れ、鬼が顔を出していまう、なんてことは簡単に思いつくことだった。
後悔をしながら痛みを待っていたが、いくら待っても痛みのひとつ感じない。
そっと目を開けると、目の前にいたはずの律が居なくなっていた。
その代わりに、間近に地面がある。
訳がわからず辺りを見回すと、先程までは漆黒に包まれていた空間に様々な景色が写り、そして歪んでいた。
一体どうなってるの?
『グッ…… ク、ソ!! ナンナンダ、一体。グ、グァァァ!!』
苦しそうなカムイの声が聞こえる。
一瞬持ち上がった視線。その時こちらを見るみんな姿を確認できた。いつもの律の姿も。
よかった。何が何だか分からないけど、律が元に戻ってる。
自分の体を確認すると、眩い光を放っていた。そして、1番強い光を放っているのは、胸元のペンダントだ。
もしかして、このペンダントがなにかしたの?
『ペンダントのせいだな』
『ペンダント?』
微かに律と太一の声が聞こえる。しかもまさに今私が考えていた単語。
『俺が弾き飛ばされた時、カムイの妖気とは違うものに弾かれたんだ。あの感じは、魔除けの気配だった』
魔除け。そうか、ペンダントは確か律が後から魔除けをかけたんだ。
『そっか。葉月のペンダントには魔除けがかけられてたから、律の妖気に反応して弾き飛ばしたのね』
『あぁ。そして、俺の鬼の妖気も消しさって、鬼を引っ込めることができたんだ』
『じゃあ、今カムイが姉ちゃんの体から離れそうになってるのは、ペンダントのおかげなの?』
『あぁ。俺の妖気に触れたことで、魔除けの力が強まったんだろう。中に入り込んだカムイを消し去ろうとしてんだ』
ペンダントをギュッと握りしめる。
ペンダントが、律が私を守ってくれたんだ。
ペンダントのおかげでカムイに痛手を与えた。その証拠に、安定していたはずのカムイの心がこんなにも乱れている。
当初の作戦通りだ。かなり焦ったけど。
私は律たちから目を離し、散乱する映像に目をやる。
歪む景色に映る映像は、まるで記憶の欠片の様に様々なものを写していた。
泣き叫ぶ女性、逃げる男性、血塗れの死体……
あぁ、これは間違いなくカムイの記憶だ。
記憶たちはそれぞれから狂気めいた歓喜や恐ろしい程の殺戮衝動を放つ。これはカムイの感情なのだろう。
そういえば……
記憶の中を進みながら、ふと疑問が浮かぶ。
カムイは何故、人を殺すのだろうか。
今までは、ただカムイはそういうものだと思っていたけど、よく考えてみると少し引っかかる部分がある。
これまで何度か人にあだなす妖と対峙した。中にはカムイのように人を殺してきた奴だっていた。
だけど、そういう奴らとカムイを当てはめようとしてみると、同じとは思えないのだ。
他の妖はただの気まぐれでやっているの様な節があった。なんていうか、ただの暇つぶしで、殺戮はただの手段だったように思う。
だけどカムイの場合は、殺戮自体が目的であり、それが怨念めいたもののようなのだ。
何がカムイをそこまでされるのだろう。
何か小さなことでも見つけようと、吐き気のする映像を一つ一つ確認していく。
と、記憶と記憶の狭間に不自然な空間があることに気づいた。空間は僅かだが、そこから微かに感情が漏れ出している。これは……
「悲しみ……?」
悲しみと後悔、そして胸が締め付けられるような怒り。他のが放っているものとは全く違うものだ。
そっと隙間に触れると、感情はより強く感じた。指先から私の中へと感情が流れ込んでいく。思わず手を離した。
今の感じ、カムイに侵食されていく感覚と似てる。
恐らく、カムイの深い部分に存在している記憶を覗くということは、今よりもカムイと同調しなければいけないということなのだろう。
手をギュッと握る。
なに今更ビビってる。
自分で始めた計画をみんなを巻き込んでるんだ。私が怖がってちゃみんなに合わせる顔がない。
気合を入れ直し、もう一度隙間へと手を伸ばす。
『オ、ノレ。小娘、ガ!! 姑息ナ真似ヲシオッテェ』
突然、耳にカムイの叫びに似た怒鳴り声が響いた。胸のペンダントが一瞬強く光を放った後、粉々に砕け空間に溶ける。
欠片が溶けると同時に、記憶の映像が闇に染まっていく。目の前にあった隙間も黒に塗りつぶされた。
「あぁ!!」
一瞬のうちに起きた出来事に、私はただ情けない声を出すことしかできない。
恐らくカムイがペンダントを壊したのだろう。唯一の希望だったのに。
絶望に心が染まりそうになった時、辺りに私以外の気配を感じた。
パッと顔を上げて辺りを見回すと、闇は最初の時よりも薄く、記憶から放たれていた感情はまだ微かに主張を続けている。
そうか。原因だったペンダントは壊されてしまったけど、生じた歪みはそのままなんだ。
まだ終わったわけじゃない。
手を伸ばす。
さっき一瞬触れた感情は覚えている。感じる感情の渦の中から目当てのものを探し出し、そこにそっと手を触れた。
闇から流れ込んでくる記憶と感情を、今度は抵抗することなく受け入れた。




