二
「はぁはぁ」
河原まで走って、二人で息切れしながらその場に倒れ込む。
「ごめんね。いきなり引っ張って來ちゃって」
「ううん。びっくりしたけど、すごく楽しかった」
笑う千恵に私も笑顔になる。
「疲れたぁ。こんなに走ったの久しぶりだよ」
「ふふ、私も」
クスクス二人で笑いながら空を見上げる。すると、手をギュッと握られた。
「ねぇ葉月」
橫を見ると、千恵が心配げに私を見つめる。
「律と何かあった?」
千恵の言葉にギクリとする。そりゃあ、あんな場面を見られたら心配されても仕方ないよね。
「京都からの帰り道くらいから様子がおかしいな、とは思ってたの。何かあった? 私でよければ相談にのるよ?」
強く握られた手の溫もりに、目頭が熱くなる。
「聞いて、くれる?」
私は千恵に貉の幻で律の過去を見てしまったこと、それから何故か彼にたいしてよく分からない感情を抱いてしまうことを話した。人様の過去のことだし、自分でもよく分からないことがことが多くて上手く纏めて話せなかったけど、千恵は何も言わず最後まで聞いてくれた。
「と、いうわけなんだけど」
「そっか、そんな事があったんだね」
千恵に話して少し心が軽くなる。私、誰かに話を聞いて欲しかったんだな。
「律の過去のことなら、私も少し聞いたことがあるの」
「え、そうなの?」
「律がお酒を飲んで酔っ払ったとき、ポロっと話してくれたことがあるの。自分には、自分のせいで死なせてしまった人がいる。そいつの仇をうつために、生にしがみついてるんだ、って」
「自分のせい、か」
やっぱり律は、ゆりさんの死のことを自分のせいだと思ってるんだ。私から見たら、絶対に律のせいじゃないと思う。
「あと、その死なせてしまった人はとても大切な人だったんだ、とも言ってたの」
「そっか」
律にとってゆりさんは大切な人。それは多分今も変わらないんだろう。
ズキリと胸が痛む。
「ねぇ。葉月は律の過去のこと知って、怖くなった?」
千恵は起き上がり、泣きそうな目をする。
「もう律と一緒に居たくない?」
私も起き上がり千恵を見る。
確かに、怖くはあった。流石にあんな強烈な場面を見たら、誰だって思うはず。だけどそれは最初だけ。それも、あの場が怖かっただけで、律自身のことを怖いとは全く思わなかった。
「大丈夫、怖くないよ。それに、椿堂から出ていく気は全くないから」
律とどう接したら分からなくなってはいるけど、あそこから出ていこうなんて全く考えてない。だって、あそこはもう私にとって大切な家なんだもの。
そう伝えると千恵はホッと頬を緩めた。
「よかった」
そう言いながら私の手を握る。
「律ってね、葉月といるとすごく楽しそうなの。葉月に出會うまで、あんな律見たことなかったもん」
ニコッと千恵が笑う。
「だから、葉月さえよければこのまま律と一緒にいてほしいなって思うの。葉月と居ることは、律にとって絶対に良いことだから」
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千恵と別れ、なんとなくそのまま帰りずらくて十和子さんの家まで來てしまった。
流石に連絡なしに來ちゃったのはまずいよね。でも、十和子さんにも相談にのってほしい。でもいきなりは失禮だし……
悩みながら家の前をウロウロしていると、ガチャリと扉が開いた。
「あら、葉月ちゃん」
出てきた十和子さんはビックリした顔をする。彼女はよそ行きの格好をしていた。
「どうしたの?」
「あ、いや。少し用があったんですけど、そんな大したことじゃないので大丈夫です。十和子さんお出かけですよね? すみません、また出直してきます」
帰ろうとすると、腕を摑まれた。
「大丈夫よ。もう出かける用事はなくなったから」
「え?」
十和子さんはニコッと微笑む。
「さぁいらっしゃい。お茶を飲みながら話しましょう。今日はケーキがあるのよ」




