表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
椿堂物語《完結》  作者: アレン
三章 少年と神隠し
14/72

 私達は、明瞭組の本拠地らしい屋敷に連れてこられた。そこそこ大きな家で、中には沢山の男達がいる。

 私は奥の部屋に入れられ、太一君と離ればなれになってしまった。


「さて、どうしたものか」


 いつも通り、計画なんて全くない。何とか抜け出して、太一君を見つけないと。だけど、外には見張りがいて、簡単には出られない。

 部屋を見渡してみると、隅の方に数人の女の人が。みんな膝を抱えている。

 もしかして、この人達って行方不明になった人? 帰って来た人もいるけど、まだ見つかってない人が何人もいるらしいし。


「あの」


 近くの人に声をかけてみる。だけど、私の声には反応せず、顔も上げない。


「貴女もここに連れてこられたの?」

「……」

「一体何があったの?」


 そう聞くと、女の人はゆっくりと顔を上げた。見えた顔は酷くやつれ、目にはほとんど生気がない。


「ばけ、ものが……私に、近づいて。それで、それ、で……」


 そこまで言って、女の人は頭を抱えた。


「イヤッ、来ないで! 近寄らないでぇぇぇ!!」


 そう叫び、うずくまって体を震わせた。


 バケモノ。一体何なんだろう。

 そういえば、親父が満足する、とか言ってたけど、何か関係あるんだろうか。それに……


 私は女の人から目を離し、辺りを見回す。

 部屋には妖気が充満している。この妖気は屋敷中に漂っていた。

 それに、ここの人はみんな、妖怪が取り憑かれていた。まぁ、妖怪にとってここは最高の場所なんだろう。


 この女の人達、助けてあげたい。

 どうしようかと考え、あることを思いついた。あまり気は進まないけど、今はこれしかない、よね。


 私は、目の前の女の人の肩を掴む。


「ねぇ、バケモノは貴方に何をしたの?」

「イ、イヤ……」

「近づいて、それから?」

「イヤァァァ!!」


 女の人は叫びながら暴れ出す。声は部屋中に響いた。

 この騒ぎに、外にいた見張りの男達が部屋に入ってきた。


「おい、何の騒ぎだ!」

「暴れるな!!」


 暴れ回る女の人を、二人がかりで止めようとする。私はその隙に、部屋を出た。


 ごめんなさい。絶対に助けを呼んでくるから。

 そう心の中で謝りながら、私は駆け出した。



 見つからないよう、隠れつつ進む。

 この家、迷ってしまいそうなくらい広い。てゆうか、既に迷ってる。一体ここは何処なんだろうか。


 角の向こうを伺うと、こちらに向かって走ってくる男がいた。


 どうしよう。ここじゃ隠れる所がないっ。

 あたふたしている間にも、男は近づいてくる。これは、絶対絶命ってやつなのでは?!


 もう捕まるしかないか、と覚悟を決めかけたが、男は角を曲がることなく、手前の部屋の襖を開けた。


三賀(みつが)さん!!」


 大きな声は、廊下中に響いた。


「なんだよ、うるせぇな」


 三賀と呼ばれた人の声は、聞き覚えのあるものだった。アイツ、三賀っていう名前なのか。


「三賀さんが連れてきた女が逃げ出しました!」

「あ゛ぁ?! どういうことだ! 見張りは何やってたんだよ」

「他の女が暴れだしたみたいで……」

「クソッ。まだここからは逃げ出してねぇはずだ。行くぞ!!」


 そう言って、三賀と大声の男は部屋を出て行った。彼らは奇跡的に私とは反対方向に進んでいく。

 私は胸を撫で下ろし、三賀のいた部屋を覗きこんだ。部屋の真ん中に、誰かが倒れている。あれは……


「太一君!!」


 駆け寄って、体を抱き上げる。顔は痣だらけで、はだけた服から覗く肌にも、殴られた痕がある。

 アイツ、ここで太一君のこと殴ってたのか。

 怒りで歯を食いしばる。


「は……づき、さん……?」

「太一君っ」


 頬を撫でると、太一君はホッとしたように頬を緩めた。


「動ける?」

「は、い」


 太一君は、少しふらついたが、しっかりと立ち上がった。



 辺りに警戒しつつ、慎重に進む。だけど、何処もかしこも男だらけで思うように進めない。

 横の太一君を見てみると、息が上がり苦しそうだ。


「ちょっと休憩しようか」

「え、でも」

「急いでも進めないしね。それに、私結構疲れちゃったの」


 笑いながら言うと、太一君も表情を緩めた。


 見つかりにくそうな場所を見つけ、私達は並んで座った。

 さっきは冗談で言ったつもりだったけど、こうやって息をつくと、自分が疲れていたんだと気づく。でもまだ頑張らないと。せめて太一君だけでも外に。

 そう思いながら、太一君を見つめる。ふと、ずっと気になっていたことが頭に浮かんだ。


「ねぇ太一君」


 声をかけると、太一君はこちらに目を向けた。


「話したくなっかったら、話さなくていいんだけどさ。太一君と明瞭組の関係ってなんなの?」


 太一君の目が見開かれる。

 太一君にとって、この質問は嫌なものだということは分かっている。だけど、どうしても気になった。


「僕の両親は、流行病で死んだんです」


 太一君はゆっくりと口を開いた。私は彼の言葉に黙ったまま耳を傾ける。


「その時、薬代とかでお金が必要で、明瞭組がお金を貸してくれたんです」

「うん」

「結局両親は死んじゃって、借金を僕が払うことになったんです」


 子供に借金を払わせるなんて。


「それから、明瞭組の人の言う事を聞いてきたんです」

「殴られたりするのも、いつものこと?」


 太一君はコクリと頷く。

 ほんと、最低な奴らだ。こんな子を殴ったりなんて。


「腕の痣もそう?」

「いえ、これは頭領に掴まれただけなんですけど、何でか消えなくて」


 消えない痣。何だか私の首のと似てるな。

 と、太一君が表情を暗くし、俯いた。


「だけど、僕は殴られて当然です。スリだって何度もしました。律さんの財布だって……」

「そんな、当然なんて」


 声をかけるが、太一君の瞳が暗くなっていく。駄目だ、このままだと、ここの妖気の影響を受けてしまう。

 私は太一君の手をギュッと握った。


「ねぇ、太一君は明瞭組から逃げられたら、何がしたい?」

「何が……」


 少し悩み、太一君は私の方をチラリと見た。


「普通の、生活がしたい」

「普通の?」

「はい。家族がいて、家があって、いてくれて嬉しいって言ってもらえる場所が欲しいです」


 太一君の望みは、ごく普通の人からすれば当たり前のものだ。こんなお願いなら、どれだけだって叶えてあげたい。


「じゃあ、約束しよう」

「約束?」


 私は太一君に微笑む。


「明瞭組から逃げられたら、椿堂においで」

「え……」


 太一君は、驚いた顔をする。

 ずっといてもいいんだよ、って言ってるんだけど、彼にとっては現実味がないのだろう。

 なら、私が太一君を解放してあげて、彼の願いを絶対に叶えてやる。


「約束よ。太一」


 太一は目を丸くした。


「名前……」

「本当は、太一も私達と砕けた感じに接して欲しいんだけど。それは約束を果たしてからね」


 ニコッと微笑むと、太一は恥ずかしそうに目を背けた。




「ここが玄関です」

「これは……」


 なんとか玄関まで辿り着き、様子を覗いてみるが、そこには何人もの男が集まっていた。ここを見つからず抜けるのは無理だろう。


「ここの他に、外に行けそうな場所ある?」

「あるには、ありますけど……」


 言いにくそうな太一。

 多分、他の場所もここと同じなんだろう。と、したらどうするか。


「太一、走れる?」

「え?」


 私は太一に向け、微笑む。


「ここから椿堂に帰って、律を呼んできて。話せば、後はどうにかしてくれるだろうから」


 まぁ、もし見捨てられたらどうにもならないけど。


「で、でも、葉月さんは……」


 心配そうな顔をする太一に、私は頭を撫でてあげる。


「大丈夫よ。何とかなるから」


 ニッと口元を上げ、私は玄関の方へ出て行った。

 飛び出して行くと、全員の目が集まる。


「お前は!!」

「おい、人を集めろ!」


 騒ぎ出した男達を横目に、私は玄関とは反対の方向に走った。


「ま、待て!!」


 走り出した私を、男達は追いかけてくる。振り向くと、玄関には誰も居なくなった。これなら行けるだろう。

 頬を緩め、私は足を速めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ