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第8話  スマルクの町5  「稽古」

よろしく願します。

 そして下へ降り、裏庭へ行く


 刃引きの剣でも危ないから、皮の装備をして裏庭へいくと、そこには、カルティさんだけでなく、ティファさん、ゴルドアさん、エフィルさんがいた。リリは買い物で出かけているのでいない。カルティさんが皆に話をしたら、興味があって観戦することになっていた。さらに、勝手にティファさんとも試合をすることになっていたので、2人とも事前に装備をしている。すると、ゴルドアさんが、


「来たな、ミツヒ。練習というよりも本気の試合をするぞ、しっかりやれ」

「えー、危ないですよ、刃引きとはいえ怪我するじゃないですか」

「だからエフィルがいるんだよ、怪我はすぐ治る」


 エフィルさんを見ると、ウフフ、と笑って小さく胸辺りで手を振っている。


(あー、エフィルさんの回復魔法か。見てみたいけど)


「それに相手は女性だから……」


 と口を濁したら、カルティさんが俺を睨みながら、


「なんだ? 女だから何だ? 私は剣士だ、私には手加減無用だ。むしろミツヒが弱くて怪我するのが怖いんじゃないのか?」


 そのやり取りを見ているゴルドアさんも、


「大丈夫だよ、ミツヒ。2人共強いぞ、このスマルクの町なら上位片手に入るよ、胸を借りるつもりで思い切りやってみな」

「わかりました。胸をお借りします、カルティさん。お願いします」


 カルティさんを見ると、顔を赤くして、手で大きい胸を隠すように、


「む、胸を貸すのは、べ、別にこの胸じゃないぞ、胸を貸すというのはだな」

「いや、知っています、カルティさん、大丈夫です」

「そ、そうか、ならいいんだ」


 ティファさんが、ジト目でカルティさんを見ている。

 ゴルドアさんが納屋を指さして「よし、好きな剣を選んで持って来い」と言ったので納屋に入り剣を選ぶ。俺は自分の使っている剣に近い、中型より少し長い剣を選んだ。また、俺の皮の装備を見て、防具も中から選べと言われたが着慣れたものがいいからと断った。

 まず、ティファさんと向かい合う。ティファさんはカルティさんと同様の、昨日見た剣と似ているロングソードだ。


 2人共構える、そして俺が、


「では、行きます」


と連打で撃ちに行く俺    「キンキンキンキン」受けられ、

連打で返すティファさん   「キンキンキン」  受けて

連打で撃ちに行く俺     「キンキンキンキン」受けられ、

連打で返すティファさん   「キンキンキン」  受けて

ちょっと強めに撃つ俺    「キンキンキンカカカ」

 「クッ」と後ずさるティファさん

踏み込んで連打する俺    「キンキンキンキキキ」

 「グッ」と踏ん張るティファさん

その一瞬を見逃さず下から剣を「カンッ」とティファさんの剣をかち上げ、剣が宙に舞う

「そこまで」とゴルドアさん 「参りました」と腰が落ち手をつくティファさん。


 手を差し出してティファさんの手を引っぱり、お越して、


「ティファさん、大丈夫ですか?」

「ハァハァ、怪我もなく問題ないです。ハァハァ、ただ、手が痺れています」

「すみません、ティファさん」

「おいおいおい、ミツヒ、なんだその強さは。ティファだって強いのに桁違いじゃねえか」

「日頃の鍛錬のせいじゃないですか、ゴルドアさん。それに、この辺の魔物退治もしてますから」


 ハァ、とゴルドアさんが額に手を当てながら


「次、カルティ。今の見てたろ。やるか?おまえがティファより強いのは知っているけど、手ごわいぞミツヒは」

「も、もちろんやります。む、胸をあげますから」

(何か違いますよ、カルティさん。あ、エフィルさん達は無視してる)


 俺もカルティさんも構える。間を開けずにカルティさんから、ハッ、と先に、


踏み込まれて連打が来る  「キンキンキンキンキンキンキンキン」受けて

連打で撃ちに行く俺    「キンキンキンキンキンキンキン」  受けられ

俺に反撃させない上下左右から渾身の連打が来る

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン」


 すべて受けきる俺。そして「そこまで」とゴルドアさん。

 俺が反撃する前に、剣を落とし、前のめりに崩れ両手をつくカルティさん。


「ゼェーゼェーゼェーゼェーゼェーゼェー、参りました。ゼェーゼェーゼェー」

「作戦は良かったが。やっぱりそうなるか、そうだよなあ。カルティが弱いんじゃない、ミツヒが強すぎなんだ。それに、今の試合で呼吸ひとつ乱れていないなんてな」

「大丈夫ですか、カルティさん」

「ハァハァ、大丈夫だ、ミツヒ。ハァハァ、完敗だ。胸を好きにしてくれ」

「へ?いや、何を言ってるんですか、カルティさん。別に好きにも何も、稽古の試合ですよ。それだけですよ」

「ハァハァ、私は構わない、構わないぞ、むしろ好きにしてほしいな」

「だから、何もしませんって。また稽古しましょう、カルティさん」


 横で見ていたエフィルさんが、あらあら、まあまあ、と両手を頬にあてながら、


「あー、やっちゃったわね。まさかミツヒが勝つとは思わなかったから言ってなかったけど、どうするの? ミツヒ。カルティの結婚条件は、自分を負かす男よ、それも圧倒的な強さでね。一応ティファの条件もそうだけど、ウフフ。ここにリリがいなくて良かったわ」

「え? これは公式ではないですよ、単なる稽古の試合ですよ、たんなる練習試合。で、何で今それを言うんですかエフィルさん、エフィルさん?」

(あ、無視された。)


 カルティさんとティファさんがこっちへ来て俺と握手をすると、2人ともちょっと顔が赤い。


「今後ともよろしくな、ミツヒ」

「よろしくお願いします、ミツヒ」

「はぁ、よろしくお願いします」


(なんだか2人の目がさっきまでと違っているぞ、おい。大丈夫かなあ)


 すると棘のある( 声 )が、


(滅ぼせばいいのです)

(滅ぼしますか)

(滅ぼしましょう)


(おいおいおい、どうした)

( )


 そして、ゴルドアさんが、


「で、ミツヒ、今のステータスはどのくらいあるんだ?」

「え? 知りません、何ですかそれ」

「ステータスウインドウは、見ていないのか?知っているのか?」

「それは攻撃魔法ですか?」

「違う、自分のステータス。つまり体力、魔力、スキルなどを見るものだ。基本は自分だけが見ることが出来る。その力量で自分に合った仕事をするんだ」

「やり方がわかりません。どうすれば見ることが出来るのでしょうか」

「コツがあるが、どう説明したらいいか。魔法は使えるか?ミツヒ」

「まったく使えません」


 どうしたものか、と悩むゴルドアさんに、ティファさんが声を掛ける。


「あの、親父さん。ギルドの、あの水晶を使って見ればコツがつかめるのでは?」

「そうだ、その手があった。忘れていたよ。ミツヒ、明日ギルドに行って水晶を使って確認して来い」

「あ、はい、行ってみますが、冒険者登録していない俺でも見ることが出来ますか?」

「それなら私が行こう、ミツヒ」

「そうだな、ランクB以上が同席なら見ることが出来る。カルティ、頼む」

「なら私も行きます」

「ティファもか、まあ1人より2人か。よろしく頼む」

「父さん、そろそろお店の準備よ、ミツヒも着替えて降りてきなさいね」


 エフィルさんが、パタパタ、と店に戻ると、続いてゴルドアさんも入って行く。


「今日はありがとうございました。明日、よろしくお願いします。では」


 2人と俺は各部屋に戻り、俺は着替えて店に入る。

 また騒がしくも、楽しい夜が始まる。

その夜。

 お客さんが入り始めて忙しくなる頃、カルティさんとティファさんが入って来て、テーブル席に座ると俺は、


「いらっしゃいませー、ご注文は」

「果実酒を二ついただこう、ミツヒ。それと今日の料理も二つ」

「はい、果実酒と料理が二つ。と」


 果実酒を出し、飲み始める2人。少しして食事も出すと、今日も何もなかったように、食べながら談笑をしている。


「リリちゃーん、麦酒くれー」

「リリちゃーん、麦酒4個―」

「ミツヒー、おつまみ二つと葡萄酒4個ちょうだーい」

「今日の食事5個―」


 店がいつもの様に騒がしくなり、忙しくなっていく。

 しばらくして、お客さんも減り始め、忙しさも一段落した頃。カルティさんが、


「ミツヒー。私と一緒に飲まないかー? ミツヒー」

「だめです、カルティさん。今は仕事中です。それに俺はまだ酒は飲めません」

「いいじゃないかー、ミツヒー。大丈夫だからー」

「酔ってます? あー、酔ってますね。飲み過ぎですよ」

「すまないミツヒ。カルティは、たまにこうなってしまうんです。ここなら親父さんや姐さんが居るから安心するんですよ。さすがに泥酔いはしたことはありませんが」

「苦労しますね、ティファさんも」

「にゃにをー? まぁだあたしは酔っていないぞー。おかわりだぁぁ、ミツヒー」

「はい、わかりました」


「ミツヒー、こっちも注文おねがーい」

「はーい、今行きまーす」


 他の注文を聞きに、他のテーブルに行く俺。再び飲んで談笑している2人。仲がいいんだな、楽しそうだ。


 お客さんも疎らになり、カルティさん達と女性パーティが2組。

 女性パーティから、葡萄酒の注文を受けて、両手に2個ずつ持ち振り返ると、立ち上がり、丁度こっちへ歩こうとしていたカルティさんが、フラついて、俺に向かって、トトトッ、と転びそうになる。俺の両手には葡萄酒があるので、手を広げ胸で支えようとしたら、うまくカルティさんが、俺の胸に両手をついて立ち直る。立ち直ったがちょっと勢いがあったのか、同時に俺の唇とカルティさんの唇が重なっていた。


(ん? なんだ、これは。キスか? うわっ、キスしているのか? 俺。ちょ、って、手が塞がっているから動けない)


 同時に後ろの席から ガタン、と椅子が倒れる音がした。チラッ、と横目で見たら、ティファさんが両手を口に当てて、目を見開いてこっちを見ていた。他の女性パーティも口をパクパクさせている。

 ゆっくりカルティさんの手が押され、離れると同時に、カルティさんも動揺している。

 いや、動揺というより、両手を下に指組して、モジモジ、しているが俺は、


「こ、これは事故ですから何でもないです、気にしなくていいですよ、カルティさん。俺は大丈夫ですから何もなかった。ってことで」


 酔っぱらっていたカルティさんだったが、酔いが醒めたのか、しっかりした口調で、


「いや、事故でも私はファーストキスだ。この年でもファーストキスだ。何も無くはない、正真正銘のキスをした。心に刻んでおくよ、ミツヒ」


 すると、後ろで座っている女性パーティが、


「えー、信じらんない」とか

「うっそー、マジ?」とか

「チッ、その手があったか」とか


 飛び交っていたが、気にしないでおこう。うん、俺は気にしない。

 注文されていた葡萄酒を持っていき、ジト目や羨ましそうな目で見られてすぐ、まだ立っているカルティさんに戻って謝る。


「すみません、カルティさん。大事なファーストキスが俺みたいな村人で」

「とんでもない。ミツヒで良かった。ミツヒが良かった。それでミツヒは初めてではないのか?」

「いえ、もちろん初めてですよ。する相手もいませんから、ハハハ」


 笑いながら手を胸辺りでヒラヒラと横に振る俺。すると、パアッ、と明るい笑顔をした後、ニヤニヤ、としながら、


「そうかそうか、初めてか。私は、初めてをミツヒにあげて、ミツヒの初めてを貰ったんだな、そうかそうか、フフフ」

「何か変な方向に向かってますよ、カルティさん。誤解されそうな言葉づかいはやめましょうよ」

「フフフ、いい嫁になるぞ私は。なあ、ミツヒ」

「だからダメですよ」


 言っているそばから、ツカツカ、と歩いてきたティファさんに、腕を掴まれ自分がいたテーブルまで連れて行かれた。

 ティファさんは、テーブルを、バンバン、と叩きながら、ニヨニヨ、しているカルティさんを前に「ずるい」とか「卑怯だ」とか「お前との関係は」とか「今度は私が」とか聞こえたが気にするのはよそう。

その様子を、カウンターの隅で見ていたリリは、呆然としていたが、顔を真っ赤にして、口を尖がらせ頬を膨らませて厨房へ入って行った。ティファさんは、あらあら、といつもと変わらない。ゴルドアさんは初めから無視している。


 ただ、俺には違和感があった。それは、何故かいつもは口を挿む( 声 )がしなかったから。

 それでも騒がしい夜は更けて行く。


翌日早朝


読んでいただき、ありがとうございます。

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