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第58話 タモンの村1   「復興」

翌日早朝


 村の建設ラッシュは、朝早くから始まっている。タモンの村の跡地以外の広大な土地には、制約をしてある。それは、建てられない建物は、理不尽な事や横柄な事、土地を勝手に売買、城や巨大な建物はダメ、と釘を刺しておいた。自分の家や商店、露店など個人経営の店はみんなと、話し合ってくれれば構わない、と承諾した。あと、門から入った外れに畑を幾つかと、宿泊所みたいな建物を頼んでおいた。それは、障害者施設だ。ルシファンの町で障害者の傷を治した事が噂で流れ、もしかしたら、と数人が馬車でこの村まで来たそうだ。諦め半分だったので、治せなくてもいいから何か働き口は無いか、と言われ、傷を治した3人組が小間使いで雇っている。金貨を追加していないのに偉いな。と言う事で、畑仕事をしながらそこに住めるようにした。もちろん費用は俺が出したよ。資金は十分あるし、足りなくなりそうだったら、また魔石を売りに行くだけ。ファイガとユキナは相変わらず俺に、スリスリ、している以外は、塀の外に行って魔物を蹂躙、いや討伐して遊んでいるから魔石は増え続けているしさ。


 そうした、バタバタ、とした日が数日続いたが、住人達に、話し合って問題なければ、好きなようにどうぞ、勝手に任せて家に戻った。落ち着いて来ると、ハネカの事を思い出し、しばらく屋敷に引き籠っていた。


数か月後

 落ち着きを取り戻した俺は、村を見に行くと広大な土地の約半分が建築されてきていた。

 担当を任せていた技術者の男曰く、タモンの村はルータの町からの街道は魔物が出ないし、村の周囲も魔物が居ないので安心して住める。空からの魔物の襲来も無い。そして何かあれば、英雄が住んでいる村だから、これからはこの村が発展するだろう。と、噂が噂を呼んでこうなっている。今や、建築土木関係を筆頭に宿屋から酒場、商店が繁盛しているし、技術者の長が、俺に期待されている、と、街並みや店などの配置を考え、乱立や孤立が無いように腕を振るっているので、綺麗な街並みが出来始めているとの事。その辺は俺には無理だから任せておこう。その技術者に、俺からくれぐれもよろしく、と伝えてもらった。頑張ってね。

 その後、障害者施設に行くと、担当者が決まっていて、俺に気づいた1人の茶髪の男が出てきて、


「初めまして、ミツヒさん。障害者施設の担当となりました。ガハラです」

「ああ、よろしく頼むよ」


 当面の費用として金貨200枚を手渡すとガハラが、


「初めまして、と言いましたが私の事を覚えていませんか? ルシファンの町の障害者施設で一度お会いしています」

「ああ、もしかして、そこの担当者だった?」

「そうです、ミツヒさんに感動して、出発した馬車隊を後から追いかけて行って同行し、今になります」

「じゃ、経験者だから大丈夫だね」

「はい、任せてください。現在は7人の障害者がいます。自分なりに考えながら畑仕事をしていますよ。この施設に入れるのはあと12人ですね」

「任せたよ、ガハラ。入りきれなかったらすぐに大きくするから入居は拒まずにな」

「はい、了解しました」


 その後、畑を見に行くと、片腕の無い人はまだいい方で、両足が無く、両手で歩き農作業をする人、片目で耳が聞こえない人、五体満足だが、感覚が無く物が持てない人がいた。慈善事業ではないが、宿泊は無料で自分なりに働けば1日銅貨5枚とルシファンの施設と同じにした。ガハラも、それ以上だと堕落する恐れがあるから、それがいいと言っていたしね。

 施設を出ると、ぐるりと新しい村の中を見て回る。すれ違う人すべての人から会釈やあいさつをしてきたので、いい加減疲れた。


そして俺がタモンの村に戻って半年後


 俺は何気なく家から建設ラッシュの町を眺めていると、まっすぐの街道をこっちに向かって歩いて来る2人の影があった。別に不思議な事じゃないから気にしないでいたら、タモンの村の跡地の中まで来たので、俺に用が無ければ入っては来ない事が多いので、誰かな、とよく見ると、俺に気が付いたのか手を振ってくる2人の女性だった。それも、エリセとエレミーヌさん。え? なんで2人で? 俺は屋敷から出て行くと、エリセが駆け寄りキスしてきた。その間、エレミーヌさんは知っているかのように何もしない。そしてエリセが離れると、今度はエレミーヌさんが近寄りキスしてきた。そして、満足したのか落ち着いたのか、ゆっくりと離れると、エレミーヌさんが笑顔で、


「ミツヒさん、もう待てないので押しかけてきました。ウフフ」


 それに合わせて、エリセもニコニコして、


「私も、早くミツヒ様のお嫁になりたいので来てしまったのですが。エヘヘ」


 俺は2人を見て、


「何で2人が一緒なの? 知り合いだったの?」


 すると、エレミーヌさん曰く、ダークエルフの里を出てタモンの村に向かおうとしたがあまり人とは接触したくない為、町を通りたくないので森の中を伝って、フェリナスも森からノエルの森まで来て抜けて行こうとしたら偶然同じ方向を歩くエリセを見つけ、話をするとタモンの村に行くと言う。だったら一緒に行こうということで、ノエルの森からエントアの町を通り過ぎ、スマルクの町とエントアの町の間の森の中を抜けて来て、スマルクの町からは街道を歩いて来たのだと言う。その道中でエリセが自分の生い立ち、俺に助けられたこと、嫁になる事を話すと、エレミーヌさんは途中から俺の話と辻褄が合って来たので本当の事だと思った。そして、エレミーヌさんも、生い立ち、俺と試合をした事、闇から助けられた事、俺の嫁になりたい事を話したと言う。エリセは、少し驚いたようだが、エレミーヌさんも嫁になるのだから、と、ハネカの事も教えてもらい、始めは驚いたが納得した。タモンの村が見えてくるまでには2人共、意気投合で仲良くやって行けそうだ、と納得したとの事。途中で何人かに、色目で声を掛けられたが、ミツヒの嫁です、と言ったら、すみませんでした、とペコペコ謝られ、門の順番を待っている時も、声を掛けられ、ミツヒの嫁です、と言うと、どうぞどうぞ、と一番先頭で通してもらったとの事。こりゃ、噂になるな、どうしたもんだか。

 外じゃなんだろうから、と屋敷に入ってもらったら、ここが私の新居ですねと、エレミーヌさん。この屋敷でミツヒ様とご一緒に、とエリセ。2人共気が早いんじゃないか? そして居間のテーブルで囲むように座ると俺が、最後に2人と会ったその後の話をした。魔族の国の話、魔物の襲来の話、王国の話をしたら、驚いていた。そして最後の魔族の討伐は悔しいなりにも終わったが、ハネカを失ったことを話したら、2人共自分の事のように、ワンワン、と泣き出した。俺もハネカを思い出して少しもらい泣きしたけど、しばらく泣いた後は、今の村の復興をしている事を話した。

 そして俺も決意をして、2人に、


「俺も決めたよ、2人と結婚する。でも村の復興やらで、あと1年は待ってほしい」


 と言ったら、今度は別の意味で、ワンワン、と泣きだし、


「やっと、お嫁になれる日が決まったのですね、ミツヒ様。嬉しいです」

「決めていただいて幸せです、ミツヒさん。よろしくお願いします」


 泣きながら喜ばれた。俺は続けて、


「まだハネカを忘れられない。俺にとってずっと一緒だったから」

「それは勿論です」


 そして承諾した2人はこの屋敷で住む事になり、部屋を選んでもらったら、俺の部屋は何処だ、と聞かれ、結局俺の部屋の右がエリセ、左がエレミーヌさんで落ち着いた。その後、遊びに行っていたファイガとユキナが戻ってきて、一緒に住む事を告げたら、俺の決めたことは一向に構わない、と言ってくれた。


 食事は作ってくれると言っていたけど、マジックバッグがあるから大丈夫だし、外の風呂も男女が別々に入れるように木の塀で間仕切りを造ってもらったので問題ない。タモンの村の跡地の風呂以外でも、技術者の人がこの造り方を見て何カ所かに共同風呂を造ったみたいだね。エリセとエレミーヌさんは一緒がいいと言ってきたが、それはダメだよ、と言って渋々だけど承諾してもらった。2人の着替えとかも少ないみたいだから、出来たばかりの商店で数日は必要な何着か購入してもらった。


生活して1ヶ月後


 俺は毎日、エレミーヌさんやエリセと鍛錬や試合をしてくれている。それは俺がたまに、ボーッ、として外を見ている時があるから、多分ハネカを思い出しているから、と俺に気を使って色々と時間をかけて忘れるようにしてくれているみたいだ。ありがたいな、2人共。なかなかうまくは行かないけど気持ちは嬉しい。でも、2人が居るときには分からないように、忘れている振りをしているけど。


そしてさらに1か月後


 朝から村が大騒ぎになっている。何事かと部屋から村を眺めると、大勢の人々が逃げるように俺の家に向かってきている。すぐに俺はファイガに乗って原因となっているらしい門に行くと。俺はため息をついて、


「ハァ、何しに来たんだよ、急に来るから大騒ぎになっているじゃないか、魔王」

「ワーハッハッ、すまんすまん、最近ミツヒが来ないから、リガエンがどうしても会いに行きたいと、駄々をこねてな。すまんが今日は泊めてくれんか?」


 魔王と女王の後ろから、コソコソ、と俺を見ているリガエン、ちょっと可愛いな。って、違うだろ、魔力か? ま、いつも泊めてもらっているから仕方がないと、


「いいよ、泊まって行きなよ。ただ、タモンの村の復興の途中だから何も、もてなし、は出来ないぞ」

「かまわんよ、ありがたいな」


 女王も、


「ごめんないさいね、ミツヒさん。よろしくお願いしますね。ウフフ」


 ん? 何か企んでいるのか? 気のせいだよね。

 その魔王とのやり取りを、遠巻きに見ていた人たちが、さすが英雄だ、とか、魔王と対峙している、とか、魔族も凌駕する、とか言ってきたので、この魔族は安心だから大丈夫だ。と見ている人達に向かって言ったら、ミツヒさんの前では魔族もひれ伏している、とか言ってきたが、もう気にすることを止めた。仕方がないので一緒に歩いて屋敷まで歩いていると、嬉しそうなリガエンが俺の腕に巻きつくように腕を組んできたので、違うだろ、と言ったら急に悲しい顔になり涙目になったので、可愛そうだから許してやった。後ろから王女が、そうそう、とか、そういう時は、とか言ってるし、企んでいる? 気のせいかな。それを見ていた人達が、ミツヒさんは凄い、とか、魔族の嫁だ、とか、3人目だ、とか言っている。ああ、噂って早いのね。と諦めたよ。リガエンも、ウフフ、と妖艶な笑みで俺を上目づかいで見ているし。

 屋敷に入ると、エリセとエレミーヌさんが知っているかのように仁王立ちして待っていた。魔族の話もしたからね。

 すると、リガエンが真顔で、


「お前たちがミツヒの許嫁か?」


 と言い出すと、エリセが真顔で、


「そうです、嫁になります、2番です」


 エレミーヌさんも、真顔で、


「ミツヒさんの婚約者です、3番です」


 と切り返され、涙目になるリガエンだが、後ろにいる魔王と王女が、ガンバレ、とか、負けるな、とか言ってるし。お前ら本当は魔族じゃないだろ偽物だろ。と思っていたらリガエンが、


「私もミツヒの嫁になりたい……4番になりたい……よろしくお願いします」


と、低姿勢で、ペコリ、と頭を下げた。それを見ていた2人は、笑顔になり、


「「 こちらこそ、よろしくお願いしますね 」」


 え? いいの? 俺の意見は? なんて思っているうちに魔族らはエレミーヌさん達に案内されて、ズカズカ、と居間に入って行った。ここにいる俺の立場はどうなる? 強いな、嫁達。って、違うだろ! まだ決まってないよ、思いっきり流されてるよ俺、がんばれー。


 その夜は、マジックバックから、ステーキや焼肉、魔族の国では出なかった、グロマーやパチカンの刺身やリーブーの照り焼き、フラットフィッシュのレイカの煮つけなんかを出して食べてもらった。それでも、美味い、と喜んでもらえて良かったよ。

 風呂は小さいし、男女別だよ、と言ったら、リガエンが悲しい顔をしていた。それにはエリセとエレミーヌさんも、うんうん、と同意するように頷いていたよ。なんだかな。


翌日

 魔王が、


「世話になったな、ミツヒ。久しく楽しかった」

「それは良かったよ、俺もたまには泊まりに行くよ。あの豪華な風呂はいいからな」


 女王も、


「いつでも来てくださいね、ミツヒさん。なんでしたらリガエンは置いて行っても」

「いやいやダメでしょ、それにリガエン1人魔族って可哀そうでしょ」

「ま、お優しいミツヒさん。大丈夫ですよ、そちらの2人もエルフとダークエルフですよね」


 振り返ると、エリセとエレミーヌさんは当たり前のように、リガエンと一緒に、服を買いに行く、と出かけて行ったよ。してやったりの王女は笑顔で、


「では、リガエンをよろしくお願いしますね、ミツヒさん。ウフフ」


 魔王も、


「頼むぞ、ミツヒ、ではサラバだ」


 と王女と魔王は隠していた翼を広げ、バッサバッサ、と飛んで帰って行った。なんだよ、飛んで来れるなら直接俺の家まで来いよ、わざわざ村に来て騒ぎを大きくして何が目的だ?

…………あ、やられた。

 一度魔族のリガエンを俺と一緒にくっ付いているのを回りに見て貰えば、その後は安心だからか? 王女の画策だな、もしかしたら頃合いを狙って飛んで来て見ていたのかな、まいったね。しかし、なんでみんな仲良くなるんだろう、不思議だ。

 その夜、3人は仲良く風呂に行ったが、出てきたときは少し違ったよ。エリセはとても悲しい顔をして、リガエンは嬉しいような悲しいような、エレミーヌさんは変わらず笑顔だった。何となく察したが、何も無かったことにしよう。


そしてリガエンも同居した生活も1か月が過ぎた。

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