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第57話 樹海       「討伐」

 夕暮れになっていたが樹海の奥に進んで行くと、木々が徐々に開けて来た。そして、そこにあったものは、見た事も無いくらい大きいドーム状のシールドだった。直径は何百mあるのだろうか、わからない。その中に守られているように蠢く多数の物体、それは魔物の群れが、ウジャウジャ、と入っている。

 ハネカ曰く、シールド内も魔法防御されているので完全ではないが、魔物の数5万体以上、オルトロスやステンノー、ミスリルグリズリーなど、今までより強い魔物も多くいる。

 俺はシバンの使役している魔物だと直感して、スロウソードを投げようとしたらハネカが、


【それは悪手です、ミツヒ様】

(なせだ? シールドを破らないと討伐できないよ?)

【ですが、今シールドを破ったらこの魔物の全てが広がってしまいます。私達が全力を出しても2割も叩けません】

(ああ、そうか5万体もいるんだっけ、忘れてた。いいとこ1万が限界か。その間にこれだけの魔物が一気にあふれ出たら世の中が無くなってしまうな、どうしたもんだか)


 シールドを見ながら考え込んでいると、そこにシールドの中の隙間から魔物を避けるように空間を作って1人の男が現れた。

 シバンだ。

 俺より先にシバンが、


「久しぶりだな、ミツヒ。お前を殺さなかったのは俺の最大の失敗だったよ」


 俺は拳を強く握りシバンを睨みつけながら、


「シバーンッ! よくも俺の村を!父さんや母さんを!村の人を!」

「ハハハ、そうか、やはりあの北の村が。なかなか手ごわかったよ、特に2人の男と女がな。魔物の半分はやられたよ。全力なら分からなかったが、後ろを守りながらでは後手になる。最後は全員焼却してしまったよ。どうだ悔しいか? ミツヒ」


 俺は、魔剣ギーマサンカを取り出して構えたが、シバンがシールドの中なので手が出せない。ファイガ達も座って見ているしかない。するとシバンが、


「もう、俺の力ではミツヒに勝てない事はわかっている。だから提案する。俺と手を組まないか? ミツヒ。そしたら世の中の半分をやろう。そこには一切手を出さない」

「お断りだ! お前は敵だ! 俺がこの手で殺してやるよ! シバンッ!」

「やはりダメか。なるほどな。まあギュンター達にはいい時間稼ぎをしてもらったおかげでこれが出来上がったよ」


 魔物の群れに目をやるシバン。

 そしてまた俺達に向き直して不敵な笑みを浮かべながら、


「ミツヒの希望は叶えられない」

「今逃げられても絶対に探しだし捕まえて殺してやるよ、シバン」

「それはどうかな、ミツヒ」


 シバンは持っていた剣を、グサッ、と胸に突き刺して、


「グハッ、これでお前の希望は一生叶えられないよ、ミツヒ。ハァハァ」

「な、 何をしている!」

「俺も、ハァハァ、この先どうなるかを見たかったんだがな、ハァハァ、お前に殺されるくらいなら自害するさ。ハァハァ、ミツヒの手でなく俺自身でな」

「クソッ! ハネカ! ヒールを!」

【無理です、出来ません。シールドで防御されているので回復魔法も使えません】

「クソッ、クソッ! クソーッ!」


 それを見ていたシバンが、苦しいながらも笑って、


「ハハハ、グゥ、最後は俺の勝ちだよ、ミツヒ。ハァハァ。その悔しがる顔を見られただけでもいいものだ、ハァハァ、これで心残りは無い、ハァハァ、いい土産が出来たな、ハハハ」


 そして、事切れたシバンが倒れると、空間が無くなり申し合わせたように周囲の魔物達がシバンを喰らい、喰らいつくし跡形も無くなった。

 それを見ていた俺は虚脱感が出て、膝が崩れた。シールドを見ながら、


「俺はどうすればいいんだ。シバンも殺せなかった。この魔物の群れも」


 一筋の涙が頬をつたって来ると、困った顔の俺にハネカが苦笑いをしながら俺に抱きつき、そして俺の顔の前で、涙を浮かべて苦笑いのまま、


【問題ないですよ、ミツヒ様。私の魔法で討伐しましょう】

(で、出来るのか? ハネカ。でも、シールドを壊すと)


 言い終わらないうちにハネカに遮られ、もう一度抱きつかれ、


【見ていてください、ミツヒ様】

(わかった、ありがとう、ハネカ。やっちゃってくれ)


 そして、ハネカがキスをしてくる。いつもより長く、ずっと長く。

 そして、立ち上がり、


【ミツヒ様、愛しています。ずっと、これからも】


 と言って、夜空に向かって飛んでいく。今までそんな事は一度も無かったのに夜空に向かって飛んでいく。俺は驚いて、


(ちょ、ちょっとハネカ。何処に行くんだ?)


 俺の声は届かなかった。そして、ハネカが見えなくなった、はるか上空からハネカの初めて使う焼失魔法の声が聞こえた。


【メテオーッ!】


すると、空から真っ赤に燃える隕石が降ってくるとシールドに衝突する。


「パリンッ、ズッガァァァァァァァァァァァァァーン!」


 もの凄い爆炎が立ち上り爆風が来る。俺達にはハネカのアブソリュートシールドが守ってくれていたお陰で爆風や炎は全く無く問題なかった。炎や煙がおさまると、俺達を守っていたアブソリュートシールドも消え、そこには魔物どころか何も無くなって、跡には巨大なクレーターが出来ていた。俺はハネカの飛んで行った方向を笑顔で見ながら、


(凄いな、ハネカ。やった、さすがだよハネカ、大好きだよ、早く降りといで)

【・・・・・】

(ハネカ?)

【・・・・・】

(ハハハ、な、何、冗談やっているんだよ、ハネカ。そんなことしているとキスしてあげないよ)

【・・・・・】

「ハネカ? ほんとに冗談だろ?」

【・・・・・】

「ハネカー! ハネカーッ!」


ユキナとファイガも、


(ハネカ様を感じられません、ミツヒ様)

(我もハネカ様を感じられません、主様)

「何だよそれ……そんな……そんな事って

……嘘だ……嘘だよね」


察したのかファイガ達も黙って座っている。


「ハ、ハネカー、ハネカー……」


 空を向きながら号泣した。

 しばらく泣いていたが信じられず、何かの間違いか、と少しは落ち着きも取り戻しつつ野宿する場所を探して、ファイガ、俺、ユキナと一緒になって就寝。

 その夜、夢の中にハネカが現れ、俺は喋ろうとしたが魔法か何かの影響か何も話せず、ただ涙が流れ、黙って聞くだけだった。夢の中のハネカは一度、あの最後の苦笑いをしたが、静かな顔で普通に俺に向かって話しかけて、


「ミツヒ様、焼失魔法は一度だけの魔法です。使用すると私が消滅します。でも、ミツヒ様の悲しいお顔は見たくないので使いました。怒らないでくださいね、エヘヘ。今までご一緒出来て楽しかったですよ、ミツヒ様。そして、愛しています、ご武運を…………いつか」


 あ、いけない、と言う表情で、手を口に当てて途中で話を止め、ぺこりと頭を下げて去って行き、スゥッ、と消えて行った。


翌日

 念のため、ハネカのステータスを見ようとしたけど、出てこなかった。俺のステータスを見ると、体力、貰ったスキルは同じだったけど、心眼に愛されるもの、から、心眼、に変わっていた。

 ファイガ達に、目的も無くなったし従魔じゃなくてもいいよ、と伝えたが、このままでいいと言われたので、やめたいときは遠慮なく好きなときにどうぞ、と言っておいた。

 クヨクヨしても仕方がない、と、半分嘘もあるけど、ユキナ達に元気になった事を伝え、昨晩にあげなかった食事をして樹海を後にする。帰り道はいつものごとく、樹海も岩盤地帯も森の中も、軽快に爽快に、ビュンビュン、と走り抜け、一路ターナの町に戻った。

 ターナの町で、ガンドさんに会って、目的も果たしたのでタモンの村に帰る事を伝え、


「いままでお世話になりました。魔物除けの魔石は頂いて行きますが、残りの魔石はガンドさんが使ってください」

「こんなにもらえないよミツヒ、それに武器と防具と」

「いえ、それらもガンドさんのお店で売ってください」

「ミツヒの為に作ったものなんだが」

「すみません、ガンドさん。もう俺には必要ないので」

「ミツヒがそう言うんじゃ仕方がないか、しばらく飾っておくよ、英雄に依頼された武器と防具だってな」

「それは止めましょうよ、普通でお願いします。お世話になりました」

「寂しくなるが、頑張れよ、俺こそ、ミツヒの武器を作らせてもらって光栄だったよ、元気でな」


 ガンドさんの店を後にして、ギルドのカルバンさんにはお世話になったので、タモンの村に帰る事を伝えた。そしてターナの町を出て、タモンの村に帰る前に、ユキナ達と約束していた、オーシヤの町までひとっ走りして、町の中で俺、ファイガ、ユキナで美味しい魚料理を食べた後、露店や商店の新鮮な料理を全て買い込んだところで、


(よし、帰ろうか、タモンの村へ)

(( 畏まりました ))


 俺はファイガに乗って走り出し、追走するユキナ。オーシヤの町を後にして、ラグナ山を越えて、アルディラ王国が見えてくると、


(王国は苦手だったけど、カルティさんが変えてくれる事を期待したいな。左に行くと西の樹海。もう行く事は無いな。右に行くとシュナ村だ。いつか時間が出来たらまた会いに行こうかな)


 アルディラ王国を通り過ぎルシファンの町が見えてくると、


(ドレンガさんとシシーリさんにもお世話になったな。左に行くとスレギナの町だな。鍛錬最後のダンジョンだった。ウラカさんとテスタさんはどうしてるだろう)


 ルシファンの町を通り過ぎターナの町が見えて来て、


(一番滞在期間が長かった町だ、ガンドさん、カルバンさん、そしてシアナさん、お世話になりました。右に行くとトプの沼、そして、ナーベラの町、寂れた町だったけど活気が戻ればいいな。リオレッテさん、マリッサさん頑張ってね。右に行くとフェリナスの森だね、ダークエルフの長やエレミーヌさんは元気かな)


 ターナの町を通り過ぎ、王都エヴァンが見えてくると、


(左に行くとテスタロの町か、初めてファイガ達と共同踏破したダンジョンだ。楽しかったな。シオンさんとルルナさんは相変わらずだろうな。そして近くのベルタル山。初めて魔族シバンに会った場所で殺されそうになったっけ。ファイガとユキナに従魔になってもらったのもここだ。色々あった山だったな。左に行くとエントアの町だ、俺の初めてのダンジョンで踏破したんだよな。ドミニクさんとリーザさんにもお世話になったな。その奥にノエルの森だ、エリセは元気に鍛錬しているかな)


 ターナの町を通り過ぎ、スマルクの町が見えてくると、


(ゴルドアさん、エフィルさんお世話になりました。でも近くだから時間を作って遊びに行きますね)


 スマルクの町を通り過ぎ、ルータの町が見えてくると、


(俺の初めての修行が始まった町だ、薬草採取か、みんな懐かしいな)


 ルータの町を通り過ぎ、色々と思い出すと、また涙が溢れて来た。

 それは、全ての生活、修行において、行動はいつも

 心眼であり、

 いいパートナーであり、

 愛しているハネカと一緒だった事。


 思い出せば思い出すほど止めども無く涙が溢れ、前が見えない。ファイガに乗っているから進む事は問題ないが、追走しているユキナは泣いている俺の事を感じているが察している。ハネカとの生活と修行、俺の成長と共にハネカも成長していった。最後になって俺は、ハネカに頼ってばかりだった事を実感した。


 気を取り直しながらタモンの村に着くと、門が出来上がっている。

 俺は門から中に入ると、門番がいたが、ペコリと頭を下げられ通される。中に入ると……なんだこりゃ? 建設ラッシュのように数十軒の家が建てられている。完成している家や商店もある。村の中で働いている人達は100人以上で、俺達を見ても従来のファイガ達なのに怖がらず、知らない人なのに逆に手を振られたり、挨拶されたりした。

 その中から俺を見つけた3人の男が来た。例の3人組だ。事の次第を教えてくれた。それは、

 当初は、俺に雇われた人数で始めたが、こんなに広い場所だったのでこれからはこの村が拠点になるのでは? と人が人を呼び、ルータの町で通達を出して人を呼び、今になっている。俺は、そんなに給料は出せないと言ったら、タモンの村に住んでいいならいらない、と言ってきたので許諾したよ。本来のタモンの村の場所以外は好きにしていいよと、伝えたら大喜びで、これから会議だ、と去って行った。

けど、こんなに資材を使うって事は、森は大丈夫かな。と、エレンさん達のいる森に行くと、全く変わっていない緑の濃い、いい森のままだった。俺に気づいたエレンさんが、パタパタ、と飛んで来て、


「久しぶりですね、ミツヒさん」

「こんにちは、エレンさん。村の建設が思ったより早くて、資材調達は大丈夫ですか?」


 俺の肩に乗ったエレンさんは、腰掛けて嬉しそうに、


「全然、問題ないですよ、この倍あっても大丈夫です。ウフフ」

「さすがですね、まだかかりますがよろしくお願いします」


 俺は、エレンさんと別れ、自分の家に着くと、ハネカの造ってもらったドームの横に大きなお屋敷が建っている。俺は以前、ルシファンの町で打合せした建設技術者を探し、


「タモンの村の跡地には勝手に建てるな。と行ったはずだが?」

「いえ、あれはミツヒさんの家です。一番初めにたてました」

「え? 俺の家? なんで?」

「英雄のミツヒさんに、この町に来た者全員の気持ちです。そしてこの村に住まわせてもらうお礼ですよ、使ってください」


 俺の家だった。お屋敷だよ、お屋敷。部屋も沢山あってファイガ達の部屋も出来るよ。

 とりあえず気持ちの整理もつかないので、その夜は、ファイガ達とドームの家で食事して就寝。


翌日早朝

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