第56話 タモンの村から樹海 「探索」
翌日
俺達はターナの町から一路、タモンの村に行って南の塀に入口を造った。門は作れないのでそれを取り付けられるような開口部だけ。
その帰りには、ルータの町まで続く街道の中央線上に等間隔で魔物除けの魔石を埋めて来た。ルータの町まで来れば、後は安心してタモンの村まで来れる。これで下準備は出来たかな。
そして俺はファイガに乗って、ルシファンの町に向かった。ハネカはいい顔をしなかったが、渋々了承してくれた。そんなにドレンガさんが嫌なのかな。清々しい天気の中、軽快に爽快に走り抜け夕方にはルシファンの門の前に着き町の中に入る。夜までには時間があるので、ギルドに行き、シシーリさんに、
「こんばんは、シシーリさん、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」
「あ、いらっしゃいませ、ミツヒさん、お久しぶりです。え? 私でいいのですか? もちろんOKです。実は私もミツヒさんの事が」
「ち、違いますよ、シシーリさん。何か勘違いしていませんか?」
「え? 違うのですか? うぅぅ、残念です」
「先日、俺と喧嘩した4人組は今何をしていますか?」
「4人組ですか?…………あ、3人はこの町の障害者施設で働いていますよ」
それを聞いてギルドを出ると、夜になっていたのでキボウ亭に向かい宿泊する。部屋に入るとさっそく皿を出し、まずは、パチカンの刺身を盛ると、尻尾を、ブンブン、と振りながら食べ始める。次にグロマーの甘辛煮を盛ると、ガツガツ、と食べる。最後にドードー鳥の姿焼きを盛って終了。満足したかな。そしてユキナ達を部屋に置いて、俺は風呂で癒され、食堂に行く。
出てきた料理は、久しぶりにレッドボアのステーキだ。レアで焼いてありジューシーで美味い。ティマル母さんの料理を思い出しながら美味しくいただいた。
部屋に戻って、ファイガ達とじゃれ合って就寝。
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日朝
朝は普通に起きて、ファイガ達と一緒に町外れにある障害者施設に来ている。ここは魔物にやられたり、仕事などで大怪我をして治ってもまともに動けず、そういった社会復帰出来ない人達が1日銅貨5枚で働いている施設。いわゆる町の税金を使って生活を助ける為の福祉施設だ。
俺は施設を管理している人に話をして、4人組のうち3人を探し、内職している所を見つけると声を掛けて、
「こんにちは、先日はどうも」
俺に気が付いた3人組は驚いた表情で後ずさりして、
「な、何しに来た。俺達は何もしていないぞ」
「いや、色々と迷惑かけたから仕事でもどうかな。と思ってさ」
「こんな片手の無い状態じゃ、ろくな仕事なんかないよ」
「請け負ってくれるなら治してあげるけど、どうかな」
「ほ、本当か? 治せるのか? や、やる、やるよ、ぜひやらせてくれ」
(ハネカ、この3人を完治してやってくれないか)
【畏まりました、エクストラリカバー!】
手足が生えてくるように完治していく3人。完治した部位を見ながら大泣きして大喜びで騒いでいた3人は、気かすんだのか俺に何をするのか聞いて来たので、タモンの村で家を建ててほしいと頼んだら、喜んで受けてくれた。それを見ていた回りの障害者も治してくれれば、ぜひ手伝いたいと願い出てきたので希望者全員を治して、タモンの村の建設に携わってもらった。中には建築専門の人も数人いて助かったね。
当面の資金も1人金貨50枚を渡し、進行度合いによって追加支援する、と言ったらさらに大喜びだった。3人組の中で、ハネカに選んでもらった賢そうな1人に、木材以外の資材調達用に金貨1000枚を渡して状況を見て追加するようにした。持ち逃げするんじゃないかって? それは大丈夫。ハネカに調べて貰ったら完治した人全員正直者だってさ。一応念のために、逃げたら探し出して、と言い切らないうちに、大丈夫です、最後まで引き受けます、と言ってきた。資材運び用の馬車とかも購入して、使い終わったらみんなに提供する約束をしたら大喜びだったよ。馬車には魔物除けの魔石を取り付けたんで襲われることは無いだろう。後になって4人組のもう1人が話を聞いて一緒に行きたいと願い出て来たので了解したよ。家族で行きたいと申し出る人もいたんでそれも了解した。これで暫くは家づくりで賑わうかな。
出発準備が出来た数日後の朝
予想外の大変な事が起きていたんだ。俺の話をどこで聞いたのか、家を建てる技術者や土木の技術者も、村づくりの仲間に入れてくれ、と願い出て来たので受け入れ、結局、数十人の団体になっていた。もちろん金貨は支払った。ま、これで道中も安心かな。馬車も数台追加してお願いした。俺の描く村の構想や計画を思った通りに話をし、後は技術者に任せるから、と打ち合わせが終わって、先ほど元気に賑やかに出発して行ったよ。俺も団体がタモンの村に着く頃に、時間があったら行って見ようかな。
見送った後、ハネカが俺の背後から両腕を首に回して、
【チュッ、これから如何いたしますか、ミツヒ様】
(ああ、西の樹海に行こうと思う)
【魔族探しですね、畏まりました】
(ファイガとユキナもよろしくね)
(( かしこまりました ))
そして、ハネカの希望もありギルドには寄らず、食料を買い込んでルシファンの町を出た。ハネカはドレンガさんが相当苦手のようだね、何でだろう。俺達はアルディラ王国まで行って右に回り込むように、そこから西へ続く道を進んで行った。すぐに道は無くなり、聞いた通りの荒れ地になって行く。今回は魔族シバンと魔物探しの旅なんで、ファイガに乗っていてもいつもの速さでは無く、俺でも楽に走れるくらいの、周囲感知しながら、そこそこの速さで走っている。夕暮れには荒れ地から森の入口まで来ていた。
そのまま行く事も可能だけど、体力の温存も必要だから、とここで野宿をすることにした。ハネカの土魔法でドーム状の魔物除けの魔石を使ったセーフエリアを造ってもらい布団を敷いて就寝。
翌日早朝に森に入って行き、軽快に進んで行く。普通に進んだら、何日かかるんだろうと言うくらい生い茂っている。でも俺達は木々の間から木漏れ日がさす緑の濃い森の中を気持ちよく爽快に進んでいる。魔物も現れない中を1日進んだけど日も暮れて来たし、森もまだ続いているので、ここで野宿をした。昨日と同じように、ハネカに作ってもらったドームの中に入り皿を出して、リーブーの照り焼きを、ドン、と盛ると嬉しそうに、バクバク、と食べ始める。次に、グロマーの刺身に油醤を、タラリ、と掛けて盛ると尻尾を、ブンブン、と振りながら、ハグハグ、と食べる。最後はレイカの煮つけを出すと、アグアグ、と食べて満足したようだね。そこで俺はマジックバッグを確認するとファイガ達に、
(新鮮な魚料理が少なくなってきたよ、あと何回かで終わりだね)
ちょっと悲しい顔をしているユキナが、
(大丈夫です、ミツヒ様。でも、もしまた機会があれば食べたいです)
(我も大丈夫です、主様。肉料理も好きです)
(うん、無くなっても、またオーシアの町に買いに行けばいいんだからさ、今回の旅が終わったら買いに行こうな)
(( はい ))
話をしている間、ハネカは嬉しそうに俺の頬に、チュッチュ、としていたよ。俺も嫌いじゃないから、いいんだけどね。そして布団を敷いて、ファイガとユキナとスキンシップタイムを過ごし就寝。
翌日早朝からまた森の中を西に進んで行くと、森を抜けて岩盤地帯に出た。そこは見渡す限り岩盤だけで何も無い。遠くではロックゴーレムが数体歩いていただけ。岩も多少は隆起しているが、はるか先に森らしき樹木が見えるから、そこが樹海なのかな。何も無いのでいつもと同じ速さで、軽快に爽快に、ビュンビュン、と走って行くと、樹海が少しづつ大きくなってきた。途中、感知魔法をしているハネカに、
(どうだ? 反応はあるか?)
【いえ、ありません、ミツヒ様】
この樹海じゃ、ないのかな。と思いながら進んで行ったら樹海の境界に到着した。フワフワ、と立って周囲を眺めていたハネカが、
【この樹海は広大です。魔族の国の入口にある樹海の数倍はあります】
(レイリムの樹海の数倍か、それは広いな)
【おかしいです、ミツヒ様。魔物の気配が全くありません】
(全然いないのか、なんでだろうな。でも、探りながら奥へ進んで行くしかないな)
樹海に入って行くと日差しも入らなくなり、薄暗くなってくる。ハネカの言った通り、いくら進んでも辺りに魔物は全くいなかった。そして樹海を進むことしばらく、夕暮れになっているので、ここで野宿をする。昨日と同じようにドームの中で、食事をして布団を敷き就寝。
翌日も樹海探索をしながら奥に進んで行く。すると、奥から1体の魔物が現れた。よく見るとステンノーだったが、距離があるのでまだ俺達に気づいていない。俺はハネカに、
(あれは感知魔法を防御できるのか?)
【いえ、それはありません。そして今も感知できません】
(すると、気配は無くても魔物はいるって事なのかな)
【それも無いと思いますが、あの魔物が異常なのでは】
(よし、ファイガ、ユキナ、魔法攻撃じゃなく爪斬だけで魔物の動きを封じて)
(( 畏まりました ))
ステンノーに進んで行くと襲って来たので、ステンノーの動きを爪斬で止めている間に、魔剣ギーマサンカで切り倒し、灰にした。するとユキナが、俺に、スリスリしてきて、
(ミツヒ様、何故魔法攻撃はダメなのですか?)
(うん、念のためだよ。ここでユキナ達の魔法攻撃を出したら派手だからね。もし周囲に魔族がいたら、ここに居ますよ、って言っているもんだしね)
すると、西の奥を見つめているハネカが、
【ミツヒ様、樹海のさらに奥で違和感があります】
(どうしたハネカ、違和感ってどんな?)
【よくわかりませんが、何か靄のような、隠されているような】
ハネカと同じ方向を見るファイガとユキナは、
(我は全く感じません、主様)
(私も何も感じられません、ミツヒ様)
(何かありそうだな、行ってみようか)
俺達は周囲を調べるように樹海を進んで行く。樹木がどんどん濃くなって10m程先も見えなくなってくるが、さらに進むと少しづつではあるけど樹木が少なくなってきている。夕暮れにはなってきているが、もう少し、と奥に進んで行くと樹海が開けて来た。




