第55話 タモンの村からターナの町
早朝
俺達は今、タモンの村に来て、フェアリーが森から森へ移動出来る転移の宝玉がある場所にいる。辺りは完全な森が出来上がっている。いい森だよ。って……ハァ? まだ数日だよね。さらに奥には池? 沼?もあり、そこにはエレンさんが元気に飛び回っていたので、
「こんにちは、エレンさん、これはどうしたのですか?」
「こんにちは、ミツヒさん。森ですよ、ミツヒさんの言っていた資材を提供する為の」
「いえ、それはそれでありがたい事なのですが、何でこんなに早く森が出来たのでしょうか」
「私とエリーナ、それとドライアドの力です。ウフフ」
嬉しそうな、エレンさん。さらに俺の驚いた顔を見て満足そうだったよ。フェアリーはドライアドと協力すると森の成長の度合い、進行具合を調整できるので、今回は成長を急速に進めたとの事だ。確かに以前、トプの沼の森でユキナが木をなぎ倒した時に、ドライアドが直して回っていたよな。あんな感覚かもね。エリーナさんはさっきまでいたけど一度トプの沼に転移して帰ったんだって。後でまた来るってさ。 トプの沼からタモンの村に簡単に転移出来るからって、宝珠の力って凄いな。
俺は、する事があるからつまらないだろう、とファイガとユキナに言ったら、塀の外に遊びに行く、と言うので魔物の蹂躙、いや、討伐するんだろうから袋を持たせたよ。そして、ファイガ達が楽しそうに軽いステップで塀の外に遊びに行った後は、以前のタモンの村のあった場所に行き、ドーム状の家の横で、
(なあハネカ、ここに岩風呂みたいな穴を造れないかな)
【畏まりました、グランディッグ!】
すると、地面に腰まで入る穴が出来た。そして土の中にある岩をゴロゴロと移動させて岩風呂風の出来上がりだ。あとは小川の水を熱い岩盤地帯を通して引き込めば完了だね。それもハネカにお願いして、塀には引き込んだお湯を通す穴をあけて岩風呂に流した。うんうん、まだお湯は濁っているけど徐々に澄んでくるだろう。楽しみだな。
その後はエレンさんと話をして、今後、森の木を一定の割合で材料に使っても支障が無いようにしてもらい。談笑した後、もうそろそろお湯が澄んだ頃かな、と岩風呂を見に行ったら……ちょっと失敗だった。 それは排水が無いのでお湯が一杯になってあふれ出ている。ダダ漏れの状態で溢れているから一面が洪水だ。すぐにハネカに排水路を村の外から小川に戻るところまで造ってもらった。ふぅ、確認しておいて良かったな。あのままだったら森まで来て大変になるところだったよ。ついでだったから小川からもう一つ、飲料用の水の引込口も造った。
今度の造成は、将来の為に大体の感覚で道を造ってもらった。南の門を造る場所からまっすぐに村のあった場所までと、昔のタモンの村の中は覚えている限り忠実に作ってもらった。俺が昔耕していたジャガイモ畑や大根畑のあった場所も造ってもらった。ハネカの土魔法は、道や畑など、造りたいものをイメージをしながらやると出来るそうだ。凄いな。
俺は真面目な顔でハネカに、
(ありがとう、ハネカ。愛しているよ)
と言ったら、ハネカは俺に向き、下を見ながら目が泳いで、
【こ、こんな時に限って、ミ、ミツヒ様は…………わ、私は都合のいい女なのでしょうか?】
(そういう意味じゃないよ、ハネカにしか出来ないし、いつも頼りにしているからさ。あ、俺に出来る事で何かしてほしいことあるかな、いつもハネカに頼ってばかりだから)
真っ赤な顔をしたハネカは、モジモジしながら、
【で、では、キ、キ、キスして、くらさい。ください。ミツヒ様】
(ハネカは半透明だからなのか、俺には感覚は無いよ? それでもいいのかな?)
【か、かまいません、形だけでもいいのでしゅ、です】
(そうか、いいよ了解。んじゃ行くよ)
ハネカの立っている所まで行って、ハネカの唇のあるあたりに、チュッ、とした。
ハネカは涙目になったけど、とても嬉しそうだったので、
(早く言えばよかったのに)
【私はミツヒ様の心眼なので、ミツヒ様から求められないと出来ないのです。今回はやっとご要望がありましたので、私からお願い出来ました】
(なんだ、そうなのか。んじゃ、今後はハネカのお願いをいつでも聞くからね。出来る事と出来ない事もあるけど何でも言ってよ)
【ありがとうございます、ミツヒ様】
(ハネカはいつでもキスしていいよ。俺もハネカの事は好きだからさ)
【え、え? いいのですか? 本当ですか? ミツヒ様?】
(ああ、本当さ。いつでもどうぞ。でも程々にね)
と言ったら、さっそく、失礼します、と言っておずおずと顔を近づけ、チュッチュ、としてきた。俺には行為はわかるが感覚が無いけど、ハネカはキスしている感覚があるのかな。ハネカはとても嬉しそうだし、ま、いっか。
そんな事をしていたら風呂も澄んで綺麗になっていたので、誰もいないからその場で脱いでさっそく入ってみると、
(ファー、いい湯だよ。完璧だ。ありがとう、ハネカ)
【ウフフ、どういたしまして、ミツヒ様。ウフフ】
癒された後に、丁度ファイガ達も帰って来て、銜えていた袋を見るとゴロゴロと魔石が入っていたよ。またよく蹂躙、あ、いや集めたもんだね。でも、ファイガが、魔除けの魔石の効力でこの辺には魔物がいなかったって。それはいいね。でもどんだけ遠くまで行ったのかな。ま、聞かないでおこう。
それから数日はハネカと2人で道を造ったり、森と隔壁を造ったり、作っては見たが失敗して壊したり、変更したりと村の土台造りをしたよ。ちょっと楽しかったな。ユキナ達は一緒に居たり外に遊びに行ったりとそれなりに楽しかったようだね。一区切りついたのでタモンの村を後にして、ターナの町に向かった。
そしてターナの町に戻ると町中が何やら騒ぎになっている。大騒ぎではないが何だろう、とギルドに行って聞いてみる事にした。ギルドの中は騒々しいが、小さくなったファイガ達と入ると、俺を見る冒険者達が、どうぞどうぞ、と道が開く。そこを進んでシアナさんに、
「何かあったんですか? シアナさん」
「大変なんですよ、ミツヒさん。王国が大変な事になっています」
「ああ、魔物の襲撃ですよね。討伐したんでしょ」
「はい、詳しい話は、ギルドマスターに聞いてください」
シアナさんに手を引かれて部屋の前まで行くと、シアナさんが少し顔を赤らめて俺を見て、
「こんな時に不謹慎ですけど、ミツヒさんが良ろしければどうぞ」
振り返り大きい尻尾を向けて来たので、遠慮なくモフモフさせてもらったよ、ああ、いいな、モフモフ。
堪能した後カルバンさんの部屋に通され、ユキナ達は小さくなって入口に伏せて、俺はソファに座って待つと奥にいたカルバンさんが、
「ミツヒ、俺が話す前に、アルディラ王国の事で聞きたいことがあるんだがいいかな」
「何でしょうか、カルバンさん」
「魔物の襲撃には、ミツヒが大分貢献していた、いや、ほとんどミツヒと従魔に助けて貰った、と国民から激励が届いているのだが、王国の関係者の事は知っているのか?」
「いえ、俺は魔物の討伐で目一杯でしたから、城の中とかは入りませんでしたよ、終始外で討伐していました。そして、あらかた討伐し終わった時点でアルディラ王国を出ました」
すると、カルバンさん曰く、その日、王国の住人は、ミツヒの活躍で1人も犠牲者が出なかった。ただ、アルディラ王国の王城内で、国王と王族関係者が魔物に殺され、生き残ったのが第3王女と数人だった。このままでは王国が滅亡してしまうので急遽、王都の貴族、第1王子をアルディラ王国に迎え入れ、婚約して数日後に式を挙げ、王国を立て直すと言う。
それを聞いた俺は、国王は魔族との再取引に失敗したんだろうな。今後はカルティさん次第かな、大変だろうけどお幸せに。と思いながら、
「そうなんですか、色々と大変なんですね」
「世代交代して王国の体制が変わると、町はともかくギルドにも影響があるから冒険者も心配なんだよ」
「変わらなければいいですね。第3王女ですか」
「ミツヒは知っているのか?」
「え? いえ、知りませんよ。以前王城内で、チラッ、と見かけたぐらいです」
王国のこれから話を聞いた後に、カルバンさんに樹海の事を聞いてみた。するとカルバンさんは、書棚から幾つかの本を探し、古文書だろうかそれを見てわかったのか読み上げて、
「アルディラ王国から西に行くと名前も無い樹海がある。一度開拓の為に王国の依頼で、大規模なパーティを編成し、行ってきたらしい。荒れ地を進み、森を通り抜け、岩盤地帯を越えて片道1ヶ月かかった。結果、辿り着くまでに魔物も多く現れ、樹海まで行ってもそれ以外何も無く、近くならまだしも遠距離だから、なんの利益も出ないと言う事で開拓を諦めた。そして今になる。と書いてあるな」
「西の樹海ですか、ありがとうございます」
俺達はギルドを出て、食料を買い込みターナの町を歩きながらハネカに、
(なあハネカ、感知魔石の反応はどうかな)
スウッ、と現れたハネカが俺の後ろから首に両腕を回して、頬に、チュッ、としたみたいだけど感じない。そしてハネカが、
【反応はありません、ミツヒ様。先日の討伐で殲滅したのでいないのでは】
(なるほど、じゃ、回収しに行こうか)
【それもいいのですが、万が一もありますのでそのまま設置しておく方が得策かと】
(それもそうだね。ハネカの意見に賛成だよ)
【ウフフ、ありがとうございます、チュッ、ミツヒ様】
用が無くなると、スゥッ、と消えて行くハネカ。なんだか、ハネカも変わったな。自分に自信を持ったようで、俺も嬉しくなった。その後、ガイルの宿に向かい、厨房のケフィルさんが忙しそうだったので通り過ぎ部屋に入ると、従来の大きさになって、チラッチラ、と俺を見てくるファイガ達。はいはい、今出すよ。と、皿を出し、さっき買った、から揚げの素揚げを、ドン、と盛ると、サックサク、と食べ始める。次に味付けしたから揚げを盛ると、嬉しそうに、バクバク、食べる。最後は、ケッホの開きを盛って終了だ。ユキナ達は満足そうに、ゴロゴロしている。俺は風呂で癒され、食堂で、未払いの宿泊料をケフィルさんに渡そうとしたら、いつでもいいですよ、と言われたが支払った。そして、香辛料の効いた肉野菜炒めを食べ、シャキシャキモグモグ、と堪能した。アットホームだな、ガイルの宿とケフィルさん。その後、部屋に戻ってファイガ達とスキンシップタイムをして就寝。
翌日早朝




