第53話 魔族の国からターナの町
翌日早朝
ターナの町を後にして、俺はファイガに乗って魔族の国に向かって走っている。王都エヴァンを横目に、スマルクの町、ターナの町を通り過ぎ、気持ちのいい風を感じながら、軽快に爽快に走って行くファイガと、追走するユキナ。でも、樹海を通り抜け魔族の国に着いたときには、やっぱり夕方に近くなっていたよ。そして普通に魔族の国に入って城の中を通り、魔王の部屋に入って行くと当たり前のように魔王が、
「おお、良く来たな、ミツヒ。リガエンか? 赤い日か? リガエンならいつでも持って行って」
「わざとだろ、魔王。赤い日だよ、今度はいつだ」
「そうか、リガエンじゃないのか、残念だな。うむ、次の赤い日か」
椅子の肘掛けに指を、トントン、と打ちながら目を瞑って上を向いていると、目が開いて、
「ああ、わかったよ、あと7日だ」
「そうか、7日後の夜だな。なあ、魔王、今日は泊まって行こうと思うんだけどいいかな」
「おお、この城の良さがわかってきたな、ミツヒ。ゆっくりして行くがいい。リガエンも喜ぶよ」
前回と同じ部屋に通され、ユキナ達を置いて風呂に行く。相変わらず豪勢な風呂で、
(ファァ、いつ来てもいい風呂だなあ。フゥ、気持ちがいい。やっぱりほしいな、こういう風呂)
ハネカが、フワフワ、と立って周囲を見回しながら、
【ご安心ください、ミツヒ様。今日は誰も入ってこないようです。周囲には誰もいません】
(んじゃ、ゆっくりと温まるとしようか)
ここに来て初めて風呂でゆっくり癒されて部屋に戻り、しばらくして食事に招かれ食べる。隣でリガエンが妖艶な笑顔で嬉しそうに俺の口に料理を運び入れる。それを見ている魔王も王女も嬉しそうにしているのが腹立たしいが、
「なあリガエン、何か違うだろ。自分で食べるよ」
すると悲しそうな顔になるリガエンが、
「私の出す食べ物は嫌いか? 私はミツヒに食べてもらいたい。その後、私も」
「だから違うだろ、リガエン。自分の食事は自分で食べるんだよ」
話を聞いていないリガエンが、今度は上目づかいで俺を見ながら、
「いつ嫁にしてくれるんだ、ミツヒ」
その会話を聞いている魔王と女王が、
「いつでもいいぞ、ミツヒ」
「そうですね、なんでしたら明日にでも式を」
「しないよ! お前ら何か勘違いしてないか? 今日は魔王に用事があって、それを聞きに来ただけだよ」
女王も女王で俺の話を聞かないで、
「よく検討してくださいね、ミツヒさん。いい娘ですよ、リガエンは」
いい娘って、魔族だろ魔族。いい子も娘も何も無いだろ。と思っていたら、ハネカが入ってこなかったので振り向くと、ユキナ達の上でフワフワと、体育座りの格好のままで横になって向こうを向いて、のの字を書いているような。あー、いいかげん諦めちゃってるね、いや、いじけているのかな? ハネカさん。
色々とあったけど、美味しい食事だったんで満足かな。その後は部屋に戻って大きいベッドで、機嫌も治ったハネカも俺にしか見えないが一緒になってファイガ達とじゃれ合って就寝。
翌日
俺はリガエンに魔族の国を案内してもらった。ハネカは不服そうだったが、そうそう魔族の国は見られないから、とお願いして渋々納得してもらったよ。リガエンに聞いたところ、魔物の使役は上位の魔族だけが出来るらしい。散策し歩きながら俺は、
「リガエンは出来るのか?」
「出来ない。使役が出来るのは、ほんのごく一部の上位魔族だけだ。お父様やお母様も出来ない」
また、シールドも上位の一部の魔族だけが出来るとの事。じゃあ、シバンはそれだけ強いって事か。
魔族の国の中は、人が魔族に代わっただけで、王都や王国と造りは変わりは無い普通の街並みだ。使役している魔物も城の中に数百体がいるだけでそれ以上は使役していないらしい。それは魔物も食費が掛かるからだってさ。魔族の国も色々と大変なんだな。途中ですれ違った魔族は、俺を見ても何とも思っていないようで見ても気にしていない。むしろファイガ達に興味があるようだった。また、途中でリガエンの知り合いらしき魔族に会ったらリガエンが勝手に、俺の嫁になった、と言い出した時は参ったけどさ。ハネカも相変わらず体育座りをしたまま横になった格好で向こうを向いたまま、フワフワ、と浮いていたよ。
そして、ユキナ達も、ここの料理が美味しく居心地も快適だ、と言ってきたのでもう一晩泊まることにした。食事の時は、またリガエンが隣だったが気にしないで、美味しい食事をして、その後は気持ちのいい豪勢な風呂を堪能して就寝。
翌日早朝
魔王に挨拶して魔族の国を出る。心地いい朝もやの中を、ファイガに乗って走り出す。靄の中でも普通に苦も無く見えるように、ビュンビュン、と飛ぶように走るファイガ。ユキナも苦も無く追走している。 ルータの町、スマルクの町を通り過ぎ、王都エヴァンを通り過ぎようとしたときに、
(あ、ファイガ、王都エヴァンに寄って行きたいから引き返そう)
(畏まりました、主様)
するとハネカが、
【どうかされましたか? ミツヒ様】
(うん、資金はまだ余裕であるけど、マジックバッグに入っている魔石も多くなっているからギルドに換金しに行くよ。何度も行くのは面倒だからさ)
【なるほど、大量にお出しするのですね】
(そうだよ、町だと無理だろうからね)
そして王都エヴァンに着いてギルドに入って行くと、リースさんがいたので、
「こんにちは、リースさん」
「いらっしゃいませ、ミツヒさん。ギルドマスターですか?」
「いえ、魔石の買取りをお願いします」
すると、ガタッ、と椅子を引き構えるように、
「ミツヒさんが換金するくらいですから、数も多いのでしょうか」
笑いながら俺は、
「ハハハ、良くわかりますね、沢山ありますよ、リースさん」
リースさんが、引きつった笑顔になって、
「では、あちらの部屋でお願いします。ニッサ! ニーッサ!こっち来て、早く!手伝うのよ!早くーっ!」
久しぶりに、ニッサさんを見たよ。相変わらず綺麗だね。そして隣の部屋でマジックバッグから、ゴロゴロ、ドサドサ、と魔石を大量に、大量に、山のように出すと、2人共魔石の前で固まっている。まだ沢山あるけど可愛そうだし、この辺でやめておこうかな。そして、リースさんが、
「ミ、ミツヒサン、チョット、イイデスカ」
「何でしょうか、リースさん」
「ニ、ニジカン、いえ、コホン、失礼しました。2時間ほどお時間をいただきたいのですが」
「ええ、いいですよ、大量ですからね、お願いします」
その後、ギルドの中でユキナ達とじゃれ合ったり、撫でたりしながら2時間ほど待っていると汗だくのリースさんが部屋から出てきて、
「お待たせしました、ミツヒさん。こちらの部屋へどうぞ」
さっきの部屋に入って行くと、やり遂げて燃え尽きたようなニッサさんが椅子に項垂れていた。ああ、大変だったんだね、すみませんね。そして、リースさんが魔石の種類や金額を事細かく説明してくれたけど、わからないから、やっぱり聞き流して、金貨66036枚と言う事で了解した。支払いは白金貨にするか聞かれたけど、全て金貨で貰ったよ。そのままマジックワレットにいれたら、リーサさんが目を見開いて、初めて見た、とビックリしていたね。買取りの用もすんだし、王都エヴァンを出発してターナの町に着く頃には夕方になっていた。
俺はそのままギルドに行って、ギルドマスターのカルバンさんに、5日後に襲来があることを教えてガイルの宿に泊まった。部屋に入ると、さっそく皿を出し、ドードー鳥の姿焼きを盛ると、バクバク、と食べ始める。次にオークの焼肉をドンと盛ると、嬉しそうに、ガツガツ、と食べる。最後は、シルバーフィッシュの素揚げを盛ると、サックサク、と食べて満足したようだね。
俺は風呂に行って癒され、食堂で、周囲にチラ見されながらシチューを堪能して部屋に戻った。そして就寝。
翌日
魔族の襲来まで4日あるので、翌日俺は、トプの沼に向かった。森の中は緑が濃く、いい森になっている。トプの沼に着くと、俺が来たのが知っているかのように、フェアリーのエレンさんとエリーナさんが沼から、パタパタ、と出てきた。相変わらず綺麗な透き通った緑色の髪と眼の2人だね。近づいてきたエレンさんが、
「お久しぶりですね、ミツヒさん」
「こんにちは、エレンさんとエリーナさん」
「今日はどうしましたか?」
「ええ、実は」
俺は、タモンの村の相談をしに来た。それは、一部に森を造って建物の材料を確保したいけどどうしたらいいかと聞いてみた。するとエレンさんが、
「お手伝いしますよ、ミツヒさん。私達とドライアドで森を造りましょう」
「出来るんですか? エレンさん。でも、タモンの村は遠いですよ」
「確かに私達フェアリーは森を伝って行かないと移動は出来ません。でも、あるものを使って転移は出来ます」
すると、エリーナさんが一度沼に戻って何かを抱えて持ってきた。綺麗な球みたいで魔石かな? と思っているとエレンさんが、
「これは、転移の宝玉です。これをタモンの村の森にしたい場所に埋めてもらえると私達とドライアドは転移出来ます」
「そうですか、フェアリーは転移で移動するのですか」
「普段はしませんよ、ミツヒさん。それに、今転移できる場所は、ノエルの森とフェリナスの森だけです」
「え? でも以前、魔物が居て沼から出られないと言ってましたよね。転移すれば逃げられたんじゃ」
「いえ、沼の中からは転移出来ないのです。この森の宝玉のある場所まで行かないと出来ません」
「なるほど、それでは俺達がその宝玉をタモンの村に置いて来れば転移出来るんですね」
「はいそうです。私達が手伝えば、とても早く森が成長しますよ」
「ありがとうございます、エレンさんエリーナさん」
「いいんですよ、ミツヒさんは、恩人ですからね、ウフフ。でも、転移の宝玉の事は内密にお願いしますね」
「勿論ですよ、誰にも言いません」
そして俺はその宝玉をもらうと、トプの沼から一路タモンの村までひとっ走りで行って北の外れに設置してきた。次の日、それをエレンさん達に報告してすると驚いた表情で、
「ええ? もう行ってきたのですか? 早いですね。わかりました、私達も準備が整いましたらタモンの村に行ってみます、ミツヒさん」
「よろしくお願いします、エレンさん、エリーナさん」
これで、将来は建物の材料は確保できるだろう。と、ターナの町に戻り数日を過ごし、赤い満月の日を待った。
魔族の襲来の日




