第51話 フェリナスの森1
数日を過ごした早朝
今日もエリセにホールドされている。そして反対側には対抗するようにユキナが密着している。ファイガは隅に追いやられて寝ている。俺はエリセを起こして、
「エリセ、おはよう、朝だよ」
「おはようございます、ミツヒ様。こうして背中の広いミツヒ様とご一緒出来て幸せです。エヘヘ」
「それは良かったね、でもそろそろホールドを外してくれないかな」
「あ、失礼しました、残念ですが、離れます」
起きたユキナが不満そうに、
(グヌヌ、おはようございます、ミツヒ様)
(ああ、おはよう、ユキナ)
嬉しそうなハネカが、
【やーいやーい、ユキナ、いい気味だあ】
ユキナも、チッ、とか言ってるし、この数日、いつも朝からおかしなことになっているが気にしないでおこう。その後朝食を食べて、メアーネさんに挨拶して里の入口まで来ると、別れ際に泣きながらエリセにお約束のキスされて、ながーくされて落ち着いたら、
「行ってしまうのですね、ミツヒ様。また鍛錬します、早くお嫁さんに」
「あ、ああ、頑張ってね、また来るよ」
ずっと手を振って見送っているエリセ。そして霧が濃くなり見えなくなる。ハネカの周囲感知をしながらノエルの森を歩いて行くが、魔物はいない。先日の殲滅が効いたようだね。ノエルの森を後にして、快晴な天気の中を、ビュンビュンと飛ぶように走りエントアの町を横目に王都エヴァンを通り過ぎターナの町に着いた。門を過ぎ、ガンドさんの店に入ると職人で賑わっている中を、
「こんにちは、ガンドさん」
「おお、ミツヒ。魔除けの魔石が出来上がっているよ。それと中央に置く魔石もな」
「ありがとうございます」
その魔石をマジックバッグに入れるとガンドさんが、
「また村を造るのか?それも、はじめから」
「ええ、少しずつですがやってみます」
「何か力になってやりたいがな」
「十分なってもらってますよ、ガンドさん、今後もよろしくお願いします」
ガンドさんの店を出て、ギルドに行ったが情報は無く、ターナの町を出てタモンの村に向かった。ファイガに乗り、ビュンビュン、と飛ぶように走るファイガと追走するユキナ。ハネカは、移動の時には出てこないな。王都エヴァンを通り過ぎ、スマルクの町、ルータの町を過ぎてタモンの村、正確には村の跡地に着いた。辺りは暗くなり始めているので野宿だね。ハネカにドーム状のセーフエリアみたいなものを作ってもらって中に入ると快適な空間が出来た。そこで皿を出すと、ピタッ、とその前で動かないファイガ達。ごめんね、待ってたんだね、と、グロマーの刺身をドンとだし、油醤をタラリと掛けるとハグハグ食べる。次にリーブーの照り焼を盛ると嬉しそうにガツガツ食べる。最後に体長30センチ程のジーアーの塩焼きを10匹ずつ盛って終了。アグアグ食べて満足したようだね。その間に俺もブラックバードの串焼きを美味しく食べた。
久しぶりに布団を敷くと、ゴロンと横になってくつろぐファイガ達。俺もその中に混じって就寝。
(おやすみ、ハネカ。明日はよろしく)
【畏まりました、ミツヒ様】
翌日早朝
俺はハネカに、
(なあハネカ、以前の村より高く大きい塀みたいなものは出来ないかな、魔物が入ってこられないような、グルッ、と囲うようにさ)
【土魔法で宜しければ可能ですが】
(じゃあ、お願いするよ、ハネカ)
【畏まりました。グランウォール!】
すると土で出来た高さ4m程の切り立った塀が村の跡地を囲うようにせり上がって来た。グングンと広大にせり上がって来た。それを見て俺は、
(ハ、ハネカさん? 規模が大きすぎませんか? 村というより王都並みに広いんじゃないか?)
すると自慢げに仁王立ちになって、ニヤリとしているハネカが、
【ミツヒ様の村はこれくらいの広さが無いとダメです、ダメなのです】
一緒に整地された広大な平地にポツンと俺達がいる。なんだか寂しいね。ま、いっか。せり上がってできた塀は、カチカチで硬く、ツルツルで上りにくくしてあった。そしてその塀の上をファイガに乗って等間隔で魔物除けの魔石を置いて行き、終わるとハネカに土魔法で埋め込んでもらった。予定より広くなったが魔石は十分にあるので問題ないね。それと中央に置く魔石はより強力になっている。これは空からの魔物が来ないようにね。地面に魔石をおいてハネカに塔のように高く盛り上げてもらい出来上がりだ。俺の住んでいた辺りに、土で出来たドームのような家も作って部屋を間仕切り、住めるようにしておいたよ。ただ、誰も入れないように出入りできる門はまだ作っていないんだけどね。これで下準備は終わったから、ファイガに乗ってターナの町まで帰ったよ。
ターナの町に帰り、ガンドさんに会うと、
「ああ、ミツヒ。カルバンがギルドに来てくれと言ってたよ」
「あ、そうですか、行ってみます」
ギルドに行くと、受付のシアナさんがすぐに俺に走り寄り、腕を組んで部屋まで連れて行かれる。最近このパターンが多いな。そして、部屋までくると、シアナさんが、ニコニコ、と嬉しそうに尻尾を回して、どうぞ、と言われ、俺も遠慮なく、モフモフさせてもらって満足だったね。あー、いいな、モフモフ。この後景を見ていた冒険者の1人が先日シアナさんに同じことをしようとしたら、激オコで吹っ飛ばされたらしい。可愛そうに。
部屋に入ると、カルバンさんが、
「ミツヒ、待っていたよ。実はフェリナスの森にも魔物が出始めて、この町の近くの街道まで出てきたらしいんだが」
「あ、いいですよ、討伐に行ってきます。でも、それって依頼ですよね。俺、ギルド登録は無いですけど」
「構わないよ、ミツヒ。前回のノエルの森と同じで、俺の独り言だからな」
「ははは、そうですね、では早速行ってきます」
「悪いな、よろしく頼むよ、ミツヒ」
俺達はターナの町からフェリナスの森について、さっそく魔物の討伐を始めた。森の中には、リザードマンジェネラルを始め、ダークグリズリー、スケルトンナイト、オーガキングが多くいたね。数回だけキングミノタウロスがいたけど問題なかった。ファイガとユキナが楽しそうに、嬉しそうに、片っ端から、ザッシュザッシュ、と切り倒していったよ。ハネカに周囲感知してもらったんで隅から隅まで倒しまくって、森の中には1体の魔物の反応も無くなった。との事だ。君達はさすがです、いいんだか悪いんだか、俺の担当は魔石拾いだったよ。
霧が濃くなる先には魔物はいなかった。多分魔物も感覚が狂うのかもね。
その後、ファイガ達と森の中を歩いて奥まで行き、ハネカの方向指示で進み、ロロの宿に着いた。中には誰もいなく、里に続いている長い廊下の扉が開いていたよ。そのまま歩いて廊下を進んで行くと明るくなってくる出口をでると。
久しぶりの、ダークエルフの里だ。清々しい風が吹き、澄み渡る空。花が咲き乱れる美しい里。あの大樹も威厳があるように立っている。しばらくユキナ達と動かずに綺麗な花畑の丘で座って待っていると、2人のダークエルフが向かって来た。相変わらず綺麗な、長のヤオデさんとエレミーヌさんだ。
「こんちは、ヤオデさん、エレミーヌさん。魔物の討伐ついでに遊びに来ました」
俺を見た長の、ヤオデさんは普通に、
「随分と容姿が変わったな、相変わらず伝説の魔獣を従えて、さらに強くなったようだな」
「ええ、まあ、色々とありまして」
エレミーヌさんは潤んだ瞳で、
「素敵なお姿です、ミツヒさん。それに、以前、闇から助けていただいてありがとうございました」
「いえ、いいんですよ、エレミーヌさん」
「お礼は、私でどうでしょうか、今晩にでも」
「いやいやいや、別に気にしないでください」
ハネカが横で口を尖らせながら、
【ミツヒ様、だから。お前のような浅黒いエルフは嫌いだ、消えろ。と言いましょう、さ、早く】
(大丈夫だよ、ハネカ、何も無いって)
長も、ここでは何だからと一緒に丘を降りて、後でゆっくり話そう、と部屋に案内される。部屋に入り、ユキナ達は部屋でゴロゴロしているので、俺はさっそく風呂に行く。久しぶりの里の風呂は相変わらず、周囲を草木で覆われた露天風呂だ。やっぱり数頭の獣も警戒しないで入っているので一緒に入るが、以前と同じように俺をまったく気にする様子はないね。だから、俺も気にしないで入っているが、森林浴っていうのかな緑も多く気分もいい、うん、やっぱりいい風呂だね。湯船のヘリに頭を乗せて、
(くあー、いい湯だ、癒されるよ)
横に座って俺を見ているハネカが、
【ミツヒ様、ミツヒ様はあのエルフはどうするおつもりですか?】
(エレミーヌさんの事? どうするも、なにもしないよ)
【このままですと、ミツヒ様は逃げられませんよ。はっきりと、お前なんか嫌いだ、大嫌いだ。と言えばいいのですよ】
(そこまで言わなくてもいいんじゃないか? 別に嫌いじゃないしさ)
【ミツヒ様の、そういうところが行けないような気がしますが。 ! あー、またです、またです、お決まりです】
ハネカが、入口を睨んでいると、1人の影が見えて入って来た。タオルを巻いた、エレミーヌさんが俺の傍まで来て、
「ミツヒさん、お背中を流します」
「い、いや、いいですよ、ってここは男専用ですよね」
「そうですが、男性の湯は女性も入っていいのですよ、ウフフ」
結局、エレミーヌさんに背中を洗ってもらったよ。横でハネカが仁王立ちしている横でさ。そして、洗い流した後に風呂に入ろうと振り向いたら。あれ? さっきタオルを巻いていたよね、え? と俺が、
「な、何しているんですか、エレミーヌさん」
「ミツヒさんと一緒にお風呂に入ろうかな。と思いました」
「で、でもタオルを巻いたままでいいのでは?」
「いえ、私の決めた殿方には、ミツヒさんには、私を見ていただかないといけませんので」
しかたなく一緒に入りましたよ、はい。しかし、素晴らしいプロポーションだ。身長もあるが、浅黒い肌が引き締まった体を際立たせ、緑のストレートな腰まである髪を頭の上に綺麗にまとめ上げ、さらに、その、あの爆乳が、見て見ろ、と言わんばかりに主張している。負けてるよ、リガエン。すると横にいるハネカが、悲しい顔をして胸を触って俺を見ながら、
【ミツヒ様は、やはり大きいものがお好きなんですね、大きいものが】
(いや、違うって、知り合った人がたまたま大きかった。ってそういう問題じゃないだろ。ハネカの胸も綺麗だよ、うん)
【見てもいないのにお分かりになるのでしょうか。なんでしたら今この場で私の胸を】
(いやいや、ハネカさん、やめようね。俺がハネカを好きなのは知っているでしょ、だからやめようね)
【仕方がありません、畏まりました】
温まっていたエレミーヌさんは、汗をにじませ妖艶な美しさで、、
「ミツヒさん、それで私はいつミツヒさんの元へお嫁に行けばいいのでしょうか」
「え? 強くなってからと言ってませんでしたっけ。それに、その間に好きな男性が現れるかもしれませんし」
「ダメです。私はミツヒさんしかいません。明日、私の強さを見てくださいね」
と言って、風呂を出て行ったよ。綺麗な後姿だね。と見ていたら、ハネカが間に割って入って遮るように仁王立ちをしてこっちを見ているし。うん、しっかり温まって出よう。
部屋に戻ってユキナ達とまったりとしていると食事が出来たと大広間に行くと美味しそうな料理が並んでいた。ファイガ達は入口入ってすぐのところで、沢山の肉料理を見つけるとガツガツ食べ始めている。俺は前回と同じ場所に案内され、向かいに長のヤオデさんで、横にはやっぱり、エレミーヌさんが座っていた。ハネカが後ろから俺の首に両腕を回し心配そうな顔で、
【お気を付けください、ミツヒ様。くれぐれもお気を付けください】
(大丈夫だよ、ハネカ。食事だしさ)
【ミツヒ様、私はいつもミツヒ様をお慕いしています】
(ああ、ありがとう、ハネカ)
食事が始まり、ヤオデさんとエレミーヌさんは果実酒を飲んでいる。俺は食べながら、魔族、従魔の事を話して、驚かれ。タモンの村の全滅と両親が殺され、俺の容姿も変わったしまったことを話した。ヤオデさんは、大変だったろう、と励ましてくれたが、エレミーヌさんは、自分の事のように、ポロポロと涙を流して泣き腫らしていたよ。エレミーヌさんが泣き止んだ後は、しばらく飲食しながら談笑をしていたよ。するとエレミーヌさんが赤ら顔で、
「タモンの村の事は悲しいですけど、これからはミツヒさんはこの里に住んだらどうですか?」
するとヤオデさんも乗り気の表情で、
「おお、それはいいな。ミツヒが住むのであれば家を贈呈するが。どうだ?」
俺の返答を遮り、すかさずエレミーヌさんが嬉しそうに、
「いえ、長、私の家で一緒に住みます。一緒に暮らします」
「おお、それは名案だな。よく考えたなエレミーヌ」
「はい、ミツヒさんの嫁ですから、ウフフ」
俺は2人に、
「ここには住めませんよ。俺はタモンの村で暮らしますから」
ヤオデさんは、
「一人と魔獣だけで暮らすと言うのか、ミツヒ」
「まだやらなきゃいけないこともあるし、これからの事なんでまだわかりませんが、将来はタモンの村に帰ります」
「そうか、残念だな。ミツヒがそう決めているのであれば仕方がないことだな」
「すみません、ヤオデさん」
横で聞いていたエレミーヌさんは、
「わかりました。明日の試合によっては私もタモンの村で暮らします。ミツヒさんの嫁に」
「エレミーヌさん? 試合だけですよね、強くなったかと言う試合だけ」
「明日が楽しみです、ミツヒさん、ウフフ」
なんだか話が通じていないが余計な事を言うのは止めておこう。そろそろ食事も終わり、1人、また1人と立ち上がって出て行く中、エレミーヌさんも立ち上がろうとしたけど、酔っているのかズッコケて俺に覆いかぶさって来た。俺は両手でエレミーヌさんを支えようと手を伸ばしたら、ムギュウ、と両手に伝わる柔らかい感触。ああそうだ、胸を押さえてしまったよ。慌てた俺は何を考えたんだか、パッ、と両手を話したらそのまま抱きつかれ、後ろに倒れた。そしたらここぞとばかりのエレミーヌさんが、キスしてきた。それはそれは濃厚なキスだったよ。ハネカが横で口を両手で押さえて、オロオロ、していると思ったら、すぐにエレミーヌさんに殴りかかっているが素通りしている。見なかった事にしよう。そしてゆっくりと離れてエレミーヌさんは美しい笑顔で、
「わざとではありませんよ、ミツヒさん。わざとではありません。ごちそうさまでした。ウフフ」
立ち上がり軽い足取りで部屋を出て行ったよ。計画的にやったのか?まさかね。そこに、怒った口調のハネカが涙目で、
【だから、お気を付けください、とあれほど言ったのに、ミツヒ様は】
(ごめんごめん、でも突然だったから仕方がないよ、あれは事故だしさ)
【計画的な匂いがプンプンします、ミツヒ様。今後もお気を付けくださいませ】
(ああ、わかったよ、ハネカ)
伏せて待っていた、食べ過ぎのファイガ達と部屋に戻って、ベッドの上で久しぶりのスキンシップタイム。フッサフサ、スリスリ、ペロペロとされるがままの俺。ユキナも、チュッチュ、ウフフと嬉しそうだね。ハネカは怒っているのか出てこなかったよ、なんだかな。そして就寝。
翌日朝
まだ壁が立ちはだかっています。
魔族の討伐など、どうやって話を繋げていこうかと迷走し、試行錯誤しています。
次回を投稿しましたら、申し訳ありませんが、少しお休みをして、物語を考えようと思います。
よろしくお願いします。




