第5話 スマルクの町2
よろしくお願いします。
俺が椅子に座ると、
「ミツヒ。だったか? そうか、おまえが」と、ゴルドアさんがまじまじ俺を見る。
「似ているわ、面影があるし」と、エフィルさんが優しい目で俺を見る。
「なんなの?よくわからない」と、リリが訳の分からない目で俺を見る。
「な、何なのでしょうか」と、まったく???マークの俺。
すると、まあ聞け、とゴルドアさんが話し始めた。
「実はな、ミツヒの両親と俺たちは昔、冒険者としてパーティを組んでいたんだ、信頼し合えるな。それもかなり有名なパーティだった」
「そうね、懐かしいわ、あの時が」
「各所を回り、難易度もかなり高い討伐依頼を受け、強くなっていった。そして最後の仕事になったのが、王都に魔物の大群が攻めてきたときに、俺たちのパーティが中心になって、他のパーティと一緒に撃退したんだ。多少犠牲は出たがな。
そして討伐の褒章を受けたのち、俺たちのパーティは解散になった。サイルトとティマルが、2人で生まれ故郷のタモンの村で暮らすと言ってな。それは俺たちも納得して別れたんだ。別れた後、俺たちは1年ほど、冒険者として依頼を受けていたがな、2人がいない、という少し寂しさがあってな。エフィルと2人で引退して、この宿を始めたんだ。そして、しばらくしてリリが生まれた。
別れてしばらくは2人の事を思い出してはいたが、働いているうちに徐々に薄れて行ったよ、リリもいるからな。そして今になる。
長い間忘れていたが先日、ミツヒ、お前がここへ入って来た時に、まず見たのが黒髪と黒瞳だ。ふと、サイルトを思い出したが、まさかな。と思って気にしなかったんだ。
んでな、今日、ミツヒが、タモンの村から来た、というのを聞いてな。すぐに思い出したんだ。2人と別れるとき、ティマルの言葉をな。
《ねぇ、ゴルドア、エフィル。将来に、もし、私たちの子供が来たら、無理にとは言わないけど、少しでいいから力になってあげてほしいな》
てな。
んでな、今一度おまえを見たら、似ていると思ったよ、2人にな。
だから、今日から此処で働け、ミツヒ。いや、働いてほしい。2人の子供が来たんだ、力になってやらないと、タモンの村にいるあいつらに申し訳が立たん」
と、テーブルに両手をつき、俺に頭を下げた。
「あの2人は昔から、頼みごとなんか無かったわ。唯一の頼みごとがそれだったのよ。私も思い出したわ。」
と、その横で、エフィルさんも涙を拭いていた。
「あ、そんな、頭を上げてください、ゴルドアさん。ありがとうございます、エフィルさん。こちらこそ、よろしくお願いします。そうだったんですか、昔の話は、聞いても全く教えてくれなかったので、初めて知りました」
リリが頬杖しながら、
「へぇー、私も知らなかったなー、父さんと母さんが冒険者だったなんてさー」
「それはな、解散する時にな、みんなで話し合って決めたんだ。このことはずっと黙っていようとな。だから当時の王都や各ギルド、他の冒険者には解散後、俺たちの事を一切触れまわることのないように、話に出さないように釘を刺しておいたからな。渋々承諾していたよ」
「そうね、私たちを怒らせたら大変でしたからね、ウフフ」
「ただ、誰から聞いたのか、今もそれを知っている者もいるが、皆だまっているのさ」
「そんなに凄いパーティだったんですか。是非教えてください、俺の知らない父さんや母さんのことも知りたいです」
「それじゃ、少しだけだぞ。村に帰る事があっても、あの2人には黙っておけよ」
「はい、約束します」
「ティマルは、怒らせると私より怖いからねえ、ウフフ」
パーティの名は 「 獄炎 」 命名、ティマルとエフィル
俺と同じ年で冒険者になり、旅先で2人と知り合った。意気投合してパーティを結成して、依頼、討伐をこなして強くなっていった。剣士がサイルト、メイスがゴルドアで2人とも魔法も使える、ランクS 。回復魔法がティマルとエフィルで剣技も出来る、ランクA 。戦闘内容も、完璧なパーティだった。
「凄かったんですね、だから試合をしても、父さんには一度も触れられず、太刀打ちできなかったんだ」
「で、獄炎、という名前も凄いですが、二つ名が何故【デストロイ】なんですか?」
あれ? 何かを思いだしたように、テヘペロッとエフィルさんが厨房に入って行った。
「あー、それはだな、俺とサイルトは剣技がメインで、そこそこの攻撃魔法ぐらいなんだが、ティマルとエフィルは回復魔法をメインにしている、と言うのは表向きでな。普段はその体系で戦うんだが、大きめの討伐や範囲魔法が多い戦いのときになるとな、戦闘が始まるとあの2人が、冷たい笑顔を浮かべながら攻撃魔法を連打してな。その2人の攻撃魔法がまたデカ過ぎてな、森でも草原でも焼き尽くしたり、ボコボコのデカい穴だらけにするもんだからな、その名がついた。
またな、いつだか大きい討伐のあとに宴があって酒を飲んでな、ティマルとエフィルが調子に乗って酔っぱらって、どっちが強いかと口喧嘩になってな、2人が外に出て行って討伐跡で一晩中、炎魔法や爆裂魔法なんかの魔法攻撃で戦ってな、朝迎えに行ったら、虫一匹いなくなった荒れ地で、2人ともボロボロの服で大の字で寝ていたんだ。結果は引き分けだと。その後は、さらに仲良くなったけどな」
(あ、だからパーティの名前も)
すると、ゴルドアさんが小声で
「あの2人は怒らせるなよ、ほんと怖いぞ限度を知らんからな」
「はい、わかりました」
俺が頷きながら言っている傍でリリが、
「お母さーーん、父さんが怖いってさーー」
あ、奥で、バキッ、って音が聞こえたぞ。あ、ゴルドアさんが、ビクッ、ってなった。
「ま、だからこの話はここまでだ、他言無用だぞ」
「両親の事を知ることが出来て良かったです、ありがとうございました」
そそくさと厨房へ戻るゴルドアさん。奥でエフィルさんが「余計なことを」とか「言わなくても」とか冷たい声で言ってる。背中を向けて頷いているゴルドアさん。
「ミツヒは15歳かー、私は14歳だから一つ下だね、よろしくね」
「うん、よろしくね、リリ」
奥からゴルドアさんが大声で「リリには手をだすなよ!!」って言ってる。
外に出た俺は、昼を過ぎていたので、途中の露店で焼いていた串に刺さっている、ホワイトラビットの肉を食べながら歩いてギルドに向かう。
ギルドの中は、誰もいなかったがカウンターにはミレアさんがいた。思わず駆け寄り、
「ありがとうございます、ミレアさん。採用されました、これで暫くここに滞在できます」
「それは、おめでとうございます、よかったですね」
お礼を言って出て行くとき、壁を眺めていると、上の方に、活躍した獄炎の記事があったが、パーティに関しては何も書いてなかった。
帰りに服を何着か購入して住み込む家に帰る。
そして酒場での仕事を覚えるのに、しばらく鍛錬には出なかったが、朝夕の素振りは毎日行っていた。
店にも慣れ約1か月後の早朝
素振りの後、装備をして、エフィルさんに朝食を出してもらい食べた後、町の入口を出て草原に着いた。今日の午前中は薬草採取をするためだ。
(上位種の薬草お願いします)
(ご覧のところです)
眺めている広い草原の中に、緑の点、紫の点、灰色の点が点滅している。
最近、また力が進化しました。もう気にしません。
緑 緑色草 紫 紫色草 灰色 毒消草
点滅しているところを探ると、薬草が生えているので採取。また違う点滅しているところを探ると、また薬草が生えているので採取。と、範囲は広いがすぐに見つかるので半日で終了。
昼食は、持ってきたパンを食べ水を飲む。
午後は森に入り、薬草の袋を木の枝に掛けておく。そして( 声 )に、
(適度な魔物お願いします)
(周囲には2体だけです)
見渡すと、草木で見えないが赤い点滅が二つある。気づかれないように近づくと、いた。
(グリーンキャタピラです)
1体を背後から、サクッ、と切断する。気が付いたもう1体のグリーンキャタピラが牙で襲ってくる。
(そんなに速くないけどなぁ、良く見えるし)
牙攻撃を横へ、サッ、と避けて、サクッ、と切断する。灰になった2体から、緑色の魔石が出て背負い袋に入れる。しばらく歩いていると、
(5体います。トロールです)
(あ、いたいた。よし)
素早く近づき、1体を、スパッ、と切断。襲ってきたトロールを避けながら隙を見て、セイッ、と切断。次の攻撃を避けて、フッ、と切断。構えているトロールの首を、ンッ、と切断。最後のトロールの攻撃を、キン、と剣で受けてから踏み込み、切断して倒したが魔石は出なかった。さらに奥に入って行くと、
(1体います。ミノタウロスです)
(うわ、でかいな、頭が牛だ)
近づいたら気が付かれた、強いかな?
(倒せます)
じゃ、こっちから攻撃。お、避けた。ミノタウロスの、棍棒の攻撃が来るが避けて、フッ、と切る、が棍棒で受けてきた。
ミノタウロスは結構すばやくて力もある。でも攻撃してきた棍棒を避けて、片足を、セイッ、と切断し、足が無くなった方に倒れてきた瞬間に、首を、ハッ、と切断して灰になった。キラキラした白い魔石が出たので背負い袋に入れる。
(フゥ、ミノタウロスは結構強かったな。しかし、この剣はサイルト父さんに手入れをしてもらったとはいえ、本当に良く切れる剣だな)
剣をかざしてマジマジと眺めていると、
(帰る時間です、仕事があります)
(あ、そうだった、ギルドも寄らないと。ありがとう)
( )
(やっぱり返答は無か)
( )
入口の門番に証明書を見せ、町に入ってギルドに向かう。入口に入ると、やや人が多かったが、カウンターのミレアさんは、丁度話が終わったところだ。
「ミレアさん、薬草の買取りお願いします。」
「こんにちは、ミツヒさん、では隣の部屋にお入りください。」
隣の部屋には、数か所の買取りテーブルがあって、交渉している人もいる。
「では、こちらのテーブルに出してください」
薬草を出す、薬草を出す、薬草を出す。ミレアさんの顔が固まる。ちょっと引きつってる?
「で、でうゎ調べまする、ね」
(あ、ミレアさん、噛んだ)
紫色草22株 緑色草18株 銀貨80枚
毒消草21株 銀貨84枚 合計164枚
「凄い数ですね、ミツヒさん。どうしたらこんなに沢山の薬草が獲れるのでしょうか。いえ何か秘密、不潔が、いえ秘訣があるのでしょうか」
(あ、動揺している? ミレアさん)
「いえ、偶然です、運もあったのかな」
「そのようなことはないでしょう、そうですか、そうですね。内緒の秘訣があるのですね、わかりました、もう詮索しません。では少しおまちでださい」
(あ、また噛んだ)
頭を押さえながら奥に行くミレアさん。今度はハンカチで頭を押さえながら出てきた。
こちらになります。と金貨16枚銀貨4枚を受け取り袋に入れた。魔石は出していない。しばらくは出さないつもりだ。
俺はギルドを出てマイウ亭に帰る。
直接裏に行き、装備を着けたまま素振りをする。
一度部屋に戻り、装備を置いてシャワーを浴びる。また部屋に戻り、金貨や魔石を棚に入れ、着替えて下に降りると酒場の準備を始める。
服装は自分の服でいいが、エプロンは着けろと、言われ、ゴルドアさんとお揃いの黄色いエプロンを着ける。
因みに、エフィルさんとリリのエプロンは水色だ。テーブルを拭き、外に水をまき、窓を拭いて床を掃除する。調理はゴルドアさんとエフィルさんだ。店が始まると、俺とリリは注文を聞いて運ぶ仕事になる。仕事の合間の手が空いたときに、各自で賄い食を食べる。店が終わると、残り物を片付け、食器の洗い物をする。
そして1日が終わる。
薬草採取は数日に一度で、他の毎日は、1日中魔物退治をしているが、魔石は売ってない。
その毎日を過ごし…………そして1年が過ぎた。
1年後 16歳
読んでいただき、ありがとうございます。
少しづつですが、慣れてきました。