第47話 ターナの町 「進化」
数日後
今日も平和に楽しくユキナ達とターナの町を散策している。が、一つ変わった事がある。それは、ファイガとユキナが、テテテテッ、と先を歩いている右頭上に、フワフワ、と浮いている半透明の女性が一緒に同じ方向に進んでいる。
年齢も俺と同じくらいか、身長160センチ程で、スタイルも抜群に良く、紫色の綺麗なワンピースに白い鎖のようなベルトをして、艶やかな深紅の髪に銀色の髪がストライプになって肩まで伸びている。そして美しい碧眼の瞳。容姿は10人いれば10人が綺麗と答えるだろう色白の美人だ。というより、俺の理想のど真ん中を行っている女の子?……いや、女性かな。
そう、その半透明な女性はハネカだ。やはり進化したようだが、ハネカにではなく、それは俺に起こっていたようだね。ハネカは、まだ俺が見えるようになった事は知らない。いや、まだ知らせていないんだ。
俺は歩きながら、
(なあ、ハネカ)と念話をすると、
俺に振り返り、美しい笑顔で、フワフワ、と近寄ってきて正面から俺の首に両手を回してくると、鼻と鼻が付く辺りで、
【なんでしょうか、ミツヒ様】と、答えてくる。
半透明だからなのか、全く触られている感じはしない、だけどハネカは、それをいいことに、話しかけるたび、毎回腕を首に回してきて答える。俺はハネカを見ているが、正面を見ているようにしか見えないので、ハネカも俺が見えているとは思っていない。
俺は、ちょっとした意地悪で、試に、ユキナを抱き上げて、チュッ、としたらユキナは大喜びで俺の足元を、スリスリ、としているが、ハネカは、グヌヌ、と悔しそうな表情で、フワフワ浮いているものの、横からユキナを蹴っ飛ばしている。が、スカッ、スカッ、と足が素通りしている。俺にはその行為が見えるが、ハネカの姿は、ユキナやファイガは見えないようだな。
何も話をしないときは、消えている事も多いが、浮かびながら無言で、俺の後ろから首に両手を回して肩越しに顔を寄せて抱きついている事もある。多分、心眼の力か何かで俺にだけ触れるのかな。まあ、抱きつかれている事にも、全く違和感も無く嬉しいけど、ちょっとベタベタし過ぎかな。と、俺は、とうとうハネカに、
(なあ、ハネカ)
【はい、なんでしょうか、ミツヒ様】
また、ニコニコ、と正面から両手を回して来たところに、
(ハネカ、たまにはいいけど、そうやって毎回毎回俺に腕を回すのは、ちょっと止めようか)
と言うと、両手を口に当てて驚いた表情になって俺から離れ、
【え? えぇぇぇっ? み、見えるのですか? ミツヒ様。わ、私が見えるのですか?】
(ああ、ハネカ。昨日あたりから見えるよ。毎回顔を近づけてくる、その行動もね)
【ぜ、全部? 昨日からの、こ、行為も、み、見えていたのですか? ミツヒ様】
(ああ、全部。ハネカが消えている時は見えないけど、俺に対する行為は見えているよ)
俺に向いて、モジモジ、し始めるハネカは、
【す、すみません、ミツヒ様。見えないことをいいことに、わ、私としたことが】
(別にいいよ、前からハネカは好きだったし、それに、俺の好みに合って、凄い綺麗だよ)
すると、急に両手を頬に当てて、イヤンイヤン、をしながら上目づかいに、
【私はミツヒ様の心眼ですので、エヘヘ】
そして、俺とハネカの念話を聞いていた、ファイガとユキナは、
(みつひさまー、わたしには、はねかさまがみえませーん)
(あるじさま、われも、はねかさまがみえません)
(俺だけに見えるようだよ、半透明なハネカだけどね)
と、歩き出す。
ハネカの進化は、ステータスを覗いても何も変わったことは無く、それだけだった。でも、ハネカが見える事で俺は嬉しくなった。
ガンドさんの店に行くと、手伝いのドワーフが増えたことで、魔物除けの魔石作りは順調に進んでいるとの事。そしてガンドさんは、
「ドラゴンの鱗で作った防具が出来たよ」
奥から、胸当てと腿の甲、それにすねの甲を持ってくる。ガントレットの色に合わせるように、光沢のある漆黒だが紫がかっていてとてもいい色に仕上がっている。
「この防具は、どんな攻撃も耐えられるよ。ミツヒのおかげで、手に入らないドラゴンの貴重な材料で好きに作らせてもらった防具だ、感謝する」
「俺こそガンドさんに作ってもらって嬉しいですよ、ありがとうございます」
さっそく装備を着けかえる。ガンドさん曰く、
装備は俺の体に合わせている。魔石の魔力を練りこんであり、脱着も簡単に出来る。防具の重さは皮の鎧より軽くしなりもあるが、強度はこの世界で最強。
ついでにガントレットの甲にもアースドラゴンの鱗を錬成し、魔石と練り込んで軽さと強度を増してもらった。
まず、背付の胸当てを装着する。鎧の片方がつながっていて開閉し、横から手を通して着ると、カチリ、と体にフィットした。肩の甲も手の振りに合わせて動き、とても着ているとは思えない程動きやすい。
腿の甲も片方が繋がっているので、外側の横から装着して前後を閉めると、カチリ、とフィットした。
すねの甲も同じように装着すると、カチリ、とフィットして、体を動かして見ると、違和感も無く鎧を着ていないようだ。手を振り回しながら、
「いい出来ですよ、ガンドさん。最高だ」
「そうか、それは良かった。ミツヒに作ったかいがあるよ。それと、ミツヒに頼まれていた魔石が出来上がったよ」
奥から8個の魔石を持ってきた。これはガンドさんにお願いしていた感知器の魔石だ。
人や獣には反応しないが、十数体以上の魔物や魔獣がまとまって近くを通ると発光して空に打ちあがり、一番高い所で輝きながら破裂するように出来ている。その高さはアルディラ王国で打ち上がってもターナの町から視認できる高さだ。さらに、発光しながら打ちあがっている時に、魔石の魔力放出が出来るようにしてもらってあるので、それをハネカが感知する。
俺はその魔石を一つ手に持って眺めながら、
「出来ましたか、ガンドさん。これを待ってましたよ」
着替えた皮の装備と一緒にマジックバッグに入れて、また武器の打ち合わせをした後、ガンドさんの店を出て、その足でギルドに向かう。ギルドに入ると空いているので受付にいたシアナさんが、ニッコニコしながら駆け寄ってきて俺の腕を組んできて、
「こんにちは、ミツヒさん。ギルドマスターの部屋ですね、では行きましょう」
連れて行かれるとき、半透明なハネカが出てきて、怖い顔でシアナさんにパンチをしているが、スカッ、スカッ、と体を通り抜け、空振りしている。でも、シアナさんは何も感じていない。なんだか面白いな。するとハネカが、
【叩き潰してやりたいです、ミツヒ様】
シアナさんの反対側から俺に抱きついて来るが、ダメだよ、と言っておくが、まあ、気にしないほうがいいな。ギルドマスターの部屋に入るとソファに座っていたカルバンさんが、
「ミツヒ、よく来てくれた、例の赤い満月は明日の夜になる」
「そうですか、明日かその次かはわかりませんが王国は用心したほうがいいですね」
「ミツヒは、アルディラ王国には応援に行かないのか?」
「行きませんよ、王国の軍で間に合うとの事で、魔物の群れと魔族が来たら見に行きます」
情報だけ聞いて部屋を出るとき、カルバンさんが、王国がそう言うのなら仕方がないか、とため息をしているが気にしないでギルドを後にする。
俺達はターナの町を出て、ファイガに乗りアルディラ王国に向かい、王国の城壁から1キロ程離れた東西南北の場所に、ガンドさんに作ってもらった感知魔石を、魔物の通りそうな場所に各2か所に設置してターナの町に戻った。
ターナの町に入った頃は、夜に差し掛かっていたので、ガイルの店に帰って部屋で、皿を出す。まず、チハマの刺身を皿に盛り、油醤を垂らすと、ガツガツ食べ始める。次にフラットフィッシュのレイカの甘辛の煮つけを盛ると、尻尾をブンブン振りながら、ハグハグ、食べる。最後は焼いたケッホの開きをドンと盛って、油醤を垂らすと、バクバク食べて終了。ファイガ達は満足したようで小さくなって、ゴロゴロ、とベッドに寝転がる。それを見て…………よく太らないね君達は。と思っていると、目を逸らしたよ、まったく。
俺は風呂に行って温まっていると、ハネカが横にいる。風呂に入っている俺は裸だが、ハネカは服を着ている。ま、いつも話はしていたから見られても何ら気にすることは無いが、ハネカも普通に隣に座って、綺麗な笑みを浮かべながら俺を見ている。俺はそんなハネカを見て、
(どうした、ハネカ)
【いえ、ミツヒ様が私を見えるようになったので嬉しいのです】
(俺もうれしいよ、これからもよろしくな)
【もちろんです、よろしくお願いします、ミツヒ様】
と、俺に向かい、正座になり三つ指をついて頭を下げるハネカ。
おぉぉ、なんと可愛いんだ。でも、恥ずかしいから俺はそんなそぶりを見せずにいたよ。
そんな会話をして風呂で癒された後は、食堂に行く。相変わらず予約席があるが、周囲の視線も、チラチラ程度なので気にしなくなっている。するとケフィルさんが料理を持ってきた。
出て来た料理は、レッドボアの野菜炒めだ。レッドボアの肉を薄く切って、野菜も一口サイズで切って有り、油で、ジュアーッ、と炒めてある。一口食べたら、塩味だが肉の旨味と野菜の甘さが上手く出ていて美味い。アツアツ、なので、ハフハフ、ホクホク、と美味しく食べた。
部屋に戻ってファイガ達とじゃれ合っている時に、ハネカも参戦してきたが、感触はなく空振りしているが、楽しそうなハネカを見ながら、マッタリとして就寝。瞬寝のファイガ達。そして、フワフワ、と浮いているハネカを見ながら、
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日
ゆっくり起床して、ケフィルさんに挨拶し、ガイルの店を出る。そして、ユキナ達と、フワフワ、と浮いているハネカと町中を散策して、笑ったり、怒ったり、焦ったりと1日を過ごす。それはそれで楽しいと思う。
そして夜になると、赤い満月が昇って来た。今夜かどうかは確実では無いがアルディラ王国も用心しているだろう。昼にギルドマスターのカルバンさんに聞いたところ、アルディラ王国の軍は総勢3万人で討伐するとの事。さらに、王国に滞在している冒険者にも参加を募ったとの事。なんだよ、軍だけじゃないのかよ、まったく。
そして夕飯を食べて風呂に入って部屋にいると、ハネカが王国の方角を見ながら、
【ミツヒ様、魔法感知しました、魔石が上がっています】
窓からアルディラ王国の方角を見ると、遠く小さいが、仕掛けた魔石が上空で発光して破裂した。
それを確認して俺達はターナの町を出る。ファイガに乗って、赤い月が出ている夜空の中を昼間のように、ビュンビュンッ、と走る。ルシファンの町を通り過ぎ、アルディラ王国が見えて来たころは王国の西側、500m辺りでに土煙が立っていて戦闘が始まっているのを確認した。
俺達は小高い丘の上から、お手並み拝見、と観戦する。ハネカ曰く、魔物の数2300体で前回より多く魔物も強くなっている。だが、魔族はハネカの周囲感知でも見当たらない。多分、魔物の群れに指示を出した後、いったん離れたのだろう。俺は観戦しながら気長に待つ事にした。
そして激戦




