第44話 ターナの町からベルタル山
翌日早朝
ガイルの店でから揚げの朝食を食べて、ターナの町を出る。門番は、俺の顔を見て、そのまま通してくれたよ。顔パスってやつかな。そして、ファイガに乗って、王都エヴァン、スマルクの町を通り過ぎ、ベルタル山に向かうと、昼には麓の森に着いた。が、森が無い。あ、そうだ、以前俺が吹き飛ばしたんだっけ。そして、もう一つ思い出し、山頂を見るとやっぱり山が3分の一ほどが吹き飛んでいた。ま、いっか、と思いながら俺はそのまま進んで行く。するとハネカが、
【山の反対側にある裂け目に、魔物の群れがいます】
(裂け目? ハネカ、以前は無かったよね)
【はい、ミツヒ様が作りました。ファイアカッターの名残です】
(あー、そうですか、俺ですか、ハネカさん、わかりました)
【距離があるので、数は分かりかねますが、前回よりは少ないです】
(よし、行ってみようか。ファイガよろしく)
俺はファイガに乗って、吹き飛んだ山頂へ向かって行って、気配遮断をして近くの岩陰から覗き込むと、魔物が数百体群れていた。その魔物を見て、
(小さいな、あれはシバンの群れかな)
【違うようです、群れの左端に別の魔族がいます】
(誰でもいいや、よし、やろうか。魔族が逃げられないようにしないとね)
俺は、ユキナが左奥、ファイガが右奥に回り込んで隠れて構えるように指示を出し、さらに、俺が群れに近寄り、魔族の気を引き付けて、もし魔族がシールドを使って逃げようとしたら、すぐに背後から羽を攻撃するように指示を出した。準備が整って、
(ここからだと距離があるから、身体加速でも厳しいな。ハネカはどうだ?)
【ミツヒ様が近寄っていただければ、十分行けます】
(了解、ハネカ。よし、やってみよう)
俺は身体加速で魔物の群れに、グンッ、と近寄ると、魔物は気づかないが、やはり魔族が気づいた。そこへハネカが、ライトニングを連射した。
バリバリバリバリーッ! チュィーンッ!
ギリギリでシールドを展開して、ホッ、としたところの魔族を後ろの2方向からアイスランスとファイヤランスが連射してくる。
ズドドドドドドーッ!ズバババババーッ!
魔族の羽と両腕が吹き飛んだ。
(よくやったね、ファイガ、ユキナ。あとは魔物の討伐を任せたよ)
(畏まりました、ミツヒ様。殲滅します)
(畏まりました、主様。叩き潰します)
魔物は任せて魔族に走り寄ると、闇魔法で攻撃して来たが気にせず踏み込み、右腿をガントレットで、ズドンッ!と吹き飛ばす。
「ギャー、だ、誰だ貴様―っ」
「お前こそ誰だ、名前は?」
俺は聞いてすぐに左腿をズドンッ!と吹き飛ばし、血しぶきが飛び散り俺に降りかかるが気にしない。そして魔族が気絶すると、
(ハネカ、コイツにヒールを掛けてくれ)
【畏まりました、ミツヒ様。ヒール!】
魔族の傷が治って行く。その間に魔物を討伐しているファイガ達を見ると、フフフ、ハハハ、と笑いながら、逃げ回る魔物を1体、また1体と楽しそうに蹴散らしている…………本当に凄いね、君たちは。
そして目を覚ます魔族に、
「で? 名前は?」
「く、殺せ。貴様なんかに」
すかさず、ズドンッ! と右腿の付け根を吹き飛ばし、また大量の血が飛び散って、血濡れになる俺。手足の無い魔族は、痛みで、グネグネ、と動きながら、
「ギャーッ、助けて、助けてください!ハァハァ」
「殺せとか助けてとかコロコロ変わるな、だから、名前は?って聞いてんだよ」
またズドンッ! と、今度は左腿の付け根を吹き飛ばし、辺り一面血の海になって、
「面倒だから、次は腹に入れてみるか」
構えると魔族は、
「カ、カンバルです。ハァハァ、カンバル、ハァハァ」
「聞いたことないな、お前は何者だ? シバンは? なんで此処にいる」
「ハァハァ……シバン様の……従者です。ハァハァ、命令で魔物を……手なずけています、ハァハァ」
「従者? 他にも従者はいるのか?」
「いません。ハァハァ、シバン様……だけです。ハァハァ」
「シバンは今どこにいる」
「分かりませんが、ハァハァ、何処かで大きな、ハァハァ、何かを作っています。ハァハァ…………」
魔族の両腿の傷から血がドクドク流れ出て、目が白めになっていくとハネカが、
【ミツヒ様、その魔族は、そろそろ死にます】
(ハネカ、すぐにヒールだ)
【畏まりました、ヒール!】
また傷が治って行く魔族。その間にユキナ達を見ると、数百もの魔物は殲滅されて跡形も無く、その向こうで伏せて欠伸をしているし…………君達、もう少し待っててね。
目を覚ます魔族は俺を見て怯えだすが、
「大きな何かって、なんだ?」
「わ、わかりません、シバン様からは何も教えてもらえません」
「お前は何処から来た」
「シ、シバン様と魔族の国から来ました」
「一緒にか? 初めから?」
「はい」
「シバンは、ここに何時戻ってくるんだ?」
「しばらく戻って来ません、私が魔物を数千従えた頃だと言ってました」
「レムローサだったかな、そいつらは何処を狙っている?」
「何日かはわかりませんが、次は王国、その次は王都と言ってました」
(ハネカ、どうだ?)
【はい、ミツヒ様。嘘は言っていません、真実です】
俺は、その後、カンバルと幾つか問答をして、答えが何も出なくなったところで、
「わかった、楽にしてやる、んじゃな」
カンバルの胸に魔剣ギーマサンカを突き刺し、灰にする。そして、ユキナ達に袋を渡して、いい魔石だけ拾ってもらったよ。もちろん俺も拾って歩いたさ。
拾い終わったら、ファイガに乗ってベルタル山を降り、ターナの町に向かう。
スマルクの町、王都エヴァンを通り過ぎ、夕方にはターナの町に到着して町に入る。従来のままファイガ達と入ろうとしたら、俺達を見た門番が腰を抜かしたので、やっぱりだめか、と、ファイガ達に小さくなってもらい町に入った。
ガンドさんの店に行って、
「ガンドさん、帰りました」
「おおミツヒ、おかえり、収穫はあったのか?」
「ええ、少しはありましたが確定的なのはまだですね」
「そうか。そうだ、ミツヒ、スロウソードが出来た…………これだ」
一本のスロウソードを出して来た。これは、ガンドさんにお願いしていた一つの武器で、魔族のシールドに投げて刺すと、一時的に解除できる。ただし、次のシールドを展開されるまでに5秒ほどしかもたない。
俺は、スロウソードを手に持って眺めながら、
「十分ですよ、いいですね、これで魔族への攻めが楽になります」
「しかしな、ミツヒ。次のスロウソードも作りはじめているが、この武器を作るには錬成に時間がかかるんで、今はこの一本だけだが」
「大丈夫です、ガンドさん。ありがとうございます。で、またこれを使ってください」
魔石をマジックバッグから、ゴロゴロ、ドサドサとテーブルに山のように出して、
「余ったら、ガンドさんに差し上げます」
「余ったらって、ミツヒ。これだけあれば余るよ、どう見たって数百はあるぞ」
「だから、残りはガンドさんの好きなようにしてください。俺には持っている意味がないんで。ガンドさんがいらなければ、どこかに捨てて来ますけど」
勿論捨てるつもりはないけど、慌てたガンドさんは、
「いやいやいや、ありがたくいただくよ。いつもすまんな、ミツヒ、恩に着るよ」
後は次の武器の製作などを話してガンドさんの店を出ると、外は暗くなってきているが、俺達はギルドに向かう。
ギルドは混んでいたが、入って来た俺達を見た冒険者たちが割れるように、どうぞどうぞ、と先を譲ってくれた。何だか変な気分だがお言葉に甘えて先に進んで行き、受付のシアナさんに、
「シアナさん、カルバンさんいるかな」
と、聞くと、当たり前のようにシアナさんが笑顔で立ち上がり、
「はい、ミツヒさん、ギルドマスターの部屋にどうぞ」
後ろで待っている冒険者そっちのけで、俺の腕を両手で抱きかかえる様に組んで部屋に連れて行くが、誰からも文句が出なかったよ。チラッ、とシアナさんの尻尾を見たら膨らんで、フリフリ、している…………ああ、モフモフしたい。それを察知したシアナさんが、俺が先日、どさくさに紛れて、モフモフしていたのを知っていて、どうぞ、とシアナさんも嬉しそうに振り返って尻尾を出してきたので、ちょっと恥ずかしかったが、遠慮なくモフモフさせてもらったよ。ああー、いいな、モフモフ。でも、他の奴が見たらどう思うのかな。ま、いいや、気にしないでおこう。
ギルドマスターの部屋に入ると、リザードピープルのカルバンさんがソファに歩きながら、
「丁度良かった、ミツヒ。もしかしたら魔族に関係するかもしれない情報が入って来たよ」
と、言ってソファに座り、俺も座る。横にはユキナ達が伏せている。
「カルバンさん、どういう情報ですか?」
「実はな、南のラグナ山にドラゴンがいるらしいんだよ」
「ラグナ山って、普通にドラゴンはいるでしょう。先日、俺も見ましたよ」
「いや、ルシファンの町のドレンガから来た情報だと、普通のドラゴンじゃないそうだよ。本来ドラゴンは群れを嫌って単体で行動するが、複数のドラゴンが一緒に住み着いているらしい。今現在伝わってきているのが1体はフロストドラゴンで、他のドラゴンは未確定とのことだ」
すると、ユキナが、ピクンッ、と顔をあげて俺を見て、
(みつひさまー、わたしがひねりつぶしますー)
(ありがとう、ユキナ)
「ドレンガさんの情報なら確かでしょうね。わかりました、住み着いているということは急がなくても良さそうだから、明日にでも行ってみます」
「十分気を付ける様にな、フロストドラゴンは世界の頂点に君臨する魔物だから、1体で国を滅ぼす力を持っているからな。だから王国も非常事態だと大騒ぎになっているらしい」
「それは知りませんけど、勝手に騒いでいればいいし。では失礼します、カルバンさん」
部屋を出て混んでいるギルドを出るとき、また冒険者が両脇に割れて、どうぞどうぞ、と通してくれた。なんだかはずかしいな、と思っていたらハネカが、
【これはミツヒ様なら当たり前の事です、本来ならもっと以前から、こうならなくてはいけなかったのです】
口をとがらせて言っているようだったので、
(ハネカさん? それは違うからさ。俺は気にしないし、ハネカも気にする事はないからね)
ハネカは不満そうに、
【そうですか……ミツヒ様がそう仰るのであれば】
ギルドを出てガイルの宿に行くと、相変わらず狸耳をピコピコさせたケフィルさんが、
「あー、ミツヒさん泊まりですね、いつもの部屋です」
「今晩はケフィルさん、いつもの部屋って、宿泊者が少ないの?」
「いえ、大繁盛です。ミツヒさんの泊まる部屋は、いつミツヒさんが来てもいいように空けてありますよ」
ニコニコしながら言っているが、
「それじゃ、一部屋分の泊まり料金が減るでしょ」
「いえいえ、ガイルの宿は、ミツヒさん御用達の宿、になっています。英雄の泊まる宿、を宣伝したら、連日満員ですし、それに合わせて値上げもしました。もちろん、ミツヒさんは今まで通りですよ」
嬉しそうに狸耳を、ピコピコ、させている。恥ずかしいなと思いつつ仕方がないと諦めて、
「あまり宣伝して欲しくないですけど、程々にお願いしますね」
と言って部屋に行く。ユキナ達にクリーンを掛けて皿を出すとさっそく皿の前で座って待っている。はいはい、ちょっと待ってよ、と、レッドラージの焼肉タレバージョンを盛ると、バクバク食べ始める。次はブラックサーモンの塩焼きをドンと盛ると、ガツガツ食べる。特にユキナが、んんみゃい、んんみゃい、と喜んでいる。ファイガも尻尾をブンブンさせて食べている。最後はブラックボアのステーキを持って終了。満足したようだ。
俺は風呂に行って癒されてから食堂に行くと、ケフィルさんの言う通り満員で待っている人もいる。でも、2人用のテーブル席が一つ空いているけど誰も座らない。よく見るとテーブルの上には、予約席、となっていた。俺も列の後ろに並ぼうとしたら、厨房にいたケフィルさんが俺に気が付き、
「ミツヒさんは、そのテーブルに座ってねー」
と、叫んだら、周囲の目が一斉に俺に向いてきた。「英雄」とか「おおっ」とか「あの方が」とか聞こえたが、無視してテーブル席にすわると、すぐにケフィルさんが料理を持って来た。でも、周囲の視線が痛く、とても痛く、肉料理だけど味もわからずに、バクバク食べて、そそくさと部屋に退散したよ。そうか、昨日の食堂の視線もこれだったのか。
夜はファイガ達とじゃれ合って就寝。瞬寝のユキナ達。
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日早朝




