第43話 オーシヤの町からターナの町 「魔物討伐」
翌日早朝
アルディラ王国を南の門から出て下見がてらギルア山に向かっている。勿論魔族がいれば討伐する予定だけど、とりあえず俺はファイガに乗って昼前にはギルア山の山頂に着いた。
ギルア山はベルタル山と同じように周囲の麓は森になっていて、山頂から中腹は岩の荒れ地で見通しはいい。迂回路もあるが、アルディラ王国からギルア山そしてその南にあるオーシヤの町まで一本道。魔物も出るのだがファイガ達がいるので弱い魔物は出てこない。途中で体調5m程のドラゴンを見かけたが敵意もなく、俺達にも気づいていないので放置したよ。ハネカに周囲感知を頼んで、
【ミツヒ様、山の周囲には反応はありません】
(そうか、魔族は魔物の群れを従えているはずだけど、襲撃まで何処かに隠れているのかな)
【それは分かりかねますが、この山の周囲には、ドラゴンやゴーレムは数か所に居ます。が、魔物の群れの反応はありません】
(ありがとう、ハネカ。じゃ、このままオーシヤの町に行こうか)
【畏まりました、ミツヒ様】
俺はまたファイガに乗ってオーシヤの町に向かう。
オーシヤの町は海の横にある港町で5000人程の漁師や住民が住んでいる。ルシファンの町や王国に魚を運んで売っている漁業が主体の活気のある町。
アルディラ王国からオーシヤの町まではラグナ山の森を迂回して馬車で6日ほど掛かるが、俺たちが来たラグナ山を通ってくる一本道なら4日で来れる。
ファイガ達は小さくなって一緒に町に入ると、ユキナの目の色が変わったよ。それは露店や商店で売っている物は魚ばかりだから。ユキナは鼻をスンスンしながら、
(みつひさまー、このまちはいいですねー)
(ははは、魚の町だからだろ、ユキナ)
(えへへ、このまち、すきです。でも、みつひさまのほうがもっとすきです)
(ありがとう、ユキナ)
(われは、にくもさかなもすきです)
(ああ、あとで食べような、ファイガ)
【ユキナ、ミ、ミツヒ様が好きなのは私です】
ハネカはユキナに言ったようだが、ユキナは、チッ、と舌打ちをしてハネカの声を無視して、グヌヌ、とハネカが唸っているが、ユキナとハネカは何を競り合っているのだろう。でも、気にしないでおこう。露店の魚を見ながら歩いているとある事に気が付いた俺は、
「おじさん、置いてある魚は干物とか塩漬けだけど新鮮な魚はないの?」
俺が聞くと、おじさんは、ハァ、と肩を落としながら、
「ああ、それがな、最近海に巨大な魔物が出てな、新鮮な魚が獲れなくなっているんだ。ギルドに依頼したが、海に住んでいるから倒せないんだよ」
「それじゃ、俺達がちょっと行って倒してくるよ」
「え? 兄ちゃん今なんて言った? 魔物は沖にいるから無理だよ。って、おーい、あ、行っちまった」
俺達は、スタスタと海に向かう。潮の香りがし始めてきたら海が見えて来た。岸辺まで来ると目の前には大海原が広がっているのを眺め、見渡して、
(初めて見るけどこれが海かあ、凄い広いなあ)
海に興味の無いハネカは、
【ミツヒ様、沖合100m深さ5mに大きい魔物がいます】
(うーん、距離が遠いな、魔剣ギーマサンカのファイヤカッターなら届くかな)
【ミツヒ様、届いても水の抵抗は大きいです。が、私の攻撃なら届きます】
(そう…………んじゃ、ハネカ。やっちゃって)
【畏まりました、ミツヒ様。アイスランス!ダブル連射!】
ズドドドドドドドドドーッ! ズドドドドドドドドドーッ!
アイスランスが空けた水柱の中に、さらにアイスランスを連射して、大きい水柱が数十本上がり、ザバーッ!と落ちて静かになる。すると、プカーッと体長が30m程の白くて大きなクラーケンが穴だらけになって浮かんできた。しかし、頑丈なのかクラーケンの触手がウネウネと元気に動いている。すると大きくなったファイガが、
(ミツヒ様、止めは我が叩き潰して宜しいですか)
(ああ、いいよどうぞ、ファイガ)
(畏まりました。ファイヤランス連射!)
ズバババババババババーッ!
クラーケンは真っ黒焦げでピクリともしなくなり倒した。すると、風下なのかクラーケンの焼け焦げた臭いが漂ってきたが、食べられるのか何とも食欲をそそるいい匂いだ。するとハネカが、
【ミツヒ様、もう1体、沖合300m深さ10mに海竜が居ます】
(遠いな、その距離だと攻撃魔法が届かないだろう)
すると、横にいたユキナが俺の顔にスリスリしてきて、
(ミツヒ様、今度は私がやりたいです)
(ん? 出来るのか? んじゃ、やっちゃっていいよ、ユキナ)
(畏まりました、ミツヒ様)
大きくなっているユキナが、海にアブソリュートゼロを放ち、
ゴォォォーッ!バキバキバキッ!
海をカチンカチンに凍らせてヒョイヒョイと海を走って魔物に向かって行くユキナ。さすがフロストタイガーだね、氷の上もスイスイだよ。ユキナが海竜との射程距離に入ってアイスランスを放つと、
ズドドドドドドドドドーッ!
水柱が数十本上がって水中から体長30m程の蛇のような海竜が現れた。海竜が攻撃してくるが、ヒラリヒラリと華麗に避けるユキナ。しかし、ユキナが攻撃した傷が見る見る回復してくると、何が気に障ったのか、ムカッ、と怒った表情のユキナが、
(アブソリュートゼロ!)
ズゴォォォーッ!バキバキバキバキッ!
海と海竜をカチカチに凍らせて、すぐにエクスプロージョンを放つと、
ズッガーーーーーーーーンッ!
海竜も凍った海も一緒に爆発して、木端微塵になる海竜。これこそ海の藻屑だよ。海竜も強いんだろうけど、ユキナさんの方がもっと強いんだね。何だか粉々になった海竜が可哀そうに見える。ユキナもドヤ顔で氷の上から戻ってくると、俺の顔にスリスリとしてくるので、チュッ、としてあげたら大喜びだ。
ただ、ハネカは、グヌヌ、ユキナめ。と言っていたが、聞こえない振りをしよう。
ファイガは、またかと素知らぬ素振りで海を見ている。
クラーケンと海竜の魔石も2個浜辺に落ちていたので拾うと、俺たちの攻撃の音を聞いて町から人が来て見ていたが、魔物を倒した事を確認したら、俺たちに近寄り、
「ありがとう」とか「凄い」とか「英雄だ」とか「これで漁に出られる」とか、感謝されたが、気にしないで下さい、とその場からから逃げるように離れたよ。
小さくなったファイガ達と歩いていると、サンセットの宿と書いてある看板があってそこに宿泊することにした。1泊金貨1枚を支払って部屋に入る。食事は干物しかないとの事で素泊まりにする。俺はマジックバッグから皿を出してブラックフィッシュの煮物をだすと、ハグハグ食べ始めるファイガ達。次はレッドフィッシュの塩焼きを出すと、ガツガツ食べる。最後はオークのステーキをドンと盛って終了。俺もステーキを美味しく食べて風呂に行く。サンセットの宿の風呂は海が見える露店風呂で廻りは柵で囲まれているが、海からは丸見えだ。まあ、風呂から見える海景色は綺麗なので気にしないでおこう。
(いい湯だな、海を見ながら入る風呂も癒されるよ)
【これからどういたしますか?ミツヒ様】
(海の新鮮な幸が食べられなかったのは残念だけど、オーシヤの町は魚が獲れ出したらまた来ようか。魔族の事は、焦っても仕方がないし、明日は一度ターナの町に戻ってから考えるよ)
【畏まりました、ミツヒ様】
風呂で癒され部屋に戻って就寝。
翌日早朝
特に早く起きることもなかったが、市場を見に行った。やはり、新鮮な魚はまだ入っていない。今朝から漁に出たらしいので、早く寄港する船でも帰りは夕方になるとの事。ユキナも残念がっているけど、また今度だな。
オーシヤの町を出るときに、門番からオーシヤのギルドに寄るようにと言われたが、急ぐから、と無視して町を出て行った。何かとめんどくさいからね。
さっそくファイガに乗って、ラグナ山、アルディラ王国を通り過ぎ、ルシファンの町を横目にターナの町に向かい、夕方にはターナの町に着いた。さすがファイガさん凄いよ。と、言おうとしたけど、追走してきたユキナがまた、ジーッ、と見ているので止めておこう。
町の入口に入る順番を待って俺の番になって証明書を出そうとしたら、門番が何やらおかしかった。
「ミツヒさんですね、どうぞお通り下さい」
「え? 証明書は見ないの?」
「はい、ミツヒさんは後ろの従魔と一緒にそのままお通り下さい」
何が起こっているのか、とりあえずガンドさんの店に行く。いつものようにユキナ達は入口で伏せて待つ。
「こんにちは、ガンドさん」
「ん? おお! ミツヒ。久しぶりだが、凄い事をやったな」
「何がです? どうしたんですか?」
「魔物の討伐。それも千体以上の魔物を討伐したんだって? 英雄の領域、クラスSSだよ」
俺は肩を落としため息をついて、
「はぁぁ、もう知れ渡っているんですか、誰が?」
「ギルドから回っているよ、詳しい話を聞きたければカルバンに会ってきな、こっちはそれからで十分だ」
ガンドさんの店を出てギルドに向かい近くなってくると、すれ違う冒険者が、チラチラ、と俺を見ている。声は掛けてこないが、今までとは明らかに違う。
ファイガ達も一緒にギルドに入ると、受付にいた獣人のシアナさんが俺に気が付き、立ち上がって俺に向かって来る。俺より背が高いからちょっと迫力はあるな。あ、尻尾がシアナさんの体以上に膨らんでいる。と思う間にシアナさんに抱きつかれた。知ってはいたけど避けて転ばすのも可愛そうだからなすがままだ。でも、ここぞとばかり、シアナさんの膨れた尻尾を体越しに手を回してモフモフしてしまった。ああ、気持ちいいな、モフモフ。
周囲の冒険者は何も言わず、俺を各上の人を見る目で見ている。シアナさんが、
「ミツヒさーん、凄いです。凄いです。魔物の討伐、聞きましたよー」
「あ、いや。もう落ち着いた? シアナさん」
「え、あ、失礼しました、ミツヒさん。思わず興奮して抱きついてしまって。ギルドマスターがお待ちです」
俺はリザードピープルのギルドマスター、カルバンさんの部屋に入りソファに座ると、ユキナ達は横で伏せる。さっそく、カルバンさんが目をキラッキラさせて食いつくように、
「お前は凄いよ、ミツヒ。魔物の大群を討伐したって?」
「まあ、そうですけど、何処からそれを聞きました?」
「それは王国だよ、ミツヒが魔物の討伐後、行方が分からないから、と各地のギルドに伝令を出したんだよ、来たら王国へ来るように、とね」
俺はハネカに、
(まいったな、やっぱり大事になったか、まあ、仕方がないかな)
【それがミツヒ様の実力ですからいいのです】
「王国は行ってきましたよ、カルバンさん、だから解除の伝令を出してください」
「了解した。それともう一つある。ナーベラの町のラミラ湖に住み着いていた魔物、ジャイアントダーククロコダイルの討伐もミツヒだな、ギルマスのリオレッテから連絡が来ている」
「ええ、そうです、カルバンさん。でも、内密にお願いします」
「それは無理だよ、今、ナーベラの町では、ミツヒが英雄扱いになっているから。それにマリッサが、ミツヒは命の恩人だし、好きになったから結婚するって町中に言い回っているよ」
「触れまわっているんですか、それにマリッサさん、可愛いけどフォックスピープルですよね、人と上手くいくのかな」
「いいじゃないか、ミツヒ。誰からも好かれる男だよ君は」
「はぁ、関わりたくなかったんですけど……仕方がないですね」
「王国の手配で、今後は何処の町でも証明書を見せずに通れるよ」
そして、今までの事を簡単に話して、
「で、カルバンさん、魔族や魔物の群れの情報はありませんか?」
「ターナの町にはまだ無いな、他の町のギルドの情報も入ったら教えるから定期的に来てくれ」
俺は定期的に顔を出す事をカルバンさんと約束して、ギルドを出る。
ガンドさんの店で、
「魔物除けの魔石の製作は順調に進んでいるよ、今、半分くらいだな」
「ガンドさん、俺はまだやることがあるから、急がなくてもいいですよ。それと、このガントレットですけど、調子はいいんだけど、魔力の枯渇ってあるんですか?」
「枯渇? ミツヒの持って来た魔石なら枯渇は無いよ。貴重な魔石で魔力もたっぷり入っているし、ミツヒの体力と連動しているからガントレットが壊れない限り使える。ちなみにスロウソードも同様だよ」
「そうですか、安心しました。これで心置きなく使えます」
その後は魔物除けの魔石や武器の話などをして、魔石を追加してガンドさんに渡した。
ガンドさんの店を出てガイルの宿に行くと、ケフィルさんが俺を見つけ、耳をピコピコさせながら、ニパッ、とした笑顔で出てくると、
「ミツヒさん、久しぶりですね。それに凄い討伐をした英雄的な人になって帰って来るなんて」
「英雄は大げさですけど、また1泊お願いします。それとお土産です」
金貨1枚とブラックフィッシュの塩漬けを渡したら、大喜びで尻尾をブンブンさせて厨房に持って行った。俺は部屋に行き、ファイガ達にブラックボアのステーキとホワイトラビットのタレ焼肉、それとレッドフィッシュの塩焼きを食べさせて、風呂に行く。
(あー、この風呂も久しぶりだな。ふぅ、いい湯だ)
【ミツヒ様、今後の予定は如何いたしますか】
(魔族の情報が入ればすぐに動けるんだけど、慌てても仕方がないから、カバスって魔族が言っていたベルタル山に行ってみるよ、もしかしたら魔族が居るかもしれないし)
【ベルタル山ですか、畏まりました、ミツヒ様】
風呂で癒されて食堂に行くと、いつもより混んでいるが座れた。今日の料理は、おお、久しぶりのシチューだ。レッドボアのシチューで一口サイズの肉と野菜がゴロゴロッと、お、しっかりゆで卵も2個入っている、やるねケフィルさん。一口口に入れるとホロホロして美味いな、うん、じっくり煮込んであるし野菜も味がしっかり付いている。最後のゆで卵もいい感じでホクホクだ。久しぶりのシチューに舌鼓を打って美味しく食べた。ただ、食堂で俺に向けた周囲の視線が気になったけど気にしないでおこう。
部屋に戻ってファイガ達とじゃれ合って就寝。
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日早朝




